BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい 作:白白明け
※注意※
今回の話の中で原作では生存していたキャラが死亡します。
苦手な方はご注意ください
『虚圏』。
それを知りながらただ漫然と歩を進める市丸ギンにはある種の確信に似た考えがあった。あるいはそれは藍染惣右介への信頼とも取れる考えだった。
「あの藍染惣右介が、いまだ
兵は迅速を尊ぶべきだ。兵法の基礎を唱えるのなら、指揮官はさらにその先を読まなければならない。『虚圏』は既に
ならばもう藍染惣右介が『虚圏』を捨てたことに市丸ギンは気が付いている。
「風守隊長と戦いたくない。至極真っ当な判断や」
市丸ギンは考える。果たして卍解をした風守風穴に勝てる。いや、戦いを成立させることの出来る者がいるのだろうかと。率直な意見を言えば、市丸ギンの考えでは藍染惣右介で
---”力”という言葉の認識そのものが私と君達とでは異なっている。
それは藍染惣右介の言葉。
その意味を市丸ギンは正しく認識している。
それほどの強度を以てして、ようやく風守風穴と並び立つ。
「藍染惣右介の鏡花水月は恐ろしい能力やけど、それ一つだったら殺されても従わへん奴は
強いから。強者であるから。人の上に立つ者の理屈として至極真っ当なことを語りながら、市丸ギンは天蓋の青空を見上げていた視線を下す。
そこには二人の破面が立っていた。
二人を見ながら、市丸ギンは言葉を続ける。
「藍染惣右介の全ての能力が他の誰とも掛け離れてるからや。だから、
市丸ギンの問いかけにネリエルは答える気はないと市丸ギンを睨みつけ、ノイトラは忌々し気に吐き捨てる様に言葉を紡ぐ。
「恐怖が
藍染と呼び捨てにした瞬間、隣に立つネリエルから漏れた殺気に驚き
「俺達より近くで藍染様を見てきたテメェは俺達より藍染様の恐さは知ってんだろ?それともあれか。近くで見てきたから、藍染様の弱点でもわかったか?」
「だったら教えてくれよ」と冗談交じりに笑うノイトラの脇腹をネリエルの無言の肘打ちが襲う。せき込むノイトラをネリエルは溜息交じりに見ていた。
そんな二人の仲の良さそうな様子にきょとんとした後、市丸ギンは苦笑する。
「藍染惣右介の弱点?あかん。その考え方は不用心や。確かに僕は『鏡花水月』の弱点は知っとうよ。けど、それは別に藍染惣右介の弱点にはならへんよ」
完全催眠という精神を完全に支配する斬魄刀『鏡花水月』から逃れる唯一の方法は完全催眠の発動から『鏡花水月』の刀身に触れておくこと。市丸ギンはその一言を藍染惣右介から聞き出すために何十年もかけた。
確かにその情報は値千金。虚を突き藍染惣右介を追い詰めることは出来るだろう。だが、しかし、市丸ギンはそれだけでは致命傷には届かないと確信している。
「”鏡花水月”に用心する?あかん。不用心や。”他の全てに用心する?”あかん。まだ不用心や。空が落ちるとか、大地が裂けるとか、君らの知恵を総動員してあらゆる不運に用心しても、藍染惣右介の能力はその用心の
「なら、テメェはなん---
「それでも」
---で、…あぁ?」
ノイトラの言葉を遮りながら市丸ギンは斬魄刀を抜く。そして、続く問いかけに応えてみせた。
「それでも、その遥か上を見上げへん訳にはいかなかったからや」
---僕は蛇や。
気に入った
「気に入って、呑み込んでしもうた奴は…僕の物や。僕だけの物や。誰にもやらんよ。誰にも泣かせへんよ」
市丸ギンの閉じた瞼の裏に浮かぶのは一人の少女。そして、今は女性となった彼女の姿を思い浮かべながら市丸ギンは蛇の様に
「僕が、乱菊を守る」
ただそれだけ。ただそれだけ。かつて
守る為に戦う。至極真っ当な正道は市丸ギンのみならず彼の部下である吉良イズルも口にした戦う理由。そして何より阿片窟の番人たる”風守”が説いた法。
風守風穴の下に就いた。
最恐の男を倒す為に最悪な男のチカラを借りた。
「乱菊が奪われたモノを取り戻す」
果たして藍染惣右介の陰謀の過程で松本乱菊になにがあったのか。市丸ギンがどうして藍染惣右介を
藍染惣右介が存命する限りそれが繰り返させるかもしれない。
だから、幼き頃の市丸ギンは刀を握った。
