BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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PUBGは楽しいな!と遊んで、いつの間にかスプラトゥーン2が出てるじゃん!と遊んでたら、いつの間にか一カ月以上たっていた…
時間の流れは速いですね(; ・`д・´)


暇つぶしにでもなれば幸いです(*_ _)


風守風穴との出会い方①

 

 

 

 

瀞霊廷。護廷十三隊一番隊隊舎。総隊長執務室。

護廷十三隊を率いる山本元柳斎重國の執務室には大きな窓があり、眼下に瀞霊廷全体が見渡せるようになっていた。一見して外からの攻撃に対して不用心とも思えるその場所は、しかし、山本元柳斎重國がある限りそれに勝る警備などない難攻不落の居城足り得た。

その場所に在る影は四つ。一つは言うまでもなくこの部屋の主である山本元柳斎重國。その右に付き従う影は雀部長次郎。

山本元柳斎重國に対して左前にズレる場所には卯ノ花烈が立っていたが、卯ノ花烈はこの場において進んで話をするつもりはないのだろう、眼を閉じたまま静かに身を引く様に立っていた。

そして四人目の影。”王属特務”零番隊-兵主部一兵衛は山本元柳斎重國に対するように彼の正面に立っていた。

 

兵主部一兵衛は黒々とした髭を撫でながら、少年の様な輝きを失わない眼で困った様に口を開く。

 

「重国よ。どうやら、風守の奴が卍解してしまったようだぞ」

 

そう言いながら、兵主部市兵衛は首に掛けていた大きな数珠繋ぎの首飾りの内の一つの球を指さした。

 

「ほれ。これを見よ。割れておるじゃろ?これは”大織守(おおおりがみ)”に創らせた特別な数珠でな。たとえ世界が離れていようと特定の霊圧に反応して割れる。特定の霊圧とは言うまでもなく、風守の卍解の霊圧じゃ。あやつは卍解すると霊圧の色が桃色に変わるからの。それに反応するように作らせた」

 

---それが先ほど割れたのと兵主部一兵衛は山本元柳斎重國の眼をジッと見つめる。

 

「…重国よ。わしは風守に忠告したぞ。卍解をすれば、尸魂界から居場所が無くなるとな。それはわしなりに風守の事を考えての忠告じゃぞ。あやつの卍解は危険すぎる。比喩でなく世界を滅ぼす力を持った卍解じゃ。…どう始末をつける?」

 

兵主部一兵衛の問いかけに山本元柳斎重國は一度目を瞑る。

山本元柳斎重國の脳裏に浮かぶのは混濁した眼でヘラヘラと嗤う白髪瘦身の男の姿。

風守風穴が『虚圏』の地にて卍解をした。それをそのまま受け止めたのなら、『虚圏』には風守風穴が卍解をしなければならない程に強大なチカラを持った敵が居たという事になるが、そうではないのだろうと思わずため息をつく。

山本元柳斎重國の知る限り風守風穴という死神は強大な敵を前に強大な力を振るうような、そんな真面な感性は持ち合わせていない。加えアレはアレで分別のつく男であることも知っている。兵主部一兵衛と山本元柳斎重國がやるなと言えばある程度の自制は効く筈だった。

山本元柳斎重國にとっての計算外は『虚圏』の地に風守風穴が我慢できない程のナニカがあったこと。もし仮にこれが藍染惣右介の策略であったなら何と素晴らしい手腕を持った死神だと山本元柳斎重國は藍染惣右介の事を評価しただろう。

 

それほどまでに風守風穴が卍解をしたという状況は瀞霊廷にとって重大な意味を持つ。

 

「…真名呼よ。風守の奴は『虚圏』にて卍解をしたのだな?」

 

「ふむ。現状、尸魂界にも現世にも影響は出ておらん。『虚圏』にて卍解したとみて間違いはないだろう」

 

