『今のは警告です。このまま逃げ続けるなら、次は当てます。』
そう言って魔力スフィアを5つ、私の周囲に待機させていつでも発動できるようにする。
本当、どうしてこんな事になっちゃうんだろうね。
キャロ・シエル
はやてからの情報提供で知った小さな女の子。
闘士として登録されていたという事を聞いて思い出すのは、母さんの命令でジュエルシードを集めていたかつての自分。
今思えば普通の子供らしい生活が出来なかった自分とダブってしまい、私はこの子を助けてあげたいと思った。
『でも、捜査資料持ち出して本当に良かったの? はやてが指揮官研修している部隊の部隊長、えーと、ナカジマさん、だっけ? その人に知られたらただじゃ済まないんじゃ?』
『まあ本当ならそうなんやけどなあ。これ、ゲンヤ隊長からの頼みでもあるんよ』
『どういうこと?』
『それはなあ……』
はやてが言うには、陸士108部隊としては、キャロの事は正直どうでもいいらしい。
あくまでこの事件のメインは闘技場の経営に関わっていた連中と、それらの所属している組織。
経営陣の洗い出しも済んでいる以上、逃げ出したと思われる客、従業員、闘士に回すだけの労力など存在せず、この事件の捜査はほぼ終了しているようなものなのだ。
『というわけなんよ』
『そうなんだ。でも、どうして重要でも無いのに私に頼んできたんだろう?』
『その辺も聞いてみたんやけど、上手くはぐらかされてもうたわ。あくまで今回の件は、不幸な境遇の子供を保護している義に篤い執務官が、“たまたま”お蔵入りになりそうな資料を見つけたってことにするみたいや』
『うーん、どうしてなんだろう?』
とりとめの無い回想をしながら、私の前を飛んでいる少女に視線を向ける。
今日、とある組織の裏取引の検挙に助っ人として出動した際、遠目に見たのは弾幕の雨をすり抜けて局員を次々と倒していく少女。
その姿に心が痛むのを感じながらも、私は自分の仕事を果たした。
長距離砲撃を打ち込んで目標を鎮圧。この時あの子が避けてくれたのは、少し複雑な気持ちになった。
後始末を他の局員に任せて、私は真っ先に逃げていった少女を追いかけた。
今、彼女は真・ソニックフォームの私とほぼ同じスピードで逃げ続けている。
自慢じゃないけど、私は自分のスピードには結構自信を持っている。
なので、自分の三分の一も生きていない少女に並ばれているのは少しショックだ。
思考を断ち切り、私はランサーの照準をセットする。
いくら説得をしても受け入れてもらえなかった。少しだけどお話して、まともな感情や常識があるのは分かったけど、それでも無理だった。こうなった以上、私は執務官として行動するしかない。
「本当に、世界はこんな筈じゃなかったことばかりだよ、お兄ちゃん」
この速度で直接組み合うのはお互い危険なので、非殺傷魔法で撃墜するしかない。
幸いにも下は海だ。万が一回収が遅れて墜落しても、大事にはならないだろう。
「フォトンランサー、シュート!」
待機させてあったスフィアを全て発射する。どうやら着弾する直前にシールドを張ったらしく、着弾地点から爆煙が上がった。
これで落ちたなら回収する。
防げたとしても動きは鈍っているはずだから、バインドで拘束する。
煙が晴れるとそこには……誰もいなかった。
「いない!? あの子は何処!?」
≪……サー、対象の反応、後方3000、4000、5000……なおも離れていきます。≫
「嘘!?」
バルディッシュからの報告に驚きながら急いで反転しようとするけど、高速機動に入っていたので急には止まれない。
反転機動を終えるまでの間にも距離はどんどん離れていき
≪目標、ロストしました。≫
「逃げ、られた!?」
まさか逃げ切られるなんて……
そんな事を考えている間にも、事態は進んでいく。
