BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい 作:白白明け
皆様の暇つぶしになれば幸いです<(_ _)>
全五十話。完結まで二年もかかるとは…(´・ω・`)
―――朽ちる。…朽ちていく…。俺の救いが…薄れて消える。
”無月”。月を斬った後に残る、月無き世界の黒き闇。漆黒と称されるべきその霊力の奔流は、風守風穴の身体には一切の牙を突き立てることは無かった。代わりに風守風穴の握る斬魄刀『鴻鈞道人』から、刀身の軋む
それは正しい
此処に至り、黒崎一護はその本懐を遂げてみせる。すなわち斬魄刀『鴻鈞道人』と言う悪しきを挫き、風守風穴という弱者を救ってみせる。
―――朽ちる。…朽ちていく…。俺の救いが…薄れて消える。
斬魄刀『鴻鈞道人』の刀身が軋む。山本元柳斎重國の卍解でさえ完全に破壊することの出来なかった最悪の斬魄刀が壊れようとしている。斬魄刀の卍解は壊されればもう二度と元には戻らない。例外はあるが、それが斬魄刀『鴻鈞道人』に適応されることは無い。
―――誰もそれを望まない。
使えば一時の快楽の代わりに人生が壊れてしまう。
故にそれを齎す盲目の仙王は討たれることこそが、王道なのだろう。
それを”俺”が理解していない筈がない。
俺は阿片の有用性と同等に悪性も認めているし理解している。それでも尚、それでも尚と説いたのだ。苦しい現実から逃げることは悪ではない。辛い過去を忘れることは悪ではない。そうすることで幸せな笑顔を浮かべることができるのなら、幸福な夢を描けるのなら、それこそがどれだけ素晴らしい救いとなるのか―――
「---俺は、知っている。この世界には
零れた言葉はただの懇願だ。破壊される斬魄刀『鴻鈞道人』。それに対して俺が出来た最後のことは、ただの懇願だった。俺の言葉を聞いた黒崎一護が漆黒の中で葛藤するのが解った。葛藤というものは基本的に気持ちのよくないもので、其処から悩みや苦しみが生まれる。故にそれは俺が説いた教義に反するモノであるのだが、それを黒崎一護の与えても尚、俺は斬魄刀『鴻鈞道人』が破壊されることを恐れた。
しかし、俺の懇願を黒崎一護が聞き入れるはずも無く―――
「俺はアンタに恨まれても良い。憎まれも良い。それでも俺は、アンタを救うと決めたんだ。誰の為じゃねぇ―――
誰かのために何かをする。それは素晴らしい事だ。けれど、英雄の素質は別にある。
英雄足らんとした時、その者はもう英雄ではない。
―――俺自身の為」
「ああ………誰かのために救うのではない。自分為に助けたいのだと…そういうのか?なんと身勝手で、なんと卑しい、だが―――なんと雄々しい」
―――認めよう。黒崎一護。お前は英雄たり得ると。
俺の心を表すように斬魄刀『鴻鈞道人』の刀身に大きな亀裂が奔る。
ピキリ―――世界が砕ける
―――”尸魂界”に二千年前に生まれた
「認めよう。理解しよう。よく、わかった。―――だが、しかし、
俺が齎す
故に斬魄刀『鴻鈞道人』の破壊など許さない。お前が俺から
それでこそ対等だろう。
そして、何よりも
「ならば、己が真実のみを以て痴れよう。俺の快楽の歌を聞いてくれよ―――
王道など知ったことか。
因果?知らんよ。どうでもいい。
理屈?よせよせ。興が削げる。
人格?関係ないだろうそんなもの。
善悪?それを決めるのは
―――俺には…諦めたくない
”風守風穴”とは
―――そして、俺は信じている。諦めなければユメは必ず叶うのだと‼」
俺は生まれて初めて人間に啖呵を切った。故に
敗北は秒読みだ。ここで一発逆転の策を思いつくような頭脳を残念ながら俺は持ちえない。
心の強さや諦めない心は大切だが、気持ちだけで勝てる程に黒崎一護は弱くない。
その逆転を俺に与えてくれたのは―――小さな黒い石だった。
『
蒲原喜助が作り出し藍染惣右介が完成させた物質。この小さな黒い石について俺が知っていることはそれだけだ。あの藍染惣右介が求め完成させたものであるのだから、きっとすごいものだ位には考えていて、まさかそれをずっと藍染惣右介に持たせている訳にもいかないので先の戦いで意識を奪った後に回収しておいたそれは、まるで俺の気持ちに応える様に反応した。
―――チカラ ガ ホシイカ?