「ならば、不幸中の幸い。虚達の根城が崩壊した程度、儂ら死神が気に掛ける必要も無し。あるいはこれが虚と死神の長きに渡る戦いに終止符を打つ結果になるやもしれん」

 

虚圏(ウェコムンド)という一つの世界が滅びようとしている。

それに対して山本元柳斎重國は敵国が滅ぶことを悦びこそすれ悲しむことは無いだろうと悪辣に嗤った。

 

兵主部一兵衛は確かにそれはそうだがと言いながら、考えられる危険性を口にする。

 

「滅びゆく世界から逃げ出そうと大勢の虚達が『虚圏』から現世へと出てくるかもしれんぞ?それもただの虚ではない。『虚圏』に住まう大虚(メノス)がじゃぞ。並の死神では対処しきれぬだろう」

 

「風守が卍解をしたのであれば、数分の間に『虚圏』の全土が阿片に沈んだ筈。風守の卍解が生みだす阿片毒は耐性のない者にとっては一呼吸の内に動くことも儘ならない猛毒。その心配はないと儂は考える。無論、万が一に備え精鋭部隊を組織し『虚圏』から現世にやってくる虚達の監視はしよう」

 

そう言って山本元柳斎重國が傍に控える雀部長次郎に目配せをすると、雀部長次郎は即座に頷くとその場から姿を消した。

その様子を見ていた兵主部一兵衛はその対応が妥当かと頷く。

 

「まあ、それで良いか。だが、重国。わしはこの件を霊王宮に戻り”霊王”様に報告するぞ。”霊王”様のお考え次第では、風守の首を斬らねばならん。それはわかっておるな?」

 

「然り。もしそんな事態になれば、儂がこの手で風守を叩き切る」

 

「うむ。その言葉、信じるぞ」

 

そう言い残して兵主部一兵衛は総隊長執務室を後にした。

 

その場に残った山本元柳斎重國はずっと話を聞いているだけだった卯ノ花烈に目を向ける。

 

「卯ノ花よ」

 

「はい。なんでしょうか」

 

「儂は嘘が嫌いじゃ。真名呼へ向けた言葉の全てに嘘はない。…風守が卍解をした以上、『虚圏』を根城としていた藍染惣右介は直ぐにでも『虚圏』を捨て現世に攻め込んで来る筈。そうなった時、もし仮に藍染惣右介を追い風守が現世に来たのなら、儂は風守を斬らねばならぬだろう。『虚圏』と同じように現世を阿片に沈める訳にはいかぬ」

 

「心得ております」

 

「………良いのか?」

 

「覚悟は元よりしております。…今でこそ護廷十三隊は尸魂界に住まう者達にとっての”正義”と呼べる組織となりましたが、元来は清濁を併せのむ殺人者の集団と揶揄(やゆ)された組織。部下を斬るのも仲間が斬られるのも、慣れているでしょう?私も、貴方も」

 

卯ノ花烈は閉じていた眼を開き山本元柳斎重國を見る。

そして、嫋やかに笑いながら言った。

 

「それに私は信じていますよ。風守さんが私とお腹の子を残して逝くような馬鹿な真似はしないと」

 

「…そうだな。そうであれと、儂も願う」

 

---”護廷が為”---

 

その一文は護廷十三隊に席を置く者の全てが命に刻むべきもの。それはどの隊士であれ隊長であれ、総隊長であったとしても変わらない。護廷が為に戦い護廷が為に生きる彼らにとってたとえ味方であろうとも護廷に害する者が居るのなら、それは斬らねばならぬ”悪”となる。その力が強大であるほどに”巨悪”となろう。

 

山本元柳斎重國は考える。

 

---藍染惣右介。もし仮に貴様がそれを含め考え、風守に卍解させたのなら、それはあまりに素晴らしい手腕という他にないだろう。だが、風守をそう上手く操れる訳もなし。

 