「その為に、君ら、邪魔や」
邪魔だから斬る。自らの道に立ち塞がる者を切る。真っ当であろう。正道であろう。否定することなど誰にも出来ない理屈の下でのみ市丸ギンは斬魄刀を握る。
守るのだ。愛した者を。守る為に斬るのだ。愛した者が居るのだから。
「誰にも邪魔はさせへんよ。その為に…ずっと頑張って来たんや。ずっと、ずっと、頑張ったんや」
愛した
「長すぎた時間は此処で終わる。此れにて、お
隊長格の死神と二人の十刃の戦いが始まった。
ノイトラ・ジルガ。そして、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクにとって市丸ギンとの戦いは
ニ対一。数という目に見える形での優位性は語るまでもなく、だが、しかし、ノイトラとネリエルの二人は欠片の油断も抱くことは無かった。
視線のみでの意思疎通。それを成し得るのは二人の関係性が
互いに馴れあう気はない。だが、同時に隣に立つ破面の事は
かつて白い死神風守風穴と伝説の
ノイトラの口が開く。同時にネリエルは市丸ギンの視界から消えた。
「”
唸りを上げて迫りくる破壊の光線をまともに喰らえば市丸ギンとて一撃で沈みかねない。
それを態々喰らう理由は無いと身を
「なんや、当たっとらんよ?」
余裕を見せる市丸ギンに対してノイトラは更に余裕のある表情で嗤った。
「…その正解を狙い撃つ」
市丸ギンの背後から声がした。市丸ギンが避けた”
「すぅぅ----
「なん…や?」
それは”
此処に十刃同士の共闘でしか見ることの出来ない技が炸裂する。
”
---がぁぁ‼」
一撃で地形を変える破壊の波が二重となって市丸ギンの背後から放たれた。破壊力は二倍。破壊の規模も単純に倍。避けきれない破壊の光線を前に市丸ギンは余裕を捨てる。
初手からの奥の手を晒してみせた敵を前に己も手の内を隠すことを諦める。
「卍解・『
声は平坦。抑揚も無い。叫ぶ様に
「…
風守風穴に彼がかつて戦った敵である
避けられないのなら破壊を斬るという手段を見せた市丸ギンにネリエルは驚き一瞬の隙を見せる。
「噓でしょ…」
「なんや、隙だらけやないの」
その隙を突く様に
砂煙を上げて地面と衝突しただろう二人を市丸ギンは急く様に追撃することなく、
「
「
砂埃を吹き飛ばしながらネリエルとノイトラは
対し
市丸ギンはその二人の姿が伊達ではないことを知っている。ネリエルはその姿から連想させる通り
”最速”と”最硬”。悪夢としか思えない二人を前にして市丸ギンは尚、笑ってみせた。
”最速”と”最硬”。確かにそれは素晴らしい。有象無象とは程遠い。歴戦の猛者である市丸ギンにして恐怖するべき対象だ。だが、しかし、その恐怖は市丸ギンが考える”最恐”には程遠い。
市丸ギンは静かに構えを変える。それは剣道の正道から外れた構え。
「君ら、強いわ」
市丸ギンの口から零れるのは純粋な称賛。
「流石は
無邪気に…などとは言えない笑みを浮かべながら世界が滅びる様を眺めたかったと語る市丸ギンにネリエルは反射的に斬りかかろうかと考えてしまった。
虚圏が阿片に沈む。それはかつてバラガン・ルイゼンバーンが命を賭して避けた最悪の結末に他ならず、
だというのに唐突にやって来た死神は上から目線でこう言った。
---お前達を
悪い冗談どころの話ではない。その場の誰もが恐怖と共に怒りを抱く。お前は何様のつもりだと。何をもって自分たちを救うと言うのかと激怒した。
そうだ。少なくとも
「貴方は‼---
「落ち着け、ネル」
---ノイトラ…」
飛び出そうとするネリエルを止めたのはノイトラだった。ネリエルの動きを手で制し、彼女に顔を向ける事も無く市丸ギンを睨みつける。
市丸ギンは笑みを深めた。
「冷静やね。意外や。君はもっと怒りやすいと思ってたよ」
「はっ。俺は軽い挑発に乗る程に馬鹿じゃねぇし、この雌ほど
「そか。君、恐いな。正直、
「はっ!やってみやがれ‼出来るもんならなぁ‼‼」
ノイトラは市丸ギンに向けて駆ける。それは先ほどのネリエルの様に怒りに任せた考えなしの特攻ではなく、戦略を以て行われる突撃。卍解『
