優雅は運命を知ってしまったそうです   作:風剣

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「皆、知ってるか?GOで英雄王と相性の良い概念礼装、『優雅たれ』らしいぞ……」
「何て皮肉の効いた組み合わせなんだ……!」

愉悦がはかどる件について。


英霊召喚

 

「さて、そろそろ時間だ。そろそろ、御布子市に行かないとね」

 

「っ……」

 

 穏やかな口調でそう言った迎えの青年の言葉に、幼い少女はそっと瞳を曇らせた。それに気が付いたのか、幹也と名乗った青年は淡い笑みを浮かべて少女と目を合わせる。

 

「寂しいのかい?」

 

「私、は……」

 

「解かるよ。君ほどの幼い子は、本来なら家族と一緒にいるべきだ。大好きな家族と離れて、見知らぬ土地、見知らぬ家で暮らすようにと言われるのは本当に酷な事だと思う。―――でも、会えなくなる訳じゃない。一月に一回はまた一緒に過ごすことができるし、場合によってはもっと高い頻度で会える筈だ。橙子さんが言っていたけれど、君の指導の進捗によっては六年で冬木(ここ)に帰すことができるかも知れないらしい」

 

「そう、なんですか……?」

 

「うん。勿論それにも、苦しいことや危険なことはいっぱいあるだろうけれど……そんな時は、僕等が全力を尽くしてサポートするよ。その点に関しては誓ったって良い」

 

「……」

 

「まぁ、僕はそっち(・・・)の方面に関してはてんで駄目なんだけどね」

 

 おちゃらけるように言っては肩を竦めた青年の言葉に、顔を合わせてからずっと表情を曇らせていた桜はくすっ、と口元を綻ばせた。

 

「―――あぁ、良かった」

 

「……え?」

 

「会ってからずっと暗い顔だったからね。正直ヒヤヒヤしてたんだ。駄目だよ? 折角可愛いんだから、しっかり笑わないと損だ」

 

 

 式―――僕の妻なんだけど、彼女もそうだ。本当に綺麗なのに、いつも怖い顔になってむっつりしてる……いや、本当は可愛くて優しいんだよ? ただちょっと気難しいだけだから、あまり怖がらないであげてね。

 

 

 話題にされている女性に聞かれていたらそのままばっさりと斬られてしまいそうな発言をする青年の言動に、頬を染めてはくすくすと笑う。最初はあれだけ警戒していた筈なのに、桜はいつのまにか体の緊張が解けかけているのを感じていた。

 

 何とか、やっていけそうな気がした。

 

 

「―――桜!」

 

 

 門の前で二人が言葉を交わしていると、屋敷から少女が飛び出してくる。

 

「お姉ちゃん……」

 

「こ……これ!」

 

 駆け寄って来た姉の姿に目を見開いていると、凛があるものを差し出してくる。その手の中に握られていたのは、少女が愛用していた赤いリボンだった。

 

「これって……」

 

「私が、赤が好きなの知っているでしょう? だから……あげる! これが、あればっ、寂しくないから……!!」

 

「お姉、ちゃん」

 

 自分の顔を真っ直ぐに見つめる姉の言葉に。

 

 桜は服の袖で目に浮かんだ涙を拭い、小さく頷いた。

 

 凜もまたその瞳を潤ませながらも、妹の行く末を祝福するかのように親指を立てる。

 

 その傍では青年が、離れた場所からは時臣が、葵が穏やかな笑みを浮かべて見守る中―――二人の少女は、(しか)と抱擁を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――面倒なことになった」

 

 魔術師の元に向かう少女を見送った数分後。時臣に突如呼び出された綺礼が魔術工房に足を踏み入れると、苦り切った声がその場に響く。ここのところ見られることのなかった焦燥に満ちた声色に、僧衣を纏う代行者は訝しげに目を細めた。

 

「どうかなされたのですか? 聖杯戦争に向けての準備は滞りなく進んでいる筈ですが……」

 

 返事はなかった。

 

 代わりに時臣が見せたのは複数の書類。

 

「念の為時計塔に潜り込ませた間謀に、マスター達についての情報を集めてもらっていてね。だが……いや、見てくれれば分かる。恐らくは君も知っている者だろう」

 

「……?」

 

 恐らくは自作の―――一度己の運命を観測してもファクシミリの利便性には気付いていないらしい―――礼装を介して作成したのだろう報告書に目を通していると、やがてある部分に気付いた綺礼は大きく目を見開いた。

