幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第1話 キャロとル・ルシエ

 第六管理世界アルザス

 そこには「ルシエ」と呼ばれる少数民族が存在する。

 「竜召喚」という異能を持ち、人里離れた山間部で守り竜と共に暮らす流浪の民である。

 そのルシエの集落のテントの中で、少女は本を読んでいた。

 近くを通りかかった大人が覗いてみると、本には色とりどりの植物の写真が載っており、それが図鑑であることがわかる。

(この子くらいの年なら絵本とかを読んでいるのが普通だろうに、将来は学者かな?)

 等といったことを考えながら、大人はその場を去っていく。

 まるで親の考えそうなことだが別に不自然ではない。

 ルシエの民はその数の少なさ故に、皆が家族のような付き合いをしている。

 少女にとっては部族の皆が自分の親で、皆にとっても、少女は自慢の娘なのだから。

 ただ、もし本のタイトルにまで目が行っていれば、もう少し違う感想を持っただろうが。

 

 

 

 

 あれから早くも3年が経過しました。

 転生当初は自分に起こった理不尽にパニックになって、色々周囲に八つ当たり(夜泣き的な意味で)したりもしましたが、そんな事を繰り返しているうちに、自分に起きたことを冷静に受け止めるようになれました。

 あの時自分が不眠症にしてしまった数名には、今でも申し訳ない気持ちで一杯です。

 特に私の世話をメインでやってくれたお姉さんには、今でも頭が上がりません。

 

 私のお母さんなのかな?と最初思ってたんですが、どうやら違うみたいで、親について聞いても

「キャロちゃんにはちょっと早いかな」

 

 とか

 

「ごめんねー。いまちょっと用事があるからまた今度ね」

 

 とか、上手い具合にはぐらかされてしまって分かりませんでした。

 行方不明なのか死んだのかだけでも教えて欲しかったんですけどね。どっちにしろ3歳児に聞かせる内容じゃないから誤魔化してくれているんでしょうけど。

 まあ、分からないことは後回しにして、今は自分に出来ることをするのです。

 そう、やがて訪れる追放の日のために!!

 

 ……なんかテンション下がってきました。

 気を取り直してさっきまで読んでいた「食べられる野草図鑑」を手に取り、勉強再開です。

 ん?そこ「コイツ何やってんの?」みたいな目で見ないで下さい。

 別にふざけてる訳じゃないのですよ。これは原作知識から導きだされた。ちゃんとした対策の1つなのですから。

 

 追放フラグが立ってから、私は色々考えました。

 まず最初に考えたのが、プランA

 「フェイトに保護してもらう」

 という、原作通りの展開です。

 

 5秒で却下しました。

 

 というのも理由があって、原作ではキャロが管理局に保護されるまでの描写が一切無いんです。

 つまり、自分の機転だけでその展開を引き寄せる必要があるんです。

 そこで、よく考えてみてください。

 

 「4~6歳程度の子供一人」

 「山奥で放り出され」

 「道中命の危険に会わず」

 「都合よく管理局に保護され」

 「さらにフェイトの目に留まる」

 そんな確率を。

 

 真面目に考えて有り得ないですよね。普通なら人里に着くまでにアウトです。野盗とか野生動物とかに襲われたら確実にピチュりますよ私。

 フリード暴れさせてどうにかするにしても、数でこられたらどうなるか分からないですし。

 運が良ければ会わないかもしれませんが、そんな運が私にあるとは思えません。幸運ランクは精々E~D位でしょうね。そもそも運が良ければ追放フラグ自体立ってないでしょうし。

 

 そして仮に、運良く人里に着いたとしましょう。

 そこで管理局に保護してもらう訳ですが、ルシエの里から出た事の無い世間知らずな少女……どう考えても悪い人に騙される絵しか思い浮かびません。

 管理局員を語って近づいて来られたら、他に頼るものが無い私には信じるしか道がありません。

 アタリを引ければ万々歳なのですが、もしそれが局員の振りをした偽者だった場合、

「薬物中毒END」「奴隷END」etc……考えるに悲惨な未来こんにちは、ってことになりかねません。

 

 

 

 

 またまた運良く管理局に保護されたとしましょう。

 原作を思い出して下さい。管理局に保護された後、原作キャロは各部隊で持て余されました。

 色々酷いですよね。何が酷いかって言うと、

 「竜召喚のスキルがあるとはいえ、なんで小学生にもなってない年の幼女を戦力として使うの前提で考えてるんだゴルァ!!」

 ってのがもうね……

 あの時の原作キャロの独白に「フェイトに保護されるまでは、やりたい事など考えた事が無かった」って内容のがあったことを考えるに、自ら局員に志願したとも考えられないですしね。

 こういうケースって、リミッター掛けてから里親探したり、孤児院に入れたりするのが妥当じゃないの?って何度も考えました。

 「敵陣中心に放り込んで暴れさせる位しか役に立たない」とか言ってた局員もいましたよね。全く、人の命を何だと思ってるのかって話ですよ。

 とにかくこれもNG。ここまで来ておいて人間爆弾ENDとか嫌すぎる。

 とまあ色々考えた結果、プランAは却下なのです。にしても原作キャロ、よくもまあフェイトルートまで辿りつけましたよね。悪運A+とか持ってるんじゃなかろうか。

 

