幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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シリアルさん無双中


第66話 そして一人いなくなるか?

 ―アースラ艦内 会議室にて―

 

「―という訳で、六課の方針としては、あくまでレリック事件及び、誘拐されたヴィヴィオの救出って線で動く事になります。みんなもそれでええやろか?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「うん、ええ返事や。捕獲した戦闘機人から手に入れた情報と今までの捜査情報を元にロッサとシャッハがスカリエッティのアジトを捜索中やから、私らはそれを待って出動する事になります。作戦決行はおそらく明日。皆はそれまでに準備を終わらせておくように。」

 

 ほな解散、とはやてが会議を締めくくり、会議が終了した。

 会議には隊長3名、リイン、はやての副官のグリフィス、フォワード代表の私の計6名。他にも通信越しに数名が参加していたけど、会議の終了と共に皆それぞれの仕事へと散っていく。

 私も自分の仕事に戻ろうかと椅子から立ち上がった所で、なのはさんが声をかけてきた。

 

「ティアナ、皆は?」

 

 あんな事があったというのに、なのはさんの様子は、少なくとも表面上はいつも通りだ。

 自分の子のように可愛がっていたヴィヴィオが浚われて内心穏やかではいられないだろうに、こうやって私達の事も気にかけてくれる。

 こんな時くらい少しは取り乱してもおかしくないのにと考えると同時に、これがなのはさんの強さなんだなあって思う。

 

「……どうしたの?」

 

 っと、いけないいけない。質問されてたんだった。えーっと……。

 

「エリオは訓練場です。シグナム副隊長も一緒でしたから、おそらく今頃打ち合ってるんじゃないかと」

 

「そっか。スバルは?」

 

「スバルはギンガさんの所です。明日には戻るって行ってました」

 

「ああ、そうだったね。ギンガも早く復帰できれば良いんだけど……」

 

「そう、ですね……」

 

 とは言うものの、それは難しいというのは分かってる。

 ギンガさんの怪我は基礎フレーム部分、つまり人間で言う背骨に該当する部分にまで影響している。

 パーツ交換のおかげで、腕がもげても人口筋肉のフィッティングを含めて数日で復帰出来る戦闘機人ではあるけど、基礎に関わる部分はそうホイホイと付け替える事は出来ず、交換のための手術は結構な大仕事になる。少なくとも、この事件が片付くまでは、落ち着いて治療も出来ないという訳だ。

 

「普通の人間なら一生かかっても治らないような怪我がどうにかなるんですから、良い事なんですけどね」

 

「そうだね。落ち着いてしっかり治してもらう為にも、私達が頑張らないとね」

 

「はい。ギンガさんの分までやってみせます!」

 

 そう言って拳を握って顔の辺りまで持ってくる、所謂ガッツポーズをする。

 スバルじゃ無いけど、こうやってすると何だかやる気が沸いてくる気になってくるから不思議なものだ。

 よし、頑張ろ―

 

「あと、キャロはどうしてるのかな? ティアナの方には何か連絡来ていない?」

 

 うと決意を新たにしようとした矢先、なのはさんに出鼻をくじかれた。

 ……あえて考えないようにしてたのに。

 

「私の方には何も。あの子、どこで何やってるんでしょうね?」

 

「うーん……。一時的に六課の機能をアースラに移すっていう話は、もうしてあるんだよね?」

 

「はい。一昨日のうちにあの子の通信デバイスに送ってあります」

 

「ひょっとして、見てなかったりするかな?」

 

「だとしても六課には戻る筈ですから、そこに残ってるスタッフから話を聞くと思いますよ」

 

「それもそうだね。うーん……。どうしたんだろ?」

 

「心配しなくても、そのうちひょっこり帰って来ると思いますよ」

 

 むしろあの子に関しては、心配すればする程損をしそうな気さえしてくる。

 どこまでも我が道を行く、それがキャロっていう子の本質だと思う。

 その過程で周囲が巻き込まれても気にしない。それでいて結果が伴っているのだから質が悪い。

 そんな子に対していちいち心配するのは、余計なお世話という訳だ。

 

「そうだね。ありがと、ティアナ。それじゃあ、私ははやてちゃんと話があるから。ティアナはこれからどうするの?」

 

「そろそろエリオの訓練が終わりそうなので、そっちに」

 

「了解。それじゃ、何かあったら連絡してね」

 

「はい」

 

 

 

 

「うーん、そっか。まだ帰ってきてへんのか……」

 

「ティアナは心配しないで良いって言ってたけど、そういう訳にもいかないよね」

 

「せやね。はあ……、もうちょい大人しくしてくれれば最高なんやけどなあ……」

 

 モニターに表示されている大量の情報とにらめっこしつつ頭を抱えるという器用な事をしながら、はやてはなのはの話を聞いていた。

 なのはとの会話を続けつつはやてが端末を操作すると、画面が切り替わり、先日捕獲したナンバーズについての情報が表示された。

 

「純戦闘タイプの機人が5体に召喚師の女の子と召喚虫。これほぼ全部キャロちゃん一人でやっつけた言うんやからなあ」

 

「確か、ナンバーズ、だっけ?」

 

「メイドインスカリエッティの戦闘機人。ロッサが聞き出した話によると、戦闘タイプはあと二人しかおらへんみたい」

 

「フェイトちゃんとエリオが戦った二人組だね」

 

「せやね」

 

