幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第18話 空港火災

「キャロ、準備できた?」

 

「あ、はい。今行きますー」

 

 

 

 

 お久しぶりです。キャロ・シエル、先日6歳になりました。

 

 あの後半年振りくらいにギンガさんと再会したのですが

 

「キャロ、もう、本当に心配したんだから!!」

 

 と、会うなり涙混じりの声で抱きしめられてしまいまして、こっちも混乱してしまいました。

 後ろに控えていたゲンヤさんが場を仕切ってくれなかったら、どうなっていたことか分かりません。

 落ち着いたギンガさんから、話を聞いてみると、半年前の闘技場の一斉捜査は、ギンガさんがたまたま闘技場に入っていく私を発見したのがきっかけだったらしいです。

 

「あの事件以来キャロと会えなくなっちゃって、ずっと私のせいだって考えちゃって……」

 

「えーっと、ギンガさんは私のために動いてくれただけでしょう? それに私はこうして無事だった訳なんですし、気にしないでください」

 

 今思えば、たぶん闘技場の件を回避できたとしても、どこかで必ず破綻してた気がします。過ぎたことをいちいち気にしてられないです。

 

「嬢ちゃん、そろそろいいか? ほらギンガ、ここからは大人の話だ。お前はもう帰ってろ」

 

「……うん。父さん、キャロをお願いね」

 

 ギンガさんも大分落ち着いてきたみたいなので、私はゲンヤさんと一緒に、本局へ出頭しました。

 ……ていうか、私も子供なんですけど。

 

 本局に到着してから、私は持ち物全てを預けて取調べを受ける事になりました。

 といっても、持っていたのは僅かばかりのお金と、倉庫街の件で手にいれたデバイスだけです。

 今まで散々魔法を使っていたので、デバイス持っていないと逆に疑われますからね。このデバイスには夢幻珠のスケープゴートになってもらいました。

 取調べの担当はなぜかゲンヤさんで、たまにフェイトさんもやってきました。

 

「久しぶりだね、キャロ」

 

「お久しぶりですフェイトのとっつあん。あれから“いい人”は見つかりました?」

 

「お願いだからそれ止めて。あと、今日は一応仕事で来てるから、聞いたことには真面目に答えてね」

 

「一応なんですね!? 本命はやっぱり幼女の体目当てなんですね!この変態が!」

 

「何というか、本当にいつも通りだね」

 

「照れますねえ」

 

「いや、褒めてないから」

 

 再開した時は大体こんな感じでした。

 以来、フェイトさんは取調べ期間のストレス解消手段として、大いに有効活用させてもらいました。

 

 それ以外の時はゲンヤさんが担当してくれました。

 ある程度自由に動けるフェイトさんはともかく、ゲンヤさんは部隊長としての仕事とかもあるだろうに大丈夫なんでしょうか?

 聞いてみたところ、“相手は子供で、警戒心を持たれない人の方が取調べに向いている”っていう理屈で、自ら立候補したらしいです。

 本局としても、私は犯罪者としては重要度の低い部類に入るので、取調べを代行してくれるのなら願ったり叶ったり、というわけです。

 

「私は助かりましたけど、本当、管理局って身内に甘い体質ですよねえ」

 

「5歳の子供が吐く台詞じゃねえぞ」

 

 

 

 

 それで取調べですけど、結果は殆ど予想通りでした。

 「ちょっと借りた」件については、バレてないのでそのままスルー。

 闘技場の件は、闘士としてファイトマネーを貰っていただけで、賭けは一度もやっていないと説明。

 他に受けた仕事は護衛任務だけで、相手を殺してはおらず、正当防衛に当たると主張。

 倉庫街の一件で局員を傷つけた事は正当化できないけど、怪我はいずれも軽症で、大した罪にはならなかった事。

 それに加えて、この年ではまともな職にありつくことが出来ず、生きるために仕方なくやっていた所を主張して、同情を引きました。

 

「最近になって生活が苦しくなって、もう一人で生きていくのも限界だと思って……。だから出頭したんです」

 

「……まあ、嘘はついてない、みてえだな」

 

 出頭時に僅かな金しか持っていなかったことも、この証言を後押ししてくれました。実際は藍にお金を預けてあるだけなんですけどね。

 唯一冷や汗をかいたのが、とっつあんに

 

「今本局で預かってるデバイスは、キャロがいつも使っていたデバイスなんだよね? じゃあ、私と会った時に盗っていったデバイスはどうしたの?」

 

 と聞かれた時です。

 

「試作品なので故障が多くて使い物にならなかったんです。だから、質に出して換金してしまいました」

 

「……本当に?」

 

「アーキコエナイキコエナイー」

 

 咄嗟に嘘を吐きつつ誤魔化しでその場をしのぎました。さすがフェイトのとっつあん鋭いです。下手するとここで夢幻珠のことを喋らないといけなくなる所でした。

 

 そんな感じで、取調べは進んでいきました。

 結果、生きるために仕方なかったこと、まだ5歳の子供だったことが情状酌量され、予想通り保護観察処分に落ち着きました。

 当初、裁判とかで半年か1年はかかるだろうと覚悟していたんですけど、裁判所も忙しいみたいで、略式で簡単に処理され、取調べ含めて2ヶ月しかかかりませんでした。

 ……それでいいのか管理局。

 その後は保護観察官との面会だったのですが

 

