幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第48話 機動六課の日常 ―部隊長はつらいよ―

「うーん……」

 

「どうしたんですかはやてちゃん? さっきからずっとウンウン言ってるです」

 

 ここは機動六課部隊長室。部隊長の椅子に座り、頭を抱えながら書類と睨めっこをしているはやての隣で、リインも一緒に仕事をしていた。

 

「いやな、リイン、コレなんやけどな」

 

 そう言って、はやてはリインの端末にデータを送った。数秒もしないうちにリインの方にデータが届き、リインはそれを確認した。

 

「これは……報告書、ですか」

 

「そうなんよ。前回の出撃のやつや」

 

「前回って言うと、キャロちゃんが頑張ってくれた時ですよね? キャロちゃん、凄かったです」

 

「それが問題なんよ」

 

「???」

 

「えっとな……」

 

 そう、今はやてが悩んでいるのは前回の出撃の事後処理である。

 キャロの活躍によってリミッター解除無しでガジェットを撃破できた、それ自体は非常に良い事である。

 しかし、この場合、「じゃあどうやって撃破したんだ?」という事になる。もしここで、正直にキャロの事を報告したとしよう。

 

「ウチのに助っ人に来ている民間協力者(Cランク)が、音速並の速度で飛行してガジェットを撃破しました」

 

 ……間違いなく突っ込まれる。はやて自身、もし自分が逆の立場だったら、間違いなく突っ込んでいると思う。タダでさえ六課の存在は色々危ういバランスで立っているのに、これ以上の爆弾を抱えるのは自殺行為にしかならない。

 

「何とかキャロの事をぼかしたまま報告したいんやけどなあ……」

 

「うーん……、そうだ! はやてちゃん、良い事思いつきました!」

 

「お、何や、リイン?」

 

「ゲンヤさんに相談してみるですよ! これなら大丈夫です!」

 

 はやての説明を聞いて一緒に考えていたリインであったが、名案を思いついた、とばかりにはやてに提案してみる。実際の内容は丸投げ同然なのだが、リインは気付いていない。

 しかし、これを聞いたはやての顔はまだ晴れなかった。

 

「あー……、ゴメンな。それ、もうやったんよ」

 

「へ? そうなのですか? それで、何て言われたんですか?」

 

「それがな……」

 

 

 

 

 注意:Caution!!

 

 ここから先ははやての回想です。

 はやての脳内フィルターにより、会話内容に「若干の」補正がかかっています。

 

 

 

 

「っていう訳なんですよ。ゲンヤさんの場合はどうしてました?」

 

『……だ』

 

「へ?」

 

『気合だ』

 

「き、気合、ですか?」

 

『そうだ。気合で何とかするんだ。俺もそうした』

 

「そーなのかー。……って、それ何のヒントでも無いじゃないですか! もっと具体的に教えて下さいよ!」

 

『甘ったれてんじゃねえ!』

 

「逆ギレ!?」

 

『何でも教えて貰えるかと思ったら大間違いだ! 一人前になりたいんなら自分で考えろ!』

 

「でも言ってることは正論!? ……いや、でも、こんなの今のままじゃ、絶対無理ですって!」

 

『……諦めんなよ』

 

「へ?」

 

『諦めんなよ、お前!! どうしてそこで止めるんだ!? そこで!! もう少し頑張ってみろよ!!』

 

「いや、でも……」

 

『ダメダメダメダメ諦めたら。周りのこと思えよ! 六課の皆の事思ってみろって!! あともうちょっとのところなんだから。俺だってアイツが砲撃かました時、寝る間も惜しんで頑張ったんだよ! 頑張ってみろ! 必ずできる!』

 

「皆の事……」

 

『世間はさぁ、冷てぇよなぁ。みんな、オマエの思いを感じてくれねぇんだよ。どんなにがんばってもさ、何で分かってくれねえんだって思うときがあるのよね。俺だってそうだ。気持ちを伝えようと思っても、顔が怖いって逃げられた事もあったんだよ。でも大丈夫、分かってくれる人はいる! オマエの下には、六課の皆がいるんだろう? そいつらの為にももうちょっとだけ頑張ってみろよ!!』

 

「……そうや、六課は私だけやない、皆の夢や! その夢の為にも、私はもっと頑張らないかんのや!」

 

『そうだ! がんばれがんばれできるできる絶対できるがんばれもっとやれるって!! やれる気持ちの問題だがんばれがんばれ! 諦めんな絶対にがんばれ積極的にポジティブにがんばれがんばれ!!』

 

「よっしゃ、分かったで! しゅ……ゲンヤさん、相談乗ってくれてありがとうな!」

 

『おう! はやて、本気になって、頑張っていけ!!』

 

 

 

 

「―ってなやりとりがあったんよ」

 

「ほへー。ゲンヤさん、熱いです!」

 

「聞いた直後は絶対出来るって思ってたんやけどなあ……。アレは一種の洗脳やった」

 

 ゲンヤに励まされた後、はやてはみょんにヒートアップしたテンションで報告書へと格闘を始めた。 しかし、5分、10分と経過して熱が冷めていくにつれ、結局何のヒントも貰っていない事に気付いてしまった。ゲンヤとの会話は、要約すると「がんばれ」の四文字で片付いてしまうのだ。 

 

「そろそろ上に提出せんと不味いし、ホンマどないしよ……」

 

「はやてちゃん、頑張るですよ。リインも手伝うです」

 

「ありがとうな、リイン。よっしゃ、コレ飲んでからもう一回頑張るわ」

 