武器同士の戦いにおいて勝敗に帰結するリーチという要因を自在に操るあの卍解は脅威だ。しかし、それだけならば勝機はあるとノイトラは踏み込んだ。
ノイトラの
「テメェの敗因は俺より手数が少ねぇことだ‼死神‼」
初撃を防ぎ必殺を誓うノイトラを前に市丸ギンは口を開いて嗤ってみせた。
「…冷静や」
ノイトラの戦法は粗削りではあるが確かに必殺。成功すれば必ず殺せるだろう。だが、忘れていることがあった。いや、忘れていた訳ではなかったが、ノイトラは自分の持つ戦闘センスと能力を過信し見過ごしていた。
「…冷静やから、気づけへん」
市丸ギンは既にその必殺の
名を--
「”
躱すことの出来ない速度。卍解『
最速の斬魄刀ではない。しかし、ノイトラでは反応できない速度であることに変わりはない。最硬では最速次点に追いつかない。
『
---筈だった。
「なん…だと…」
「へぇ」
驚愕の声を零したのはノイトラ。感心した様に笑ったのは市丸ギン。そして、ネリエルはノイトラを庇い傷を負っていた。
「ネリエル…テメェ…何してやがる!」
ノイトラは自らの前に立ち『
その事実に怒りを燃やすノイトラに対してネリエルは、その感情を余すところ無く理解しながら、うるさいと両断する。
「勘違いしないでちょうだい。さっき、私は貴方に庇われた。だから、借りを返しただけよ。それに、この程度の傷ならまだ戦えるわ---いえ、もう終りね。市丸ギン!」
ネリエルは左手で自分の腹部に突き刺さった『
市丸ギンの表情に若干の焦りが滲んだ。
「これで逃げられないわ‼」
そして、ネリエルは右手に持った両刃の
「”
翠色の霊圧を纏った投擲槍が唸りを上げて市丸ギンに放たれる。これもまた”必殺”。当たれば致命の一撃となる威力を誇る攻撃を市丸ギンは避けられない。
終わりだとネリエルは確信する。
その確信を覆すのは一人の死神。
「
常に市丸ギンに追随し鬼道で姿も霊圧も消していた吉良イズルが市丸ギンの危機に飛び出して迫りくる”
この戦い。ニ対一ではない。始めからニ対二。しかし、それでも力の差はきっとニ対一と変わらないと誰よりもわかっていたのは吉良イズルだった。
副隊長どまりの吉良イズルでは勝利することが出来るのは
理性ではなく感情で動いた身体。それを背後で見ている市丸ギンはきっと呆れたような顔を浮かべているに違いないと知りながら、吉良イズルには後悔が無かった。こうなってしまっては仕方がないと半ば開き直りながら、”
そんな事を考えながら、激痛の中で吉良イズルは左腕でも同じことを繰り返した。
「つぅああぁああ!?」
骨が砕ける激痛の中で繰り返した斬撃は計六回。右腕を折り二回。左腕を折り二回。折れた両手で加えて二回。
一撃を止めようとして失った両腕。戦線復帰が不可能な深手を負いながら、しかし、その行動は決して無駄ではなかった。元来、副隊長クラスが止めるとこなど出来ないネリエルの”
「そんな…」
己が”必殺”が自重に耐えきれず地に落ちる様にネリエルは目を疑う。
斬魄刀『
しかし、同時に吉良イズルも地に倒れる。
その様を見ながら市丸ギンは労うように言った。
「頑張ったなぁ、イズル。ありがとう」
その声を聞いて吉良イズルは満足げに笑みを浮かべた。
ノイトラの”必殺”から始まり市丸ギンの”
仕切り直しだと構え直すノイトラとネリエルの前に市丸ギンは頭を下げた。
「謝らなならんことが、二つある。一つは二体一や思わせといて、イズルを隠してたことや。まあ、けどこれは実はニ対二やったってだけの事。そんな怒らんといてな」
カラカラと笑う市丸ギンをノイトラは訝し気に睨みつける。
「…テメェ、何の真似だ?此処にきて言葉を交わす意味なんざもう
「…そか。なら、もう一つも謝らんでええね。ただ、一応、教えといてあげるわ」
「ああ?」
市丸ギンはそう言うと長さを戻した『
「見える?ここ、欠けてんの。…欠けた刃を彼女の中に置いてきた」
市丸ギンの言葉にノイトラは驚いたようにネリエルを見る。ネリエルもまた貫かれた自身の傷に手を伸ばす。
「『
市丸ギンの斬魄刀を握っていない左腕がネリエルの立つ方向へと伸びる。
「終わりや」
”必殺”とは
そして、市丸ギンの”必殺”はネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクを殺しきる。
