幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第65話 万年捨て子にご注意を

第65話 万年捨て子にご注意を

 

 

 

 

『ドクター、レポートが完成しました。今そちらに送信しますので』

 

「ああ、ご苦労」

 

 では、と通信を切るウーノを見送ってから、スカリエッティは送信されてきたデータに目を通す。

 そこには、先日の地上本部並びに機動六課襲撃に関しての成果と被害が事細かに記されていた。

 

「ふむ……」

 

 最初に目に飛び込んできたのは地上本部での成果である。

 複数のガジェットによって地上本部を囲い込んでの無力化。

 いわばAMFの結界とも言えるそれは、予定通りの成果を発揮してくれた。

 これにより、内部にいた高ランク魔導師はその戦力を無効化、ないし戦線復帰を遅らされることとなり、その間はガジェットの独壇場であった。

 地上本部に来ていた管理局の高官達へのデモンストレーションという表向きの意味では、今作戦は大成功といえる。

 

「しかし……。困ったことになったね」

 

 だというのに、スカリエッティは少しも嬉しそうな素振りを見せる事無くレポートを読み進めていく。地上本部に関する章を読み終えると、続いて本作戦の真の目的、機動六課襲撃に関する部分に目を通し始めた。

 

 先程と違って、こちらは散々であった。なにしろ、作戦に参加したメンバーの殆どが撃破されて、管理局に逮捕される事になったからだ。

 トーレ、チンク、セッテ、オットー、ノーヴェ、ウェンディ、ディード、ゼスト、ルーテシアの計9名のうち、無事だったのはトーレ、セッテ、ゼストの3名のみ。そのうちの一人、ゼストは今後勝手に動く事が予想されるので頭数には入れられない。

 とすると、現状こちらで戦力といえるのはたったの2名。まともな指揮官なら作戦失敗を宣言して逃亡しているレベルである。

 

「だが……」

 

 だからと言って引くのは無理だ、とスカリエッティは考える。

 既に事は起こった後で、犯行声明も出した今、自分は立派なテロリストである。

 こんな大それた事をやらかした以上、既に自分の後ろに道は無い。なら、前に進むだけである。

 もし一旦隠れる事にした場合、最高評議会がどう動くのか分からない。

 今回の事がきっかけで戦闘機人の有用性に疑問を持たれたりでもしたら、後ろ盾を失った自分達は瞬く間に逮捕されてしまうだろう。

 どちらにしろスカリエッティには、進む以外の選択肢は残されていなかった。

 

「ドクター、何やってるんですか~?」

 

「ん、クアットロか」

 

 さて、どうしたものかと考えようとした矢先、クアットロが入室してきた。

 クアットロはそのまま覗き込むようにして、スカリエッティの見ているウィンドウを見始めた。

 

「いや何、これからの事について少し、ね」

 

「成る程~。それにしても皆だらしないですわねえ。たった一人の子供にここまで良いようにされるなんて」

 

 クアットロが心底馬鹿にした様に嘲るのに対し、スカリエッティは何も言わない。

 こういう性格だと知ってるし、こういう性格になるように作ったのは自分だ。文句などある訳が無い。

 

「とはいえ、戦力が足りないのは事実でね。何か良い考えはあるかい?」

 

「そうですわねえ~、うーん……」

 

 ドクターからの問いかけに、クアットロは手で顎を支えながら考え込む。

 数秒は経っただろうか、クアットロはその手をぽん、と叩き―

 

「そうだ! 「アレ」がありましたわ!」

 

 

 

 

「えっと……、ここね」

 

 六課襲撃から数日後、ティアナはミッドチルダにある病院に来ていた。

 今回の六課襲撃は、物的被害はともかく人的被害はさほど多く無かった。

 戦闘員のうち殆どが無傷ないしは軽症で済んでおり、その殆どは治療の必要すら無かった。

 

 ただ、完全にゼロとまではいかなかった。

 六課でガジェットを食い止めていたシャマルはその際にいくつかの軽い傷を受けたし、セッテによってヴィヴィオが浚われた際、近くにいたアイナ、アルト、シャーリー他数名は命こそ取られなかったものの、セッテの攻撃によって体のどこかしらに怪我を負っていた。

 