 六課襲撃からスカリエッティのアジト捜索へと向かうまでの数日間、ロッサは査察官としての権限を使い、捕獲したナンバーズに対して取調べを行っていた。

 ナンバーズは全部で十二体。

 そのうちの一体は先日レリックをめぐる戦闘時にこちらが確保しており、既に取り調べ済み。

 これに加えて今回の事件で捕獲した五体と召喚師の少女。

 それらから得た情報によると、残り六体のうち一体はこちらの手の及ばない所で撃破されており、二体は後方支援メインの性能なので戦闘能力は高くない。

 工作員としてどこかに潜入している一体を除くと、スカリエッティの持つ戦力は戦闘機人二体にガジェット、そして協力者と思われる魔導師が一名。

 数こそ多いものの、質の面でこちらに大きなアドバンテージがあるのは間違いない事である。

 

「この情報が正しいんなら、向こうかて色々キツイ状況なのは間違い無いと思う。簡単に行くなんて思てへんけど、私らならきっと大丈夫」

 

「うん。絶対、助け出してみせる」

 

 なのはとはやては決意を新たにして準備を進めていく。

 最後の戦いはすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 ―ミッドチルダ中央病院にて―

 

「ふう……」

 

 病院内の一室。自分に割り当てられた部屋のベッドから身を起こしながら、ギンガは軽くため息をついた。

 つい先程まで、ギンガはスバルと一緒だった。

 身の回りの世話や昔話を交えた他愛の無い会話。そうやって一緒にいた二人であったが、スバルが六課に合流する時間となった。

 まだまだ一緒にいたかったけど、スバルには大事なお仕事が待っている。

 絶対無事に戻ってくるように約束して、ギンガはスバルを見送った。

 

「スバル、ちゃんとやれるかな?」

 

 誰に言うともなくギンガが呟くが、それに答えるのは誰もいない。

 当然である。今この部屋には何もいないのだから。

 

「……そっか、そうだったね」

 

 ギンガもそれに気付いたのか、それっきり一言も発しなくなる。

 さて、これからどうしようかとギンガは考える。

 まだ寝る時間には少し早いし、暇潰しをするにしても話し相手がいない。

 そういえば、ティアナが持ってきてくれた本、まだ読んでなかったっけ、と、ギンガは近くに置いてある本棚に手を伸ばし、そこに立てかけられていた一冊を手に取ってページを開く。

 そんな時だった。

 

 ドドドドドド……。

 

「?」

 

 部屋の外から、何やら音が聞こえてきた。

 誰かの足音みたいに聞こえるそれは段々大きくなってきており、その音の主がこちらに近付いてきている事を示していた。

 お約束とでもいうべきか、案の定、音は自分のいる部屋の前で停止し―

 

「ギンガ! キャロはいるか!?」

 

「と、父さん!?」

 

「くそっ! あの馬鹿、どこ行きやがった!?」

 

「ちょっ! 落ち着いて……」

 

 部屋に入ってきたのはゲンヤだった。

 どうやら相当に慌てていたらしく、いつもは完璧に着こなしている局の制服もよれよれであった。

 いまいち事情が飲み込めないギンガはそれを落ち着かせようと頑張ろうとするが、それも空回りに終わってしまう。

 結局、騒ぎを聞きつけたナースが注意しに来るまでの間、ギンガは苦労する事になった。

 それから数分後……。

 

「落ち着いた?」

 

「ああ。悪かったな、格好悪い所見せちまって。……ほら」

 

「ありがと、父さん」

 

 す、と差し出されたコーヒーを一口飲んで気を落ち着かせる。

 対面のゲンヤもそれに習うように一口分だけ飲み込み、ほう、と大きなため息をついた。

 

「それで、何かあったの? 随分慌てていたみたいだけど……」

 

「それは……」

 

「さっき、「キャロはいるか」って言ってたよね? あの子、また何かやらかしたの?」

 

「……」

 

 さっきゲンヤが口走った台詞からキャロ関連だろうとギンガは当たりをつける。

 ここで「やらかした」、つまり加害者側なのは、彼女の日頃の行いのせいだろう。

 ゲンヤの様子はというと、先程までの熱も冷めて落ち着きを取り戻したのか、少なくとも見かけ上は普段の状態に戻っており、頭をかきながら何やら考え込む素振りを見せていた。

 

「……ちょっとコレ見てみろ」

 

 そう言って、ゲンヤは胸ポケットから一枚の紙切れを取り出した。

 その紙切れはつい先日も見たことがあるものだった。

 

「これ、キャロから? でも、何で父さんの所に?」

 

「いいから、早く中身見てみろ」

 

 六課でならともかくとして、キャロがゲンヤにこうやってメッセージを残す理由が分からない。

 大体、紙切れを届けるくらいなら、直接会うか通信で済ませてしまえば良い訳だし、態々こんな事をする理由が無い。

 

(考えていても仕方ない、か。)

 

 それ以上考えても答えが出そうに無かったので、ゲンヤの言葉に従って読み始める。

 そこに書かれていたのは―

 

 

 

 

 ゲンヤさんへ

 

 突然こんな手紙を受け取って混乱するかとは思いますが、どうしても伝えておきたい事があったのでこうして文にさせてもらいました。

 

 私には、どうしてもゲンヤさん達ナカジマ家の皆さんに謝っておかないといけない事があります。

 実は、私は皆に隠していた事がありました。

 厳密に言うと、隠していたのではなくて何も聞かれなかったから、なんですけど。

 でも、ゲンヤさんがそれについて知りたがっているのを分かっていた上で、それでも知らない振りをしていたので悪いのには変わり無いです。

 

 内容は、8年前の「あの事件」についてです。詳細は同封しているストレージに纏めてあるので、お手数ですがそちらを見てください。

 

 最後になりましたが、もう一度改めてごめんなさい。そして、今までありがとうございました。

 私の保護責任者になってくれたあの日から4年間、他に行く所が無かった私に居場所をくれた事、本当に感謝しています。

 それでは、さようなら。

 

 キャロ・シエル


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