風守風穴を山本元柳斎重國は桃園に霞む煙に写る影の様な男だと評する。

語り掛けても返る言葉は山彦(やまびこ)の様に伽藍洞(がらんどう)。そもそも映る姿は己が影。手を伸ばそうと煙は掴めずやること為す事が独り芝居に成り下がる。

そんな死神を計算通りに動かす事など出来るはずがないと山本元柳斎重國は考える。

 

---ならば、藍染惣右介。直に現世へと攻め込んで来るだろう貴様は慌ててやって来たままに準備も碌に整わないまま戦わねばならない。

 

準備が出来ていない。それは実は山本元柳斎重國。護廷十三隊側も同じだった。

藍染惣右介の最終的な狙いは”霊王”。なら、”崩玉”を手に入れた藍染惣右介が次に手に入れたいと思うのは『霊王宮』に立ち入る為に必要となる”王鍵(おうけん)”。その製造に必要な重霊地(じゅうれいち)である現世にある空座町での戦闘は避けられないと現世に居る浦原喜助と尸魂界の技術開発局に制作させていた”転界結柱(てんかいけっちゅう)”は間に合わないだろう。

”転界結柱”は四点のポイントを結ぶことで半径一霊里に及ぶ巨大な現世と尸魂界を結ぶ穿界門となる。それを四方に設置し”現世の空座町”を技術開発局が流魂街の外れに作った”精巧な空座町の複製”に移し替えることで現世の空座町を住民ごと安全な場所に移す。

それが浦原喜助の打診の元、護廷十三隊が行っていた藍染惣右介との決戦に向けての準備。

 

「あと、少しだったんだがのぅ」

 

その準備は風守風穴の卍解により藍染惣右介が予想より早く現世に攻め込む結果となることで間に合わなくなるだろう。

せめて出来ることと言えば空座町の住民たちの命を護る為に不完全な形で”転界結柱”を発動させ流魂街の外れにある”精巧な空座町の複製”に送る事。

しかし、それで全空座町住民を送ることは不可能だろう。加えて戦いの余波は現世の空座町に少なくない破壊をもたらす結果になるに違いない。

 

「…全ては救えぬ。ならば、選別はせねばならんか。…せめて、黒崎一護達の家族や友人は確実に避難させるよう取り計らうべきじゃな」

 

山本元柳斎重國は瞳を一瞬だけ揺らした後は確固たる意志を燃やしながら動き出した。

 

 

 

 

一人残された卯ノ花烈は何を思うのだろうか。

ただ一人窓から見える空を眺め端整な顔立ちを優しく微笑ませる。

 

「風守さん。私が唯一愛した(ひと)。『虚圏』を沈めた貴方は、きっともう止まる事などしないのでしょう」

 

それは先ほど、山本元柳斎重國に伝えた言葉とは正反対の言葉。

卯ノ花烈は理解している。風守風穴という男がどういう男で在るかを知っている。

愛がある。情もある。愛した妻と生まれてくる娘の幸せを願える夫ではある。

けれど、風守風穴は間違いなく下種(くず)と侮蔑されて然るべき死神だ。

阿片狂いの仙王はきっとまともな家庭なんて築き得ない。

 

「だから、きっと燃え盛る業火と鳴り響く雷鳴は貴方の敵として、立ちはだかるのでしょう。ならば、私は、ええ、愛しています。だから…」

 

零れた言葉は空虚に消える。

誰にも知られない覚悟を決めて卯ノ花烈は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

現世。蒲原商店。

予定を前倒ししての”転界結柱”発動の命令が山本元柳斎重國から伝えられ、浦原喜助は柄にもなく慌てた様子で諸々の準備に取り掛かる。

虚圏に捕らわれた井上織姫を救出する為に今夜にでも黒崎一護達を虚圏に送り出そうとしていた浦原喜助からすればその報は寝耳に水どころの話ではなかった。

 

