「それで、何から話しましょうか?」
「そやなあ……、シャマル、さっきの模擬戦のデータ表示して」
「あ、はい。お願い、クラールヴィント」
シャマルさんが自分のデバイスに指示すると、虚空にウィンドウが出現し、画面の左半分にさっきの模擬戦の映像が表示されました。
右半分にはいくつかの数字の羅列があり、それが刻々と変化しています。
「こっちの数値が二人の魔力量。他の数字にも意味はあるんだけど、とりあえずこれに注目しててください。この時のキャロちゃんの魔力量の数値がコレ。それで……」
再生再開。数秒後、私が弾幕を撃った所で再び止まりました。
「この時の魔力量はコレなんだけど……」
「殆ど変わっていないな」
「実際戦った感じだと、あの魔法、C~Bランクくらいの威力だった。これで魔力量Cランクってのは、私もずっと気にはなってたんだ。」
そこでヴィータさんが、実体験に基づいた補足をしてきました。
やっぱり、気付かれてましたか。
「最初に私らが聞きたいのはコレ。一体どういうカラクリなん?」
はやてさんは軽い調子で訪ねてきましたけど、目は真剣です。
ヴォルケンズの皆さんも同様に、こっちに注目してきます。
今回の目的は、いずれバレるであろう事情を今のうちに出しておくことで、不信感を持たれないようにする事、加えて、事情を理解してもらう事で、隠し事に協力してもらう事です。
なので、なるべく嘘はつきません。これだけ人数がいると、嘘ついた瞬間にバレそうですし。
かと言って全部バカ正直に話すのは論外。この辺の匙加減が重要です。
『キャロ、キャロ』
『アギト?』
『私は何も話してないから』
『そっか、ありがと』
アギトからの念話を聞いて、少しだけ気が楽になりました。
内容自体よりも、私側に立ってくれてるっていう気持ちが嬉しいです。
それじゃあ、始めますか。
「口で話すよりも見たほうが早いですよね。ほら」
私は右手の人指し指を立てて、指先に霊力スフィアを生成しました。
「シャマルさん。このスフィアの魔力量、測定してみてください」
「ええ。……アレ?」
「どうした、シャマル?」
「ちょ、ちょっと待って……、故障?」
「いえ、別に故障じゃないと思いますよ。はやてさんもスフィアを一つ出してくれませんか?」
「ええよ。はい」
はやてさんの指先に魔力スフィアが生成されます。
「シャマルさん。はやてさんのスフィアの魔力量は測定できました?」
「ええ。でも、キャロちゃんのは測定できないのよ。どうしてかしら?」
「そういう事です。今から詳しく説明しますね」
そして私は、霊力の存在について話しました。
霊力とは明言せず、魔力と似た力があって、私はそれを使用しているという話に、ヴォルケンズの皆さんは半信半疑でしたが、さっき実際に見せたおかげで、頭から否定されずには済みました。
「「この力」と魔力は、いわば灯油とガソリンみたいな関係ですね。得意な用途は違いますけど、燃料という点では共通ですから」
「成る程なあ。んじゃ、次の質問ええかな? その力やけど、どうやって手に入れたん? ひょっとしてレアスキルとかか?」
「いえ、レアスキルじゃないんです。去年くらいに、私が旅行に行ってた時ありましたよね?」
「ああ、アギトちゃん連れてきて、その後ゲンヤさんにお尻叩かれたヤツやろ? しっかり覚えてるで」
「……、その旅行についてですけど、はやてさんはどこまで知ってますか?」
(しまった、墓穴掘った……)
「えーっと、ゲンヤさんから「任務で行方不明になったかと思ったら、いつの間にか旅行を始めてやがった」って聞いたわ」
「何だよそれ……」
「わけがわからないな」
「えーっと、笑う所?」
「……正気か?」
「良く分からないけど凄いです」
上からヴィータさん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさん、リインちゃんです。
冗談みたいですけど本当の話なんですよね。にしてもリインちゃんは大丈夫なんでしょうか? 将来が心配です。
「それで旅行の間ですけど、しばらくの間、「フェニックス」さんと「プリンセス」さんの二人と一緒にいた事があって、その時教えてもらったんです」
「「フェニックス」に「プリンセス」……、まさか、あの!?」
「どれを言ってるのか分からないですけど、強い人ならそれで合ってます」
「はやてちゃん、「フェニックス」と「プリンセス」って誰ですか?」
「えっとなリイン、三年前位から出てきた犯罪者で、二人組の凄腕の魔導師なんよ。何度も局員を返り討ちにしてるせいで、当時は一種の天災扱いされたもんや。でも最近は聞かへんから、リインが知らんのも仕方無いかもしれんな」
はやてさん、説明乙です。
そして私は、師匠二人に修行をつけてもらった事を話しました。
食うのに困っていたので食事の世話をしてあげたと言うと、リビングは微妙な空気になりました。
「暴れる原因が食料の取り合いとか……、キャロちゃんの周りってそういう人が集まるんやろか?」
