BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。<(_ _)>




動乱の出会い

 

 

瀞霊廷。東大聖壁(ひがしだいしょうへき)。藍染惣右介の死体が磔にされていたという場所を見上げながら、俺は一人で思案していた。

隣に立つ砕蜂に返事など期待せずにポツリと疑問を漏らす。

 

「全てが終わったと、言ってもいいのだろうか」

 

それはただの独り言。予想通り、砕蜂は返事などせずにフンと鼻を鳴らすだけだった。

俺は独り言を続ける。

 

「山本重國との戦いの後、俺は全てを打ち明けた。百年前の連続魂魄消失事件の真実も”黒幕”と称される者が誰なのかも。何を望み護廷十三隊に刃を向けたのかも。浦原喜助から聞かされた真実を全て伝えた」

 

俺の言葉に砕蜂は今度は反応した。

 

「ならば、もう終わりだろう。たとえ奴が巨大な組織を持ち動いていたとしても、もう終わりだ。奴の企みは潰えるだろう。その理由はたった一言で説明できる。…そうだろう」

 

「ああ、山本重國が動き出したんだ。なら、あらゆる謀に意味はなく。全ては業火に飲まれて消えるだろう。山本元柳斎重國。アレは太陽に等しき男だ。尸魂界の歴史そのものと言っていい男だ。誰も勝てない」

 

故に全ては終わったのだという俺の言葉に砕蜂もまた頷きを返す。

 

全ては終わった。風守風穴という男の戦いは最強の死神と戦い、ギリギリながらも相打ちと言う勝利をもぎ取ったことで終わった。

 

 

そう、思っていた。

 

 

だが、しかし。黒幕は此処で逆転の一手を打ってくる。きっと誰も予想だにしなかっただろうその一手は、確かに盤面を引っ繰り返す打への威力を有していて、あまりに無謀と言っていい手段は、だからこそ急所へと刺さるのだと俺は理解した。

 

「風守隊長」

 

懐かしい声に振り返れば、そこには死んだはずの藍染惣右介が立っていた。

 

「………惣右介」

 

「藍染‼貴様ァ‼」

 

藍染惣右介の姿を見て血気に逸る砕蜂を手で制し、俺は藍染惣右介を見る。涼し気に微笑むその表情は、俺を前にしても欠片の緊張感もなく。藍染惣右介という男が窮地において(なお)、悠然と構えるだけの胆力があるのだと実感させる。

 

俺は藍染惣右介を前にして震える程の恐怖を抱いた。

その震えを感じ取ったのだろう。隣に立つ砕蜂は信じられないモノを見るような眼で俺を見ていた。

 

久しく感じる”恐怖”と言う感情。それに対する”情けない”という感情を、俺は持ちえない。恐れない筈がない。怖くない筈がないのだ。

目の前にいる男はたった一人で俺や山本元柳斎重國や卯ノ花烈、雀部長次郎が千年間をかけて築き上げた護廷十三隊と言う組織をかき乱した怪物。

その才覚は、きっと---俺の、遥か上をいっているのだろう。

 

「…全てが終わった。そう思いたかった。だが…惣右介。お前が俺の前に現れたという事は、まだ終わってなどいないのだな?藍染惣右介は、まだ終わりではないのだな?」

 

「風守隊長。私は君を警戒していた。いや、君だけじゃない。君達を、だ。千年前、護廷十三隊という組織を築き上げた君達はおそらく今の私と同等のチカラを有していることはわかっていた」

 

言外に自分は俺達と同じだけのチカラを有していると語る藍染惣右介の言葉におそらく嘘はない。

砕蜂を守るように俺は身体を前に出し、砕蜂を藍染惣右介の視線から隠す。

抗議の視線を向ける砕蜂に済まないと笑いかけて、だが、仕方がないだろうと視線を送る。

藍染惣右介は強い。おそらく俺や卯ノ花烈、雀部長次郎と同列に考えて言い程の力を持っている筈だ。

 

「そして、だからこそ、(くだ)す価値がある」

 

