BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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「僕は蛇や」「丸呑みや」
「なら、俺は蛆虫だ」「死肉を食ってたんだぜ」
---とかいうやり取りをやりたかったけど、流石に自重しました。


蛇との出会い

番茶は渋い。玉露は甘い。そして、ほうじ茶は香ばしい。三者三様の特徴は全て美味であると言っていい物だが、各々に個性というものが存在する以上、好みというものは存在する。三つの内で言うのなら、俺はほうじ茶が好きだ。あの澄んだ茶色を見ると心が躍る。

 

先日、十年ほど掛けた長期遠征任務から無事に帰還した俺は流魂街に立ち並ぶ茶屋の一つに入りほうじ茶を啜っていた。三口飲んではみたらし団子を一つ齧り、空を流れる雲をぼぉっと眼で追いながら、思えば随分と時間が立っているなと柄にもなく回想する。

 

俺が山本元柳斎重國と出会い護廷十三隊に入ったのは遥か昔の千年前。

その後、四番隊隊長の職を辞したのが八百年前。ふらふらと瀞霊廷内を歩き回り日雇いの仕事で食いつないで居た所を山本元柳斎重國に見とがめられ第一次特派遠征部隊部隊長として初めての遠征任務についたのが五百年前。

遠征部隊の隊長。どうもこの仕事は俺にあっていた。少なくとも四番隊の隊長として瀞霊廷に詰め、見ず知らずの相手と毎日の様に顔を合わせなけれなならなかった時より、人里離れた僻地へ向かい(ホロウ)を狩っている方が楽しかったので、俺は第一次特派遠征が無事に終わった後も山本元柳斎重國に志願し第二次特派遠征部隊を結成。第一次遠征で気心が知れた仲間十数人を連れて二度目の遠征に出立した。

そんなことを繰り返すこと九十八回。遂にあと二回の遠征で俺の遠征実績は三桁の大台に乗る。

五百年間。良く続いたものだと自分でも感心する。

古い友人である雀部長次郎は褒めてくれるだろう。山本元柳斎重國はもう遠征は良いからいい加減に落ち着いた職に着けと小言を言うに違いない。同期である卯ノ花烈は、まあ、何も言うまい。

ただ彼女には今度菓子折りを持って挨拶に行かなきゃならないだろう。卯ノ花烈と出会った当初、「互いに千年間独り身だったら結婚しよう」とか酒の席でした約束を卯ノ花が覚えているかどうかは分からないが、遠征の為に十年程瀞霊廷を離れており十年前に帰還した際にもあっていない為、考えてみれば百年ほど卯ノ花とは顔を合わせていないので積もる話もあるのだ。

 

「ふう、長生きすると時間の感覚が曖昧になって駄目だな。まだまだ若いつもりなんだが、俺も歳か?いやいや、山本重國に比べれば、まだまだ。…けど、繡助とか見てると俺ももう若くないんだなって思うことがあるんだよな」

 

三回ほど前の遠征任務から特派遠征部隊に仲間入りした若い死神を思い出して、少なくとも今の俺にはあの溌溂とした元気はないと一人で凹む。まあ、千年前の俺にもあんな屈託のない笑顔を浮かべられる純真さはなかった訳だから、あるいは人間性の問題でしかないのだろうけれど、やはり自分にない物を持つ者に憧れる俺の性分は千年前から変わっていない様だった。

――まあ、あまり考えた所で無駄なことか。

そう思考を切り替えて最後のみたらし団子に手を伸ばす。が、もうそこにみたらし団子は無かった。

 

「もぐもぐ」

 

「…」

 

とっておいた最後のみたらし団子は何時の間にか隣に座っていた銀髪で糸目の少年の口の中に消えていた。みたらし団子を口一杯に頬張り咀嚼をする少年は死神装束を着ており、どうやら彼は死神の様だった。顔立ちは天貝繡助と同じ位の幼さを残していた。

銀髪糸目の少年死神は俺の視線には気付いているだろうに、マイペースに咀嚼を続け、みたらし団子を食べ終わるとみたらし団子の隣に置いてあった俺のほうじ茶にすら手を伸ばし、ズズズッと飲み干して言った。

 

「ぷは。僕は蛇や」

 

「………そうか」

 

これが若さかと俺は久しぶりに戦慄した。

 

 

 

 