”転界結柱”完全発動の準備は今だ整ってはいない。ギリギリではあるが間に合わせる算段は付いていた筈の策謀が音を立てて崩れてしまったのを理解しながらもそれでも冷静に動くことの出来た浦原喜助は神算鬼謀の天才足り得た。

 

「…想定より早い藍染さんの現世への侵攻を瀞霊廷側がキャッチした。いえ、未だ虚圏と尸魂界との間での完全な連絡網は整っていない筈っス。おそらく何らかの要因で藍染サンの侵攻速度が上がったと山本総隊長は予想したんでしょう。…風守サンか」

 

類まれなる頭脳で正答を導き出しながら浦原喜助はどうすれば現世側の被害が最小限で抑えられるかを考える。

 

「ジン太サンや(ウルル)サンに”転界結柱”の設置を急がせましょう。とりあえずの算段が付き次第、鉄裁サンに発動してもらい…それで空座町の住人の四分の三は尸魂界に避難させられる筈っス。残りの人達は護廷十三隊に協力を仰ぎ出来るだけ空座町から出てもらうようにするしかありませんね」

 

とりあえずの行動を決めながら、浦原喜助は携帯電話を取り出すとダイアルを押す。掛ける先は言うまでもなく空座町の死神代行―黒崎一護の携帯電話。

 

「---ああ、もしもし黒崎サン?私っス。浦原です。今夜、虚圏に向かう予定でしたが、変更です。私の考え通りなら、今頃に虚圏は人も死神も立ち入れる場所じゃなくなってしまいました。---ああ、井上サンなら無事ですよ。あの人は井上サンと面識ありますから、見つけ次第保護してくれている筈です。---ええ、勿論、井上サンも大切ですが、どうやら敵は空座町に乗り込んでくるようです。---はい。早ければ、明日にでも戦いです」

 

あまりにも早すぎる決戦。しかし、浦原喜助と裏で通じていた”仮面の軍勢(ヴァイザード)”と称される一団。百年前、藍染惣右介の手によって死神の虚化という外法の実験材料にされ尸魂界を追われた平子真子達と黒崎一護の特訓にある程度の目途が立っていたのは幸いだった。

 

戦力はある程度に整っている。加えて急な現世侵攻は藍染惣右介らにとっての負担も大きい筈だと蒲原商店は算段を立てる。

 

「ある意味で藍染惣右介が『崩玉』の完全覚醒前に現世へ侵攻しなければならなくなったのは幸いっス。勝算は十二分にある」

 

後はその勝算を限りなく100パーセントに近づける準備をするだけだと蒲原喜助は動き出した。

 

 

 

 

 

 

風守風穴という死神がいた。曰く気狂い。曰く善人。曰く最悪の死神。

現世(うつしよ)に在りながら桃園の煙に霞む巨人の様な男を前に並び立てられる言葉の羅列は、しかし、どれも彼の本質を表し切れずに消えていく。

本来、存在しえない筈の死神の手によって犠牲は膨らみ被害は増大する。同等に救われる者達を量産しながら微睡む男は果たして何を思い描き歩むのか。

 

決まっている。平和主義者の阿片狂いが思い描くは最善の終わり方。

誰もが幸せに終われる幻の大団円(だいだんえん)

風守風穴という死神を知る者ならば誰で在ろうと理解しよう。

かの死神が動き時、最悪が始まり。()()()()()()

 

そして、風守風穴---

 

「さて、十刃(エスパーダ)諸君。行こうか」

 

---最後の戦いが始まる。

 

藍染惣右介が動き出す。

 

 

 

 

 

 

藍染惣右介が率いる十刃(エスパーダ)達の侵攻は蒲原喜助の読み通り当初予想されていたより早く始まった。急がせていた”転界結柱”の展開が辛うじて間に合ったその瞬間と言っていいギリギリのタイミング。

不完全ながらも”転界結柱”が間に合ったのは幸いだったが、代わりに不完全であるが故の弊害として少なくない人間達が尸魂界に送られることなく護廷十三隊の尽力も空しく---空を見上げてしまった。

