幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第40話 ホテル・アグスタ(前編)

 ミッドチルダ首都南東地区の上空に、一機のヘリが飛んでいる。「JF704式」と呼ばれるそれは、機動六課が所有しているものだ。

 ヘリの人員は全部で10名と1匹。隊長陣3人にフォワード4人、ヴォルケンズのシャマル、リイン、ザフィーラ、それとヘリパイロットのヴァイスだ。機内では目的地に向かうまでの間、ブリーディングが行われていた。

 今日の任務内容はホテル・アグスタで行われる骨董品オークションの警備である。出品物をレリックと誤認したガジェットが来るかもしれない、というのがその理由だ。

 

「現場には昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長、「他数名」が張ってくれてる」

 

「私たちは建物の中の警備に回るから、前線は副隊長達の指示に従ってね」

 

 上からはやて、なのはの順で方針が指示されて、ブリーディングは終了した。もしここに純真無垢な桃髪幼女がいたら、シャマルの持っているケースについて質問したかもしれないが、それはこことは別の世界の話である。

 

 

 

 

 どーもこんにちは。「他数名」の一人、キャロ・シエルです。

 いい加減出動も無くて毎日暇をしていた所に、ようやくこの任務が舞い込んできました。

 とはいっても、私の任務は他のメンバーだけでは手が足りない時のための非常戦力。正直言ってヴィータさんとシグナムさんで対応できない事態なんてまず起こらないので、実質は待機とそんなに変わらなかったりします。

 

「やっと出番があると思ってたのにね。ズズズッ……」

 

「仕方ないですよ。あむ……」

 

 監視任務だけならスキマ内でも出来るので、藍とのんびりお茶を啜りつつ周囲の状況をモニターしています。ヴィータさん辺りに見つかればキレられる事間違い無しですけど、絶対見つからないので問題ありません。

 

『キャロ、そっちはどうだ?』

 

『!? ……、特に異常ありません』

 

『そうか。引き続き頼むぞ』

 

 不意打ちの念話に驚きながらも、平静を装って返答します。このタイミングで本人来るとか……。

 

「心臓に悪いです」

 

「そう思うのは、内心後ろ暗いからでは?」

 

「うっ……」

 

 藍のもっともな指摘が心に刺さったので、気を取り直して真面目に監視することにします。そろそろガジェットが来そうですからね。

 

 でも藍よ。お前も同類じゃないですか?

 あなた真面目な割りに結構黒いですよね?

 

 

 

 

 それから数時間後、クラールヴィントのセンサーがガジェットを捕らえ。続いてロングアーチスタッフが詰めている作戦室でも、ガジェットの出現を感知しました。私の「狂気を操る程度の能力」のセンサーにも同数の反応がありました。

 

 ガジェット出現の報を受け、シグナムさんとヴィータさんが前線に、フォワードメンバーはホテル周辺で防衛の指示が出て、副隊長の二人がガジェットに向けて飛んでいきます。アギトはフォワード側にいるみたいです。

 

「新人どもの防衛ラインまでは、一機たりとも通さねえ。速攻でぶっ潰す」

 

「お前も案外過保護だな」

 

『ですよねえ。ワザと何体か通した方が、いい経験になるとおもいますよ』

 

「うっせーよ。キャロはさり気に問題発言してんじゃねー」

 

『記録に残るヘマはしません』

 

「本当オマエってタチ悪りーよな」

 

『余計なお世話です』

 

 その後二人は二手に分かれて、ガジェットを各個撃破していきます。

 

「行くぞ、アイゼン!」

 

≪Jawohl.≫

 

「まとめて……ぶち抜けえええええ!!」

 

 ヴィータさんが撃ちだしたシュワルベフリーゲンにより小型のガジェットが打ち抜かれ、

 

「レヴァンティン」

 

≪Explosion.≫

 

「紫電……一閃!!」

 

 シグナムさんの炎剣によって、大型のガジェットが真っ二つに……って火!?

 ちょっとシグナムさん、ここが森って事忘れてるんじゃないでしょうね!?

 

 真っ二つに切り裂かれたガジェットはそのまま爆発。幸いにも周囲への延焼はありませんでした。

 よくよく考えると、ガジェットが爆発してるのに火災の一つも起こらないって時点でおかしいので、あえて突っ込まないことにしました。

 

 二人はそのまま順調にガジェットを撃破。特にリミッター無しのシグナムさんの勢いは凄まじく、正に無双状態でした。ここは放っておいても良さそうですね。

 

「となると後は……、藍、モード「白狼」」

 

 スキマを開いてサーチャーの死角に出て、「千里先を見通す程度の能力」で目標を探します。

 

(「狂気を操る程度の能力」のセンサーには反応無かったけど、これなら……、ヒット!!)

 

 私の視線の先にいるのはどこか疲れた顔をした壮年の男性と、フードを被った紫の髪の、私と同じくらいの背丈の女の子。ゼストさんとルーテシアちゃんです。まだ私以外には気付かれてないみたいですね。

 二人はウィンドウを開いて誰かと会話、スカさんでしょうか? をしていましたが、話が終わったみたいでウィンドウが閉じられました。ルーテシアちゃんの方はコートを脱いでゼストさんに預けてから、召喚魔法の準備に入りました。

 

『クラールヴィントのセンサーに反応。これは、召喚!? でも、この魔力反応って……』

 

『お、大きい!?』

 

 その反応をキャッチしたシャマルさんと、それに続いて反応を補足したシャーリーさんから、動揺している様子が伝わってきました。

 

 うーん、私はどう動くべきでしょうかね? 一応は待機を命じられていますけど、いざとなれば好き勝手に行動するつもりです。

 

 このまま行くと、おそらくルーテシアちゃんの力でガジェットがフォワードメンバーの所に転移、それに引き付けられている間に、ガリューを使って目的のロストロギアを奪われてしまいます。

 私の取り得る選択肢は―

 

 1.このまま何もせず傍観。

 2.スキマ内から長距離射撃に徹する。

 3.フォワードメンバーの所に行って手伝う。

 4.ガリューを待ち伏せしてボコる。

 5.ゼストとルーテシアの所に行って以下略。

 

 この五つくらいですかね。さて、どれにしましょうか?

 

 

 

 

 幼女思考中……。

 

 

 

 

 マルチタスクも動員し、一分ほど考えて出た結論は―


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