「俺が担当することになった。まあ、お互い知らない間柄でもないんだし、気楽にやっていこうや」

 

 フェイトさんかと思いきやゲンヤさんでした。しかも

 

「おめえ住む所ねえんだろ? だったらウチに来い。一人分位はどうにかなるさ。(それに、ギンガも喜ぶからな)」

 

 と、マジで至れり尽くせりです。

 保護観察で釈放されたといっても、このままだとまた以前の二の舞になるだけなので、どこかに引き取られる必要があったんですが、そこでもゲンヤさんが立候補してくれました。本局側としても、保護観察官と対象者が同じ所で生活するのは監視の面で好ましい事なので、簡単に承認されたらしいです。

 保護から取り調べ、観察官に住む所まで……もうゲンヤさんには一生頭が上がらないです。

 

「これからは、おとーさん、って呼んだ方がいいですか?」

 

「心にも無い事言ってんじゃねえ。ほら、さっさと行くぞ」

 

 ぶっきらぼうな返事をしながらも、ゲンヤさんは手をこっちに差し出してきます。

 私はその手を握り返し、藍と離れて以来の温かい気持ちを感じながら、ゲンヤさんの家へと歩き出しました。

 

 それから、私のナカジマ家での生活が始まりました。

 ギンガさんとゲンヤさんに加えて、スバルさん。

 初対面の時はギンガさんの影に隠れたりして、「へ?何このかわいい生き物」とか思っちゃいました。

 昔のスバルさんは弱気で泣き虫だったっていうのは知ってましたけど、ここまでとは……

 

「ほら、スバル、今日から一緒に暮らすことになったキャロだ。ちゃんと挨拶しろ」

 

「え、えっと……」

 

「初めまして、キャロ・シエルといいます。これからよろしくお願いしますね、スバルお姉ちゃん」

 

「お姉、ちゃん?」

 

「お前の方が年上だからな。しっかり面倒見てやるんだぞ」

 

「あ、うん。初めまして、スバル・ナカジマです。これからよろしくね」

 

「ふふふっ」

 

 お姉ちゃん、という言葉に何か感じたらしいスバルさんと、それを微笑ましそうな顔で見ているギンガさん。そんな感じで、私たちの対面は終わりました。

 

 

 

 

「今思うと、本当にラッキーだったよねえ」

 

「キャロ、何か言った?」

 

「いいえ。何でも」

 

 今日はギンガさんとスバルさんと一緒に、ゲンヤさんの働いている陸士108部隊に見学にいくことになっています。

 本来私はメンバーに組み込まれてはいなかったんですけど、保護観察中の人間が一人で留守番っていうのは不味いみたいで、監視も兼ねて一緒に行く事になりました。

 陸士部隊へ行くのにはゲートポートを使う必要があるので、3人でミッド臨海空港へと移動。そしてあとは迎えを待つだけ、という所だったんですけど、その時それは起きました。

 

 

 

 

 ドオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

「何だ、今の音は!?」

 

「うわあああああっ、あっちを見ろ!!燃えてるぞ!!」

 

「みんな、逃げろー!!」

 

 爆音とともに燃え上がる炎、それを見てパニックになった人がひしめき合い、空港は一瞬にしてその機能を失いました。

 

「ギンガさん! スバルさん!」

 

「お姉ちゃん! キャロ!」

 

「スバル! キャロ!」

 

 人の波に押され、3人共が別々の場所へと流されていくのを、私はただ見ているだけしかできませんでした。ようやく人波が引いて自由に動けるようになった時には、自分がどこにいるのかも把握出来ず、さらに辺りにも火の手が回ってきていました。色々ヤバいです。

 

「あー……。空港火災事件って今日だったんだ」

 

 最近はナカジマ家でまったり生活していたので、そんな事すっかり忘れていました。このままここに居ても状況は変わらないので、とにかく火の気の少ない所に移動します。

 

「とりあえず勘で動いてるけど、これってヤバいかなあ?」

 

 気が付くと辺りには人影が無くなっていました。ルートを間違えたかもしれないと思いましたけど、後ろには火の手。キャロ・シエルに後退の二文字はありません。

 

「何か、どんどん奥に向かってる気がするし……」

 

 それでも前進しか選択肢の無い私は、そのまま進んでいきます。

 内心の不安を押し殺しながら歩いていくと、開けた部屋と、一人の人影を見つけました。

 良かった。これで避難経路が分かる、脱出出来る。

 絶望が希望に変わったのを感じながら、私は通路の向こうにいる人影に声をかけました。

 

 

 

 

「すいませーん。誰かいますk……」

 

 

 

 

 そこまで言いかけて止まってしまいました。

 なぜならそこにいたのは、ケースを小脇に抱えて、ぴっちぴちのボディースーツの上にロングコートを羽織り、顔に眼帯を付けた、隻眼銀髪の

 えちょ、まさか―

 

「む、子供か? どうしたものか……」

 

 

 

 

 な、何でチンクさんがいるんですかああああああああー!?


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