藍染惣右介はそう言って斬魄刀を抜いた。藍染惣右介の臨戦態勢を目の前にして理解する。

語り上げた実力と込められた殺意は本物で藍染惣右介という男はきっと本来であるならば次代を担う死神達の先頭に立つべき死神だった。

朽木ルキア。市丸ギン。天貝繡助。俺の脳裏に未だに若くも力強い死神達の顔が浮かび、それを従え立つ藍染惣右介の背に『一』の字を見た。

 

苦し気に顔が歪み。無意識に頬を涙が流れた。

 

そして、俺は理解する。俺はこの男を死なせたくないのだという事を。

 

「………惣右介。止めろ。俺はお前と戦いたくない」

 

「なら、君は許すと?四十六室を操り護廷十三隊を危機に晒した私を許すと君は言うのか?」

 

微笑みながらも決して目が笑っていない顔で言う藍染惣右介に、俺は混濁した眼で笑いながら言う。

 

「ああ、俺はお前の幸せを心の底から願って---

 

「ならば、やはり私は君を斬ろう」

 

---…何故?」

 

「私を許すという君は、きっと君の中で私の上に立っている。『君がそう思っているのなら、君の中ではそうなのだ』でしょう?風守隊長」

 

「…惣右介っ」

 

「私は常に私を支配しようとするものを打ち砕く為にのみ動く」

 

問答は終わりと言いながら、藍染惣右介は握っていた斬魄刀を逆手に持ち替え切っ先を地面に向けると歌うように涼しい声で言った。

 

「砕けろ『鏡花水月(きょうかすいげつ)』」

 

途端(とたん)、ナニカが崩れ去る様な音が聞こえ、視界を遮る白く眩い光が周囲を包んだ。一瞬、生まれてしまった隙を突き向かってくるだろうと思っていた刃は、しかし、無く。代わりに勝利を確信した様に()()に笑う()()()()()声が聞こえてきた。

 

「私の斬魄刀『鏡花水月』の能力は完全催眠。始解を解放する瞬間を一度でも見た者の五感、霊感の全てを支配し、対象を誤認させることが出来る。その能力は、たとえ阿片に痴れない強靭な肉体を持つ君だとしても例外はない」

 

身体の震えが大きくなる。噴き出す汗は先ほどの比ではなく、その目の前にいる男の姿に生存本能が敗北を悟る。生きろと叫ぶはずの身体が二度目は無理だから諦めろと言ってくる。

その姿を見ただけで生きることすら放棄させる最強の名は

 

「山本、重國」

 

山本元柳斎重國がそこに立っていた。いや、無論、それが山本元柳斎重國本人ではないことは分かっている。藍染惣右介の口から語られた斬魄刀『鏡花水月』の能力・完全催眠。

目の前の山本元柳斎重國は完全催眠により見せられている幻に過ぎない。

だが、五感の全てが目の前の幻を本物だと訴えて来ていた。

 

「完全催眠。なるほど、その脅威だな。だが、()()()。あまり俺を舐めるな。幻と分かっているのなら、恐怖を拭うのに『鴻鈞道人』が齎す仙丹も必要ではない」

 

「わかっているさ。だから、こうする」

 

---黒白の(あみ)。二十二の橋梁。六十六の冠帯。足跡(そくせき)・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列。太円に満ちて天を挺れ---

 

「縛道の七十七。天挺空羅(てんていくうら)

 

詠唱破棄を行いながら紡がれた鬼道は縛道の七十七。『天挺空羅』。霊圧を網状に張り巡らせ複数人の対象の位置を捜索・捕捉し伝信するその軌道は元来、多くても十数名までの人数しか言葉を届ける事はできない。

しかし、藍染惣右介はそれを瀞霊廷に居る護廷十三隊全体に向けておこなってみせた。

 

そして、それは、護廷十三隊という組織が瓦解するだろう奇手。勝ち目などないと思われた局面で起死回生の一手を藍染惣右介を打つ。

 

『護廷十三隊全体に告げる。護廷十三隊に反旗を翻した大罪人の名は…風守風穴。護廷十三隊隊士は風守風穴を見つけ次第、処刑せよ』

 

