幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第46話 風神幼女

第46話 風神幼女

 

 

 

 

「スターズ2、ライトニング1、及びエキストラ1、全員出動しました」

 

「敵集団接触まであと距離5000。増援の反応はありません」

 

 機動六課の作戦室にアルトとルキノの声が響く。ディスプレイにはヴィータ、フェイト、キャロが飛行している姿と、ガジェットの姿がそれぞれ映っており、はやてとグリフィスがそれを見守っている。シャーリーはここにはいない。なのはやフォワードメンバーの事が気になるからと、はやてに許可も貰ってから話し合いに参加することにした。きっと今頃、不器用な皆の緩衝材として頑張っているだろう。

 ちなみに、エキストラ1というのはキャロの作戦コードである。初めは「子鬼」からオーガ1になりそうだったのを、キャロが猛反対した結果これに落ち着いた。

 

「距離3000……2000……1000……エンゲージ!」

 

「頼むで……三人とも」

 

 

 

 

 私達三人はヘリから降下した後、バリアジャケットを展開し、目標地点まで飛行していきます。やがて前方に、ガジェットⅡ型の編隊が見えてみました。

 

「居やがるな……。キャロ、オメーはどうする?」

 

「今回はなのはさんの代わりなので、後衛に回ります。フェイトさんもそれで良いですか?」

 

「そうだね。私とヴィータはどっちかと言うと前衛寄りだから、そっちの方が助かるかも。でも、大丈夫?」

 

「何がですか?」

 

「AMF。接近戦ならともかく、遠距離からだと厳しくない?」

 

「大丈夫です。ちゃんと対策は考えてます」

 

「そっか。じゃ、お願いね」

 

「はい。……こちらエキストラ1。中距離火砲支援、いきまーす!」

 

 私はガジェットから少し離れた所で停止。真っ直ぐ切り込んでいく二人の位置を確認しつつ、スペルを発動させました。

 

「火符「アグニシャイン」!」

 

 宣言と同時に、「火水木金土日月を操る程度の能力」によって変換された炎の弾幕が、一番前に出ていたガジェット四機編隊へと向かっていきます。

 それに対して、ガジェットは回避行動をとりつつAMFを展開しましたが、炎弾は勢いを衰える事無くガジェットに殺到。四機の内二機を火達磨にしました。

 AMFが無効化できるのは魔力結合だけですからね。こうやって変換してしまえば、その効果は意味ありません。

 辛うじて回避に成功した二機は、そのまま弾幕の隙間を縫って脱出に成功しましたが―

 

「はああああああっ!」

 

「うおおおおおおっ!」

 

そこにフェイトさんとヴィータさんが突撃。片方は真っ二つに、もう片方はボディをくの字にひしゃげさせて落下していきました。

 

 

 

 

「ふむ、なかなか興味深いね」

 

 ガジェットから送信されてくる映像を見ながらそう漏らしたのはスカリエッティ。送られてくるデータと照らし合わせつつ、戦況を見つめている。

 

「さっきの攻撃、一見回避できた様に見えたけど、どっちかと言うと「させられた」みたいだね。連携も考えて回避プログラムを修正するとなると、色々難しそうだ」

 

 別ウィンドウには、先ほどキャロが放った弾幕を遠距離から見た物が映っている。よく見ると弾幕には穴があり、それが一本の道のようになっていた。それを辿って回避した結果が、残りの二人に待ち伏せされて落とされた二機である。

 

 スカリエッティが感心している間にも戦闘は進んで行く。次に接敵した四機編隊も同様の手口で落とされた。但し今度は、炎弾ではなく水の槍でだ。

 

「炎に、水、それに金属か。器用なものだね」

 

 スカリエッティが注目した少女は現在、最も規模の大きいガジェット編隊を相手に鋼の刃を撃ち続けている。十二機いたガジェットはその数を減らし、数体を残すのみとなっていた。このままだとあと少しもしないうちにこの編隊は壊滅し、最後に残った四機編隊も同じ目に遭うだろう。

