BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい 作:白白明け
投稿期間が開いてしまい申し訳ありません(__)
これからもノロノロと更新をしていきたいと思います。
皆様の暇つぶしになれば幸いです(__)
「風鈴。剣術の極致とはどういうものだと思いますか?」
それは剣術の鍛錬の合間に卯ノ花烈が風鈴に問いかけた言葉だった。
剣の師でもある実の母親からの問いかけに風鈴はいまさら何を聞いてくるのだろうかという疑問を抱きながらもはきはきした態度で答える。
「答えなど私の目の前にいるではありませんか。母上!貴女の剣こそが極致に他ならないでしょう!」
白兵戦において尸魂界最強と呼ばれる剣術家。卯ノ花烈の振るう剣は理外の理。数多の流派を手中に収めた“八千流の剣”。
万象切り裂く一太刀こそが剣術の極致だとそう信じて疑わない娘に対して卯ノ花烈は少しだけ微笑むが、直ぐに小さく首を横に振る。
「いいえ。それは違います。風鈴。万象切り裂くことなど言ってしまえば刀さえよければ幼子でも出来ることなのですよ」
「むぅ、それは屁理屈だぞ。確かに“なんでも斬れる刀”があれば誰でもなんでも斬れるだろうけれど、そんなものはないだろう」
「いいえ。存在します」
「………マジ?」
「てい」
「いたっ!?」
卯ノ花烈の言葉に驚いた風鈴が思わず砕けた言葉で返事をしたところで、頭に手刀が飛んできた。
母親として娘の言葉の乱れを躾けながら卯ノ花烈は言葉を続ける。
「
最強の死神ですら両断してみせる刀。その存在を教えながら、卯ノ花烈は問いかける。
「万物両断が剣術の極致だというのなら、その刀を手に入れたら誰であれ極致に至るということになります。風鈴。貴方はそれをどう思いますか?」
その問いかけに風鈴は渋い顔をしながら答えた。
「それは、なんというか、ズルだと思う」
渋い顔を浮かべる娘を卯ノ花烈はクスクスと笑う。
「貴方は素直ですね。ええ、貴方の言う通り。母もそれはズルいと思います。戦いにおいて良質な武器を用意することは策ですが、そんな小細工で極致などと言われては流石の私も笑ってしまうでしょう」
そう笑いながら卯ノ花烈は剣を構えた。鍛錬の小休止の小話は途中で終わりかと首を傾げながらも自分に合わせる形で剣を構えなおした風鈴に卯ノ花烈は伝えたかった答えを伝える。
「そもそも多くの者が勘違いをしているのです。万物両断の理。
死地に立ちながら死なぬこと。剣を振るい誰かを斬りながら自身は斬られず死なぬこと。
それこそが剣術の極致だと語った母親の姿を思い出しながら、風鈴は迫りくる白刃を目で追った。
繰り出されたのはあまりに単純な横凪の一閃だ。速度はある。当たれば両断されるだけの膂力が込められている。しかし、それだけだ。そこに技術はない。ならば、避けることは簡単だ。
だというのに風鈴の身体から鮮血が舞う。
斬られたというには浅すぎる傷。しかし、避けられたはずの斬撃が風鈴の肉体を掠めたという事実が目の前の男の力量が母親と同じく理外の外にあることを実感させた。
「ようやく当たったと思ったが、浅いか」
振るった刀を肩に担ぎながらそんなことを愉しそうに言うのは更木剣八。
残心も何もないその姿に風鈴の意識は母親との回想の中から引っ張り出される。
肌に感じる痛みで意識を覚醒させながら風鈴は負けじと笑ってみせた。
「いやはや流石は戦闘部隊と名高い十一番隊の隊長です。避けたはずの剣に当たるとは、いったいどういう理屈ですか?」
「あ?手前が俺の剣の間合いを読んで避けてんなら、間合いを広げればいいだけじゃねぇか」
振るう剣の間合いを広げるなんて言う流派によっては奥義に発展するだろう技術を事もなさげに語る更木剣八の言葉に風鈴は目の前の相手が規格外であることを実感する。
当然と言えば当然のことだろう。更木剣八は敬愛する母から“剣八”の名を受け継いだ死神。
卯ノ花烈が治療専門部隊である四番隊の隊長になり前線を退いた後の現役最強の白兵戦最強は間違いなく更木剣八であると風鈴は聞いていた。その言葉に嘘はなかった。
しかし、振るう剣は
「疑問は晴れたか?じゃあ、続きと行こうぜぇエエエ‼」
踏み込みは荒い。しかし、獣の様にしなやか筋力が距離を埋める。振るう剣は何処の流派のものともいえない荒々しさしかない。しかし、それこそが我流。更木剣八が戦場で生み出した彼だけの剣術。