 

「あれは…人か?」

「空に…人がいる」

 

それが最後の言葉。天に立つ藍染惣右介とその隣に立つ雛森桃。

そして、藍染惣右介が従える十刃(エスパーダ)達。

第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)コヨーテ・スターク。

第2十刃(セグンダ・エスパーダ)ティア・ハリベル。

第6十刃(セスタ・エスパーダ)グリムジョー・ジャガージャック。

 

彼らの姿を見た空座町の住民たちは一様に魂魄を揺るがす程の霊圧に当てられ次々と気を失い地面に倒れていった。そのまま放置すれば戦闘に巻き込まれて死んでいくだろう人間達を救う為に動くのは護廷十三隊の隊士達。藍染惣右介との戦闘に直接関わらない隊士達が気を失い地面に倒れた人間達を拾い上げ戦闘範囲外へと運んでいく。

それに手を貸すのは蒲原商店の面々と茶渡泰虎や石田雨竜といった人間達。人命救助という何よりも優先される行動が為に死神達と協力する彼らの姿を空から見下ろしながら、藍染惣右介はそれを捨て置くことにした。

元より藍染惣右介の目的は無用な虐殺ではない。いたずらに生命を殺すつもりなどない。藍染惣右介の目的は”重霊地”である空座町そのもの。空座町の大地を利用し『王鍵』を創生すること。その過程で空座町の住民を犠牲にすることはあっても、進んで行うつもりもない。貴重な戦力を裂いてでも逃がしたいのなら好きにすればいいと思いながら、藍染惣右介は眼前の敵を見定める。

 

「やはり…君達が私の前に立つか」

 

藍染惣右介の言葉に返す重みはただ一言。

 

小童(こわっぱ)

 

山本元柳斎重國は藍染惣右介を睨みつける様にそう言った。

 

山本元柳斎重國の後ろに控えるは護廷十三隊の隊長格達。

護廷十三隊二番隊隊長、砕蜂。副隊長、大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)

護廷十三隊四番隊隊長、卯ノ花烈。副隊長、虎徹(こてつ)勇音(いさね)

護廷十三隊六番隊隊長、朽木白夜。副隊長、阿散井(あばらい)恋次(れんじ)

護廷十三隊七番隊隊長、狛村左陣。副隊長、射場(いば)鉄左衛門(てつざえもん)

護廷十三隊八番隊隊長、京楽春水。副隊長、伊勢(いせ)七緒(ななお)

護廷十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎。副隊長、松本(まつもと)乱菊(らんぎく)

護廷十三隊十一番隊隊長、更木(ざらき)剣八(けんぱち)。副隊長、草鹿(くさじし)やちる。

 

数にして倍以上の敵。護廷十三隊の隊長格たち。護廷十三隊の厄介な所は十三人の隊長全てが主要戦力(しゅようせんりょく)たり得る力を有していると言うこと。それを知るが故に藍染惣右介は破面(アランカル)達を創り出し十刃(エスパーダ)を組織した。

十三人の隊長たちに十の刃で対抗しようとした。

しかし、その刃はある一人の死神の手によって既に半分以上が折られている。『虚圏』での戦いとも呼べない奇襲からの殺戮の後に生き残ったのはたった三人の十刃(エスパーダ)と特別なチカラなどないただの副隊長格の死神だけ。

 

考えうる最悪の戦力差を前に、それでも藍染惣右介は微笑んで見せた。

紡ぐ言葉は余裕と共に。

 

「雀部副隊長が居ないようだが、彼は何処に?」

 

瀞霊廷で己の命に手を掛けた伝説の烈士の存在を気にする言葉を紡ぐ。それは、目の前に居る()()()()より一人の死神の存在の方が脅威だという護廷十三隊への挑発に他ならず、刺すような空気が場を包む。

