BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい 作:白白明け
斬魄刀『
その斬魄刀が最悪の二つ名と共に語られ始めたのは炎熱系最強と名高い山本元柳斎重國の斬魄刀『
担い手ある限り阿片の毒を生成し続けるいう最悪の能力を持ったその斬魄刀は常に阿片窟を守る番人と共の名と共にあった。
あるいは、その斬魄刀を持っていたのが稀代の凶人である風守風穴であって良かったと漏らしたのは驚くべきことに山本元柳斎重國自身であった。
そして、それは
風守風穴は確かに狂人だ。だが同時に自分以上に他者の幸福を願う行いは間違いなく人間愛に満ちた博愛精神の現れだ。
狂人ではあるが悪人ではなく。善人ではないが風守風穴は愛を知っていた。
風守風穴という死神は愛に満ちた狂人だった。
そして、愛を知るが故にその斬魄刀もまた愛に満ち満ちていた。
卍解『
世界を滅ぼす力を持っていると言われた尸魂界史上最悪の卍解が封印を解かれ完全な形で解放される。始解と同じく、刀身の変化は乏しい。いや、乏しいどころでは無くその姿は始解と何一つ変化してはいなかった。
ただ違うのは切っ先に空いた四連の穴から漏れ出していた阿片の毒が
そして、生成する阿片の毒の濃度が上がっている。常人であれば一呼吸の内に痴れて果てるだろう---
阿片に対して絶対的な耐性を持つ風守風穴ですら、卍解の瞬間に正気を失う程の毒性を膨大な勢いで生み出し続けている。
「ああ…ウルキオラ」
そう零す風守風穴の瞳に理性の色はもう欠片も宿ってはいなかった。
万人を
斬魄刀には心が在る。そんなことは死神であれば誰だろうと知っている。ならば、風守風穴という一人の死神の苦悩と苦痛と羨望を誰よりも見続けてきたのは誰であったのか、それを語る必要はないだろう。
---
ただそれだけを願った少年が、しかし、その夢を叶えることが出来ないまま大人になり、ならばせめて
悔しかった。目があれば涙した。声が出せれば嗚咽を漏らした。万人を阿片に沈める事が出来る最悪の斬魄刀?何を馬鹿なと
---誰よりも
---お前の幸せを心の底から願っている。
故に
そうして、斬魄刀から死神への千年を掛けた愛の果てに卍解は変化した。千年前は始解と比べて生み出せる阿片の煙の量が膨大になるだけの増強型の卍解でしかなかった『四凶混沌・鴻鈞道人』は、遂に
卍解『
「俺は…お前の幸せを」
風守風穴の言葉と共に、卍解した時から生成し続けてきた桃色の煙は徐々に纏まり始める。
桃色の煙は纏まり巨大な一体の獣となる。それには目鼻耳口。
己の頭上に魔獣を従えるこの姿こそが卍解『
「…願っている」
欠片の理性も持たぬまま。遂に風守風穴は阿片に痴れながら本音を漏らす。零れた言葉は常に変わらず彼が説き続けたもの。阿片に狂いながら、終ぞ変わることの無かったその言葉は風守風穴という死神が心の底から願う願いが聖人のソレと変わらないという事の証明に他ならず、そして、だからこそ狂いきっていた。
阿片狂いの導師が至る境地に立ちながら、風守風穴は心の底から世界の平和と皆の幸せを願っている。
「…故に」
だからこそ。
「…痴れた音色を聞かせてくれよ」
最悪の善意を以て風守風穴は動き出した。
「ふざけるな!」
声を荒げたのはウルキオラ・シファーだった。目の前で行われた卍解。そして、満ち満ちてきた阿片の猛毒に晒されながら、それでも言語中枢に致命的な被害を受けなかったのは彼が風守風穴から受け継いだ驚異的な阿片への耐性と強靭な肉体があったおかげ。