その剣を見ながら風鈴は卯ノ花烈の剣も更木剣八の剣も行き着く先は同じだと理解する。
すなわち死地に立ちながら死なぬ剣。常勝不敗という剣術の極致。
“剣八”とは何度斬られても倒れないという意味を持つ。
―――やはり、早かった。
更木剣八に挑むには今の風鈴ではまだ早かった。そんな分かっていたことを確信に変えながら、それでも何とか更木剣八の剣劇に追いすがり食らいついていた風鈴だったが、終わりの時間が訪れる。
片手で振るわれた上段からの振り下ろしを両手での横凪で振り払う。返す刃で放った胴への逆凪は空いていたもう片方の腕で刃を掴まれ阻まれる。片腕の手の平から肘にかけて半ばまで切り裂かれながら、それでも微塵も動じない更木剣八の振り下ろした剣を振り上げる形での斬撃を風鈴には防ぐ術がない。
鮮血が盛大に舞った。
斬られ大の字で倒れる風鈴は半ば赤く染まった視界で空を見上げながら呟いた。
「むぅ、私の負けか。敗因は、うん、やはり挑むのが三年ほど早かったな」
倒れた身体の周囲に血だまりを作りながらもそんな軽口を叩く風鈴を見下ろしながら、更木剣八はなかなか楽しめたと笑みを浮かべていた。
そして、二人の戦いを見守っていた草鹿やちるは手を挙げながら宣言する。
「勝者は剣ちゃん!勝負時間15分26秒。決まり手は振り上げ斬り!」
その宣言を聞いて風鈴はワハハと笑う。
その様子を訝し気に見ながら更木剣八は至極まっとうな質問をする。
「手前、負けたのに何で笑ってんだ?」
「いや、なに。確かに貴方との勝負には負けた。だが、私の目的は果たせた。これが俗に言う試合には負けたが勝負には勝ったという奴だな!」
「ああ?なに言って―――
「貴様ら!そこで何をしている‼」
更木剣八の言葉を遮るように怒声が飛んできた。
怒声のした方を見れば瀞霊廷の建物の屋根の上で数人の部下を従えて立つ小柄な女性の姿があった。
その羽織には二番隊の文字。
二番隊隊長砕蜂が怒気と殺気を撒き散らしながら、風鈴と更木剣八の間に割って入る。
そして、地面に倒れる風鈴の身体から零れる血だまりを見て、一瞬だけ表情を硬直させながらすぐさま部下に指示を飛ばす。
「っ!?おい!お前たちはコイツを直ぐに四番隊隊舎に運べ!」
「「「はっ」」」
慌てた様子の砕蜂に風鈴はカラカラと笑いかけた。
「ははは、砕蜂母様。そう慌てなくても大丈夫だぞ。これくらいの傷。私は自分で歩いて母上の所まで行ける。よっと…むぅ、起き上がれない。下半身に力が入りにくいな」
「馬鹿!やめろ!そんな状態で動こうとするな!いいからお前は私の部下に大人しく運ばれろ‼」
「しかし、これは私が自分で負った傷と言っていい。なのに砕蜂母様の部下たちの手を煩わせるのはよくないことだぞ」
「いいからお前は私の言うことを聞け!」
「むぅ」
そう言って渋々と言った形で風鈴が四番隊隊舎まで運ばれて行った後、その場に残された更木剣八に対して砕蜂は殺意のこもった視線を向けながら言う。
「更木、貴様、何故風鈴を斬った。貴様には風鈴とは戦うなという御達しが総隊長殿から出ていた筈だ」
「あいつが俺に喧嘩を売った。それを俺が買った。ただそれだけのことだ。爺や手前に文句を言われる筋合いはねぇだろ」
「ほう。随分とふざけた言い分だな。総隊長殿の戦うなということは関わるなということだと貴様の足りない脳では分からないことだったのか?」
「あ?それこそ爺にも指図される謂れはねぇだろ。俺が誰とかかわろうが俺の勝手だ。あまつさえ、あいつは自分から俺に関わってきたんだ」
「チッ、これ以上、貴様と話しても埒が明かないな。もういい。どうあれ瀞霊廷内での隊士同士の殺傷沙汰など総隊長殿が許すはずがない。沙汰はおって下されるだろう。私の剣が抜かれる前に私の視界から消えろ」
もう話すことはないと砕蜂は更木剣八を視界から外す。その態度に半ば呆れながら更木剣八は草鹿やちるを連れてその場から離れていく。
立ち去る更木剣八の背に砕蜂は目を向けることなく吐き捨てるように問いかけた。
「更木、風鈴は始解を使ったか?」
その問いかけに更木剣八は足を止めることなく答えた。
「使ってねぇよ」
そう言って更木剣八と草鹿やちるはその場から立ち去った。
その場に一人残った砕蜂は地面に残された風鈴の血の跡を見ながら目を細める。