「否―――俺は何時だってそんなモノを欲しいと思ったことは無い」
力強さなど要らない。精強さなど求めない。土台、俺は戦いが嫌いなのだから、戦いを優位に進める要因などというものを本心から欲した事は一度たりともなかった。
俺が求めたことはただ一つ。風守風穴という死神が願った事はたったひとつ。
たったひとつのあたりまえ。
「
―――ヨカロウ ナバラ クレテヤル
『崩玉』のチカラとは周囲にいる者の深層心理を読み取り具現化する力。斬魄刀『鴻鈞道人』の刀身に亀裂が奔り、救いを齎す仙丹の妙薬を生み出す
その為ならば、命もいらないと俺は思った。
瞬間、奇跡は起こる。白い光が周囲を包む。
「なん…だよ……」
黒崎一護の瞳が見開かれるのを見た。眼前で巻き起こる現象に理解が及ばないとでも言いたげなその眼に対して俺は薄ら笑いを浮かべてみせる。
俺からすればこれは当然の帰結。
「諦めなければ願いは叶う。祈りは届く。そして、
「請えよ。待ち望んだ時が来たのだ。
「斬魄刀と一体化できるのが、お前ひとりだけだとでも思っていたのか?」
斬魄刀『鴻鈞道人』の刃に奔っていた亀裂の隙間から桃色の煙が溢れ出す。それは次第に刃を溶かしていき、斬魄刀『鴻鈞道人』から刃が消えていく。斬魄刀『鴻鈞道人』から全ての刃が消えた時、それが斬魄刀『鴻鈞道人』が終わる時だ。
最悪と呼ばれた斬魄刀の消失は同時に阿片というユメの終わりに他ならない。
「無論…させんよ。それだけは…駄目だ」
そう言うと同時に斬魄刀『鴻鈞道人』を握っていない方の俺の腕が煙と成って消失した。
そして、俺の腕から生まれた煙が斬魄刀『鴻鈞道人』へ刻まれた罅割れへと吸い込まれていき、斬魄刀『鴻鈞道人』の刃が再生する。
「なんだよ、それ。風守さん。アンタ一体…何してんだよ?」
「直しているのさ。俺の霊圧を以てして斬魄刀『鴻鈞道人』を直している」
”無月”によって斬魄刀『鴻鈞道人』につけられた傷は大きい。腕一本では到底足りない。
故に次は左肩。右足。右胸。腰の一部と俺の身体は次々に煙へと変わっていき、そして、斬魄刀『鴻鈞道人』は継ぎ足され鍛えられていく。
その光景に黒崎一護が悲鳴を上げた。
「アンタ一体‼何やってんだよ‼」
俺を助ける為だろう。黒崎一護の腕が俺の身体を掴もうと伸びる。
しかし、黒崎一護が掴んだ場所も煙と成って消えていく。
「なっ!?」
「そんな顔をするなよ。これは俺が望んだこと。俺が願い起きた奇跡だ。俺の全霊力、全存在を以てして斬魄刀『鴻鈞道人』は
予兆は既に見えていた。道筋は確かに存在した。手にしたその瞬間から担い手に始解はおろか卍解すら可能にさせる異様な斬魄刀。その事実を逆説的に考えるのなら、始解はおろか卍解すら、斬魄刀『鴻鈞道人』にとっては粗末なチカラと言えるのだろう。
無論、それは暴論であるが一部真実でもあるだろう。現に俺と言う死神を千年以上に渡り蝕み続けた結果として此処に斬魄刀『鴻鈞道人』は完成しようとしている。
「
一度は炎熱地獄に沈んだ
二度目に二百年。三度目に三百年を掛けることに否はない。故にただ負けるだけだというのなら、別によかった。所詮、俺の人生など負けっぱなしの人生だ。屈辱の中で嗤えただろう。
だが、しかし、斬魄刀『鴻鈞道人』が消えたとなるなら、話は別だ。
斬魄刀『鴻鈞道人』が消えたのなら俺の故郷、
「アンタはどうして…どうしてそこまで、その斬魄刀を護ろうとするんだ。いや、斬魄刀と