「”
『
「ネリエル‼」
「ノイ…トラ…」
反射的に伸びたノイトラの手を握り返そうとしたネリエルの手は、しかし、指先に触れる瞬間に溶けて崩れた。
「………」
あまりにも呆気ない
パンッと、静かな場に音が響いた。
溶けて逝ったネリエルの方を向いていたノイトラの意識が自分に向いたのを確認すると市丸ギンはカラカラと嗤いながら言った。
「まずは御一人様、
「嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
ノイトラの視界が赤く染まった。目の前でネリエルが死んだ。その感情が悲しみである訳が無く苦しみだと知りながらノイトラは怒りに駆られ市丸ギンに突っ込んだ。
---それは…俺が超える筈だった
ノイトラは常に戦いに飢えていた。№5《クイント》でありながら、
しかし、ノイトラ・ジルガの
---それは…俺が
ノイトラが力に恐怖を覚えたのは伝説と狂人の戦争を見た時だった。
ノイトラが力を求めたのはその戦いの中で自分より強い雌が居たからだった。
ノイトラが戦いを求めたのは目の前の
ノイトラ・ジルガが”絶望”したのは
ノイトラ・ジルガという破面が望んだものは一つ。
「テメェェェエエ!俺の
力は欲しい。その為にノイトラ・ジルガは強くなろうとした。誰よりも。生まれて初めて目にした
---その
これは回顧。ノイトラとネリエルが交わした言葉の記憶。
---「ノイトラ。貴方は何故、そう迄して戦うの?」---
---「死にてえからだ。戦いの中で死にてえからだ」---
ノイトラ・ジルガはネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクとの戦いの中で死にたいと願った。
「”
怒りを感じた。悲しみを感じた。死んでいく女を前に男が感じるであろう感情の全てを市丸ギンはノイトラから感じた。それでも市丸ギンは戦いの姿勢を欠片も崩さなかった。
「………知っとったよ」
ノイトラがネリエルに向ける感情を市丸ギンは理解していた。形こそ違うが同じものだと市丸ギンは思っている。ノイトラ・ジルガという
”
怒りに任せた特攻は初めに見せた腕を犠牲に返す刃で命を狩る必殺の形からは程遠く、連続して放たれる音速を超えた突きの全てがノイトラの命まで届く。
「知っとった。知っていて、僕は君の前でネリエルを殺した。…謝らんよ」
崩れ落ちるノイトラを前に市丸ギンは決して頭を下げることはしなかった。謝罪の言葉も吐かなかった。戦場で戦い倒した敵を前にして市丸ギンは決して目を反らすことはしなかった。
「許せなんて言わへんよ。僕が彼女を殺した。僕が君を殺す。せやから…僕を恨んで、死んでええよ」
市丸ギンとの戦闘によってノイトラ・ジルガとネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクの両名は死亡した。
ネリエルとノイトラとの戦いを終えた後に市丸ギンは吉良イズルの治療に入る。
治療の最中、吉良イズルは困った様に口を開く。
「その、市丸副隊長。治療してくれるのはありがたいのですが…風守隊長の応援に行かなくても良いのですか?」
吉良イズルの口から出たのは
今だ敵と対峙しているだろう風守風穴の元へ向かわなくていいのかという吉良イズルに市丸ギンは首を振ってその必要はないと言う。
「風守隊長は負けへん。あの人じゃ、風守隊長に勝てる訳がない。そんなこと、イズルもわかってるやろ」
「それは…そうかも知れませんが…」
「”絶対”や。あの人じゃ、風守隊長には勝てへん。そんなこと…あの人が一番、よくわかってる」
吉良イズルの治療をしていた市丸ギンの視線が天蓋が写す偽りの青空へと向かう。
思いうかべた一人の男の姿に市丸ギンは静かに眼を開いた。
「なあ、東仙さん」
原作を読んでいた思った事。
ノイトラさん…大分、ネリエルさんのこと好きですよね?
幼女状態で自分の前に現れた時は、思わず「お前…ネルか?」って愛称で呼んでましたし。そもそも闇討ちして仮面割ったのだって、「お前がいない間に俺は強くなってやるぜ!だから戻ってきたら