飛び出そうとする隊長たちをその背から放つ霊圧で押し止めながら、山本元柳斎重國は言葉を返す。

 

「長次郎には結界外の守護を任せておる。この戦闘の後の戦後処理も含めての対応は、信頼できる部下にしか任せられん」

 

「なるほど。言われれば納得の対応だ。しかし、山本総隊長。君は一つ、間違いを犯している」

 

「ほう?何が間違いじゃ?」

 

「確かに優秀な指揮官とは先を見越して動くものだ。しかし、私を前に戦後処理などと、未来の話をするべきじゃない。雀部副隊長が不在という事は、脅威が一つ減ったという事だ」

 

「愚かなり。藍染惣右介。貴様には見えていないのか?儂の後ろに控える(つわもの)共が」

 

「見えているさ。私の脅威となりえるのは、君と卯ノ花隊長の二人だけだ。その他大勢など、私の部下に蹂躙されるだけの只の羽虫(はむし)。気に留める、価値などないよ」

 

その言葉は虚勢に満ちていた。護廷十三隊の隊長一人一人が主要戦力となりえるとそう語ったのは他でもない藍染惣右介自身。藍染惣右介とて各隊長の力は知っている。少なくとも山本元柳斎重國との戦闘の最中に介入されれば厄介だと認識している。

 

それでも藍染惣右介は余裕の笑みを崩さない。笑みを浮かべたままに率いる()()に言葉を掛ける。

 

「私は君達に私を信じろなどと、ただの一言も言ったことはない。私と共に来いとは言ったが、()()()()()共に来いなどとは言わなかった。常に私を含めた何者をも信じるなと言って聞かせてきたつもりだ。それは君達に自分より優れた何者かを信じなければ、盲従しなければ生きていけないようなそんな弱い存在になって欲しくなかったからだ」

 

 

「かつて炎熱地獄を創った死神に網膜を焼かれた男がいた」

 

「阿片狂いの白痴の剣に斬られる悦びを知った女がいた」

 

「桃園に霞む巨人の影に守られ与えられる快楽を享受するだけになった者達がいた」

 

 

「全ての生物は自分より優れた何者かを信じ盲従しなければ生きていけない。そうして信じられた者はその重圧から逃れる為にさらに上に立つ者を求め。上に立つ者は更に上に信じるべき強者を求める。そうして全ての王は生まれ。そうして全ての---神が生まれた」

 

---それを人の(さが)だというのなら、悪だと言う気はない。だがしかし。

 

藍染惣右介が思い出すのはかつて見上げた瀞霊廷の空。その遥か頭上にある『霊王宮』。

 

---あまりに愚かだ。

 

「たとえ己より強い誰かが居たとしても、(すべ)てを(ゆだ)ねてはならない。王で在れ神で在れ、真に優れた者など何処にも居ないのだから」

 

---『霊王』。死神達が信じる世界の(カミ)。私はそんなモノを信じていることなど出来ない。故に弓を引く。

 

 

「コヨーテ。ティア。グリムジョー。君たちは私を信じる必要などない。君達は君達自身を信じて戦ってくれ。私は知っている。私が苦労して集めた十刃(きみ)達が、私一人に劣る存在ではないことを」

 

 

藍染惣右介が十刃(エスパーダ)達を信じることは無い。

しかし、藍染惣右介は彼らのチカラを知っていると言った。

その言葉が果たして十刃達(かれら)にどういう感情を抱かせるのか、それを藍染惣右介が解らない筈もなく。思いは糧となるだろう。かつて阿片窟の番人が最強の死神の背に憧れを抱いたように、そうして振るう刃が最悪と称されるまでに研ぎ澄まされたように。

諦めなければ夢が叶うのと同じように、那由多(なゆた)()てまで(おも)いは(とど)く。

 

そして、輝く三枚の刃は護廷十三隊の隊長達を文字通りに蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

狙い通りに山本元柳斎重國との一対一の構図を創り出した藍染惣右介は計画通りと言いたげな笑みを浮かべる。

 