「ああ…わかっているさ。そんなことは昔から、東仙要に言われる前から、わかっていた。しかし、それでも尚と説いたのだ。微睡に沈む理想郷。苦しみも悲しみも無かった俺の故郷。皆が幸せな夢に閉じて生きる世界。そこは優しい世界だった」
それを間違いだという言葉に反論する言葉は無い。
しかし、そんな世界を求める者がいるのもまた事実。
「負け続けるだけの人生。弱者の悲嘆。弱者の涙。なぁ、黒崎一護。恵まれたお前にはわからんよ。所詮、お前はたった数か月という期間で俺と戦える程の力を持った選ばれた存在なのだから…選ばれず落ちぶれていく
「だから、
「ああ‼そうだ‼逃げ出したいと願う者の声を聞いて何が悪い!そして、侮辱など決してしてはいない。ただ愛しみ愛したいと願うのに…俺はただ皆に幸せになって欲しいだけなのだ。そして、その為に殉じるのだと言っているだけだろう‼」
既に身体の七割が煙と成って消失した。既に半分になった視界の中で俺は黒崎一護の歪み切った表情を見た。それは目の前に居る相手のことを理解できないという顔。
俺がかつて卯ノ花烈に向けた顔にとても良く似ていると思った。
そうだ。それでいい。俺は黒崎一護の事を嫌いではないし、むしろ好いている。
だが、しかし、決定的に交わらない。黒崎一護が
「もはや、お前に語る言葉はない。いや、あるか…ただ一つ、俺はお前に言いたいことがあるよ。黒崎一護」
俺の存在全てが斬魄刀『鴻鈞道人』に呑まれる刹那に沸いたそれは、嫌がらせの様な感情だった。
「お前に俺は…救えなかったなぁ」
「っ!?」
「くく、はは、アハハハハハハハ、アハハハハハハハ‼‼」
まったく。子供じみた感情だと笑いながら、俺と言う存在。
風守風穴という死神は斬魄刀『鴻鈞道人』に呑み込まれて消えた。
そして、担い手を失った一本の斬魄刀が地上へと落ちていく。
風守風穴という死神。史上唯一存在した阿片を克服した男というストッパーを失った阿片を生成する能力を持った最悪と呼ばれた斬魄刀が地上へと落ちていく光景をみて、黒崎一護の顔が蒼白に変わる。
斬魄刀『鴻鈞道人』が生成する桃色の煙に含まれる阿片の毒はあくまでも上澄みに過ぎない。その刃本体にはそれとは比較にならない濃度の阿片の毒が宿っている。刃を一寸埋めればそれでお
そんなモノが地上に突き刺されば、空座町の地は風守風穴がかつて故郷の洞窟が炎熱地獄に沈んだ後に斬魄刀『鴻鈞道人』の刃を突き立て
それを理解したからこそ黒崎一護は斬魄刀『鴻鈞道人』を追う。
しかし、
「くそ…力が…もう」
”無月”。
斬魄刀『鴻鈞道人』を壊しかけた最強の月牙天衝は死神の力と引き換えに放てるたった
すでに黒崎一護の落下していく斬魄刀『鴻鈞道人』を追う力は残されていなかった。
落ちていく斬魄刀『鴻鈞道人』。
落ちてくる斬魄刀『鴻鈞道人』。
それを大勢の者達が地上で目撃した。空座町の地で戦っていた死神と
けれど、動けたかと言えばそうではない。戦いで負った傷。目覚めたばかりで動かぬ頭。
故に動けずにいた彼らに代わり動こうとしたものが二人だけ存在した。
山本元柳斎重國と
コヨーテ・スタークには落ちてくる斬魄刀がどんなモノであるかはわからなかった。風守風穴という死神が持つ斬魄刀『鴻鈞道人』の話は藍染惣右介から聞いていたけれど、それが地上に突き刺さることで起こる悲劇の全てを理解していた訳ではない。
―――けれど、理解できる。アレが地上に降りてくれば、とんでもないことが起こること位は。