「ソレ、何ですか?」 

 

 はやては長時間のデスクワークの際、食事の手間を省く為に栄養ドリンクを飲む時がある。それはリインも知っている事であり、主に健康面の問題から、過去にそれを注意したことも何度かあった。

 しかし、今はやてが飲んでいる物は、今まで見たことが無い物だった。透明のビンに緑色の液体が入っており、隅っこに張ってあるラベルには「国士無双の薬」と書かれていた。

 

「キャロから貰ったんよ。最初は疑ってたんやけど、試しに一瓶飲んでみたら、疲労回復の効果が凄くてなー。それで、何本かおすそ分けして貰ったんや。リインもどうや?」

 

「いいですか? ……うわ! 本当に凄いです! 飲んですぐに効果が出たです!」

 

「やろ? ほな、頑張ろうか!」

 

「はいです!」

 

 キャロから貰った薬の効果で回復した二人はそのまま作業を再開した。この日、機動六課の部隊長室にはいつまでも明かりが点っており、この二人が徹夜で仕事をした事を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオォォォォォォォン!!

 

「にゃ!?」

 

「何!?」

 

「ふえ!?」

 

「今のは……部隊長室!?」

 

「zzzzzz……」

 

 次の日、まだ日も昇っていない明け方の六課に、突如として爆音が響き渡る。それを聞いた者の反応は様々であった。

 夢の中にいた者は目を醒まし、すでに起きていた者はその音の発生源に顔を青くする。未だに寝ている者は誰なのかは、本人の名誉の為にも言及しないでおこう。

 

(まさか……主はやてを狙った爆破テロ!? クッ、私達がついていながら!!)

 

 そして、起きていた者の一人であるシグナムが部隊長室へと急行する。その道中で、起きてきたらしいなのはとフェイト、シャマルも加えて、シグナムは部隊長室のドアを開けた。

 

「大丈夫ですか、主はやて? ……ッ!」

 

「はやてちゃん! リイン!」

 

「はやて! リイン!」

 

 そして三人が見たのは隊長の椅子から転がり落ちて目を回しているはやてと、その腕の下敷きになりながら、同じく気絶しているリインであった。

 

「主はやて!!」

 

「シ、シグナムさん、落ち着いて!!」

 

「ちょっと待って、看てみるから……うーん、気絶してるだけみたいね。特に異常は無いわ」

 

「ほ、本当かシャマル!?」

 

「ええ。これなら動かしても大丈夫そうね。シグナム、はやてちゃんを医務室までお願いできる?」

 

「ああ」

 

 シャマルの言葉に安心したシグナムが、気絶しているはやてを抱えて部屋を出て、リインを抱えたシャマルがそれに続く。

 なのはも二人の事が心配なので付いて行く事にしたが、フェイトの動く気配が無いのに気付いて立ち止まった。

 

「どうしたの? フェイトちゃん?」

 

「あ、なのは。私はちょっと調べ物があるから、なのはは先に行ってきて」

 

 その一言に、はやての無事が確認できて油断していたなのはの顔が引き締まる。幸いはやての命に別状は無かったが、これは立派な事件だからだ。

 

「フェイトちゃん、無理だけはしないでね」

 

「うん、大丈夫。そっちははやてをお願いね」

 

「分かったの」

 

 フェイトとの会話を終わらせたなのははそのまま医務室へと歩いていき、フェイトはそれを見送ってから、部屋の捜査を開始した。

 

 

 

 

「駄目、何も出てこない……。」

 

 捜査を開始してから一時間が経過したが、フェイトの目に留まるような怪しい物はコレと言って無かった。

 部隊長室にあったのは散乱した書類。それと携帯用の食料が少しと、空になった栄養ドリンクのビンが四本だけだった。

 

「やっぱり、はやてに直接聞いてみるしかないか……。」

 

 これといった手がかりが無い以上ここにいても仕方が無い。そう結論付けたフェイトは、はやてから直接事情を聞くために医務室へと行くことにする。

 散乱していた書類を一つに纏めて机の上に戻してから、フェイトは部屋を後にした。

 

 

 

 

 そして誰もいなくなってから数秒後、部隊長の部屋の空間に亀裂が走り、中から一人の人影が出てきた。人影はそのまま空の瓶へと向かい、それを回収する。四つ全てを集めた後、人影は亀裂の中へと戻っていき、部隊長室は再び無人となった。

 

 

 

 

「ふう、やっと回収できました。」

 

 そう言ってスキマ内でため息を漏らしていたのは、やはりというか何というか、キャロである。その手には、先程回収した瓶がある。

 

「というか、やっぱり四本飲むと爆発するんですねー」

 

 キャロは手元に持っている薬のラベルを見ながらしみじみと呟く。そこには、「国士無双の薬」と書かれており、隅の方に小さく「試作品」とあった。

 

「でもまあ、はやてさんのおかげで色々良いデータが取れました。モル……協力者になってくれたはやてさんには、後日お礼をしないとですね。藍、モード「八意」」

 

「はい。モード「八意」、セットアップ」 

 

 「あらゆる薬を作る程度の能力」を使える形態を選択し、キャロはスキマ内に作った作業場へと向かって行く。今回入手したデータを元に完全版を作るため、キャロは研究を再開した。

 

 

 

 

 なお、キャロは瓶は回収したものの、はやてへの記憶操作などは一切しなかった。なので後日復帰したはやてからこってり絞られる事になるが、それはまた別の話である。


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