「コヨーテとティアは元々最上大虚(ヴァストローデ)。虚の時で既に護廷十三隊の隊長以上の力を持った存在だった。その力は破面(アランカル)となることで更に昇華されている。グリムジョーもまたそれに比肩する戦力。彼ら3人を止めるのに、隊長たちは掛かりきりとなるだろう。…では始めようか。山本総隊長」

 

「…」

 

山本元柳斎重國は何も語らずただゴキリと肩を鳴らす。

確かに藍染惣右介の言うように三人の十刃達の全力は一時的にだが、この場に居る山本元柳斎重國と卯ノ花烈を除いた護廷十三隊の隊長格の総戦力と互角に戦えるだけ奮戦をみせている。

だが、それも強い感情によって強化された一時的なもの。霊力が無限でない以上、何時かは数に押されて落ちるだろう。

あるいは戦闘後の治療の為に戦線から外している卯ノ花烈を前線に送ればそれだけで互角の戦況は崩れるだろう。

藍染惣右介の語る全ては砂上の城でしかない。

---あるいは一時的に戦況が互角となっているこの状況下で藍染惣右介が山本元柳斎重國を破ることが出来たのなら、状況は変わるだろう。

十刃達たちにとっての中心が藍染惣右介である様に山本元柳斎重國は護廷十三隊と言う組織の屋台骨。それが砕かれればあるいは護廷十三隊は藍染惣右介に敗北するかもしれない。

 

けれど、

 

「一対一でなら、儂を討てると思うてか」

 

山本元柳斎重國の身体を業火が纏う。

言葉なく解放された斬魄刀の名は『流刃若火』。炎熱系最強最古の斬魄刀。

 

「甘いのう。甘すぎて眩暈(めまい)がするわい」

 

斬魄刀『流刃若火』が纏う炎は空気を焼き熱波が敵意となって藍染惣右介の身を包んだ。

 

「何故、儂が千年も護廷十三隊の総隊長を務めていると思う?」

 

藍染惣右介の頬を一筋の汗が伝う。

 

「儂より強い死神が、千年生まれとらんからじゃ」

 

---”最強”。

 

千年前から変わらない頂に立つ死神は太陽に匹敵する英雄(おとこ)

山本元柳斎重國は藍染惣右介にして、純粋な戦闘能力では劣っていると認めざるを得ない相手。故に備えようとしていた。けれど、策は時間という絶対の要因によって潰された。

斬魄刀『流刃若火』を封じることも出来ないままに全力の山本元柳斎重國を相手どらなければならない時点で、あるいは藍染惣右介は既に負けていると言っても良かった。

 

しかし、けれど、藍染惣右介は笑みを消すことも無く斬魄刀を抜く。

 

「藍染隊長!」

 

「大丈夫だよ。雛森君」

 

自分の後ろで身を案じてくれる少女の叫びに微笑みを返しながら、

 

「君は私の、いや()の後ろで安心して見ていてくれればいい」

 

藍染惣右介は斬魄刀を握る。

 

---強くなりたい。

 

”最強”の死神、山本元柳斎重國を前に藍染惣右介が抱いたのは、そんな当たり前の感情だった。

 

---強くなりたい。

 

それは百十年前。瀞霊廷の外れで風守風穴に底が浅いと嘲笑(あざわら)われた(のぞ)み。

 

 

---『今日日(きょうび)、黒幕というものはもっと難しいことを考えて暗躍するものだ。”強くなりたい”なんて目的で行われる暗躍は、きっと今の子供には笑われる---底が浅いと、笑われる』---

 

 

嘲笑うべきはどちらだと藍染惣右介は笑ってみせる。浅いものか。誰もが願うモノの筈だと今の藍染惣右介は言い斬ろう。

 

---強くなりたい。自分の信念を通せるように。

---強くなりたい。己の夢を叶える為に。

---強くなりたい。背に居る誰かを、守るために。

 