 

「このまま終わるというのもつまらないね。……そうだ」

 

 何か思いついたのか、スカリエッティは手元のパネルを操作し出した。それと同時に、ウィンドウには警告を示すサインが出たが、スカリエッティは何の躊躇も無く実行を選択した。

 

「私からのプレゼント、君達は喜んでくれるかな?」

 

 

 

 

 最初の編隊を撃破した後、私達は残りの編隊への対処に当たりました。

 私は属性変換がAMFに有効かを一通り試すため、次に当たった四機編隊に対しては水符「プリンセスウンディネ」で水の槍を、その次の十二機編隊には金符「メタルファティーグ」で鋼の刃をぶつけて、その効果を確認しました。

 

「サンダーレイジ!」

 

「アイゼン!」

≪Schwalbefliegen.≫

 

 私が撃ち漏らした、というか態と隙間を開けて誘い込んだガジェットをフェイトさんとヴィータさんに片付けてもらっています。即席の連携ですけど、思いの他有効です。

 そうこうしているうちに、十二機編隊も全て撃破。あと残っているのは、一番後方に位置していた四機編隊だけです。

 

「これでラストですね。行きますよ、フェイトさん、ヴィータさん」

 

「うん。いつでも」

 

「おう」

 

「土符「レイジィトリリトン」!」

 

 土属性のスペルを発動。尖った石槍が一旦左右に分かれて打ち出され、その後お互いに交差するようにガジェットの集団へと向かっていきます。今までに比べると遥かに回避困難な弾幕。仮に回避できても、フェイトさんとヴィータさんが待ち構えています。

 

(これで終わりですか……。出来るなら全属性試しておきたかったなあ)

 

 そんな事を考えているうちに、弾幕がガジェットに向かって―

 

「ええ!?」

 

「な!?」

 

「こいつら、急に動きが!?」

 

 このまま終わるのかと思っていた矢先、ガジェットが急加速。弾幕をスピードで無理矢理振り切りました。突然のことにフェイトさんとヴィータさんの反応も遅れて、結局一機も落ちることはありませんでした。

 そして、ガジェットはそのスピードを落とす事無くこちらに光線を撃ってきます。私とフェイトさんはそれを回避、ヴィータさんは障壁と回避を使い分けてそれを凌いでいます。

 

『どうする? あの速さだとちょっと面倒だぞ』

 

『ですねえ。どうして急に速くなったのかは置いておくとして、これだと当てるのも大変ですし』

 

『リミッターを外したみたいだね。それこそ、お互いにクラッシュしてもおかしくないくらいに』

 

 それはまた傍迷惑な……。

 ただ速くなったってだけならともかく、それでお互いにぶつかってしまうと、大量の破片が辺りに撒き散らされる事になります。ここは海上ですけど、岸からそう遠くありません。万が一破片が岸まで届いたら、余計な被害が生まれます。

 

『……ヴィータ、キャロ、結界をお願いできる? それと、はやて部隊長、リミッター解除申請を』

 

『フェイト?』

 

『フェイトさん?』

 

『フェイト隊長!?』

 

『結界張って破片の飛散を抑えてから叩く。私なら、あの速度にも対応できるから』

 

 確かに、被害を抑えるならそれがベストです。でも―

 

『おい、フェイト! それだと―』

 

『うん。リミッター解除して真・ソニックフォームで決める。大丈夫、これなら直ぐ終わる』

 

『そうじゃなくて! こんな所でリミッター解除する気か!?』

 

『本当なら使わないでいたいけど、後悔はしたくないから』

 

 やっぱりそうなりますよね。あの速度だとリミッター解除しないとキツいですから。だけど

 

『駄目です、フェイトさん』

 

『キャロ?』

 

『出撃前に、なるべく奥の手は見せないように、って言ってたでしょ? それに、一度リミッターを解除すると、再申請に時間がかかるの知ってるんですから』

 