しかし、それでもウルキオラ・シファーは自分の身体が刻一刻と狂い始めていくのを感じていた。
後数秒で己の理性が死ぬと悟りながら、ウルキオラ・シファーは両の足に力を込めた。
---戦うな。戦うな!戦うな‼。そう叫び理性に逆らう身体を無理やりに動かし、ブチブチと音を立てる四肢の痛みを無視しながら、ウルキオラ・シファーは両の手に握った”
「二三発、”
ウルキオラ・シファーにとって己一人を置き去りにした世界などに未練は無かった。あるいは終わってしまっても構わないと考えてさえいる。だが、しかし、たとえ己と同じ虚無となり世界が終わるとしても、その結末だけは防がねばならないという感情が”
「たとえ、このくだらない世界が終わるとしても…お前などに与えられる結末を俺は認めない‼」
許せない。認めたくない。拒否という感情。虚無として生を受けた男が抱いたその感情は、きっとウルキオラ・シファーがずっと探し続けていたモノの欠片の一部で、しかし、ウルキオラ・シファーはそれに気が付かないまま風守風穴に向かって行く。
そんなウルキオラ・シファーの姿を見ながら、風守風穴は心からの笑みを浮かべる。
「愛い愛い、反抗期か。親のやる
「---っ!?ふざけたことを‼」
徹頭徹尾、ウルキオラ・シファーからすれば己を馬鹿した態度をとる風守風穴に怒りを覚えながらも、ウルキオラ・シファーは最後まで冷静に戦いぬいた。
己の理性の限界を計算しながら、正気を保って立ち続けられる限界まで、ウルキオラ・シファーは風守風穴からの溢れ出る
そして、ウルキオラ・シファーは幸福な夢へと
卍解『
上空で風守風穴が卍解したのを見上げながら、市丸ギンはポカンと口を開けたまま思ったままの感情を口にする。
「もう、アカンわ」
周りに散らばる破面達が生きていたのなら何を戦闘中に呑気なことを言っているのだと言われただろう市丸ギンの戦闘を放棄したような行いは、しかし、正しい感想だった。
卍解を終えた風守風穴の斬魄刀から大量の桃色の煙が生成され始めている。
戦闘など今更無意味なことを続ける積りは無いと市丸ギンは懐から試験管の中に入った薬剤を取り出すと針の付いたそれを己の肉体に突き刺す。それは
無効化とまではいかないまでも、阿片の煙に巻き込まれて戦闘に置いて無樣を晒す羽目になることだけは無いと太鼓判を押されたそれは、しかし、その効力に見合うだけの労力と時間、そして希少な材料を必要としている為に市丸ギンに二本のみしか与えられることのなかったものだ。
市丸ギンは残りのもう一本を傍で倒れていた吉良イズルに突き立てる。
「痛い!?なんですか、いきなり」
「痛いやないよ。周りをよく見てみい、イズル」
「周りですか…」
血清により覚醒し周りを見渡した吉良イズルの眼に飛び込んできた光景は痴れて倒れ伏す破面達と死神達の姿。市丸ギンと吉良イズル以外に立っている者はいない。
「これは…」
「見ての通りや。風守隊長が卍解した」
「なら、この『虚圏』はもう…」
「そう。全部お終い。僕らが立てた作戦も瀞霊廷から下されていた指令も、もう全部意味はない。最悪
「そんな…」
吉良イズルは上空で滞空する風守風穴を隈の濃い眼で絶望しながら見上げていた。
そんな吉良イズルに市丸ギンは何時もと変わらない声色で続ける。
「ついでに僕らもお終いや。今は血清で正気を保ってられるけど、それも長くは続かんよ。卍解で阿片の毒が強化されとる。血清の効果は
「一二時間しか持たないんですか!?」
