幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第30話 スカウト

 ―幻想郷、迷いの竹林にて―

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ようやく帰ってこれたわね」

 

「じゃあな。全く、お前もここの住人なら、竹林の歩き方くらい覚えろっての」

 

「はいはい。それじゃあね」

 

「ああ」

 

 私をここまで送ってくれた妹紅は、そう言い残して去っていった。

 旅行?前よりも若干態度が柔らかくなったと感じるのは、決して気のせいじゃないだろう。

 あの子は父親の敵として私を恨んでるけど、私はあの子に負の感情を持っていないから、友人として付き合うのも悪くないと思っている。

 今のような殺し合いの日常も、それはそれで楽しいんだけど。

 

「何だかんだで旅行の効果はあったのかもね」

 

 誰に聞かれるとも無いひとり言を呟いてから、私は自分の屋敷―永遠亭へと入っていく。

 廊下を歩いていると、向こう側から妖怪兎が一匹歩いてきた。

 

「姫様じゃないですか!? お帰りになられたんですか? いやー、姫様がいなくなったと聞いて心配してたんですよー」

 

 そうやって調子のいい事を言って近付いてくるのは、地上の兎のまとめ役、因幡てゐである。

 

「ふふっ、ありがとう。でも、私がスキマから聞いた話だと、そもそもの原因は貴方達の訴えだったらしいじゃない?」

 

「ギクッ! いや、確かに代表は私でしたけど、言い出したのは別の兎ですからね。鈴仙とか鈴仙とか鈴仙とか……」

 

 図星を突かれながらも即座に仲間を売る兎詐欺を見ていると、帰ってきたのを実感できる。

 とりあえずこの嘘は見逃してあげよう。その方が面白いから。

 

「そう、教えてくれてありがとう」

 

「いえいえ。私はいつでも人の言う事を良く聞く、幻想郷で最も賢くて可愛い兎ですからね。当然のことをしたまでですよ」

 

 歩き去っていくてゐを見ながら、これからの暇潰しについて考える。

 

(とりあえず、騙された振りをして鈴仙をお仕置き。てゐは永琳の薬の実験台でいいかしらね)

 

 そんな事を考えながら廊下を歩いていると、いつの間にか目的地―永琳の部屋に辿り着いていた。

 

「永琳、今帰ったわよ」

 

「あら、お帰りなさい姫様」

 

 二年間屋敷を空けていたというのに、帰ってきた返事はそれだけ。

 永遠を生きる私達にとっては、二年とはその程度のものなのだ。

 

「随分早いお帰りでしたね。旅行は楽しめましたか?」

 

「まあ、それなりにはね。追っ手の心配はしなくていいから気楽だったわ」

 

「それは何よりです。私も賛成した甲斐がありました」

 

「賛成してたんだ……。ってまあいいや。それより、旅行先で面白い物を見つけたんだけど」

 

 そう前置きして、私は永琳に旅先で出会った面白い子供の話をする。

 初めは相槌を打っていただけだった永琳も、その子が持っていたマジックアイテム、「夢幻珠」の話になると、途端に食いついてきた。

 「月の頭脳」は伊達じゃない。

 

「成る程……、それは中々興味深いですね」

 

「でしょ? で、それを聞いた永琳はどうする?」

 

「姫様の御心のままに。……うどんげ」

 

 永琳の決して大きくない呼びかけに応えて向こうから走ってくるのは、鈴仙・優曇華院・イナバ。

 ここ永遠亭の妖怪兎の中で、唯一の玉兎(月出身の兎)だ。

 

「呼びましたか師匠……って姫様!? お帰りになられていたんですね!」

 

「ついさっきね」

 

「うどんげ、貴方にお使いをお願いしたいの。行ってくれる?」

 

 そう言って、永琳は鈴仙に詳細を話し始めた。

 鈴仙は良く分かっていないみたいだけど、使いの役割くらいは果たすでしょうね。

 

「じゃあ、お願いね」

 

「はい、行ってきます」

 

「あ、ちょい待ち」

 

「?」

 

 思い出したことがあったので、声をかけて止める。

 急ぐような用事じゃないし、今暇潰しをしても問題無いわよね。

 

「さっきてゐに会って聞いたんだけど、兎達が直訴してしたきっかけって、貴方だったのね」

 

「へ? ええええええええ!!」

 

「いつも言う事を聞いてくれてるから安心してたけど、内心じゃそんな事を考えてたなんてねえ」

 

「そ、そんな訳無いじゃないですか! てゐは嘘をついてるんです! 信じて下さい!」

 

 私の目の前にいるのは、赤い目に涙を滲ませながら必死に無罪を主張している哀れな兎。

 永琳は全てを察して傍観姿勢。その目は「戯れもほどほどに」と語りかけてきた。

 そして、部屋の外からいつの間にかこちらを覗きこんでいるのは、鈴仙を陥れた張本人のてゐ。

 大方、鈴仙がどんな目に遭うのか見に来たんだろうけど、その後自分に降りかかる運命には気付いていなさそうである。

 

「嘘つきは嫌いよ。鈴仙、ちょっとOHANASHIしようか?」

 

「あ……、あ……、あああああああ!!」

 

 

 

 

 ピチューン!!

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「ありゃりゃ、可哀想に。本当、思わず代わってあげたくなる位の哀れさウサね」

 

「じゃあ、代わってもらおうかしら」

 

「……へ?」

 

「丁度さっき、新薬のサンプルが出来てね。実験だ……被験者が欲しかった所なのよ」

 

「……えっと、私、これから用事が」

 

「心配いらないわ。すぐに済むから」

 

「\(^o^)/」

 

 ピチューン!!