 また、軽傷の者ばかりという訳でもない。

 ガリューの攻撃によって危うくお腹に風穴が空く所だったザフィーラは、包帯が巻かれた痛々しい姿のまま眠り続けており、未だに目を覚まさない。峠こそ越えたものの、予断を許さない状況であった。

 

 また、重症者はザフィーラだけではなく、もう一人いた。

 こちらは既に意識も回復しており、状態も安定している。

 なのに何故重傷者と言うのか? それは―

 病院の廊下を歩いていたティアナは、ある病室の前で立ち止まる。

 病室の前に架かっているネームプレートを見てお目当ての人を確認したティアナは、そのまま病室へと入っていった。

 

「失礼します」

 

「あ、ティア」

 

「お疲れ様です、ティアナさん」

 

 既に先に来ていたメンバーと軽く挨拶を交わしたティアナは、そのまま病室に入っていく。

 病室にはベッドがいくつかあったがその中で使われているのは一台だけで、スバルはその隣に椅子を置いて座っており、エリオはその近くで立っていた。アギトはその周りをふよふよ浮かびながら、時々エリオの頭上に降りては休憩していた。

 そのままスバル達の方へ近付いたティアナは、ベッドから身を起こして来客に対応している、この部屋の主へと声をかけた。

 

「それで、具合はどうですか、ギンガさん?」

 

 

 

 

「そうですか……」

 

「基礎フレームの破損が見た目以上に酷いらしくてね。腕一本くらいなら何とかなるんだけど、基礎フレームを丸ごと交換となると結構大変らしくて……」

 

 日常生活に支障は無いらしいからそれだけが不幸中の幸いかな、とギンガさんは苦笑する。

 その右手からはジ……ジ……と機械フレームの動作音が聞こえてきて、その部分のパーツがまだ馴染んでいない事を示していた。

 

 ギンガさんの正体は戦闘機人だ。

 機械部品にに適合するように調整された人造魔導師。それが戦闘機人。

 そして、妹であるスバルも当然戦闘機人だったりする。

 私はその事を知ってはいたけど、エリオ達にはまだ話してはいなかった。

 色々とデリケートな問題だから、機を見て話すようにスバルと決めていたんだけど……。

 

「エリオとアギトもびっくりしたでしょ? ごめんね、今まで黙ってて」

 

「いえ、そんな」

 

「気にすんなって。誰だって秘密の一つや二つ持ってるもんなんだからさ!」

 

 どこか申し訳無さそうに言うスバルに対して、エリオとアギトは全く気にしていないと態度で応える。どうやら既にスバルの口から話したらしい。その様子を見ていると、こんなにアッサリ受け入れてくれるのなら、もっと早くに打ち明けても良かったのでは、と思わない事も無い。

 

「そういえば、六課の方はどうなりました?」

 

「大体終わったわよ。後は現場現場検証だけだからシグナム副隊長とヴァイス陸曹に代わってもらったわ」

 

「そっか……。ごめんね、ティア。私が我侭言ったせいで……」

 

「アンタはそんな事気にしなくていいのよ」

 

 家族が病院に運ばれたのならその傍にいてあげたいっていうのは当たり前の事だし、そんな事情を知りながら仕事を強要する程、私達は鬼じゃない。

 まあ、逆に―

 

「この大事な時に関わらず、仕事すっぽかす奴もいるんだけどね」

 

「ティア?」

 

「ほら、コレ」

 

 そう言って、私は懐から一枚の紙切れを取り出した。

 

 

 

 

 機動六課の皆さんへ

 

 一身上の都合により、しばらくの間六課を離れます。

 何日かしたら戻るので、心配しないでください。

 

 キャロ・シエル

 

 

 

 

 

 この書き置きを見た私を除く全員が、固まったかのようにフリーズした。

 5秒経ち、10秒経ち、そして―

 

「え、ええええええええええええ!?」

 

 病室にエリオの大声が―って、病室ではお静かに!!

