「ん……こう、かな?」
「いいよ、その調子で」
「こうやってこうやって……ああもう、面倒臭い!!」
「キャ、キャロ、落ち着いて!」
「バインドブレイクなんかやってられるかあー!」
「ああ、やっぱりこうなるんだ……」
こんにちは。キャロ・ル・ルシエ改めキャロ・シエルです。名前については前回参照です。
あれからギンガさんに色々教えてもらいました。本当、何でそこまでって位親切に。最初逃げようとしてマジごめんなさい。
今やっていたのはバインドブレイクの練習です。
ギンガさんにバインドを掛けてもらって、それに干渉、解除するんですが、これが結構難しいんです。
夢幻珠アリならパワー系の形態で力任せに脱出したり、モード「七曜」(火水木金土日月を操る程度の能力)か「人形」(人形を操る程度の能力)で即座に解除したりできるんですけど、それだとすっぴん状態で応用できないですからね。今は地力を付けるのが第一目標なのです。
え、「霧雨」は、って?
攻撃しかできない形態でどうしろと? パインドにマスパぶっ放せばブレイクできるだろうけど、そんな痛いのは嫌です。
「まあ、キャロはまだ4歳なんだし、始めたばっかりなんだからゆっくりやっていけばいいと思うよ。じゃあ、いつもみたいにラスト1本やって終わろうか」
「はい!」
ラストはいつも、ギンガさんと実戦形式で打ち合います。
ちなみにユニゾンはしません。一応、非ユニゾン時でも、身体強化くらいなら夢幻珠で行使できるので、ソレを頼りに戦います。
「いくよ、キャロ」
「いつでもどうぞ、ギンガさん」
そう言ってお互い構えます。こっちの戦いのベースは太極拳、向こうはローラーブーツを履いてのシューティングアーツ。自然と、突っ込んでくるギンガさんとカウンターで迎え撃つ私、という図式になります。
「はああああっ!」
「華符「破山砲」!」
とまあ、こんな感じの日々を過ごしていたんですが
「お金が無い、だと!?」
「このままだと、あと数日で底をつきますね。どうしますか、マスター?」
ルシエを出てから数ヶ月、宝物庫からお借りした宝石類、それを売って作ったお金が今にも無くなりそうです。
「どうしてこんな事に……」
「いや、収入が無い以上、いずれこうなるのは必然でしょう?」
藍のもっともな指摘に、ですよねー、と心の中でで返すも現状は変わらず、対策を考えますが、なかなかいい案が思い浮かびません。
まともに考えて4歳児を雇ってくれるところなんてある訳無いです。
あーでもないこーでもないと考えている間にも、時間は無情に過ぎていきます。
「考えても仕方ないかなあ。とりあえず出かけよ。働き口か儲け話、どっちでもいいから探さないと」
「ですね」
そうしてクラナガンへと出かけた訳ですが、まあ予想通り、そう簡単に仕事が見つかる訳もなく
「これで20件目。当たり前っちゃあ当たり前なんだけど」
「元気出してください」
求人広告を見て行ってはみるものの、就業年齢にすら達していない幼女が雇って貰える筈も無く、面接すら受けさせてもらえませんでした。
こんな時、能力でササっと解決できればいいんですけど、LUKに関係する能力は今のところ役立たずです。
「運命を操る程度の能力」は今の私には扱いきれないし、「人を幸運にする程度の能力」は何故か効きませんでした。どうやら「人」っていうのは他人のことらしいです。
「これだけやって駄目なら、もうアレしか無いかなあ?」
「……!? 何をするつもりですか!?」
「どうしたの、藍?」
「いえ、何でも。(何だか凄くイヤな予感がしたのだが……)」
数時間後……
「ふう、こんな所かな」
「あああ、やっぱりこういうオチか……」
「文句言わないの。コレしか無かったんだから」
「それは分かっています。ですけど、やっぱり盗みは……」
「人聞きが悪いですねえ。「ちょっと借りた」だけですよ。出世できたら返します」
(顔なんて覚えてる訳ないのに……)
「ん、何か言った?」
「い、いえ、何でもありません」
藍は複雑みたいです。まあ仕方無いですよね。
あれから街の人ごみに潜り込んだ私は、「千里先を見通す程度の能力」のちょっとした応用で、隙の無さそうな人や取りにくい所に身につけている人以外で、すれ違った数名から財布をお借りしていきました。
あくまで借りただけです。許可取ってないし、期間が無期限ですけど、借りたんです。
……ゴメンナサイ、やっぱり嘘です。藍ほどじゃ無いけど罪悪感感じてます。
うん、コレは本当に切羽詰った時だけにしよう。とりあえず気を取り直して財布の中身を確認します。
「現金がちょっとと、他は……アレな店の会員証ですね……」
どうやら私がお借りした相手は、相当ハイレベルな紳士だったみたいです。何だかさっきまで感じていた罪悪感が薄れていくのを感じます。紳士ならこの位構わないですよね。
「それにしてもロクな物入ってませんね。財布の中身まで見通しておいたほうがよかったなあ。ん?」
がっかりしながらサイフを振っていると、カード入れの隙間から紙切れが落ちてきました。
何でしょうかね、これは……チケット?
「えっと、……『クラナガン地下秘密闘技場』?」