 

 

 

 ―陸士108部隊オフィスにて―

 

「ゲンヤ隊長、書類整理終わりました」

 

「おう。んじゃ、次コレ頼むわ」

 

「はい。って多!! これ全部ですか!?」

 

「提出期限は今日中だ。じゃ、頼むぞ」

 

「はーい……」

 

 

 

 

 皆さんこんにちは、キャロ・シエルです。

 ゲンヤさんに強制送還された私が受けたのは、「尻叩きの刑」でした。

 100発で終わらず、200発が終わってもまだゲンヤさんのターン。

 300を数えたあたりで、ようやく開放されました。

 それから一週間くらいの間は、お尻がヒリヒリしてまともにお風呂に浸かれませんでした。

 まあ、心配かけたのは事実ですし、そこは甘んじて受け止めるべきだと思うのです。

 ……というかですね、尻叩きっていうのは、皮膚の厚さを考えると、叩かれるより叩く人の方が痛いんですよねえ。

 ゲンヤさんの手に包帯が巻かれてる間は、大人しくしておこうと思います、はい。

 

 それで仕事の方は、今まで通り民間協力者として働くことになったんですけど……。

 

「ただいま、キャロ。……凄い仕事量だね」

 

「お帰りなさいギンガさん。そう思うのなら手伝ってくれませんか?」

 

「あははは……、ごめんね。父さんから止められてるから」

 

「分かってますよ。言ってみただけです」

 

 出動から帰ってくるギンガさんに、それを迎える私という構図も、最近ではお馴染みです。

 事件以降、ゲンヤさんに。

 

「しっかり反省して責任を取るまでは出動禁止な」

 

 と言われてペスカトーガを取り上げられ、延々と書類を処理する毎日です。

 幸い夢幻珠はデバイスと思われて無いので取り上げられませんでした。

 これとマルチタスクを利用して、仮想空間での戦闘シミュレーション(対戦相手は師匠達のデータ)を仕事中にしているのは内緒です。

 

 そして、今日も書類の山に頭を悩ませるのかと思っていたんですけど―

 

『こんにちは、キャロ』

 

「あれ、フェイトさんですか? 久しぶりですね」

 

『そうだね。ちょっと今日はキャロに用事があってね。時間、いいかな?』

 

 一体何の用ですかね?

 とそこで、私は思わず自分のデスクに目を向けます。これは……マズいかな?

 

「ちょっと待ってくださいね。すぐ戻りますから」

 

 

 

 

「……と、いうわけなんですよ」

 

「お前、今度は何やった?」

 

「ひどっ! 私ってそんなに信用無いですか? ……とにかく、そういう訳なので、渡された書類を処理しきれないんです」

(出来るなら、代わりに処理してください!)

 

「しょうがないな。分かったよ。明日までに延期してやる」

(……この位なら、最悪俺が処理すれば間に合うか)

 

「ありがとうございます。それでは、今からフェイトさんの所に行ってきます」

(やっぱし、そう上手くはいかないか。はあ……)

 

 フェイトさんは本局にいるとの事なので、そこの食堂で会うことになりました。

 食堂に到着して辺りを見回すと、端の方に座っていたフェイトさんが見えたので、私もそこに移動して座りました。

 

「こんにちは、フェイトさん。こうやって会うのは久しぶりですね」

 

「そうだね。はやてから色々聞いてるよ」

 

「あははははは……」

 

 色々、というのに心当たりがありすぎます。

 アギトの事はまだ後始末が完全には済んでいないので、口に出すのは少々不味いです。

 フェイトさんがぼかしたのも、多分その辺が理由でしょうね。

 

「相変わらず元気にやってるみたいだけど、みんなに心配かけないようにね」

 

「分かってますって」

 

 もうこれ以上無い位に分かりました。尻叩きは二度とゴメンです。

 

「それで、今日はどうしたんですか?」

 

「あ、そうだったね。それは今から話すよ。……キャロ、私達と一緒に働いてみる気は無い?」

 

「へ?」

 

「えっとね……」

 

 フェイトさんの話によると、はやてさんが自分の部隊を持つために色々動き回っているそうです。

 空港火災の時に感じた初動の遅さ、それを解消するための部隊を作り上げるのが目標で、今は構想の段階。

 フェイトさんは、メンバー集めを手伝っているそうです。

 これって、六課の事ですよね……。

 

「キャロには、その部隊のフォワードメンバーになって欲しいんだ。厳しい仕事にはなると思うけど、経験は積めるし、給与とかの待遇も今よりは上がると思う。どうかな?」

 

「……それって、管理局入りしないと駄目ですか? 正直、民間協力者の方が色々身軽なんですけど」

 

「出来ない事は無いと思うけど、給与や福利厚生を考えると、嘱託でもいいから入っておいて欲しいかな」

 

「そうですか……」

 

 うーん……、どうしましょうか?

 元々JS事件には対応するつもりでしたけど……。

 

 目の前にいるのは、返事を待っているフェイトさん。今か今かと答えを待っています。

 考えた末、私が出した結論は―

 

 

 

 

「すいません、お断りします」

 

 うん、無しで。




 幻想郷パートの回。
 東方知らない人は置いてけぼり喰らうかもだけど、この後も何回かあります。
 最低限必要な事は説明なり雰囲気で掴める筈。
 それ以上知りたい方はwikiへどうぞ。

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