飛び出す瞬間のコヨーテ・スタークの視界の端には彼の半身であるリリネット・ジンジャーバックの姿があった。コヨーテ・スタークは彼女が今から起こる最悪の事態に飲まれればただでは済まないことを瞬間的に理解したからこそ、飛び出して行き、そして、後ろから迫る業火に呑まれた。
「なっ…スターク‼テメェ爺!なにしてんだ!」
リリネット・ジンジャーバックの言葉など業火を放った本人である山本元柳斎重國には届きはしない。山本元柳斎重國にはコヨーテ・スタークを攻撃した気などなかった。
ただ斬魄刀『鴻鈞道人』と自分の間にコヨーテ・スタークがいたから、巻き込んだに過ぎない。
故にリリネット・ジンジャーバックの言葉など意に介さず。ただ斬魄刀『鴻鈞道人』の地上への落下を防ぐために動く。
「燃えよ剣『流刃若火』
三里先まで業火に包む一太刀が放たれ斬魄刀『鴻鈞道人』を包んだ。
しかし、それで斬魄刀『鴻鈞道人』が傷一つ負うことはない。なぜなら元来、山本元柳斎重國の卍解ですら破壊できなかった斬魄刀『鴻鈞道人』は風守風穴の存在を呑み込むことでその頑強さに更に磨きをかけている。断言しよう。
最早斬魄刀『鴻鈞道人』を物理的に破壊する方法は無い。
そうして、最悪は災厄となって地上に降りてきた。
地上に一太刀の斬魄刀が突き刺さる光景をみて、”現世”という世界の終わりだと思う者がいた。少なくとも空座町と言う地は終わったと多くの者が思った。
しかし、そうはならなかった。空座町の地に突き刺さった斬魄刀『鴻鈞道人』はその刃に宿した阿片の毒の一切を放出することは無かったのだ。
自分という存在を呑み込み斬魄刀『鴻鈞道人』は完成すると風守風穴は最後にそういっていた。それを知るのは風守風穴という死神の散り様を見届けた黒崎一護だけだったが、その言葉に偽りはなかった。元より嘘を付く頭もないと言われた狂人だ。最後の最後まで風守風穴という死神は真実しか話さなかった。
斬魄刀『鴻鈞道人』。阿片を生み出すことは出来ても操ることが出来ない。担い手の意識が無くなろうと阿片を生成し続け、担い手の意思が無くとも世界を壊しかねないが故に最悪と呼ばれた斬魄刀は最後の最後に完成した。
阿片を操る術を得た。
故に担い手の亡き今は斬魄刀『鴻鈞道人』が阿片を生み出すことはない。
最悪を終えた斬魄刀は死神と破面との戦争の終戦に導く楔となった。
今はまだ斬魄刀『鴻鈞道人』が阿片を生み出すことはない。担い手がいない以上、猛威を振るうことは無い。だがしかし、それを絶対と言い切れる者は誰もいない。
いつ爆発するか分からない核爆弾が目の前にある中で戦争など続けられる筈がない。それが絶対に壊せないと成ればなおさらに、両者は手を引くしかなくなってしまった。
「此処までのようだ。山本元柳斎」
斬魄刀『鴻鈞道人』が地上に突き刺さったことで凍ってしまった空気を砕きながらそう言って地上に降りてきたのは満身創痍の藍染惣右介だった。風守風穴に捕らわれ六車拳西に抱えられていた藍染惣右介だったが、上空で平子真二や六車拳西らが意識を失うと同時に地上へと投げ出され、落下の衝撃で眼を覚まし、そこを雛森桃に救われ此処までやって来ていた。
「…藍染惣右介」
雛森桃に支えられながら立つ藍染惣右介だったが、その眼にはいまだ輝きが失われてはいない。
「よもやその斬魄刀を前にして未だ争う愚を犯す気はないだろう?」
「儂に手負いの敵を前に手を引けと?」
「そうだ。見返りに何時爆発しても可笑しくないその爆弾を私が預かろう」
「笑止。何故儂が貴様の言葉を鵜呑みにせねばならん」
「
「…」