銀髪糸目の少年死神の名前は市丸ギンというらしい。俺の団子を食べ俺のお茶を飲み干した市丸ギンはその後、歳以上に礼儀正しい自己紹介を俺にしてくれた。

しかし、初対面で盗食という非礼を見せられた以上、それを俺が褒める訳にも行かず等閑(なおざり)ともいえる返礼を俺は市丸ギンに返した。

 

「そか、風守さん言うんね。良い名や」

 

市丸ギンは口元を釣り上げて笑った。

俺は贔屓目に見ても人当たりの良い方ではない。人見知りで口下手で引っ込み思案な性分は千年たっても変わってなんていない。唯一、引きこもりという称号だけは流石に遠征部隊の仕事を五百年やっている身分としてもう名乗る訳には行かないと最近断腸の思いで棄てたが、引きこもりで無くなっただけで人格が明るくなるなんてことは勿論ない。

だから、そんな俺に等閑(なおざり)な返礼なんて返されれば大半の奴らは俺に対して好意なんて抱く訳もなく、それ以上関わろうとしないのだけれど、市丸ギンは何が楽しいのか俺と会話をしようと言葉を投げかけてくる。

 

「風守風穴。漢字で書くと風が重なっててお洒落や」

 

「よく言われる。ついでに名前を書く時にどっちが苗字で名前か解り難いともな。お前も良い名だと思うぞ。市丸ギン。お前は丁度銀髪だし、覚えやすい名前だ」

 

「ありがとう。僕もよう言われるわ」

 

市丸ギンは口元を釣り上げて笑う。

良く笑う子供だとか、そんなどうでもいいことを考えながら俺は市丸ギンの腰に差さる斬魄刀に目を向ける。脇差ほどの長さのそれは、短いながらも見事な斬魄刀だった。

 

「斬魄刀を持ってるってことは、市丸はやっぱり真央霊術院所属(みならい)って訳じゃないんだよな。すごいな、その年でもう護廷十三隊に入隊してるのか」

 

真央霊術院。山本元柳斎重國が死神の育成の為に随分前に立ちあげた死神の学舎。

実際に行ったことも見たこともないが、話くらいは聞いている。確か卒業までは通常六年ほどの時間は掛かるという話だったが、話を聞く内に市丸ギンはその六年掛かるところをたった一年で卒業したらしいことがわかった。

 

「すごいな、お前」

 

「そかな。別にすごくはないと思うけどな。先生も言うとったよ。ボク以外にも飛び級して卒業した先輩はおるって。十三番隊に居る志波海燕さんとか、あと天貝いう死神は僕より若い頃に飛び級して卒業したらしいで」

 

志波(しば)海燕(かいえん)

その名を持つ死神を長らく瀞霊廷を離れていた俺は知らない。しかし、志波家は知っている。少し前に没落する前は大名家として名を馳せていた家系だ。没落後は一族は皆が流魂街に流れたと聞いていたが、気骨のある奴は死神として瀞霊廷に戻っているようだ。その負けん気には素直にすごいなと感心する。

 

そして、天貝繡助。

三回ほど前の遠征から遠征部隊に入った若い死神の顔を思いうかべながら俺はそうだったのかと息を吐く。天貝繡助は所謂天才少年であったらしい。どうりであんなに若いのに時に強行軍と言っていい俺の遠征にボロボロになりながらではあるが付いて来れた訳だ。先日遂に自身の斬魄刀の銘を知り始解も果たしたので副隊長に任命して補佐を任せていたが、これからも目をかけてやろうと決める。

 

しかし、それならばと俺は市丸ギンを見る。

市丸ギンは俺の視線に何ら気後れした様子もなく、どうかしたのかと言いたげに首を傾げた。気骨はあるのだろう。俺の団子とお茶を勝手に飲み食いする性格こそ少しアレだが、それも見方を変えれば豪胆であるという利点ともいえる。そして自分を天才とは思っていないという言動から、自分の才能に溺れるような奴でないこともわかる。

優秀な若い人材というのは、何時だってほしいものだ。主に俺の仕事が少しでも楽になるなら、それほど喜ばしいことはない。

 

「なあ、市丸。お前は今、どこの部隊に所属してるんだ?」

 

「五番隊や。近々席次も貰う予定になっとるよ」

 

「………そうか、五番隊か」

 