「うん?イズル。それは違うで。ここは常人なら一瞬で狂う濃度の阿片の毒への耐性を引き上げて、一二時間も動けるようにした技術開発局を誉めるべきや。言うたやろ。風守隊長の卍解は最悪や。さしずめ、この血清は最悪に対する希望やね」
己の命があと数時間で尽きるという状況にありながら、それでも普段と変わらない蛇の様な笑みを消すことがない市丸ギンに対して吉良イズルは恐怖とそれに勝る安心感を得る。
「じゃ、風守隊長を連れて
市丸ギンはそれこそ散歩にでも行くような軽い足取りで風守風穴に近づくと、一言二言の言葉を交し、二人は足並みをそろえて
吉良イズルはそんな二人の後姿を見ながら、自分の死が近いことを理解しながらも、思わず言わずにはいられなかった。
「この戦い。僕らの勝利だ」
吉良イズルは嬉しそうに二人の後を追う。
『虚圏』に聳え立つ
藍染惣右介は椅子に座り目を閉じていた。彼の右隣には東仙要。そして東仙要の後ろには捕えられ現世から連れてこられた井上織姫が所なさげにたっている。左隣には雛森桃。
そして、それ以外に五人の人影。
五人はそれぞれ備え付けられた椅子に座っている。『虚圏』の支配者たる藍染惣右介と席を同じくすることを許された彼らこそ藍染惣右介自らが選びだした精鋭。百数体いる破面の中で選ばれた頂点に立つ十人の破面。
”
一人一人が隊長格の死神を複数人相手にしても戦えるだけの戦闘能力を持った彼らは、しかし、その顔に緊張感を張り付けたまま指先一つ動かせずにいた。その原因は他ならない藍染惣右介自身だった。普段であれば集まった彼らに向けて一言二言声を掛けた後、紅茶でも飲みながら聞いてくれとミーティングをする程の余裕を見せる彼だが、今は普段と様子が違っていた。
何も言葉を発せないまま暫く時間が過ぎている。
というより、『虚圏』の支配者である藍染惣右介からの招集という普段であれば何においても優先される命令が統括官である東仙要の『
「…藍染様、おそらくこれ以上は…」
「そうだな」
隣に立っていた東仙要に促され、藍染惣右介は閉じていた眼を開く。十刃達は息を飲んだ。しかし、彼らの緊張を気にする様子もなく藍染惣右介は普段通りの余裕に満ちた声色で誰もが感じ取りつつあった事実を告げる。
「諸君。すまないが紅茶は少し待ってほしい。先に告げ無ければならないことがあるんだ。君達
召集に五人しか集まらない
「藍染様。落ちたとは、一体どういう?」
ティア・ハリベルは朝方、此処にはいない十刃の何人かとすれ違っている。少なくとも数十分前までは
まさか、たった数十分の間に五人の十刃がやられたとでもいうのですかと問いかけるティア・ハリベルに藍染惣右介は肯定を返す。
「私も思いもしなかったよ。苦労して集めた君達
優しい口調から零れる辛辣な言葉にティア・ハリベルの表情が苦し気に歪む。だが、しかし、短時間の内に半数が討ち取られたという事実とそれに気が付かなかった自身の過失から反論する言葉など出てくるはずも無く、ティア・ハリベルは申し訳ありませんとただ首を垂れる。
藍染惣右介はそんなティア・ハリベルに頭を上げてくれと微笑みで返すと、別に責めてはいないと言葉を続ける。
「真実を告げる事は時に攻撃的だと思われることがある。ティア、私は別に君達を責める積りはないよ。事実を言ったに過ぎない。そして、それは半分わかっていたことだ。何しろ相手は---かつて『虚圏』を滅ぼしかけた男だ」
藍染惣右介の言葉に十刃達は個々に差はあれがそれぞれ反応を示す。一番大きく反応したのは
ネリエルは思わず席から立ち上がると狼狽しながら藍染惣右介に問いかける。
「まさか、白い死神が!?」