「更木相手に始解もせずに戦えば負けるのはわかっていただろうに。風鈴の奴は何を考えているんだ?だいたい何故更木に勝負を挑んだ?…私を母などと呼びながら、あいつは私に理解を許さない。いまだに私は“風守”を理解できないのか?」
悔し気に漏れた言葉は風に消える。
それでもかまわずに砕蜂は言葉を続ける。
「狂気は越えた。私の右手は、確かにお前たちに届いた筈だ。…なのになぜ、お前たちは私に理解を許さないのだ。風守、なぜ貴様は、私を置いて逝った」
それはまるで言葉を風に乗せて誰かに届けようとするかのような、虚しいものだった。
――――
四番隊隊舎の特別
更木剣八との勝負の後、傷の治療の為に四番隊隊舎に担ぎ込まれた風鈴は卯ノ花烈と副隊長である虎徹勇音の両名による緊急治療の後に拘禁牢に放り込まれた。
万全に回復された身体に手枷足枷すらなくただ牢屋に入れられただけの風鈴は暇を持て余しながら鉄格子のはめられた窓から見える小さな青空を眺めていた。
「暇だな」
風鈴が拘禁牢に入れられてから既に三日が過ぎていた。それまでの間に彼女に会いに来たのは彼女の直属の上司である市丸ギンの一人だけ。
市丸ギンは「またやんちゃしたなぁ」とケラケラと笑いながら、瀞霊廷内で私闘を行った風鈴に下された沙汰を伝えてきた。
拘禁牢内での一週間の謹慎処分。
瀞霊廷内での私闘など護廷十三隊隊士にあるまじき行いではあるが、結果的に周囲に被害がなく終わったことと三人の隊長格による風鈴への刑罰軽減への嘆願。そして、更木剣八の言葉によって刑罰が大幅に軽減された。
更木剣八は風鈴との戦いは護廷十三隊隊長の座に就く為の『隊員200名以上の立ち合いのもと現行の隊長を一騎打ちで倒す』戦いの予行演習だったと進言した。
だから責められる謂れわないと言い切った更木剣八のあまりにもな暴論に反発が多くあったが、そこは戦闘専門部隊の異名をとる隊長の言葉。ある種の説得性も僅かながらに感じさせるものだった。
結果として更木剣八の言葉に助けられながら風鈴の処分は一週間の謹慎となり、また更木剣八への処分も自分と同じものになったと市丸ギンから聞いた風鈴は仕事をやり切ったと解放感を感じながらその謹慎を受けていた。
更木剣八との戦いで風鈴は銀城空吾から頼まれた役目を終えた。
銀城空吾討伐の為に現世に派遣される予定だった隊長は四人。
特派遠征部隊隊長‐天貝繡助。
護廷十三隊六番隊隊長‐朽木白哉。
護廷十三隊十番隊隊長‐日番谷冬獅郎。
護廷十三隊十一番隊隊長‐更木剣八。
しかし、更木剣八が自分との戦いで謹慎処分となったことにより現世に向かう隊長の席が一つ空いた。そこに銀城空吾が復讐を果たしたいと願う相手である浮竹十四郎が入ると風鈴は信じている。なぜなら自分に甘々な
現世に向かう隊長たちの中で遠征専門部隊の隊長という立場上、中心になり動くであろう天貝繡助ならきっと浮竹十四郎を空いた席に推薦することは難しくないという風鈴の考えは的を射ていて既に新たに浮竹十四郎を組み込んだ遠征部隊が銀城空吾捕縛の為に現世に向かっていた。
それを知ることはないが天貝繡助を信じている風鈴は、気楽に青空を見ながら思いを馳せる。
「さて、私の退屈と引き換えに得た復讐の機会を銀城さんは活かせるだろうか。難しいだろうな。たとえ浮竹隊長と一対一の戦いになったとしても、浮竹隊長は強い。勝算は三割と言ったところかな」
助けたいと言った相手の敗北を予想しながら笑みを浮かべる風鈴を誰かが見たのなら、薄情と罵ったに違いない。事実それは薄情と言われても仕方のない行動だ。けれど、風鈴にはそれでもこれ以上の手出しはできない。
護廷十三隊の隊士である風鈴が考える護廷十三隊への裏切りではない銀城空吾への手助けは此処で限度。
「悲しいが、これ以上は無理だ。これ以上は親父殿の愛した護廷十三隊への裏切りになってしまう。それは銀城さんも分かってくれる。うん。その筈だ。あの人はきっとそういう優しい人だ」
私がそう思うのだからそうなのだと自己完結をしながら、風鈴はそうして銀城空吾の繰り広げる復讐の舞台から降りた。
そして、謹慎処分が明けた日に風鈴は天貝繡助から銀城空吾の
風鈴はそれを聞いて空を見上げて微笑んだ。
「私は貴方を救えただろうか。貴方の思い描く貴方の夢は叶ったのだろうか。願わくば私に救えなかった貴方が誰かに救われていますように」