『私も反対。こんな所で使って、肝心な時に動けへんのは嫌や』

 

『でも、そうでもしないと……』

 

 分かってます。だから

 

『私にやらせてくれませんか?』

 

『キャロ?』

 

『フェイトさんとヴィータさんで結界を張ってください。私ならリミッター解除無しで何とかできます。はやて部隊長、いいですか?』

 

『……キャロちゃん、大丈夫なんやな?』

 

『はい』

 

『分かった。部隊長より通達。ライトニング1とスターズ2は結界を、エキストラ1は結界内のガジェットの撃墜を』

 

『おう。大口叩いたんだ、ちゃんとやれよ』

 

『……了解』

 

『わかってますって。……了解!!』

 

 

 

 

「アイゼン、封鎖領域」

≪Gefangnis der Magie.≫

 

「バルディッシュ、結界のサポート、お願い」

≪Yes Sir.≫

 

 ヴィータが結界を展開し、中にガジェットを閉じ込める。私はサポートとして、一緒に結界の維持に当たる。ミッド式とベルカ式の違いがあるので、「無いよりマシ」程度にしかならないんだけど。

 上空には相変わらず超高速で飛行しているガジェットの一群。既に何度かニアミスを繰り返しており、いつ衝突してもおかしくない。ここだけの話、結界を張って同士討ちするまで放置という手もあるのだけど、それだといつになるのか分からない。周囲の安全と安心のためにも、いち早くこれらを撃破する必要がある。

 

「キャロ」

 

「何ですか、フェイトさん?」

 

「本当に大丈夫?」

 

「心配性ですねえ。ま、見ててください」『藍、モード「鴉天狗」、サブは「博麗」』

 

「あ、それって!?」

 

「そういう事です。じゃあ」

 

 行ってきます、と言い残し、キャロはガジェットの方へと飛行していく。その背中には、かつて見た黒翼が展開されていた。

 

「行きますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―幻想風靡―

 

 

 

 

 そこからは、まさに一方的だった。

 気付いた時にはガジェットのうちの一機の翼が折られ、その部分から煙が出ていた。

 それに驚く暇も無く、そのガジェットを中心に何本もの線が走り、一本走る度にガジェットのボディが削られていく。秒間5~6回のペースでボディを削られたガジェットは、最後にはボディの中心に大きな風穴を開けて墜落した。

 

『え!? 今、何が起こったん!?』

 

『ちょっと待って下さい、今スローで再生しま……嘘!?』

 

『マジかよ……』

 

 スロー映像を見た全員が信じられない、といった顔をしている。そこには、ガジェットに向かって慣性を無視した軌道で超高速での突撃を繰り返しているキャロの姿が映っていた。私は辛うじて目で追う事が出来たけど、それでも驚きだ。

 はやて達が映像を見ている間にも、キャロの攻撃は続いていく。音速並の速度で突撃してくるキャロ相手に残りのガジェットも回避行動を取ろうとしたけど、速度に差がありすぎた。最後にはボディのあちこちから煙を上げて墜落していった。

 

『エキストラ1、ガジェットを全機撃破。周囲に敵影はありません』

 

『……よっしゃ、三人ともお疲れ様。まだ現場検証とか残ってるけど、とりあえず三人は結界解いて戻って来てええよ』

 

 驚きの反動か、すっかり静かになってしまった作戦室に、ルキノが状況を報告した。それを聞いてこっち側に戻ってきたはやてから、作戦終了が告げられた。

 

「……とりあえず、帰るか」

 

「そうだね。キャロ、帰るよ。……キャロ?」

 

 キャロに声を掛けて帰ろうとしたんだけど、何故か返事が無い。キャロの方を見てみると、フラフラな機動でこっちに飛んで来るのが見えて―

 

「ど、どうしたの!? 大丈夫!?」

 

 まさか、さっきの戦闘で体を壊したとか?

 

「……た」

 

「へ?」

 

「ちょっと……酔った……」

 

 え、ちょ!?