「ああ、そうだ。先日、ネガル遺跡に現れた死神の集団と
「そんな…」
絶句するネリエルの隣に座っていた
「藍染様。あの死神が現れたことはわかった。けどよ、少し早すぎやしないか?戦った
いくら風守風穴という死神が強いとしても目の前に居たなら兎も角、バラバラに過ごしていたであろう残り四人の十刃達をどうやって短時間で倒したのか?そんな疑問に藍染惣右介は
「厳密に言えば、風守風穴が
「なん…だと…?」
それはかつて”大帝”と呼ばれた伝説の
---『虚圏』が阿片に沈んでいることを意味していた。
「私が何故、『虚圏』に
藍染惣右介の先見性に十刃達の幾人かは驚きに表情を浮かべる。そして、ただ権力を誇示する為だけに
「だが、それを周知していなかったのは私の失策だ。おかげで偶々外に出ていた
数秒で数億の命を狂わせる量の阿片の毒を生成する卍解は『虚圏』の世界で解放され、今なお桃色の煙を生成し続けている。そして、既にネガル遺跡という
それにより半数の十刃が戦わずに脱落していた。
日光を苦手とする
「
藍染惣右介の話を聞いたネリエルの顔色が悪くなる。それもその筈。相手はかつて始解の状態でさえ『虚圏』の世界を阿片に沈めかけた男。バラガン・ルイゼンバーンが命を賭して追い帰した後も沈殿した阿片の毒は多くの中毒者を生み『虚圏』に混乱を
そんな男がはた迷惑なことに
考えうる最悪な状況にネリエルの顔は青ざめる。
「さて、諸君。---
果たしてこれからどう動くべきなのか、その判断を下すだろう藍染惣右介の一言一句に注目が集まるなかで藍染惣右介は余裕の笑みを浮かべたまま言った
---紅茶の準備ができたようだ」
藍染惣右介の言葉と共に破面の
しかし、余裕がない場面でこそ余裕を見せなければならない。常に余裕をもって優雅たれという貴族の心の持ちようか。あるいは慢心こそが王者の務めと豪語するかの様な絶対的強者の振る舞いは、緊張していた十刃達の心を解す。
「さあ、戴こうか」
藍染惣右介の声と共に紅茶を一口飲む頃には十刃達の顔から恐怖は拭われていた。
その様子を見た後、藍染惣右介のは静かに一人頷き、言葉を続ける。
「期せずして残った君たちは私が選んだ
彼らを見渡し藍染惣右介は告げる
「この紅茶を飲み終えた後、我々は現世への侵攻を開始する。予定が前倒しになり、準備も不足していると思うが、各員の奮闘を期待する。コヨーテ。ティア。グリムジョーの三名は私と共に現世に向かう。雛森君は私の傍に居てくれ。ネリエル。ノイトラの両名には
藍染惣右介の言葉に異を唱える者は誰も居なかった。
「風守風穴の卍解は確かに強力だ。しかし、同時に明確な弱点も抱えている。それは担い手である風守風穴をしても尚、制御しきれない強力過ぎるチカラ。その弱点は始解の時点から露呈していた。
---恐れるな。私と共に歩む限り我らに敗北はない。
藍染惣右介の言葉によって拭えぬ恐怖を拭いながら、
~カットされた戦闘シーン~
「ウルキオラが戦闘をしているらしい。アイツはきっと力を隠していると僕の研究者の感がビンビンと言っている。フフフ、研究の為に観測してやる!----ん?なんだあの桃色の煙は…」
( ゚Д゚)
「アア、一服スルノニ外二行カナキャナラナイトハ、嫌ナ時代ダナ」
「ソウダネ」(喫煙者感)
「「ウン?ナンダアレ…」」
( ゚Д゚)
「まったくクッカプーロ(子犬の名前)の奴はしゃぎやがって・そろそろ帰るぞ‼」
「ワンッ!」
「早くしろ!ったく。あぁ?何だあの煙。あ、おい!クッカプーロ!無暗に近づくな…」
( ゚Д゚)