「私は、”最強(きみ)”を超えよう」

 

決意を口にしたその瞬間に、光り輝くモノがある。それはきっとあまりに単純なモノで単純すぎるが故に元来、万能であった藍染惣右介という死神が手に出来なかった筈の輝き。

万能であるが故に万物を知り。万物を知るが故に万象を軽視した男では至れなかった境地。

 

藍染惣右介の懐にあった『崩玉』が輝く。

『崩玉』の能力は虚と死神の境界を消し去る事。では、()()()()。『崩玉』を創り出した浦原喜助自身も勘違いをしていたことだが、『崩玉』の本来の能力は『崩玉の周囲にいる者の心を崩玉の意思によって具現化する力』。浦原喜助が『崩玉』の力を虚と死神の境界を消し去ることだと勘違いしていたのは、それが浦原喜助自身が望んでいた願いであったからに過ぎない。

 

そして、いま『崩玉』の所有者たる藍染惣右介が願うのはただ一つ。

 

---チカラ ガ ホシイカ?

 

「---否」

 

藍染惣右介は感じ取った『崩玉』の意思に苦笑を返す。「ならばくれてやる」と続く筈の言葉は藍染惣右介の言葉で掻き消された。

 

「私は、私の力を以て、死神として最強の死神を超えよう。『崩玉』を使うのはその後で十分だ」

 

手に出来た筈の力が藍染惣右介から零れていく。『崩玉』を取り込み揺籃(ようらん)の時を経て手に出来た筈の死神も虚も超えた隔絶されたチカラ。二次元の存在が三次元の存在に干渉できぬように意図して次元を下げなければ干渉されることもない程に強大な力を藍染惣右介は得ることが出来た。

 

だが、しかし、藍染惣右介はそれを要らないと思った。

藍染惣右介は、彼らしくもなく、山本元柳斎重國の言葉に、簡単に言えば、カチンときた。

 

「千年間、自分よりも強い死神が生まれていないだって?なら、喜びたまえ」

 

 

 

 

「この瞬間が、千年目だ」

 

 

 

 

絶対なる自信。信じる訳ではなく事実として知る己の力。殺したくても殺せない程の強い自我が、あるいはこの瞬間に運命の扉を開く。虚勢は砕けず。巨星は落ちず。千年に一人の逸材がその才覚を最悪の一歩手前で開花させた。後悔などない犠牲の道に得られた『崩玉(チカラ)』を捨て己を天上天下(てんじょうてんげ)唯我独尊(ゆいがどくそん)だと信ずる覚悟を(もっ)て天才はいま、”英雄(さいきょう)”へと目覚める。

 

千年に一人。唯一人(ただひとり)

山本元柳斎重國以来の”英雄(さいきょう)”が誕生する。

 

その名は---藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)

霊王(てん)』を目指した”英雄(おとこ)”。

 

 

「行くぞ。山本総隊長」

 

「来い。小童(こわっぱ)‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

『尸魂界』を護る為に”護廷十三隊”という組織を創り出した英雄と自我が消える恐怖に怯える虚達を束ねどうであれ『虚圏』を救った英雄の戦いに、一つの小さな亀裂が走った。

 

空に浮かんだその小さな亀裂は徐々に大きくなっていき、甘い瘴気(しょうき)が亀裂から漏れ出す。

 

「…善哉善哉(ぜんざいぜんざい)

 

空が割れた。そして、戦局を変える為に、世界を滅ぼす阿片(ユメ)をまき散らしながら、もう一人の”英雄(さいあく)”は世界を越えて『虚圏』から『現世』へと飛来した。

 

 

 

 

 

 

 





何時も誤字報告ありがとうございます。<(_ _)>
この間、溜まっていたモノの直せる部分を直させて頂きました。


追伸、引っ越しが決まったので次話の更新は少し先になるかと思います。
(*_ _)

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