「類友とでも言いたいんですかはやてさん? それなら皆さんも同類ですよ? とにかく、レアスキルなんかじゃないので、勝手に申請とかしないでくださいね。それで、後聞きたい事ってありますか?」
「その力、レアスキルじゃねえんだよな? なら、訓練次第で誰でも使えるのか?」
ヴィータさんの発言に、シグナムさん、ザフィーラさんも反応しました。
自分も使えるかもしれないとなると、興味が向くのは当然ですね。
「魔力量と同じで人によって大小の差はありますけど、不可能では無いです」
「なら―」
「でも、私はこの情報を他人に漏らすつもりはありません」
「な! どうしてだよ!?」
「ちょっとヴィータ、落ち着きい! ……キャロちゃん、理由聞かせてもらえるか?」
「理由はいくつかありますけど……、魔導師ランク主義の管理世界にとって、「この力」は毒になるからです。質量兵器を禁止し、武力を魔力のみに頼っている。「この力」はそんな社会構造を根底から覆しかねない存在です。最悪、魔力に恵まれた人との間で戦争になる可能性だってあります。私はそんな責任負えないし、負いたくもありません。勿論戦争は最悪のケースです。でも、もしそこまでならなかったとしても、間違いなく社会は混乱します。魔法と同じような法律が出来るまでの間、凶悪犯罪の増加等のデメリットは避けられません。レリック事件の対応に加えて、そんな事態になったらどうしようもなくなりますよ」
ミッドチルダにはベルカとの戦争っていう前歴がありますからね。
魔法文化同士ですら争うっていうのに、ここで霊力なんて出したら絶対受け入れられません。
あと個人的な理由は、今のタイミングで広まってしまったら、スカさんが何かやらかしそうな予感がするから。霊力対応VerのAMFとか、霊力持ちの戦闘機人とか作りそうで怖い。
「そういう訳なので、私はこれを漏らす事は絶対にしません。むしろ、秘密を守るために、皆さんに協力して欲しいくらいなんですよ」
「そっか。しゃあないな……」
何とか納得してもらえたみたいです。
ヴィータさんとシグナムさんは残念そうな顔をしています。
ザフィーラさんは表情が良く分かりませんでしたけど、たぶん同じでしょうね。
「私の能力と、その理由についてはこんな所ですね」
「そっか。ありがとな、話してくれて」
「いえいえ、いつか話さないとって思ってましたし、丁度良かったです」
「なら、難しい話はこれで終いな。今からご飯作ってくるからちょっと待っててな」
「はやてちゃん、私も手伝います~」
そう言いながら、はやてさんとシャマルさんはキッチンへと向かっていきました。
それを見送っていると、アギトが念話でこっそり話かけてきました。
『なあキャロ、藍さんの事とか言わなくて良かったのか?』
『アギトも知ってるでしょ? さすがにアレをバラすのは不味いからね。さっきも言ったけど、私は戦争の責任なんて負う気無いんだから』
私はそこで念話を切って、アギトで遊びながら、ご飯が出来るのを待つことにしました。
とりあえず難しい話は終わったので、後は思いっきり楽しみましょう!
―その夜―
「はやてちゃん、キャロちゃん寝ちゃったみたいですよ」
「そっか。じゃあ私はもうちょっとする事あるさかい、シャマルはもう寝てええよ」
「遅くならないようにしてくださいね。それじゃあ、また明日」
シャマルが出て行って一人になった部屋で、私は今日キャロから聞いたことについて考える。
魔力と似て非なる別の力。正直信じ難いけど、実際に見せられた以上は信じるしかあらへん。
キャロの話が確かなら、それは魔力と同様に、誰もが大小は持っている力であるという。
「正直言うと、教えてもらって戦力アップしたかったんやけど……」
争いの火種になりうるという指摘は最もやし、レリック事件に集中したい今、想定外の事態は避けるに越した事はない。
キャロの言ってる事に間違いは無い。
「無いんやけど……」
そこで私は、デバイスを操作して記録映像を表示させる。
ウィンドウに移ったのは高速飛行で逃げ続けている桃髪の少女の姿があった。フェイトちゃんから貰った映像だ。
これを見るに、キャロは5歳の頃には、既にCランク以上の実力があった事になる。
あの力教えてもろたんはつい先日の事やから、それとはまた別に秘密があるのは間違いない。
「今日話してくれた内容に嘘は無いと思うんやけど……、まだ隠し事ありそうやな」
今日の話し合いであえて指摘しなかったのは、一度に全て聞けるとは思っていなかったから。
それと―
「一緒に戦ってくれる相手を疑うっていうのもイヤな話やしな」
だから、いつかちゃんと自分の口から話してな?
多人数の会話は書いてて大変。
全員参加させたげたいのに、どうしても空気化する人が出てくるので。
Q.八神家の面々がチョロすぎる件について
A.はやての言うように、今回は様子見の面が強いです。
ホントはもっと聞きたいけど、キャロが自分から打ち明けるまで待つスタンスです。