『テスタロッサ執務官、至急こちらに応援願う!!』
『どうしましたか?』
『先程の魔導師が……、うわあああああっ!!』
やられた
どうやったのかは分からないけど、あの子は私から逃げ切った。そして管理局側の最大戦力である私を置き去りにしたまま悠々と現場に戻ったのだ。
急いで現場に戻った私が見たのは、先程の戦闘に追加で3人、おそらくキャロに倒されたであろう局員であった。
「あの子は!?」
「逃げられました」
辛うじて無事だった局員に聞いてみると、あの子は戻ってくるなり局員を撥ね飛ばしながら押収物へと直行、今日取引されていたデバイスを1つ取ると、来た時と同じように、高速飛行でどこかに飛んでいったらしい。
「それと、現場にこのような書き置きが」
そう言って局員が差し出してきたものを受け取る。
まさか自分から手がかりを残すとは思えないけど
―ブーストデバイス一基頂戴しました。あばよ、とっつぁーん!!―
あ、これ知ってる。昔なのはに見せてもらったアニメだ。
……成る程、要するに、私は毎回泥棒に逃げられる間抜けな刑事って事なんだ。
『ふふふふふふふふ……バルディッシュ?』
『サ、サー!?』
『知ってると思うけど、私って意外と負けず嫌いなんだ。そんな私が、速度で並ばれ、振り切られて、まんまと出し抜かれて、あげくはこんな風にコケにされて、何も思わないと思う?』
『い、いえ』
その底冷えする声に、バルディッシュはいつも以上に機械的な返答を返す。少しどもったかも知れないが許容範囲だろう。とにかく下手に刺激して八つ当たりされてはたまらない。
「キャロ・シエル……今度会ったら、絶対捕まえてやるんだから!!」
今のフェイトにとって、キャロは守るべき子供では無い。
フェイトにとっての彼女は、いつか必ず自分が捕まえないといけない、かつての自分となのはのようなライバルに認定されてしまった。
「今、何か悪寒が……」
「どうしましたか。マスター?」
「なんでもない、多分気のせいだから。にしても、さっきは危なかったですねえ。」
さっきの逃走劇を思い出すと肝が冷えます。
さすがは高機動型のSランク魔導師。まさか「鴉天狗」に追いつけるとは思いませんでした。
ユニゾンの際に、半ば反射的にサブを「博麗」にしておいたのが幸いでした。
「空を飛ぶ程度の能力」っていうのは、言い換えると「あらゆる重圧を無効化する能力」です。
完全に習得すると、あらゆる攻撃に対して宙に浮くことで無敵状態になることも可能なんですが、今はそこまでは出来ません。
でも体にかかるGを消す位はできるので、「風を操る程度の能力」と併用して一瞬で停止、反転してシールドを展開し、ランサーの雨に突っ込み、後は爆風に紛れてフェイトさんの脇をすり抜け、反対方向に逃げ切りました。
途中、まだ報酬のデバイスを貰っていないのを思い出したので、押収品の中から1つガメて、お約束とばかりに書き置きを残して飛び去りました。その時局員を何人か轢いてしまったかもしれません。
思い出してみると、最後のあたりは余裕ブッこいてますね……。
「フェイトさんが来たのは誤算だったなあ。ほとぼりが冷めるまで、またしばらく休業しよっか」
「そうですね。たまにはフリードと一緒に遊ぶのもいいでしょう」
「……あ、すっかり忘れてた」
「マスター……」
ひとまずは執務官のことを忘れて楽しいことを考えます。
え、フラグ? ああ? 聞こえんなあー?
おや、フェイトのようすが……
テーテーテーテレテレッテレー!!
おめでとう! フェイトは執務官からとっつぁんにしんかした!!
……フェイトファンの方マジごめんなさい。
でも嫌いでこんな事やってるんじゃないんです。愛故に。
てか本当に嫌いだったら出番自体無いですしw