BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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原作59巻の卯ノ花隊長の色っぽさは異様。
結局、女性キャラは黒髪ロングが最強。
異論は認めます。あくまで持論です。(; ・`д・´)


千年前の出会い方①

玉露や番茶よりもほうじ茶を好み。桜よりも梅を好み。海よりも山が好きな男。

――言ってしまえばあの(ひと)は、より強い匂いというものが好きなのでしょうと、護廷十三隊四番隊隊長、卯ノ花烈は風守風穴をそう回想する。

無論、風守風穴にも好みと好まざる匂いがあるが、卯ノ花烈のその言葉はほぼ正鵠を射ていた。

 

生まれからして異様。阿片窟という人が住むべきでない場所で生まれた彼の身体は、その阿片の毒に耐性があるという特性故に健康体ではあったが、しかし、嗅覚を含む五感全てに何の影響も与えていなかった訳ではなかった。障害というほどのものではない。しかし、”好み”という誤差の範囲ではあるが、風守風穴の嗅覚は阿片の毒によって少しだけ変化していた。

より強い匂いを好むように。より深く言えば、彼の生まれた阿片窟(とうげんきょう)の香り。

逃れがたい甘い香りを風守風穴は好んでいる。

 

そして、そんな風守風穴の好みは卯ノ花烈と付き合う上で、とても相性の良い物ではあった。

 

 

 

 

 

料亭『千寿庵(せんじゅあん)』。

そこで出される料理は総じて濃く味付けされている。卯ノ花烈の食事の好みは濃い味のもの。そして、味の濃い料理というのはそれに比例して強い匂いをしている。

 

「いただきましょう」

 

「いただきます」

 

卯ノ花烈の合掌に合わせて声を出し、俺は机の上を彩る料理に手を伸ばす。美味い。

流魂街で団子を食べた時にも思ったが、遠征部隊専属の辛い点は食事の問題。遠征先では碌な食事に在りつけないことが多いということだ。現世の人里離れた山奥とかならば、まだ良い。その辺の猪でも狩って鍋でもできるが、今回の遠征で行った『虚圏』は酷かった。周りは砂と石しかなかった。

そんな訳でちゃんとした料理を食べるのは久しぶりのこと。

食事が出来るという有難味を噛みしめながら料理を平らげる俺を見ながら、卯ノ花烈はいつも通りに笑っていた。

 

市丸ギンと茶屋で別れた後、俺は一番隊隊舎に今回の遠征の報告に向かったのだが、そこで隊首会の招集から逃げ出したことを山本元柳斎重國と雀部長次郎から叱咤された。

誰が悪いかと問われれば、間違いなく俺が悪いので大人しく説教を聞いていたのだが、流石にそれが数時間も続くと話は違ってくる。

天井のシミの数を数えながら「ああ面倒だ。これは長くなるぞ」と考えて居た所に、救いの手を差し伸べてくれたのは卯ノ花烈だった。

卯ノ花烈の「そろそろ終わりにして、日も傾いてきましたし、皆さんで食事に行きませんか?」という言葉に俺はすぐさま飛びついた。

 

俺と卯ノ花烈。山本元柳斎重國と雀部長次郎という旧知の仲での食事は遠征帰りということもあり美味に飢えていた俺からすれば考えるだけで楽しそうな催しだった。

しかし、残念ながら山本元柳斎重國と雀部長次郎は俺が報告した事案を纏める為にまだ仕事があり一緒に来ることは出来なかった。

なので、俺達はいま、俺と卯ノ花烈。そして天貝繡助と卯ノ花烈の副官である山田清之介の四人で食事処にやってきた。

 

俺は四人一緒に食事をとっても良かったのだが、積もる話もあるのだろうと天貝繡助と山田清之介は気を効かせてくれたようで二人は隣の座敷で食事をとっている。

つまり、この場にいるのは俺と卯ノ花烈の二人だけ。人見知りで口下手で引っ込み思案な俺は知らない人と二人になると緊張で目が泳ぐ悪癖があるが、相手が卯ノ花烈なら千年前から見知った相手だ。緊張することもなく酒を煽りながらちまちまと料理をつまむ。

 

食事を初めてしばらくしてから卯ノ花烈は口を開いた。

 

「今回の遠征もお疲れ様でした。風守さん」

 

そういって酌をする卯ノ花烈に俺は色香を感じる。対面で机を挟んでの酌。机の上の料理に袖が付かないように酌をする腕の着物を反対の手で押さえる仕草は反則級に色っぽい。思わず少し顔が赤くなったが、俺は平静を取り繕いながら酌を受け取り酒を煽る。

