幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第26話 修行

「きゃああああああ! って、あれ?」

 

 いきなりキャロに突き飛ばされたかと思うと、そこはもう、さっきまでいた場所ではなくなっていた。

 窓は割れ、カーテンも破れている廃ビルの一室。付近に人の気配は無く、すでに太陽が昇っているのいうのに辺りの雰囲気はどこか薄暗い。

 

「バルディッシュ、現在の位置情報の取得を」

 

≪イエス、サー……コンプリート。クラナガン郊外の廃棄都市です≫

 

「はあ……これって、きっとキャロのせいだよね……」

 

 そうとしか考えられない。転送魔法の形跡は無かったけど、たぶん巧妙に隠していたんだろう。おそらく指名手配時代に使っていたのと同じ方法だ。

 当時と同じように出し抜かれてしまったことに落ち込んでいると、頭上からヒラヒラと紙切れが落ちてきた。私は酷いデジャブを感じながらも、それを手に取った。

 えーっと……。

 

 

 

 

 ゲンヤさん、ギンガお姉ちゃん、スバルお姉ちゃんへ

 

 私は無事なので心配しないでください。

 しばらく旅に出てきます。週に一回は連絡を入れるようにするので安心してください。

 適当にふらついて飽きたら帰るつもりです。それでは、また。

 

 キャロ・シエル

 

 

 

 

「……これ、本気?」

 

 いや、キャロの事だから本気なんだろう。本人的には、ちょっとした旅行気分に違いない。

 指名手配犯と一緒なのは心配だけど、キャロがあれだけ懐いているのだから、おそらくは良い人達なんだろう。

 問題はそこではない。肝心なのは、この手紙を「私が」受け取ってしまったという事だ。

 つまり、今もキャロを心配しているナカジマ家にこの手紙を届ける義務が発生し、そこでの混乱に巻き込まれる事が確定したわけで―

 

「ねえ、バルディッシュ」

 

≪どうしました?≫

 

「本当に、世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだね……」

 

≪いつかいい事ありますよ≫

 

 

 

 

―第7管理世界 アルザス山中―

 

 

 

 

「よーし、今日も始めるぞ」

 

「はい。お願いします、妹紅さん」

 

 アルザス山中に移動して一週間、今日もいつものように稽古をつけてもらっています。

 内容は霊力と魔力の操作、飛行訓練、弾幕での模擬戦など、結構基礎的な事ばかりです。

 応用は夢幻珠があればいくらでも効くので、とにかく地力を上げる事を優先でやっています。

 ただし、デバイス無しで。訓練初日に取り上げられてしまったんですよね。

 

 

 

 

「じゃあ、今日から私達がお前の師匠だ。言う事はちゃんと聞いてもらうからな。準備はいいか?」

 

「はい。よろしくお願いします! 藍、モード「博麗」サブは―ってちょっ!」

 

 夢幻珠を起動させて準備をしていると、妹紅さんがこっちに近付いて来て夢幻珠とペスカトーガを取り上げてしまいました。

 

「妹紅さん!? 何するんですか!」

 

「没収だ没収。こんな便利道具に頼ってたら強くなれないぞ。おい輝夜、コレ預かっとけ」

 

 そう言って、夢幻珠とペスカトーガを放り投げます。

 せめてペスカトーガは残しておいて欲しかったです。

 

「じゃあ、最初は飛行から始めるぞ。ん、どうした?」

 

 それは嫌がらせですか? 嫌がらせですね?

 

「あのー、夢幻珠が無いと飛べないんですけど……」

 

 私がそう言うと、妹紅さんは困ったように頭を抱え、輝夜さんはそんな私達の様子を見て笑っています。

 おのれ、他人事だと思って。

 

「そこから教える必要があるのか……。仕方無い。約束したからには、出来るようになるまで教えてやる」

 

「ううっ……ごめんなさいです」

 

 

 

 

 とまあ、そんな感じで修行が開始されたわけです。

 飛行については、初日を丸ごと使って指導してもらった結果、ようやく低空に浮いてふよふよ動けるくらいになりました。たぶんゆうかりんより遅いです。

 いつも何気なく使っていた「鴉天狗」や「博麗」の凄さを、今更ながらに思い知りました。

 

「集中が乱れているぞ。もう一回」

 

「は、はい!」

 

 おっと、そういえば今は修行中でした。

 今やっているのは霊力、魔力、それに妖力の弾幕を同時に生成し、それを三つとも同じ大きさに維持する訓練です。

 ……ええ、妖力です。私も初めてコレ聞いた時に耳を疑いました。妹紅さんによると

 

「たぶん、お前は妖力を使うのがいちばん向いてる」

 