 

「それ、一大事じゃないですか! こんな大事な時期に抜けるなんて! 僕、ちょっと探して―」

 

「待ちなさい!」

 

「ちょ、何で止めるんですか! 早くしないと!」

 

「いいから、ちょっと落ち着きなさい! 大体、闇雲に探したって見つかる訳ないでしょ!? それに―」

 

 今にも飛び出しそうなエリオを抑えながら、私はその顔を病室の方へと向けさせる。

 

「他の皆は落ち着いてるでしょ? 慌ててるのはエリオだけよ」

 

「言われてみれば……」

 

 エリオが視線を向けた先にいる3人は、一度フリーズこそしたもののそれ以降は完全に平静な状態へと戻っていた。

 ギンガさんとアギトは苦笑してるし、スバルからはため息が聞こえてきそうだ。

 

「前にも似たような事があったしね」

 

 キャロは以前にも一度、書き置きだけ残していなくなった事があるそうだ。

 その時は数ヶ月程次元世界を旅行して、飽きたころに帰ってきたらしい。

 もっとも勝手に出て行ったせいで、後でゲンヤさんからきついお仕置きを受けたとか。

 ちなみに、何でこんな事を私が知っているのかというと、ギンガさんが六課に来た頃、ギンガさんから聞いたからだったりする。

 

「そんな事もあったな……」

 

「そういえば、アギトはその時キャロに連れて来られたんだっけ」

 

「へー、そうなんだ」

 

「? 何でスバルさんが知らないんですか?」

 

「スバルはその頃訓練校だったしね。私とお父さんで口止めしてたの。当時はちょっとした騒ぎだったんだから」

 

「へえー。……ギン姉」

 

「何?」

 

「その時の話、もっと聞かせてくれない?」

 

「そうね……、じゃあ、どこから話そうかな?」

 

 その一言を切っ掛けに、スバルとギンガさんは昔話に花を咲かせていく。

 エリオとアギトも一緒になってその話を聞いていて、満更じゃないみたい。

 

「にしても、あのちびっ子……。ギンガさんのお見舞いにも顔を出さないで、どこで何やってるんだか」

 

 

 

 

「誰も見てないね。よい……、しょ!」

 

 私は周囲に人影が無いのを確認してから、スキマから出て地面へと降りる。

 最も、こんな所に人がいるとは思えないんですけどね。

 

「それにしても、ここも久し振りだよね」

 

 数年前とあまり変っていない風景を見ながら、私はそう一人ごちました。

 今私がいるのは第6管理世界アルザス、その山中です。

 数年前に修行で来た以来だったりするので、どこか懐かしい気持ちになります。

 

「さってと、じゃあ行こうか」

 

「キュクルー!!」

 

 久し振りにスキマから出て興奮気味なフリードを肩に乗せて、私達は移動を始めます。

 本当は飛行魔法でささっと移動したいんですけど、以前の⑨事件みたいな事があったら困るので地上を移動します。

 

 ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!

 

「ギューーーーーーーー!!!!!?」

 

 まあ、モード「橙」で全力疾走な訳ですが。

 

 

 

 

 走り続ける事数時間。辺りがすっかり暗くなり、途中で肩から落下して以降は尻尾を掴まれる事になったフリードの悲鳴が弱々しくなってきた頃、私達は目的地の集落へと到着しました。

 本当なら直接移動したかったんですけど、もうずっと昔の事だから詳しくは覚えてないんですよね。まあ、どっちみち夜まで待つつもりだったから良いんですが。

 

「藍、モード「玉兎」」

 

 私は「狂気を操る程度の能力」で存在の波長を薄くしてから既に守衛のいなくなっている門を潜ります。門を通り過ぎた後も誰にも気付かれる事無く、この集落内で一番大きい建物の前へと歩いていきました。

 

「モード「白狼」」

 

 「千里先を見通す程度の能力」で中を見たところ、中には人が一人だけいるみたいです。

 丁度他の人は出払っているみたいですね。

 別に誰か居たところですることは変らないんですけど、いないのなら好都合です。

 私はそのまま建物の中に入っていき―

 

「……! まさか……、キャロ、なのか?」

 

「はい。お久し振りです、族長様」

 

 最後に見たときよりも一回りほど歳をとったように見える族長様に、6年振りの再会をしました。

 

 

 

 

「そうか、元気でやっておるか」

 

「はい。色々ありましたけど、何とかやっていけています」

 

「フリードも元気そうじゃの」

 

「キュルー!!」

 