 

「これは……!?」

 

「私の観測した未来に存在しなかった、七人目(・・・)だ。平行世界というものの恐ろしさを垣間見たよ……まぁ不幸中の幸いにも、マスター同士での力関係で言うなら君や私に優位性がある。先読みの通用しない彼の陣営は確かに脅威だが、決して対応できないものではないだろう」

 

 寧ろ自分に言い聞かせるようにそう言った彼は、最大の不確定要素に関して纏められた報告書を忌々しげに見やる。

 

「死徒、オーウェン・トワイライト……よりにもよって、彼と来たか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーウェン・トワイライト……危険だな」

 

 そして。

 

 厳しい自然に閉ざされたアインツベルン城の内部で、奇しくも時臣と類似した内容の呟きを漏らした一人の男がいた。

 

 魔術師殺し、衛宮切詞。

 

 積み重ねられた歴史を彷彿とさせられる古城に似つかわしくない近代技術の塊(パソコン)を前に、先程代行者の男について下した者と同等……いやそれ以上の重みをもって放たれた言葉。傍らに立つアイリスフィールは、その言葉に込められた意味を察して紅い瞳を揺らした。

 

「危険……さっきの、言峰綺礼よりも?」

 

「あれとは別の意味で、ね。この男に関しては、最早打つ手立てがないに等しい。僕が暗殺者として立ち回る以上正面からかち合うことはまずないだろうが、一対一の戦闘にもちこまれれば絶望的だ。それこそ令呪を使ってサーヴァントをぶつけるか、逃走するか―――彼ほどの死徒にもなると、それこそ遠坂にロード・エルメロイ、言峰綺礼くらいしか彼を倒せるマスターはいないだろうね」

 

 死徒。

 

 またの名を吸血鬼と呼ばれる彼等は、その全てが人類に対する天敵として機能する人類史の否定者である。その中でも時計塔に籍を置いた(・・・・・・・・・)彼が聖杯戦争を知り挑んだのは決して想像できないことではなかったが……銃弾を目で見て避けるような連中と、近代兵器を扱う切嗣の相性はどこまでも悪い。魔術を扱う以上彼の『切り札』を当てれば手傷は負わせられるだろうが……強力な蘇生能力を持つ死徒には効果は薄いだろう。

 

「……っ」

 

 束の間かつて見た悪夢(・・)を思い出し、その目を眇める。島一つを壊滅させた、させてしまった、かつての初恋の少女。生きた鶏を貪り、己の身体を喰らってまで吸血衝動に抗い、血涙を流して殺してと乞うた彼女を自分は殺せず、結果として自分以外の島民は皆殺しにされた。

 

 死徒は、吸血時に己の血を『送り込んだ』相手をグールとして使役することができる。今回の聖杯戦争でも、下手をすれば平和な地方都市が丸ごと死者の町(ゴーストタウン)と化すことになるだろう。

 

 あの島のような悲劇だけは、何としても食い止めなければならない。

 

 

 いざとなれば―――英霊の宝具で、街ごと消し飛ばすか。

 

 

「……」

 

 そんな考えをすぐに思い浮かべてしまう自分の性質に内心絶望しながらも、彼は止まらない。立ち止まってしまえば、これまで殺してきた者達の死が全て無駄になってしまうからだ。

 

 冬木で流れる血を、世界で最後の流血にして見せる。

 

 覚悟を固め、彼は静かに戦略を組み立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり警戒するべきは吸血行為によるグールの使役だろうが……伝え聞く彼の性質からして、()れについて案ずる必要はまずないだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。だが、幾らそれでも限界まで追い詰められた時までは保証できない。璃正神父ともそれの対策についてはしっかりと話し合う必要があるな」

 

「えぇ。死徒の繁殖能力には油断できぬものがあります」

 

「それと……今召喚されているのは、君のアサシンだけかね?」

 

「えぇ。冬木各地での諜報活動の他、教会には常に一人を付けていますが、霊器盤が反応を示したとの報告は今のところございません」

 

「ふむ……オーウェン・トワイライトがキャスタークラスを召喚するのならばまだ良いのだが……今の内にこちらも英霊召喚を済ませておこう。今夜中に儀式を決行する」

 

「了解致しました。……話では、触媒なしでの召喚をされるとのことでしたが」

 