斬魄刀『鏡花水月』の能力により『天挺空羅』で伝わる声と霊圧は護廷十三隊総隊長。山本元柳斎重國のモノ。それが護廷十三隊全隊士へと伝えられた。

 

俺の後ろに居た砕蜂がもう我慢ならないと吠えた。

 

「藍染、貴様ァ‼」

 

俺もまた苦々し気に顔を顰める。思わず漏れる苦悶の声に藍染惣右介は笑っていた。

こうなってしまえばもう混乱は避けられない。今から本物の山本元柳斎重國が藍染惣右介の言葉を訂正したとしても一般の隊士達はどちらが本物なのかの判断が出来ないだろう。

 

盤上は混乱し、局面は予想できない事態へと落ちる。

 

ソレを塞き止めようと俺は斬魄刀『鴻鈞道人』を引き抜くがもう遅い。

藍染惣右介は斬魄刀『鏡花水月』の能力で俺たちの目の前から姿を消した。

 

 

「天国無き世に阿片窟(とうげんきょう)を作り上げ、伝説となった阿片窟(桃源郷)の番人。あるいは君は、天に磔にされた『霊王(かみ)』よりも、上り詰めた男だ。しかし、その伝説は千年前に燃え朽ちた。ならば---次は私が天に立つ」

 

 

最後に残った藍染惣右介の言葉は風に吹かれて消えていく。

 

 

残された俺達はこれからどう動くべきかを思案する。藍染惣右介の後を追おうにも斬魄刀『鏡花水月』の能力だろうか、藍染惣右介の霊圧は遮断されていて痕跡一つ感じ取ることが出来ない。ならば、闇雲に藍染惣右介を探すか?否、そんな真似をしようものなら、偽の情報を『天挺空羅』によって与えられてしまった護廷十三隊の隊士達の手によって俺は追われることになる。ただでさえ侵入者として追われていたのに、次は総隊長命令により問答無用でかかってくるだろう隊士たち全てを桃園のユメに沈めていては、その間に藍染惣右介に逃げられるだろう。

ならば、どうする?

 

思考の末に俺は原点に立ち返る。

 

「砕蜂。朽木ルキアの元に向かおう」

 

「朽木ルキアの元へだと?…此処は一度、総隊長殿の元に戻り指示を仰ぐべきではないのか?至急、総隊長殿に各隊へ本当の裏切者が藍染であることを伝えて貰わねばならぬだろう」

 

「それは山本重國が勝手にやる筈だ。長次郎も付いている以上、事は迅速に進むだろう。俺の手は要らない。それよりも、朽木ルキアが”鍵”だ。此処に来る前、俺は浦原喜助から惣右介の狙いについて大体は聞いていた。その中で、浦原喜助が朽木ルキアを”鍵”だと言った。『崩玉(ほうぎょく)』という物質を朽木ルキアの中に隠したと。それがどんな力を持つかは知らないが、惣右介はそれを狙っているらしい」

 

「………この状況で、私の判断ではなく、あの男の話を信じるのか?」

 

「浦原喜助の策に今のところ外れはない。山本重國も浦原の策が無ければ倒せなかった。それは事実だろ?」

 

問いかける俺に砕蜂は顔を合わせることはせず、そっぽを向いたまま不満げに顔を顰めていた。だが、続く言葉は無いようで歩き出せば素直についてきてくれる砕蜂にありがとうと伝えた後、俺達は朽木ルキアの元へと向かう、

 

場所の目星はついている。尸魂界に来る前に浦原喜助から、何かあった時は隠れ家にでもしてくださいと伝えられていた浦原喜助と四楓院夜一が護廷十三隊に所属していた頃に作ったという秘密の遊び場にきっと四楓院夜一達はいる筈だ。

 

 

 

 

 

 

不安があった。不審から生まれた一抹の不安は護廷十三隊十番隊隊長、日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)の心を苛みながらも突き動かす原動力となり、その足を動かさせていた。

昨日、何者かによって殺害された藍染惣右介が己の副官である雛森(ひなもり)(もも)に残した手紙。それには他ならぬ日番谷冬獅郎自身が朽木ルキアの殛刑(しけい)の際に使用される『双殛』を使って尸魂界の破壊を目論んでいると書かれていた。

しかし、言うまでもなく日番谷冬獅郎は自分がそんなことを目論んではいないことを知っている。

 

---ならば、手紙は改竄(かいざん)されていたのか?

