これまでのあらすじ
世界中の能力者から能力を奪って帰ってきた
入院当初に見られた記憶の混濁も無事解消し、退院祝いに生徒会のメンバーでバーベキューに行くことになったのだが、事態は一変する。
しかし、
自分の知っている過去との食い違いに
星ノ海学園が存在しないことに
目覚まし時計より早くに目が覚めた。
……またあの夢をみていた。
夢で見た映像は
僕は布団からはいでて、立ち上がった。
窓を開けて、天候を確認する。
天気は雨だった。もう春なのに、前線が停滞しているらしく空はどんよりして、雨が降っていた。
落ちてくる雨を見て、僕はあの日思い出す。
退院祝いにバーベキューに行った日。僕は
手に入れた能力はまったく役に立たず、発動も出来ず、僕は無力だった。
何も出来ず理不尽な現実を目の当たりにした。
まるで、そうなることを世界が望んでいるかのように。
世界が、運命が、何か強大なねじれが、僕からみんなを奪うようだった。
――彼女は何をしていたのだろう。
いや――僕には分かる。映像が途中でとびとびになっていたから詳しくは分からないが彼女は時間を繰り返していたんだ。
瞳が光った。あれは間違いなく眼を使った特殊能力。
おそらく
引っかかるのが彼女の言っていた言葉だ。
『――見つけた。やっと見つけた』
彼女は何かを必死に探して、見つけたのだろう。
あの日の僕と同じようにボロボロになって打ちひしがれていた彼女は泣いていた。
彼女が時間を繰り返す意味は、あの倒れていた男の人を助けるためだったのだろうか。なら、どうしてすぐに能力を使わなかった?
『――待ってて。待っててください』
――違う。
彼女は能力を使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。
――どうして?
答えはすぐに見つかった。簡単だ。彼女が
彼女も僕と同じ
だから、あの時必死に
そして、見つけた。
世界中をかき分けて、やっと探し当てたんだ。
ただ、妙に感じたのは彼女の使っていた
僕の
能力だけを的確に奪ってた。
相手の身体に乗り移る必要はなかった。
僕と同じようで、僕とは違う能力に見えた。
泣いていた彼女を思い出す。
あれから……彼女はどうなってしまったんだろう。
◆ ◆ ◆
部屋からリビングに出てもまだ誰も起きていなかった。
時計の針は午前5時40分をさしていた。
ちょうどいい時間だった。
僕は昨日、
やるべきことは決まっている。
世界中の能力者から能力を奪う。そして、シャーロット彗星の粒子に対するワクチンを完成させる。
早ければ早いほど良い。僕は
全て聞き終えると兄さんは、疑いも、茶化しもせず、ただ真剣に、
『――俺は、俺だけは忘れないよ。ここに世界最高の弟がいた事を』
ごめんな、
僕も忘れないよ。
世界最高の兄がここにいた事を。絶対に。
僕は早々に学校に行く準備をして、
気持ちよさそうにのびのびと
寝てるところ、ごめんな
たまご型のかわいいおでこをなでた。僕は目を閉じて、能力を発動させた。体内に眠っている崩壊の能力を目覚めさせる。
「
僕の瞳が黄金色に輝いた。
◆ ◆ ◆
早めに登校して、自分の教室の席に座っていた。
みんなから能力を奪っていくのは昼休みからにすることにした。あまり、騒ぎを大きくはしたくない。この時点でまだ捕まっていないから大丈夫だとは思うが念の為だ。どこから、連中が見ているか分からないからな。
何気もなく学校の一ページがはじまる。一時間目、二時間目……意外なことだけど、本当に一瞬で時間が過ぎていく感じがした。
ぼんやりと陽野森高校にいたであろう
同級生には
きっと楽しい日々になっただろう。
特殊能力も、汚い大人も、何もなくて、ありふれた青春をおくれただろう。
ここにいると、そんな当たり前を望んでしまう。
――昼休みになった。
僕は席を立つ。
「
はじめは
能力に関しての記憶を消してしまえば簡単だったが、それは卑怯だと思った。
僕は一人の人間として
「……そうですか」
聞き終えると
「
「仕方がないことなんだ」
もう、覚悟は決まっている。
「どうしてもそれは
「……ありがとう
もう、これはどうしようもないことなんだって気づいている。
