世界中の能力者から能力を奪って帰ってきた
入院当初に見られた記憶の混濁も無事解消し、退院祝いに生徒会のメンバーでバーベキューに行くことになったのだが、事態は一変する。
しかし、
自分の知っている過去との食い違いに
――当たり前か。
僕は帰路について、さっき
『――もし僕が未来から
『――そんなこと信じられるわけがないでしょ』
そうバッサリ切り捨てられたのだった。
「………………」
仕方がないよな。だって
へこんでいる場合じゃない。こんなことは
とにかく情報を集めるんだ。僕はスマホを取り出して、検索アプリを起動させた。キーワード『星ノ海学園』で検索をかける。
――やっぱり、ヒットしない。星ノ海学園の存在がなかったことになっている。
仕方がない。一度、家に戻ろう。家に戻ればアルバムやらで、自分の書き換わった過去について少しはわかるかもしれない。それに
――いや、待てよ。
僕はようやく、ことの深刻さを再認識した。
背中に脂汗をかくのを感じる。
星ノ海学園が存在しない。
それはまたもう一度学園をやり直さなければならないということだ。
それならまだいいのかもしれない。
僕の視力は落ちている。
デメリットも発動している。
過去に僕が
僕の能力は、その場だけなんだ。
星ノ海学園が存在しない――だから、もし。
家に戻って
もしそうなってしまえば、星ノ海学園の再建そのものが困難になってしまう。前の世界の
できるのか? この僕に?
「………………」
足が段々と重くなるのを感じる。
家に帰りたくない。
歩いてるだけで息が荒くなる。
歩行のやり方を忘れたように、不自然な歩き方になる。
……いや、でも、きっと大丈夫なはずだ。
もし
大丈夫。大丈夫だ。落ち着け。
自分に言い聞かせる。
大丈夫、きっと
――でも、じゃあなんで、
世界が書き換わっている。歯車が狂っているのだ。
ここは僕がしらない世界だ。何が起こっていてもおかしくない。
「
また聞き慣れた声が耳に入った。
男の声だ。
顔を上げると目の前に
「ずいぶんと悩んでいらっしゃるようでしたが、どうかなされたんですか?」
心配そうに
そうか。
「た、
「覚えているも何も僕たちは友達ではありませんかっ!」
そう言って
目の前の男子生徒は確かに
「なあ
「な、なないきなり何を言い出すんですか!?」
我ながら、思い切った質問をしてしまったな……。
だけど――プラスに働いた。
(ど、どうして誰にも言ってないのに、
あたってしまったのだ。
僕は、この世界で初めて能力者に出会った。
え? 本当に?
「た、
「えぇぇぇ~~! ち、ち、違います!」
そう言って
何がしたいんだ
僕も特殊能力で
――空中浮遊。
「逃がすかぁ――っ!」
「うわあぁぁぁぁ! 追ってこないでくだ――さいっ!!」
高速で追いかけてくる僕を見て
……しまったな。怖がらせてどうする。おそらく今の
でも、やってしまっことは仕方がない。
「待てっ!