「選択の余地はないよ。そうして突き刺さったソレを触れずに移動できるのは最早、私の”時間操作”に”次元転移”だけなのだからね」
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悪を討つ為に平和を築く為に悪を利用することに躊躇などない。
”護廷”とはそんな生易しいものではない。”平和”とは
その様を見て、英雄を嗤った者がかつて二人いた。
一人目は苦しみ嘆くその果てで誰が幸せになれるというと説いた者であった。
二人目は生と死の境界を消し去り恐怖の無い世界を築こうとした者であった。
その二人を英雄は斬った。
相容れぬが故に一度は斬り捨て、後に分かり合えぬとわかった一人は焼き殺した。
そうして築き上げた”平和”と”秩序”を壊す術を山本元柳斎重國という英雄は持ちえない。
こうして風守風穴という死神の死と黒崎一護という死神の消失を
空座決戦は終わった。
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空座決戦から数年後―――『虚圏』。元ネガル遺跡跡。現”封神台”。
空座決戦で産まれ完成された最悪の斬魄刀『鴻鈞道人』を封じる為に藍染惣右介の手によって築かれた神殿に守人として立つ一人の
その破面の名はウルキオラ・シファー。元
心より憎んだ生みの親も戦うべき敵も失ったウルキオラ・シファーは自ら進んで
以来、ウルキオラ・シファーはこうして砂と岩で作られた何もない神殿でただ一人立ち続けている。訪れる者は皆無に等しい。藍染惣右介ですら”封神台”完成の折りに一度訪れたのみである。
―――それほどまでにあの男が『虚圏』に残した傷は大きい。
『虚圏』で史上初めて帝国を創り上げた伝説の
―――故にこの地に進んで訪れる破面はほぼいない。いるのはあの男が遺した遺産を破壊しようと試みる愚か者がほとんどだ。俺の役目はそんな
ある日、そんなウルキオラ・シファーの元に一人の少女が現れたことはきっと必然だった。
偶に何が楽しいのわからないが雑談をしにやってくるコヨーテ・スタークや封印されていると知りながら阿片は生み出せないのか?としつこく聞いてくるアズギアロ・イーバーン(だいたい封印されていようとなかろうと死神ではないウルキオラ・シファーには斬魄刀を扱う術はない)とは違う霊圧を感じ取り警戒していたウルキオラ・シファーを余所にその少女は鼻歌まじりの軽い足取りでウルキオラ・シファーの前へと現れた。
その少女は―――死神だった。
空座決戦以来、『尸魂界』と『虚圏』は冷戦状態にある。藍染惣右介の宣戦布告も山本元柳斎重國の『虚圏』への攻撃命令も解かれてはいない。ただ事情があり矛を交えていないに過ぎない。故に死神が『虚圏』へやってくるという事はただ事ではない。加えて『虚圏』の外れにある”封神台”の地まで五体満足でやってこれたという事は、藍染惣右介の許可の元で死神の少女は”封神台”までやって来たという事だ。
故にウルキオラ・シファーは問う。
「なにをしにきた。死神」
「親父殿の残した遺産を引き取りに来ました」
―――
柄にもなく驚き眼を見開くウルキオラ・シファーに対して死神の少女は微笑みながら言う。
「初めましてですね。
「…お前は何者だ」
ウルキオラ・シファーの刺すような視線に晒されながらも笑みを絶やさない白髪ツインテールの少女は鈴のような声で言う。
「私の名は卯ノ花