一番隊や四番隊なら山本元柳斎重國や卯ノ花烈に掛け合って引き抜けもしたし、あるいは十一番でも無理やり引っ張っていたが、五番隊か。残念ながら知り合いは居ない。現在の五番隊隊長を俺は名前くらいしか知らない。友好を結んだ相手でもない俺がいきなり市丸ギンをくださいと言った所でくれる訳もないか。

残念だが諦める他にないと、ため息を付きながらも俺は未練がましく市丸ギンに先ほどとは違い、しっかりと自己紹介をする。

 

「市丸ギン。さっきは言ってなかったが、俺は特派遠征部隊の隊長を務めてるんだ」

 

「特派遠征部隊?なんやそれ?初めて聞いたわ」

 

「そうか、知らないか。まあ、有名じゃないもんな」

 

瀞霊廷にある組織は護廷十三隊だけじゃない。

有名どころで言えば『隠密機動』及びその配下の『警邏隊』や『檻理隊』など各五部隊や『鬼道衆』。最近は『技術開発局』なんてものも設立されたらしい。ちなみに各組織が何をやっているかを俺はおぼろげながらにしか知らない。そんな人が大勢いる場所に進んで立ち入りたくないという理由から、近づいたことがない。それに俺に言わせれば全部、最近出来た組織だ。それらの組織が出来た頃には俺はもう第○特派遠征で瀞霊廷には居なかった。

 

「特派遠征部隊。正式名称は『特別派遣(とくべつはけん)遠外圏(えんがいけん)制圧部隊(せいあつぶたい)』。良い名前だろ?昔から良い名は体を表すもんだ。長次郎、俺の友人が付けたんだが、まあ、早い話が遠い所に居る(ホロウ)や危険因子を狩りに行く部隊だよ。その特色上、護廷十三隊が編成する普通の遠征部隊じゃ行えない何年も掛かる遠征任務なんかが主な仕事だ。おかげで瀞霊廷に居るより遠征してる時間のが長いんで、あんまり知られてない組織ではある」

 

「そんな部隊があったんやね。知らへんかったわ。真央霊術院でも、そない組織があるなんて習わへんかった」

 

「遠外圏で行われる極秘任務なんてのも扱うからな。気質的には『隠密機動』に近い。あんまり大きな声でいう組織でもないからな」

 

「そか。納得や。で、風守さんは其処の隊長さんなんや。すごいわ」

 

「古株が何時までも居座ってるだけともいえるけどな。まあ、その辺はいいや。それより本題だ。市丸ギン。もし五番隊の仕事に飽きたら、特派遠征部隊(うち)に来ないか?基本的に瀞霊廷勤務の護廷十三隊とは違った楽しみが色々ある」

 

「…僕、今、やらなきゃいけないことがあるんよ。それが終わったら、考えるわ」

 

「そうか。ま、楽しみにしてるよ」

 

予定通りに市丸ギンに振られた俺は凹むことなく茶屋を後にしようと立ち上がる。面倒な招集をサボり、一人一番隊隊舎に置いてきた天貝繡助には迷惑をかけたが有意義な時間だった。

市丸ギンという死神に出会えた。そして何より、市丸ギンと一対一で会話することでしばらく知らない相手と喋っていなかった俺のコミュニケーション力のリハビリにもなった。

これなら無事、いまから一番隊隊舎に向かい山本元柳斎重國達や見たこともない現在の護廷十三隊の隊長達の前に出て今回の遠征の報告を出来るだろう。

声は震えるだろうが、聞き取れないほどではない筈だと安心して俺は瀞霊廷へと向かって行く。

 

そんな俺の背に市丸ギンは声をかけた。

予想できた展開に俺は振り返ることもせずに答えた。

 

「なあ、風守さん」

 

「なんだ、市丸」

 

「どうして僕なんかを特派遠征部隊に誘ったん?話しててわかったけど、風守さんは初対面の碌に経歴も調べてない人にそういうことをする人ちゃうやろ」

 

確かに人見知りで口下手で引っ込み思案で昔は引きこもりだった俺は基本的に他人の口から出た話をあまり信用しない。それが自分は飛び級で死神になった天才だとか、そう言った自分の経歴を華々しく語るものであるなら、なおさらに信じられないと鼻で笑うのが俺という人間だ。端的に屑と言っていい性分の俺は何故、市丸ギンの話を鵜呑みにして彼を特派遠征部隊に誘ったのか。

その理由は、明確だった。

――俺は只、ほうじ茶の様に香しく香る(これ)を捨て置けなかった。

 