 

「『虚圏』への遠征。今までで一番大変な思いをされたのではないですか?」

 

「別に、だな。確かに初めて足を踏み入れる地ではあったけど、時間にすればたった十年。その前の第九十七次遠征の方が遠征期間は長かった」

 

「そうでしたね。第九十七次は三十年。その前は二十年でしたか。私はてっきり貴方は遠征の度に遠征期間を長くする悪癖があるのだと思っていたのですが、違っていたのですね」

 

「…確かに、遠征の度、遠征帰還が長くなってたのは否定しないが、それは遠征の度に遠征の難易度が上がっていたからだ。人を放浪癖のある変人みたいにいうなよ」

 

「あら、幾ら取り繕っても貴方が変人であることは否定できるものではないですよ」

 

「なんだと。それを言うならお前だって――「なにか?」――いや、なんでもない」

 

失礼な奴だと、変人なのはお前も同じだろうと卯ノ花烈の持つ千年前からの悪癖を突こうとした俺は彼女の浮かべた笑みを見て矛を収める。意気を削がれた俺は卯ノ花烈の顔を見ながら、綺麗な顔だというのに偶に浮かべる笑顔が恐ろしく怖いのは何故だろうかと、そんなどうでも良いことを考える。

 

「………本当にお前は綺麗な顔をしているな」

 

「あら、ありがとうございます。けれど、褒めても何も出ませんよ」

 

「別にそういうんじゃない。ただ、そう思っただけだ。お前は千年前から綺麗なままだな、卯ノ花。山本重國や長次郎の外見は年老いたっていうのに、お前は何一つ変わってない」

 

「それを言うなら貴方だって外見は変わっていませんよ。総白髪なのは千年前から。顔立ちも肌艶も二十代後半のものではないですか」

 

「まあ、外見なんて気の持ちようで何とでもなるものだろ。山本重國が老人の風貌になったのは総隊長としての威厳がどうのとか、どうせそんな理由だろ。長次郎も山本重國に合わせて歳を取ったんだろうさ」

 

死神に限らず霊力の少ない一般の魂魄も含めた尸魂界に生きる者たちは、基本的に何年生きようが年老いることはない。何しろ俺達は霊体で人間定義で言うなら既に”終わっている存在”。死んで終わっている以上、老化という成長をすることは殆どない。その上で霊力の強い死神が老いようと思うなら、自らそれを強く望む他にない。

そして、だからこそ俺は卯ノ花烈が未だに若々しい姿を保っていることに疑問を抱いていた。

 

「卯ノ花。俺はお前が老いを恐れるような女でないことはわかっているつもりだ。そして、そんな老い(もの)でお前が弱くなる筈もないことも知っている。だから、なぜだ?卯ノ花」

 

「何故とは、いったい何のことでしょうか?」

 

「山本重國は老い。長次郎も老い。その二人の元に千年前に集った十人はもう居なくなった。なら、お前も老いていくのが道理だろうと俺は思うんだがな。だというのにお前は―――」

 

徳利(とっくり)を倒し(はい)を落とす。俺は机の上に片膝を乗せ身を乗り出して卯ノ花烈の頬に触れた。酔っている。酔い痴れている。だが、そう自覚する俺の頭は正常だ。伊達や酔狂でこんな真似をするほど俺は痴れてはいない。そして、何よりの謎は、なぜ俺が酔い痴れているのかという点だ。阿片の毒に耐性を持つ俺の身体は酒などで酔える程に真面(まとも)な作りをしてはいない筈。なら俺は一体何に酔い痴れているのか。答えは多分、眼の前のこの(これ)だ。

(これ)の出す匂いが俺を酔わせている。

 

「――今も昔も、美しいままだな。卯ノ花。何がお前を、若い姿で保たせている?」

 

卯ノ花烈は頬に添えられた俺の手を払うこともせず、黒曜石の様な瞳で俺をジッと見つめてくる。そして蠱惑的に口元を歪ませた。

 

「…今日は随分と喋るのですね。少し、酔いましたか?(かつ)阿片窟(とうげんきょう)の番人であった貴方らしくもない。私は喋るたびに声を震わせ、目も合わせられない静かな貴方が好きですよ。だって、―――」

 

俺は卯ノ花烈の頬に添えていた手を動かし、首筋を隠していた長い髪を退ける。

するとそこには白い首筋に荒々しく刻み込まれた歯形の傷があった。

 

「―――貴方の声を聴く度に私についた二つの傷の一つが疼いて仕方がないのですから」

 