「ひいいいいぃぃぃぃぃっ!」
まったくダメだ。
聞こえていない。
仕方なく僕は
「うわあああぁぁぁぁぁっ!」
パニックに
そのまま、勢い余って僕たちは河川敷沿いの川に落ちた。
◆ ◆ ◆
「……落ち着いたか、
河川敷の手頃な石の上に僕たちは腰を落ち着けた。
……なんか最近、濡れてばかりだ。水難が出ているのかもしれない。ポケットに溜まった水を
「
「僕は未来から
「なっ――タイム……えぇ!?」
一瞬言い淀んだが、僕は正直に打ち明けることにした。ここまで、言ってしまったのだ。もう言うしかないだろう。僕だって、どうしたらいいのかわからないのだ。
「信じられないかもしれないけど、特殊能力は存在する」
「それは他でもない
「この特殊能力は思春期の少年少女の一部に発症する病気のようなものなんだ」
「能力者を科学の研究と称して、悪用しようとしている連中がいる」
「僕は――いや、僕たちはそいつらから能力者を守っている」
「未来で僕たちは一度、特殊能力者たちを守ることに成功した」
「でも、それはあまりにも理不尽で、僕たちはたくさん傷ついた」
「大多数のために少数が犠牲になった」
「それが正しいのかもしれない。でも、僕にはどうしても納得できなかった」
「もう一度やり直せるなら、やり直して、みんなを救いたいと思った」
「だから、僕はここにいる。やり直して、今ここにいるんだ」
「だけど、この世界は僕がしっている過去とは記憶に
「協力してほしい。
僕は自分でも整理する意味合いを
話している途中、
終わるとスッと顔を上げて口を開いた。
「驚きました……
「信じてくれるのか?」
「むしろ、信じないわけがありません。事実として私には特殊能力があるし、
真剣な表情で
「……そうか、ありがとう
僕はあっさりと信じてくれたことを信じられず、少し黙ってしまった。
自分のことをしっている人間が一人いるだけで不安が紛れる。
「いえ、私こそ安心しました。能力について何もわからなくて不安だったんです。私のこの能力が発症したのは小学校高学年の時でした。
「……いや、そうじゃない。さっきも言った通り、僕は
「ええっ! そうだったんですか!」
「さっき記憶に
「難しいな。僕が過ごしていた前の世界の過去と起こっている出来事が違っていると言えば伝わるか?」
「な、なるほど。それは不思議な話ですね……」
普段は馬鹿っぽい
「そうだ。本当によくわからないんだ。少なくともここは僕が覚えている過去じゃない。もしかしたら何かが原因で過去が書き換わっているのかもしれない」
「それは変ですね。その
言われて再認識する。確かにおかしな話だ。
「……わからない。でも、可能性はある」
なんだろう。
何か――何か、重要なことを見落としてる気がする。
『――見落としてはいませんよ。あなたが忘れているだけです』
「誰だッ!」
また、あの声だ。
どこかで聞いたことがある女性の声。
僕が周りをキョロキョロしていると、
「お、
「
「……声? 声ですか?」
「何も聞こえませんでしたよ」
聞こえてないらしい。
僕だけにしか聞こえなかったのか?
「そうか……聞こえてないならいいんだ。すまん……変なこと言って」
また――幻聴なのか?
やばいな、本格的に頭がおかしくなってきたのかもしれない。
「……
本当に心配そうに
「いや、大丈夫だ。それより、話を聞かせてくれ」
立ち止まってる場合じゃない。
頭がおかしくなっても、僕は未来を変えなくちゃならないんだ。
「わかりました。私がしっていることでしたら、なんでもお話します。具体的に言ってくださったら、すぐにでも」
「そうだな……
我ながら変な質問だと思う。だけど、まずは自分自身の立ち位置を理解する必要がある。
「わかりました。私がしっている範囲で
「
「私から
「そのとき、
「その視線を私は辿りました。そこで
「入学テストの順位表がはりだされていたんです」
一位
二位
三位
四位
五位
「
「僕の成績が二位?」
どういうことだろう。
この世界で僕は既に5秒間他人に乗り移れる能力『
「はい、残念ながら
「残念ながらって……二位でも十分すごいじゃないか」
「まあ、普通ならそうなんでしょうけど、
「……ちょっと待て、中学校の頃から一位?」
「はい、というか私は中等部から陽野森校の入ったのですが、小学校の頃からそうだったと聞いていますよ」
「小学校からずっと学年一位?」
「ええ、とんでもない神童だと
嘘だ……そんなはずは……。
小学校の時からずっとだって?
仮に特殊能力に目覚めていたとしても、小学生に他人に乗り移ってカンニングなんて思いつくか?
「そんなわけないだろう……僕はカンニング魔で……勉強なんて、まともに……」
言って、僕は考える。
前の世界で僕が
勉強は嫌いじゃなかった。だけど、小学校低学年から高学年……中学生につれてだんだんと難しくなって――
小学校低学年――
――あれ?
そうだ。僕は勉強が嫌いじゃなかったはずだ。
だって、わからないところは
なんで?
なんで
――だって――兄弟だから。
そうだ。
わからないところは
――でも、僕は勉強が苦手だ。
だから、特殊能力を使ってカンニングするようになった。
「嘘だろ……なんてことだ……」
そこが分岐だったんだ。
そこが僕の人生の岐路だった。
この世界の
「……ここがどこかわかったよ。
ここは