---誰がそんなことをするのか?

 

幼いながらも隊長にまで上り詰めた聡明な頭脳で思考をする中で齎された新しい情報。

縛道の七十七。『天挺空羅』にて聞こえてきた山本元柳斎重國の声は全ての黒幕が元『特別派遣遠外圏制圧部隊』部隊長、風守風穴だと告げてきた。

 

---だが、数日前まで尸魂界を追放されていた罪人に本当に全てを仕込むだけの時間と機会があったのだろうか?

---もしあったとしても何故、風守風穴は面識も無い日番谷冬獅郎の名前を藍染惣右介の遺書の中で出したのか?

 

疑問が疑問を呼び、問題は積み重なるばかり。

 

「松本。行くぞ」

 

「行くって、日番谷隊長。総隊長の命令通り、風守風穴の捜索を?」

 

護廷十三隊十番隊副隊長であり自身の副官である松本乱菊の問いに日番谷冬獅郎は眉に皺を寄せながら首を横に振る。

 

「いや。今回の件、やっぱりどこか、きな臭い。藍染から雛森にあてた手紙の内容の件もある…確かめなきゃ、動きようがねぇ」

 

「確かめるって、まさか隊長。四十六室に向かう気ですか?いくら隊長とは言え、戦時特例が発令されている状況で面会は無理です」

 

「扉が閉まってたら、蹴破ればいいんだ。今はそういう事態だ。松本。これから四十六室へ向かう道中、斬魄刀を手放すなよ」

 

「………はい!」

 

そうして日番谷冬獅郎は松本乱菊を伴い中央四十六室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「あかんわ。これ。どないするん?」

 

縛道の七十七。『天挺空羅』にて聞こえてきた山本元柳斎重國の声を聞いて、護廷十三隊三番隊隊長、市丸ギンは空を仰いだ。快晴の青空に響いた声は勝ったと思われた局面で、起死回生の一手を打ってくる。

 

---裏切りの大罪人は藍染惣右介でなく風守風穴である。

---諸悪の根源は風守風穴であり、全ての罪科は風守風穴にある。

---あの男がいたから瀞霊廷は混乱し尸魂界の秩序は乱されている。

 

風守風穴(あの男)が全て悪い。そう言われたら、もうお終いだ。返す言葉など何もなく、大半の者達は伏して虚偽の真実を受け入れながら、曰く正義曰く正義と風守風穴に刃を向けるに違いない。そこに藍染惣右介の弔いの意を介入させるのなら、なんて悪い冗談だろうか。

しかし、それも仕方のないこと。

 

「だって、本当や。風守隊長が、悪者なのは」

 

尸魂界の最果て、地獄と称していい環境に遠く昔から存在する阿片窟(とうげんきょう)という必要悪。其処に君臨する番人。中毒者(じゃくしゃ)達の守人。混濁した眼に笑みを携え阿片を齎す生粋の狂人が”悪”で無い筈がなく、風守風穴が諸悪の根源である。

阿片(ユメ)を巡り巻き起こる惨劇と犠牲の全ての罪科は風守風穴にある。

あの男がいたから瀞霊廷は混乱し尸魂界の秩序は乱されている。

 

「なにも間違ったこと言うてへんよ。本当のことや。…けど、それは困るわ。僕はあの人に賭けた。裏切りは今や。この時、ようやく藍染惣右介という化け物の首に鎌がかかる。文字通り、死神の鎌が。そう思うたから、僕はこうして立ってるんよ。---だから、あの人を殺させる訳にはいかんわ」

 

「い、市丸隊長!な、なにを!?」

 

「突然、どうされたのです!?」

 

縛道の七十七。『天挺空羅』により発せられた総隊長命令の通りに旅禍達と共に瀞霊廷へと侵入し、瀞霊廷にて破壊の限りを尽くしている巨悪・風守風穴を追わんとする護廷十三隊の隊士達の前に市丸ギンはふらりと現れ立ちふさがった。