 

 

 

 

 説明しよう!

 

 「酔い」というものは、三半規管からの情報と、視覚からの情報の食い違いによって発生するものである。

 車酔いを例に取ると、三半規管は車の振動を感知しているのに、視覚は常に同じ風景だったりすると、かなり酔いやすくなる。車内で本を読むと酔いやすいというのはこの為である。反対に、酔った時は外の景色を見るのが良いというのは、動いている景色を見る事で、三半規管と視覚の情報を統一させるからである。

 逆に、視界が動いてるのに三半規管は何も感知していない、という場合でも酔ってしまう。俗に言う3D酔いがこれにあたる。

 今回の場合、キャロは超高速での機動により、視界がめまぐるしく変化した。だというのに、キャロの体には「空を飛ぶ程度の能力」によって全くGがかからなかった。そのため、3D酔いと同じ状態になってしまったのだ。

 

 

 

 

「あーうー、気持ち悪い……」

 

「自業自得だ」

 

「我慢して、キャロ。もう少しでヘリだから」

 

 私の背中に負われているキャロを励ましながら、私達はヘリへと飛行していく。キャロがまともに飛行できない状態だったので、私がこうしておんぶして連れていっている。ヴィータは相変わらず辛口だけど、何となく心配している様子が伝わってきた。

 にしても、本当に軽いなあ。こんな小さな体で頑張ってくれたんだよね。……お疲れ様。

 

「もう……無理」

 

「へ? キャロ?」

 

「駄目……。吐く……」

 

 ちょ、それって!?

 

 さっきも言ったけど、今キャロは私が背負っている。まともに飛行できない以上、ヘリに着くまで下ろす事は出来ない。つまり、この状態でリバースされたら私の後頭部に―

 

「キャロ、あとちょっとだから!! もうちょっとだけ我慢して!!」

 

「フェイトさん……。ゴメン……なさい……」

 

 

 

 

 い、嫌あああああああああああ!!

 

 

 

 

 ―同時刻 スカリエッティのラボにて―

 

「ふ、ふふふふふふふふふふ……。素晴らしい、実に素晴らしい!!」

 

 温かみを感じさせない研究室にスカリエッティの笑い声が響き渡る。眼前のディスプレイには先程の戦闘の映像が映し出されていた。

 

「これは思ってもいない収穫だ!! まさか機動六課にあのようなサンプルがいたとは、実に興味深い!!」

 

 喜びの感情を隠そうともせず、スカリエッティは笑い続ける。それを同時に手元のパネルを操作して、自身の秘書を呼び寄せた。それから少しして部屋のドアが開き、スカリエッティの秘書、ウーノが姿を現した。

 

「どうしました、ドクター?」

 

「やあウーノ。早速で悪いんだが、この魔導師のデータを集めてくれないかな?」

 

「分かりました」

 

「それと、ルーテシアがここに泊まるのでね、部屋に案内してやってくれ」

 

 ウーノに背を向けてモニターと睨めっこしたまま、スカリエッティは用件を簡潔に伝えた。これで用は終わった、とばかりにスカリエッティは再びモニターに集中し出したので、ウーノは指示に従って動き始めた。

 

(まずはルーテシアお嬢様から。それが終わったら調査開始ね)

 

 自身の予定を確認しつつ、ウーノはルーテシアの方へと歩いていった。

 

「ルーテシアお嬢様、私について来てください。……ルーテシアお嬢様?」

 

 ルーテシアに声をかけたウーノだったが、返事が無いのを怪訝に思い聞き直してみた。ルーテシアの口数はそう多くはないが、返事くらいはいつも普通に返しているからだ。

 ルーテシアの様子はというと、表面上は特に変わったところは見られない。顔もいつもの無表情のままだ。ただし、その視線は真っ直ぐにモニターの方に、もっと詳しく言うと、キャロの戦闘映像に注がれていた。

 

「……タ」

 

「あの、ルーテシアお嬢様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミ ツ ケ タ」


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