「あぁ、英雄王などを呼び出してしまえばどうなるか想像もつかないからな。征服王や騎士王の宝具を真正面から打ち破ることのできる彼を運用できないのは正直痛いが……背に腹は代えられない。何、『彼』もまた規格外の英霊が集った戦いで生き残ることのできる猛者だ、この戦いでもそうそう後れを取ることはないだろう」

 

「第五次聖杯戦争で凛が召喚したという、アーチャーのサーヴァント……エミヤ、シロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 豊富な霊脈を多数抱える冬木市、その大半は時臣によって押さえられており、一般人や魔術師に貸し出されることで彼の重要な財源となっているのだが―――そんな彼の管理から外れた土地の一つに、双子館と呼ばれる豪邸があった。

 

 六〇年前行われた第三次聖杯戦争―――それに参加し、そして敗れ去ったエーデルフェルトの姉妹が拠点として用意した館。三度目の戦いが終結し所有者がいなくなってからは魔術協会によって管理されていたそれは―――今、新たな主を迎え入れていた。

 

 彼の名は―――オーウェン・トワイライト。

 

「…………まぁこんなものかな。我ながらお粗末な出来だけど、首尾よく召喚ができればすぐにでも最上位の『神殿』を作ってもらうんだ、儀式が終わるまでもつ程度で十分だろう」

 

 色素の抜けた灰色の髪、吸血鬼らしさを彷彿させるような紅い紅い瞳。身に纏う漆黒のコートは年月を感じさせる古びれたものだったが、それの放つ異質な雰囲気は工房と化した屋敷の中でも群を抜いていた。

 

 工房の点検を終えた青年は水銀で描いた魔法陣を見やり、敷設した祭壇に目当ての英霊を呼び出すための聖遺物―――かつてその魔術師が魔導書を執筆する際に使ったとされる羽ペンを設置する。予備に用意していた黄金劇場の扉の破片(・・・・・・・・・)を離れた場所に置き―――右腕に刻まれた令呪を見つめ、息を吐く。

 

「……始めるか」

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 溶解させた宝石で陣を描いた時臣は、手の中に握った宝石―――歴代の当主達によって代々受け継がれてきたペンダントを祭壇に置く。これで準備は完了した。

 

 ―――既にイレギュラーが存在する以上、どこまで自分達の知識を活用できるかは全くの未知数。召喚に成功すれば開戦までには第二魔法(・・・・)を実戦で扱えるようになるだろうが……それでも勝利を確信できないのが、聖杯戦争だ。

 

 だが―――それでも彼は、一歩も引くことはない。

 

「―――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ―――」

 

 

 

 

「―――降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 詠唱を紡ぐオーウェンの前で、水銀によって描かれた魔法陣が輝きを放つ。

 

 呼び出すは『アーサー王伝説』においてブリテンの騎士王を導いた大魔術師。恐らくはありとあらゆる英霊の中でも最上位の知名度を持つだろう存在をキャスターとして召喚し、聖杯戦争に臨む。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 

 

 

 

 ―――儀式は為された。異なる地でほぼ同時に行われた詠唱の完結と共に魔力が迸り、令呪を宿したマスターの元に英霊達が呼び出される。

 

「……」

 

 会心の手応えに時臣は静かに笑みを浮かべ。

 

 

 

「……」

 

 明らかに己の呼び出そうとしていた者とは違う英霊に、青年は苦々しい思いを噛みしめた。

 

「ふむ。まさか最弱の英霊(キャスター)のクラスで呼び出されるとは思わなかったが―――まぁ納得といえば納得だな!弱き身でありながら三騎士等の強者達を打ち倒すのもまた一興だ!」

 

 

 

 時臣の前には紅い外套を身に纏う騎士が。

 

 オーウェンの前には、紅いドレスを着こなす少女が。

 

 今この瞬間、二柱の紅き英霊達が顕現する。

 

 

 

「―――問おう」

 

 アーチャーはその鷹のような目で時臣を見やり。

 

 

 

 キャスターは人懐こい笑みを浮かべ、目の前の青年を見つめた。

 

「お主が―――余の奏者(マスター)か?」

 

 




そんな訳で赤王でした。仕方ないね、お目当ての魔術師様はヒッキーだからねww
え、何で彼女を出したのかって? 意外性を求めるのなら皇帝特権(チートスキル)とか大魔術の宝具、後は自称芸術家である彼女が丁度良かったのと……新作のアニメやゲームで彼女が活躍するからね!マジで楽しみにしてます!

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