幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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旧6⑨話のおまけ。
タイミング的にここだろうと判断してココに持ってきました。


第17.5話 番外編 とっつあんの頑張る理由

「ううっ、はやてえ~~~……」

 

「ああはいはい、今日はどうしたんや?」

 

「えっとね、今日仕事でキャロに会ったんだけど、また―」

 

「逃げられたんか?」

 

「……うん」

 

「フェイトちゃんも飽きひんなあ……」

 

 はやてとフェイトは現在、ミッドにある料理店に来ていた。

 最近は珍しくも無くなったフェイトの方からの誘いを受けて、はやてはリインと一緒に料理に口をつけながら、フェイトの話を聞いていた。

 ちなみに、「桃髪の子鬼」の出現とフェイトからの誘いが増加した時期は一致しているのだが、詳しい因果関係は不明という事になっている。

 そして今日も今日とて、はやてはフェイトの愚痴を聞く事になった。

 二次被害的な意味では、はやてもこの頃からキャロの被害者だったのだ。

 

「それでね、結界破壊したと思ったらもうその場にはいなくてね」

 

「うーん……転移魔法とかかなあ?」

 

「なのかなあ? 予兆も痕跡も全然無いんだけど」

 

「なにそのホラー」

 

 最近恒例となったフェイトの話を聞くはやて。

 最近の話題は主にキャロについて。はやてとしては、フェイトとの接点が増えるのは有り難いけど愚痴はあんまり聞きたくない。そんな状態であった。

 しばらく二人で話していたのだが、ふと、食事に専念していたリインが会話に参加してきた。

 

「あの、フェイトさん」

 

「ん? どうしたの、リイン?」

 

「ちょっと気になったんですけど、フェイトさんはどうしてそこまで、キャロちゃんを捕まえようと頑張ってるんですか?」

 

「え? 可笑しい、かな?」

 

「何となく、ですけど。はやてちゃんはどう思います?」

 

「うーん、そうかも」

 

「はやてまで!?」

 

「うーん、何と言うか……。聞いた感じやと、キャロちゃんってあんまり保護欲そそるタイプや無いやろ? 確かに犯罪起こしてるなら止めんとアカンけど、そこまで一生懸命になるかなあって」

 

 常に飄々としながら仕事をこなして自分の我侭を通し、Sランク魔導師からも逃げ切ってみせる。

 フェイトから聞いた話を元にはやてが脳内にイメージしたキャロは、おおよそ保護とは正反対の人物像になっていた。

 

「なんかその子、一人でもたくましく生きていけそうやし。執務官として捕まえる必要があるのは確かやけど、それはあくまでお仕事としてやん? フェイトちゃんが子供を助けてるのって、お仕事ってだけや無いやろ?」

 

 人間誰しも感情がある。感情がある以上私情もあるのは確かで、フェイトの場合、それは「自分と似た境遇の子供を減らす」事だ。執務官の道を選んだのもそれが大きい。

 その点で言うと、日々たくましく生きているキャロはその対象から外れる。

 仕事として捕まえないといけない理由はあるが、モチベーションが上がる理由がはやてには思い付かなかった。

 

「うーん、何でだろ?」

 

「何で、って私に聞かれても分かる訳ないやん」

 

「今まで考えた事無かったから」

 

 うーん、と顎に手を乗せながら唸っているフェイトは周囲の視線を集めている事に全く気づいていない。

 一見完璧なのに偶に隙がある所が男性局員に人気なのだが、当然ながらその事にも気付いていない。

 

「あ、アレ、かな?」

 

 そう言うと、フェイトは持っていた鞄から何かを取り出して机の上に置いた。

 どうやらメモ帳を千切った紙切れらしいが……。

 

―私にばっかり構ってないで、“いい人”でも探したらどうですか?

 小さな子供ばっかり構っているせいで、「行き遅れ」とか「未婚の母」とか言われるようになっても知りませんよ?―

 

「えっと、コレは?」

 

「あの子の書き置きシリーズ。取り逃がした現場にいつも落ちてるんだ」

 

 最初に見たものの他に「あばよ、とっつあ~ん!!」とか(これを見たはやては「フェイトのとっつあん……ププ」と笑いを堪えた)「真・ソニックフォーム、確かに撮影しました。写真はばら撒いておくのでご安心を」とか(結局そんな事件は無かったらしい)とか、兎に角フェイトを挑発するものばかりであった。

 

「成る程なあ、何となく分かったわ。そりゃ、ここまで言われたら逮捕したくもなるわなあ」

 

 自分も同じ目に遭ったらそうする。そう思っての発言だったが―

 

「うーん、それとも少し違うかも」

 

「ほえ? どういう事ですか?」

 

「そりゃ、最初は怒ったけど、何であの子がこんな事してるのか想像してみたら、ね」

 

「何で、って、挑発して冷静さを失わせるためやないんか?」

 

「そうかもね。でも、それは犯罪者にとって、「執務官に狙われ続けるデメリット」と引き換えにしてまで必要なのかな、って」

 

「……ああ、そういう事」

 

「……うーん、どういう事なんですか?」

 

「要するにやな。キャロちゃんが態々こんな事してるのは「構って欲しいから」やないかっちゅうことや。やろ、フェイトちゃん?」

 

「うん。想像だけどね」

 

 フェイトとはやてがしたのは発想の転換。

 普通に考えると、犯罪者にとってフェイトに狙われるのはデメリットにしかならない。

 そこで、逆に「フェイトに狙われるのがメリットになる状況」を考えてみた結果である。

 

「これは私の想像でしかないんだけど、キャロちゃん、心の奥底では捕まりたいって思ってるんじゃないかな、って。じゃないと、態々自分が不利になる事する訳が無いから」

 

 それが、フェイトがキャロを追い続ける理由。

 助けを求められているのなら、フェイトは迷う事は無い。

 むしろ表に見えない分余計に過去の自分とダブってしまい、モチベーションが上昇していた。

 

「でも、聞いた感じやとキャロちゃんは自覚してへんやろなあ」

 

「多分。あの子は頭が良いから、自覚したら止めてる筈だし」

 

「フェイトちゃんも大変やなあ……。まあ、頑張りい、私も応援してるさかい」

 

「リインも応援するですよー!」

 

「ん。ありがと、はやて、リイン。はやてやリインの事も応援してるよ」

 

「ほんなら、次は私の話でも聞いてもらおか」

 

「うん、いいよ」

 

「えっとな、―」

 

 キャロの話題はここで一端打ち切り。

 3人はそれからも美味しい食事を肴に、会話に花を咲かせていった。

 

 

 

 

 キャロが自首してくる、半月前の話であった。


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