 立ち話も何だという事で、私達は族長様の部屋に案内されました。

 私とフリードは族長様の反対側に座り、村を出てから今までにあった事を話しました。

 

「それで、今日はどうしたんじゃ? こんな夜中に訪ねてきて、ただ世間話をしに来たわけでもあるまいに」

 

「あのですね、少し、聞きたい事がありまして……」

 

 そう前置きして、私は―

 

「私の両親について教えてほしいんです」

 

 今回の来訪の目的を切り出しました。

 

 

 

 

「……」

 

 私がそう言うと、族長様は何か考え事をするように黙り込んでしまいました。

 

 私は両親の顔も名前も知りません。

 小さい頃はル・ルシエの皆が家族だったし、私もそれで良いと思ってました。

 けれど、事情が変わりました。

 つい先日、チンクさんに歴史を還した時に見た白昼夢のようなヴィジョン。そこには私の事を八雲桜と呼ぶ妖怪の姿がありました。

 もしあれがただの妄想だったのならそれで良し。でも、事実なら―

 そこまで考えた私は事実を確かめるべく、当時の事を一番良く知っている人、すなわち族長様の所へ訪ねる事にしました。

 

「……キャロよ」

 

「はい」

 

「何を知っても、受け入れる覚悟はあるか?」

 

 族長様、それ半分答え言ってるようなものですよ。

 

「はい。大丈夫です」

 

「そうか……」

 

 なら、と前置きして、族長様は話し始めてくれました。

 

 

 

 

 結論から最初に言うと、私は「捨て子」だったらしいです。。

 ある日ル・ルシエの集落の前に、タオルに包まれた状態で捨てられていた所を村人の一人が発見して、会議の結果、そのまま皆で育てる事になったそうです。

 包まれていたタオル以外持ち物などは一切無く、親はともかく私の名前すらも分からない有様で、それを見かねた族長様が、キャロという名前とル・ルシエの姓を与えてくれたそうです。

 

「そうだったんですか……」

 

「それとな……、一つ、どうしても謝っておきたい事があるんじゃ」

 

「?」

 

「竜召喚の儀式……、あれを実行させたのはワシなんじゃ」

 

「!? ……って、アレ? 何かおかしいような……。……あ!」

 

 何でも何も、おかしすぎますよ! だって―

 

「さっきの話だと、私ル・ルシエの血は引いていないんですよね? だったら何で私を巫女にしたんですか?」

 

「それも話しておかないといかんな。さて、どこから話そうか……」

 

 そう言って、族長様は再びぽつぽつと話し始めました。

 

 当時のル・ルシエの村では、表にこそ出ないものの、私の事を危険視する声があったそうです。

 出自不明な上に類まれなる魔力の才能。(弾幕ごっこが原因)

 アルザスのシンボルでもある竜と心を通わせる事もできた私は、当時けっこう危険な立場だったらしいです。

 

「そこでだ、ワシは考えた」

 

 それらは、私がル・ルシエの血を引いていなかった事が一番の原因でした。

 竜召喚はル・ルシエに伝わる門外不出の秘術であり、それをどこの馬の骨ともしれない子供が再現しているというのは皆のアイデンティティに関わります。

 

 そこで族長様が考えたのは、「なら身内にしてしまえば良い」という単純なものでした。

 ただ、当時の私は既に義理とはいえル・ルシエの一員で、それ以上、つまり血縁を伴った関係になるためには、誰かと婚姻する必要がありました。当時4歳にも満たない子供にそんな方法は取れないと、族長様は考えました。

 そして考えに考えて出た結論は、「アルザスの巫女」というポジションを、血縁関係の替わりに宛がうというものでした。

 

 族長がこれを言い出した当時、ル・ルシエは荒れたそうです。

 いくら強い資質を持っていたとしてもル・ルシエの血を引かない人間を巫女にする事を反対する人達と、真っ向からぶつかり合ったそうです。

 結局は族長様が「全ては守り竜様が決める事だ」と反対派を押し切り、竜召喚の儀式を決定させたそうです。

 

「その時、ワシはこれで全て上手く行くと思ってた。だが……」

 