「………遠い昔の話だろう。お前は本当に、今も昔も変わっていないんだな」

 

千年前に俺が卯ノ花烈に刻み付けた傷。艶めかしく残る(それ)に舌を這わせたくなるのを必死で抑えながら俺は卯ノ花烈から手を放す。どうやら俺はこの場に酔っているようだ。否定は出来ない。頭を冷やす必要があると座敷の窓を開けて夜風を中に入れる。

窓の外から隣の座敷に居る天貝繡助と山田清之介の声が聞こえた。

その現実の音で俺の酔いは完全に覚めた。深呼吸をして振り返り、卯ノ花烈に頭を下げる。

 

「悪い。酔っていたみたいだ」

 

頭を下げる俺に卯ノ花烈は気にしないでくださいと言いながら俺の乱暴によって肌蹴た死神装束を直しながら笑った。

 

「構いませんよ。遠征中は酒も絶っていたのでしょう?なら、久しぶりに呑んで酔うことは仕方ありません」

 

「いや、だが―「それに」―」

 

「それを承知で私は貴方を食事に誘ったのですから、たとえ襲われたとしても犬に噛まれたのだと諦めるつもりでした」

 

「………それは、俺は惜しいことをしたということか」

 

笑いながら、彼女らしくもない冗談を言う卯ノ花烈に対して俺はなんと返していいのかわからず、そんな返答して食事の席に戻る。俺の不甲斐なさの所為で色々あったが食事はまだ半分以上残っている。無論、残すなんて真似を出来る訳もなく俺は再び箸を握り杯に酒を注ぐ。

卯ノ花烈もまた同じよう食事を再開した。

 

そうして、ひと悶着あったが無事に食事が終わると思われた時、不意に卯ノ花烈は爆弾(えがお)を投げかけながら言った。

 

「そう言えば、今日の様な酒の席で千年前に私とした『互いに千年間独り身だったら結婚しよう』という約束を風守さんは覚えていますか?」

 

その爆弾(ことば)に俺は再び徳利(とっくり)を倒し(はい)を落とした。

 

 

 

 

 

 

――そう言えば、今日の様な酒の席で千年前に私とした『互いに千年間独り身だったら結婚しよう』という約束を風守さんは覚えていますか?―――

 

自分の言葉に狼狽する風守風穴の姿を見て、卯ノ花烈はクスリと小さく笑みを零した。

らしくないというのなら、何よりその姿が彼らしくないと卯ノ花烈は笑う。

普段の風守風穴ならば素面で返すだろう冗談に顔を赤くして慌てふためくその様子は、もし仮に彼をよく知る雀部長次郎や天貝繡助が見たなら悪い冗談だろうと思うだろう。

顔を赤くし呂律が上手く回っていない。その(さま)は、まさしく酔っ払いの風体だ。

阿片に酔えぬ身体を持つ風守風穴が酒に酔うなんて話は、風守風穴を良く知る人物であればあるほど信じられないことだろう。

しかし、現に今の風守風穴は酔っている。それはなぜか。その理由を知り、彼を酔わせる原因を作り出した張本人である卯ノ花烈の長く美しい黒髪からは、甘い花の匂いが香っていた。

 

「(混じり合い始めましたか)」

 

『混合危険』という言葉がある。二つのモノを混合・接触することで発火や爆発の恐れが生じることを指す科学用語だ。

阿片に酔わぬ身体が酒に酔っているという矛盾。その理由を簡単に言ってしまえば、今の風守風穴の身体の中で『混合危険』と同じような現象起こっているからだった。

混ぜたものは酒気と香気。爆発はしない。代わりに阿片に酔わぬ強靭な身体を酔わせる。

風守風穴との付き合いが長く、現四番隊隊長として瀞霊廷の治術仁術を一手に担い尸魂界のあらゆる薬品に精通する卯ノ花烈だからこそ見つけることが出来た、風守風穴を酔わせる術。

 

「へにぅ」

 

奇声を零し風守風穴が机に突っ伏した。しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきた。

酔っ払い寝落ちした風守風穴を眺めながら、卯ノ花烈は穏やかに回想する。

 

―――千年前のあの時にこの人を酔わせる術を知っていたなら、私はこの人を殺していたでしょう。

 

 

千年前。日暮れの荒野で”八千流”と”風守”は初めて出会った。

 




休みの日に書いて出来たら直ぐに上げちゃうので、投稿ペースは完全不定期。
暇つぶしになれば幸いです!(; ・`д・´)


(; ・`д・´)←この顔文字はかわいくて好き

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