幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第4話 旅立ち

 遂にやってきた運命の日、里から出て行く日がやってきました。

 私は倉庫の鍵の返却と最後の挨拶、あと昨日見つけたよく分からない本について聞くために、族長様のところへ向かいました。

 

「族長様、おはようございます」

 

「む……キャロか」

 

「鍵をお返しします。あと、ちょっと転んで備品を壊してしまったんですが……」

 

「そうか……、怪我は無いか?」

 

「え? あ、はい、それは大丈夫です」

 

「ならいいんじゃ。壊した物は後で確認して何とかするから、キャロは気にせんでええ」

 

 てっきり怒られると思っていたのですが、逆に心配されてしまいました。やっぱり族長様いい人です。

 

「あの、それでですね。壊した時に見つけたんですけど、コレが何だか分かりますか?」

 

 そう言って私は、持っていた荷物からあの本を取り出します。

 

「何じゃ? ……コ、コレはっ!!」

 

 おお!? 何だか凄い物らしいです。やっぱり族長様は賢いお方。聞いて正解でした。

 

「分からん」

 

 ズコー!!

 あまりに意表をつかれたので、私は為す術なくすっ転び、地面とキスする羽目になりました。

 期待させてから落とすのは基本ですけどかなり効きました。ツッコミを自重した自分を褒めてやりたいです。

 

「スマン、言い方が悪かったな。分からないとは言っても、完全には、というだけの話じゃ。」

 

 いきなりズッこけた私を起こしてくれながら、族長様は本について語ってくれました。

 

 この本は、かつてこの村を訪れた魔導師が残していった物らしいです。

 いきなり現れて宿と飯と酒を要求したその人は、代価としてこれを置いていき、こう言ったそうです。

 

「美味しい酒を振舞ってくれたお礼よ。コレはちょっとしたマジックアイテムなの。危険はないから安心してちょうだい。ただ、誰でも使えるという訳でも無いから、使える人がいたら譲ってあげて下さいな」

 

 自分の言いたい事だけ言い終わると、その人は見た事も無い転移魔法を使って消えたそうです。

 ……それ、食い逃げって言いませんか?

 本を調べたところ、パスワードが設定されており、それが解かれない限りは内部へ直接ハッキングすることもできず、結局そのまま、文字通りお蔵入りとなったそうです。

 

「それにしても、宝物庫からソレを見つけ出すとはのう。さっき備品を壊したと言っていたのもその関係か?」

 

「はい」

 

「とにかく、ワシが知っているのはそこまでじゃ。役に立てなくてすまないのう」

 

 いえ、そんな事はありません。

 少なくとも危険は無いことと、パスワードさえ分かればどうにかなる事が分かりましたから。

 これで言うべきことと聞きたいことは全て片付きました。あとはここから出て行くだけです。

 

「族長様、今までありがとうどざいました」

 

 最後になる言葉を口にして背を向けます。そのまま立ち去ろうとしたのですが

 

「……キャロ」

 

 族長様に呼ばれ、思わず足が止まりました。

 

「お前の家はそのままにしておく。他のだれも住ませたりはしないでおこう」

 

 ……え?

 

「それって、どういう?」

 

 聞いた言葉が信じられず、背を向けたまま聞き返します。

 だって、それはつまり―

 

「だから、1人前になれたら、いつでも帰ってくるといい」

 

 告げられた言葉は、私の心を乱すのに十分で

 

「ずるいです、族長様」

 

「……」

 

「そんな事言われると、私、期待しちゃいますよ。頑張って一人前になって、いつか戻ってきちゃいますよ。本当にいいんですか?」

 

「ワシに出来るのはこの位が精々じゃ、その代わり今言った事を決して裏切らないと、ルシエの名の下に約束しよう」

 

 ルシエの名の下に、という言葉にさらに驚きました。

 それは族長個人ではなく里全体の決定の時に使われる言葉。つまり、私が帰ってくるのを皆が賛成してくれたのと同じ意味で―

 

 帰っていい場所がある。

 今はまだ無理だけど、それでも最善を尽くしてくれた族長様の言葉が嬉しすぎて

 

「いって……きます」

 

 私は族長様に背を向けたまま、振り返る事なくその場を去っていきます。

 最後に族長様の顔を見ておきたかったのですが、やめておきました。

 

 だって、今の私の顔は、とても別れの場には相応しくないですから。

 

 

 

 

 里を出る頃、ようやく落ち着いてきた私は。肩に乗っているフリードに話しかけます。

 

「ねえ、フリード」

 

「キュル~?」

 

「私ね、ずっと怖かったんだ。里を出て行くのはもちろんだけど、一番怖かったのは、それで里の皆との繋がりが無くなって一人ぼっちになっちゃうこと」

 

「キュル……」

 

「でもね、帰ってきても良いって言ってくれた。帰る場所も残してくれるって約束してくれた。フリードも傍にいてくれる。それだけで、私が頑張る理由は十分」

 

「……」

 

「これから一緒に頑張っていこうね、フリード」

 

「キュクルー!!」

 

 フリードの力強い返事を聞きながら、私は山道を歩いていきます。

 この先どうなるかは分からないけど、私は自分の足で、自分の意思で歩いていきます。

 うん、きっと大丈夫。

 

 

 

 

 耳元で鳴き続けるフリードがいい加減ウザくなってきたので、シューター当てて黙らせてから尻尾を掴んで引きずっていきます。

 意外と重いです。この子、何でこんな⑨に育っちゃったんでしょうか?




 子は親に似る。つまりうわばかなにをするやめ(ピチューン!!

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