 だそうで、使った事が無いって言うと、「自分の力だろうが……」と、また呆れられました。

 それから妹紅さんに妖力を流してもらって妖力の存在を自覚するところから始まり、霊力や魔力等と同じように運用していく事になりました。

 人間に妖力があるのか疑問でしたけど、こうやって使える以上はあるんでしょうね。現に目の前にいる妹紅さんも妖術使って戦いますし。

 

「また妖力が大きくなってるぞ。ちゃんと制御しろ」

 

「あーうー……」

 

 

 

 

「よし、今日はここまでだ。明日はもう少しマシになってくれよ」

 

「ありがとうございましたあ……」

 

 はあ……まだまだ先は長いです。

 訓練が終わって汗を拭いていると、輝夜さんが結界を解いてこっちに歩いてきました。

 輝夜さんは、基本的には訓練中の結界役を担当してくれています。

 一度教えてもらった日もあったのですが―

 

 

 

 

「輝夜、お前はキャロに教えるの禁止」

 

「えー……、何でよ?」

 

「何でもなにも……、ほら」

 

 妹紅さんが指差した先には、火鼠の皮衣を撃たれてピチュった私。

 服には所々に焦げ跡が付いており、実際結構やばかったです。

 これにより、輝夜師匠が手加減が下手なことが発覚。以降は結界役に専念してもらってます。

 

 

 

 

「お疲れ様。早速だけど今日もよろしくね」

 

 訓練の終了後、輝夜さんが夢幻珠を渡してくれます。

 

「藍、モード「橙」サブは「白狼」」

 

 ハンティング用形態になって狩りに出発です。いつもは夢幻珠は没収されてますけど、この時だけは返してもらえます。

 師匠達、長年生きてる癖にサバイバル知識があんまり無いんですよね。

 姫様である輝夜師匠はともかく、妹紅師匠まで無いのは予想外でした。

 そんなので今までどうしていたのか聞いてみたら

 

「飢えても毒喰らっても死なないからな。そりゃ美味いもの食べられればそれに越したことは無いけど、そこまで必要に感じなかったんだよ」

 

 だそうで。さすがは蓬莱人、私達に出来ない事を平然とやってのけるッ! 憧れたくはないですけど。

 二人ともそんな調子だから道中ロクなものにありつけず、輝夜師匠が盗み食いしているのが発覚した際には喧嘩になり、それが原因で管理局を呼び寄せた事も何度かあったそうです。

 

「にしても、自分達の食料が懸かってると夢幻珠OKなんて、二人とも現金ですよねー」

 

 二人に聞こえない距離まで離れてから、一言ぼやいて狩りに入ります。

 訓練後で疲れてるし三人分は結構多いけど、日が暮れる前に集めないとね。

 

 

 

 

「行ったか」

 

「みたいね。で、あの子の事どう思う?」

 

「正直驚いてる。最初は呆れたけど、その後は一日もかからないうちに飛行に成功してるし、今日だって初歩とはいえ霊力、魔力、妖力を三つ同時に制御してた。あんなの私だって出来ないっていうのに」

 

 妹紅は嬉しそうに話している。全く、本人がいないとベタ褒めなんだから。 

 

「それ、キャロの前で言ってあげたらどう?きっと喜ぶわよ」

 

「言ったら調子に乗るからな。お前も言うんじゃねえぞ」

 

「はいはい、分かりました」

 

 妹紅との会話が終わってする事の無くなった私は、さっきキャロが付けていった数珠、「夢幻珠」について考える。

 

 「〇〇程度の能力」が使えるようになるとんでもないマジックアイテム。

 でばいす?、とかゆにぞん?についてはよく分からないけど、肝心なのはそこではない。「いつ」「どこで」「誰が」それを作ったかだ。

 八雲の式の複製品の話によると、分霊体を元に構築されているらしい。それはつまり、私達の魂のサンプルが、いつの間にか勝手に取られていたという事だ。

 製作者についての情報はナシ。本当なら持ち帰って永琳に色々調べさせたい所だけど、これはキャロの物だ。

 帰る手段が恐らくはスキマ移動だということを考えると、幻想郷に帰るためにはキャロに返さないといけない。

 キャロを脅迫するというのもアリといえばアリなのだけど、おそらくは何も知らないだろう。

 それに、何か嫌な予感もする。藪をつついて蛇を出すのは御免だ。

 

「帰ったら色々調べる必要があるわね。とりあえずは河童あたりかしら?」

 

「何か言ったか?」

 

「いーえ、何も。ほら、キャロが帰ってきたわよ」

 

 とりとめのない思考を切ってこれからの夕食のことを考える。

 大切なのは今なのだ。幻想郷に帰ってからの事は、また後で考える事にしよう。

 

 

 

 

(ま、アレの製作者に弾幕を浴びせるのは確定だけどね)


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