最善策は最初からなかった。
それでも、僕をどうしても止めようとしてくれている。僕が動かないと自分が危なくなるかもしれないのに、
やり直せば僕は楽になるかもしれない。だけど、それは何の解決にもならない。状況は悪くなる一方で終わりは必ずやってくる。もうこれ以上やり直したくない、もう誰も殺させはしない。
「……
「
それが僕なりの答えだった。
前の世界で僕は一度記憶をなくしかけた。
だけど、
僕のことを待っていてくれたんだ。
今度は僕が覚えておく番だ。
「だから、それだけでいいんだ。僕が望んだことなんだよ
「そうですか……そうなんですか……」
「正直、納得は……出来そうにありません。……私も
「……ああ、いくぞ」
僕は
◆ ◆ ◆
あの後、
思えば日本ではあまり能力者に出会わなかった。その時は星ノ海学園が存在していたわけだから、生徒会のメンバーが能力者を集めていたわけだから当たり前か。
あと、一人。
探知の特殊能力で僕はこの学校最後の能力者の場所を突き止める。
――二階の渡り廊下にいる。
「
「了解しましたっ!」
僕と
星ノ海学園でもよくある光景だったなと、僕は思い出す。
思い出してると
「あっあなたは昨日の変質者……」
「よっよう……」
どうしたものか僕は考える。
「な、なあ、
「はぁ?」
再び
「……い、言いたいことは分かる。僕はお前と握手したいんだ。た、頼むよ」
力ずくで触れることも出来ただろうが、それはどうしてもはばかられた。
「あ、握手くらい、いいじゃないですか~! 欧米では当たり前のコミュニケーションですよっ!」
しかし――
「いや、しりませんよ。ここ日本ですし」
バッサリと切り捨てられる。
そうだよな……
「な、ならこうしよう」僕は説得をはじめる。「僕と握手してくれたら、『ZHIEND』のライブチケットをおごってやるよ」
握手でライブチケットという、めちゃくちゃ怪しい逆に警戒されかれないヤケクソな提案だが、まあ現実問題としてチケット代くらいならなんとかなるだろう。
「『ZHIEND』ですか?」
ピクリと明らかに反応が変わるのがわかる。
「そう、『ZHIEND』だ。
「………………」
そこで
一瞬、怒らせてしまったのかと思ったけど、そうじゃなかった。引かれたわけでもない。むしろ、緊張の糸がほつれたような親しみを持った目で僕を見る。
「……確かに私は『ZHIEND』が好きですが、どうやって、『ZHIEND』のライブチケットを手に入れるんですか?」
「それはだな……普通はインターネットとかで予約するんだろ」
前に行った時は、
「インターネットじゃ手に入りませんよ?」
「あっそうか、それなりに人気のバンドだから、もしかしたら抽選とかになるかもしれないが」
でも、それならどうやってチケットを手に入れるんだ?
「ん~、やっぱりあなた変な人なんですか?」
半笑いになりながら、
「『ZHIEND』は、私の兄がやってる小さなバンドです」
――えっ?
「そんなはずは……」
「嘘じゃないですよ。休みの日にライブハウスにいけば、いつでも聞けます」
『ZHIEND』が小さいバンドだって……おかしい? いや、ありえる。正確にはこの世界の『ZHIEND』が有名じゃないんだ。
星ノ海学園がまるごとなくなってるんだ。何が起きていてもおかしくはない。
それより驚くべきところは――
「じゃあ、ボーカルはサラシェーンなのか?」
「そうですね。兄さんとサラさんでツインボーカルです」
――やっぱり。
僕の頭のなかに、
――だけど、奇蹟が起きた。
「……そっか。僕も『ZHIEND』が好きなんだ」
きっと
世界が違っても、音楽に熱中して、一緒に曲を作った仲だった。その消えない何かに影響されたんだ。
「本当に変な人ですね……。いいですよ。何を企んでいるかしりませんが握手くらいしてあげます」
パッと
「いいのか?」
「いいも何もポストロックがわかる人に悪い人はいませんから」
そう言って、
「……ああ、そうだな」
僕はゆっくりと手を握り返す。
そして、特殊能力を発動させた。
――おかしい。
すぐに異変に気づいた。
キャリアですらない。
――奥だ。
「
しっている声だった。
奥から現れたのは――
――