「お前こそ、どうして俺に声を掛けてきたんだ?」

 

「…それは、似てるって思ったからや。僕と、同じ穴の狢の匂いがしたからや」

 

「俺も、同じだよ。お前は俺と同じ匂いがした」

 

「そか。―――僕は蛇や。肌は()やい。(こころ)は無い。舌先で獲物を探して這い回って、気に入った奴をまる呑みにする。そういう生き物や」

 

振り返らない。振り返らなくても市丸ギンがどんな表情をしているかはわかる。

きっと、笑っているのだろう。団子を食べお茶を啜っていた時と同じように目を細め、口元を釣り上げて笑っているのだろう。

自分を蛇と称した少年はきっと彼自身が言ったやらなければならないことを終えるまで、その笑みを消すことはないのだろう。

それは覚悟だ。矜持で。願望で。強い意思だ。

けれど、俺はそれをあえて願掛けの様に幼稚だと笑った。

 

「風守さんも同じなんかな?僕と同じ、蛇なんかな?」

 

「いや、俺はお前とは違うよ。蛇などと、上等なモノじゃない。昔、阿片窟(とうげんきょう)にもよく出た。あれはすごい生き物だ。斬っても斬っても生き足掻く。蛇の生殺しなんて言う言葉が出来るほどの、あの小さな個体に秘めた生命力には称賛しかない。その上で感覚も鋭く暗闇の中でも周りが解っていると来たなら、なんとすごい生き物だ。俺なんかとは、比べ物にならないよ」

 

蛇。上等だ。素晴らしいと手を叩きたくなる。

 

「…僕を馬鹿にしてるんか」

 

真逆(まさか)、そんな筈がないと伝える為に俺は振り返る。振り返った先には目的の為に蛇であるとする少年がいた。その意思。馬鹿にできるはずがない。幼稚だと笑おうと嗤うことは決してしない。そう言葉で伝えようとして、俺はやめる。口下手な俺が言葉を並べた所で無為に終わるだけだろうと。

ただ一言、市丸ギンに伝えたかったことを伝えることにする。

 

「まあ、頑張れ(・・・)

 

「―――は?」

 

「お前が何をするのかも何をしたいのかも俺は知らないが、まあ、頑張れ。お前が何を考えて蛇で有ろうとしているかは知らないが、まあ、頑張れ。他ならないお前がそうで在らなければ出来ないのだと感じたのなら、そうなのだろうよ。お前が思うのなら、きっとそれが正答(そう)なのだろう。だから、頑張れ」

 

 

「頑張り終えた後で、良かったら俺の部隊に来い。お前は生き残るべき上等な(いきもの)だ」

 

 

市丸ギンからの反応は暫く無かった。彼は閉じていた糸目は少しだけ開き、呆然とした後で思考を巡行させ、時間を掻けてようやく絞り出すように声を出した。

あまりに小さな声だったが、その呟きは風に乗って俺の耳にまでしっかりと届いた。

 

「…どうして…僕にそんなこと言うん」

 

市丸ギンの疑問は最初から最後まで変わらなかった。

――なぜ自分にそんなことを?

そんなことは答えるまでもなく決まっていることだった。市丸ギン。お前はただ、何も知らないだけだ。千年前、俺が山本元柳斎重國と対峙した時と同じように世間知らずの子供であるだけだ。

 

「知らないのか?蛇は阿片(ゆめ)を見られるんだぞ。それだけで、阿片(ゆめ)を見られない俺よりよっぽど真面(まとも)じゃないか」

 

それにお前は茶屋で俺に声をかけてきた。お前は俺が自分と同じ匂いがするから、声をかけたと言ったが、あれは嘘だろう。俺は解っているさ。()い、()い。お前は救われたいのだろう。善哉(ぜんざい)善哉(ぜんざい)。なら、眼をかけてやろう。

市丸ギン。

 

「救ってやろう。お前のすべてを。俺は、お前が幸せになればいいと願っている」

 

 

 




ちょくちょく名前の出てくる「長次郎」こと一番隊副隊長・雀部長次郎忠息さん。
忠義の為に二千年も卍解を封じていたなんて格好良すぎた。ぜひ活躍させたいと思うのですが、活躍させればさせるほど原作の長次郎さんの格好から遠ざかってしまうのではないかというジレンマ。どうしようもないですね。

卍解『黄煌厳霊離宮』。本当に格好良かったな

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