「卯ノ花風鈴…あの男の血縁か。なるほどな…阿片に対する耐性を持っていても破面である俺では斬魄刀『鴻鈞道人』を扱えはしない。だが、あの男の娘であるお前ならば、斬魄刀『鴻鈞道人』の担い手たりえるのか?」
「はい。そうです。………たぶん、きっと」
「…」
「兄上、そんな目で見ないでくれ。私だって初めて試すんだ。けれど母上には私は親父殿に似ているから大丈夫だと太鼓判を押されている!」
「そうか。…それを藍染様も認めたというのなら俺に言うことは無い。行け。斬魄刀『鴻鈞道人』は”封神台”の奥の岩に突き刺さっている」
「…」
「なんだ?」
行けというのになかなか前に進まない卯ノ花風鈴を不審に思ったウルキオラ・シファーが眉を潜めれば卯ノ花風鈴は疑問符を浮かべながらウルキオラ・シファーに問いかけた。
「行けって…兄上は一緒に来ないのか?」
「なぜ俺が行かなけれなならない」
「何故って、久しぶりの家族団欒ですよ」
「かぞく、だんらん?」
「ええ。母上がいないのが寂しいですが、私にとっては初めて兄上と親父殿に会えることは嬉しいことです。てっきり兄上も親父殿にもう一度会いたいから、こうして親父殿が封印されている場所にいるのだと藍染殿に話を聞いた時から思っていたのだが、違うのですか?」
「俺が…もう一度あの男に会いたいと思っているだと?」
「はい」
困惑するウルキオラ・シファーに対して卯ノ花風鈴は此処に来て一番の笑顔を見せた。
「だって母上から親父殿はなによりも家族を大切にしたと聞いています。だから、親父殿もきっと兄上に会いたがっていますよ!」
卯ノ花風鈴の言葉を聞いて湧き上がっていた
「ク、クク…確かにあの男なら、喜ぶのだろう。善哉善哉と笑いながらな」
「でしょう!ですので、一緒に行きましょう」
そう言って引かれる手を振り解くことをウルキオラ・シファーはもうできなかった。
―――世界を壊しながら、愛を説いた盲目の仙王。あの狂人に唯一認めるべき所があるとするのなら、確かにこの女の言う通りその点しかないだろう。
―――
風守風穴という死神がいた。誰にも理解できないと言われた阿片狂いの狂人は事実、家族以外の誰にも本心を理解されることなく斬魄刀に呑み込まれて消えていった。
最後まで無様に、あるいは滑稽に、消えてしまった彼であったが、しかし、最後まで笑いながら消えていった彼は幸せだったのだろう。なぜなら彼はずっと守り続けていた大切なモノを
「兄上!これが親父殿の遺産だな!」
「ああ…」
「では!引き抜きますよ。せーの!」
この日、一本の斬魄刀が一人の少女の手に渡る。
その斬魄刀の名は『鴻鈞道人』。
完成された卍解の名は『
阿片という猛毒を生み出すだけでなく操ることも可能にしたその卍解を扱う時、少女の傍らには煙で形作られた黒衣を纏う白髪痩身の男が担い手である少女を守る様に立つという。
混濁した眼で薄ら笑いを浮かべながら―――何時までも善哉善哉と嗤っている。
書き終えたぞ!これで今作は幕引きとさせて頂きます。
長い間、稚拙な文ではありますが書き続けてこれたのは皆様のご感想があったからです。
ありがとうございました<(_ _)>
エンディングについては大いに悩みました。
とりあえずハッピーエンドとトゥルーエンド、バッドエンドの三つの終わり方を考えていたのですが、一番しっくりくるトゥルーエンドとさせて頂きました!
まあ投げっぱなしエンドとも言うのですが(-_-;)
では、皆さま!また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
(゚∀。)y─┛~~