 次に考えたのがプランB

 「能有る鷹は爪を隠す作戦」

 その名の通り、竜使役の力を隠して目を付けられないようにする作戦です。

 子供の身に余る力を持っていたから追放されるわけで、なら「無力な子供の振りしてればいいんじゃね?」という、単純ながら理に適った作戦です。

 プランAがBadEnd満載なのに比べて、こちらは普通に暮らしてればいいだけなのでお手軽。

 外に出たいならちゃんとした大人になってからか、保護者同伴で行けば安全です。

 特に問題も見当たらないので、最初はこのプランを採用して日常(赤ちゃん生活)をエンジョイしていました。

 

 

 

 

 問題が出てきたのは1歳前後の時でした。

 赤ちゃんの時は出来ることが少ないので、はっきり言って暇な事が多かったです。

 食べると寝るだけじゃあ、暇で暇で堪りませんでした。

 そんな私の数少ない暇潰しが、「魔力の運用」でした。

 ある日、私はいつものように暇を持て余していると、ふと自分の中に、よく分からない力の流れ?みたいなのを感じました。

 意識を集中させて注意深くその力の流れを追ってみると、丁度自分の心臓がある辺りに集まっていくのが感じられました。

 原作知識から魔力とリンカーコアについては知っていたので、きっとソレだろうとアタリを付けました。

 それからというものの暇な時間が出来ると、まだ満足に立てない手足の代わりに、リンカーコアに蓄えられている

 魔力をいろいろと動かしてみて遊ぶようになりました。

 力付けるとまずいんじゃないかと考えつつも暇には勝てず、原作よりも力つかなければいいか、と自分に言い訳をしながら始めます。

 体外に出すと力が抜けていく感じがしたので、手足に循環させるように操作していきます。

 傍目からは寝転がっているようにしか見えないですけど、かなり集中して操作してます。それこそ、周りの音が耳に入らないくらいに。

 

 ……一度集中し過ぎておっぱい飲むのを忘れて、夜泣きして催促したことがありました。

 言葉が話せたらマジで謝りたいと思いました。

 

 とまあ、そんな調子で暇を潰してた訳なんですが、最初に言った通り1歳前後の頃、問題が発生しました。

 いつものように暇潰しで体内の魔力をコネコネコネコネ、粘土みたいにこね回してたんですが、

 「アクセルシューター1発くらいなら撃てるんじゃね?」

 という思いつきで、まーたぶん無理だろうなーとか考えながら、ノリで指先に魔力を集中、固めるだけ固めてから、指先で打ち出すイメージを送る―

 

 ヒュン……ジュッ!!

 

 ナニコレエ?

 マジで出ました。っていうか、テント焦がしながら貫通していきました・・・

 それを見て、自分のやらかしたことに初めて気付きました。

 そもそもミッド式魔法はデバイスを使って運用される物。

 デバイスに複雑なプログラムを詠唱させ、術者が収束や拡散、誘導などの制御を担当するのが普通なのです。

 それをシューター1個だけとはいえ、「デバイス無し」で「無詠唱」でやらかしてしまったのだからタチが悪い。

 流石に術式の構成は無茶苦茶だったみたいで、1発撃っただけでガス欠状態になったけど、それを差っ引いても、原作キャロより力があるのは考えるまでもないです。

 まさか暇潰しにやっていた遊びがこんな結果を招くとは思いもせず、プランBも泣く泣く諦めることになったのでした、まる。

 

 そうやって辿り着いたプランC

 「一人で生きていける力を身に付ける」

 と言うか、もうコレしか選択肢がありません。

 運命に流されるのも、運命から逃げるのも駄目なら、いっそ正面からぶつかってやろうじゃないかと、紆余曲折を経てようやく辿り着きました。

 ……1年もかかるとか遅すぎる、とか言わないでくださいね。

 普通に立って歩けるようになる前に気付けたのだからセーフなのです。

 まあそういうわけで、今はサバイバルに必要な知識を勉強中です。

 動物狩るのは難易度高そうなので、とりあえず採取スキルだけでも習得しておくのです。

 

 さて、長々と説明していた間に粗方読み終えたので、勉強の時間はこの辺で終わりにします。

 おやつまでまだ時間があるので、最近生まれたフリードと一緒に、魔力運用を兼ねた遊びをします。

 力をつけると決めた以上、もう自重なんてしてません。

 遊びの内容は「弾幕ごっこ」。私が威力を抑えたシューターをフリードに撃ち、それをフリードが避けます。

 コレを始めた最初のうちは、すぐにフリードがピチュったり、私が魔力切れ起こしたりしていましたが、最近ではお互いすっかり慣れました。

 私は1分くらいならシューターを打ち続けることが出来るようになり、フリードはフリードで、余裕をもって回避しながら、時折豆粒ほどのブレスで反撃してきます。

 最近はお互いのおやつを賭けて遊んでますのでお互い真剣です。

 私に当てられればおやつが増えるので、結構本気で撃ってきます。

 被弾しすぎるとおやつ抜きなので、コレへの恐怖が原因かもしれませんが……

 そうこうしているうちに1分経過、いい加減シューターを撃つ魔力も切れかかってきたので打ち止めです。

 今日はお互いに被弾0だったので、おやつは二人で半分こなのです。

 魔力切れによる心地良い疲労を感じながら、フリードを枕にして、おやつタイムまで一休みしました。ぐぅ……。

 

 寝過ごしてしまった私はおやつを食べることが出来ませんでした。

 私の分まで食べたフリードは、次の日ゼロ距離から弾幕を浴びせておやつ抜きにしてやりました。

 まったく、いやしい竜なのですよ。


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