 ただまあその結果、私がワザと儀式を失敗したり(何度も挑戦させたのは、失敗すると立場が危うい私の為だったらしいです)、喚び出す竜を間違えるなんていう大ポカをやらかして、族長様の思惑を完全に粉砕してしまったと、そういう事らしいです。

 

「そんな事情があったんですか」

 

「聞いての通りだ。キャロが村を出て行かなければならなかった原因は、ワシなんじゃ。本当に……すまなかった」

 

 その言葉を最後に話を締めくくった族長様は、私に対してあの日と同じように頭を下げてきました。

 それに対し、私は―

 

「族長様、お願いですから頭を上げてください。」『藍、モード「裁」』

 

「……キャロ?」

 

「前にも言いましたけど、私はル・ルシエの皆を恨んでなんかいません」

 

 色んな事情があったとはいえ、最終的に選んだのは私自身。

 自業自得な所もいっぱいあった訳ですから、誰が悪いという物でもありません。

 

「いや、だが……」

 

「それに、さっきの話を聞いて感謝すらしてるんですよ」

 

 捨て子なのにも関わらず、私にル・ルシエを名乗らせてくれた族長様。

 自分の立場が悪くなるのにも関わらず、私の為に色々と動いてくれた族長様。

 結果的に追放される事になったとはいえ、私の事を気にかけていてくれた事に違いは無いです。

 

「族長様、私がキャロだってすぐに気付いてくれましたよね?」

 

 それは、すぐに思い出せる位、私の事を忘れないでいてくれたという事。

 それは、私を追放してしまった事をいつまでも気にしていたという事。

 

「族長様は、ずっと気に病んでくれていたんですよね? なら、そろそろ楽になっても良いんです」

 

 そう言って、私は族長様の手に触れて

 

『族長様、貴方に罪はありません』

 

 「白黒はっきりつける程度の能力」を発動させながら、心の奥に届くように語りかけました。

 

 

 

 

「フリード、そろそろ帰るよ」

 

「キュルー?」

 

「ん? 大丈夫、平気だよ」

 

 心配そうにこっちを見てくるフリードに対し、私は平気だと声をかけます。

 だって、この結果は半ば想像通りですから。

 

 思えば、私が妖怪だっていう時点で気付くべきでした。

 妖怪である自分が、ル・ルシエの皆と血縁関係がある訳が無いですからね。

 それに気付いたのは、先日の事。

 ちょっとだけしか思い出せなかったけど、私が八雲桜と呼ばれていた記憶。

 あれが事実なら、私はル・ルシエに来る前は幻想郷にいた事になります。

 

「けど、今私はここにいる」

 

 幻想郷は全てを受け入れる。じゃあ、ここにいる私は一体何なんだろう?

 そんなの、態々考えるまでも無いです。

 

「私は、幻想郷から追い出されていたんだね」

 

 幻想郷は全てを受け入れる。でも、そこにいる住民達が自分の事を受け入れてくれるとは限らない。

 つまりはそういう事で。ル・ルシエで追放されるよりもさらに昔に、私は幻想郷から追放されていたという訳です。

 そんな私の居場所なんて何処にも―

 

「っと!! 駄目駄目、こんな事考えてちゃ!!」

 

 ぶんぶんと首を振って、頭に沸いてきた考えを吹き飛ばす。

 今はこうやって時間があるけど、あと数日後には決戦なんだ。

 余計なことは考えないようにしよう。

 

「じゃあ、そろそろ六課に帰ろうか。フリード、おいで」

 

「キュルー!!」

 

 私は目の前にスキマを開き、そこにフリードを放り込みます。

 続いて、自分も入ろうとして―

 

 PiPiPiPiPi……。

 

「通信用デバイスに受信あり? 一体誰だろ?」

 

 ティアナさんかはやてさん辺りでしょうか? と目星をつけながら、私はデバイスを取り出します。

 にしても、一体誰だろう……?

 

 

 

 

 

「________」

 

「!!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―入るよ、キャロ。……アレ?―

 

 ―ん? どうしたの、スバル?―

 

 ―キャロ、まだ帰ってきてないみたいなんだ。―

 

 ―そんなに心配しなくてもそのうち帰ってくるわよ。心配するだけこっちが損よ。―

 

 ―……うん。そう、だよね。―


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