手に持つ脇差程度の長さしかない斬魄刀を振るい、並みいる隊士をなぎ倒していく。

 

「ら、乱心!市丸隊長‼ご乱心‼」

 

「誰か他の隊長格を呼んで来い‼我々が敵う相手じゃない‼」

 

「君、うるさいなァ。本当に別の隊長さんが来たら、どうするん?ちょっと黙っててなァ。---射殺せ『神鎗(しんそう)』」

 

護廷十三隊の隊長格。その肩書は伊達ではない。席次が一つ違えば、生物としての種類が違うと言っていい。(くわ)え、普通の隊なら三席と副官の差は更に隔絶されたものとなる。

ならば、一般隊士が隊長格に叶う筈がなく並みいる隊士をなぎ倒して進む市丸ギンの進行を妨げられるものは現在、この場には誰もいない。

いや、仮に居たとしても市丸ギンを止めることなど出来なかっただろう。何故なら、市丸ギンの横には彼に従うように歩く二人の隊長格が居たのだから。

 

「き、吉良副隊長‼どうか市丸隊長を止めてください‼」

 

「雛森副隊長‼貴方までどうして!?」

 

市丸ギンの両脇には護廷十三隊三番隊副隊長、吉良イズル。同じく護廷十三隊五番隊副隊長、雛森桃の姿があった。

吉良イズルは市丸ギンの傍から見れば狂ったとしか言えない行動に気まずげに目を反らしながら助けを求める隊士たちの声に「すまない」と小さい声で繰り返していて、雛森桃はそんな光景すら見ないとでも言うかの様にぼんやりとした目で何処か遠くを見ながら優しく微笑んでいた。

 

目の前にいた隊士達を粗方片づけた市丸ギンは吉良イズルへと目を向け、口元に蛇のような弧を描きながら笑う。

 

「イズル。なんで目を反らすん?まるで僕が悪いことしてるみたいやないの」

 

「いえ、市丸隊長。そういう事ではないのですが…すいません」

 

「嘘や。謝らなくてもええよ。イズルの気持ちもわかる。傍から見たら、僕は狂って仲間に刃を向ける狂人やもんな。目ぇ反らしたくもなるわ」

 

カラカラと乾いた声で笑った後、しかしと市丸ギンは目を細めた。

 

「流石に出会う隊士全員に本当のことを説明してる暇はない。説明した所で、信じてもらえるとも思わへんし、時間がない。此処は無理を通す場面や」

 

そう言って市丸ギンは再び笑うと、斬魄刀を納めて歩き出す。

 

「ほな、行こうか。イズル。雛森ちゃん。全ては、護廷が為や」

 

桃園に霞む理想郷を目指して蛇は笑いながら這いずる。

 

 

 

 

 

 

山本元柳斎重國の『天挺空羅』によって聞こえてきた”風守風穴”という文字の羅列は護廷十三隊六番隊隊長、朽木白哉にとって忌むべきものでしかなかった。

しかし、朽木白哉は何も最初から風守風穴を嫌っていた訳ではない。相手は千年前から護廷十三隊に在籍し護廷十三隊の基礎を築き上げた傑物。尊敬の念は人並みに持っていたし、隊長の職務の中でちらりと山本元柳斎重國や雀部長次郎から聞かされた風守風穴の持つ能力に上には上が居るのだと憧れにも似た念を抱いてもいた。

しかし、それはあまりにもあっさりと崩れ去る。

 

それは浦原喜助らの裏切りにより九人もの隊長格が犠牲となった事件の後、その穴を埋める為に風守風穴が三番隊隊長に任命された頃。同時期に朽木白哉もまた無き祖父の後を継ぎ六番隊隊長へと就任し忙しい日々を過ごしていた。

その隙を突くかのように風守風穴は朽木白哉の義妹である朽木ルキアに魔の手を伸ばしてきた。

 

四番隊隊舎からの連絡で朽木ルキアが阿片の毒によって倒れたと聞いた時、朽木白哉の心がどれほど揺れたか。亡き妻の忘れ形見である義妹に迫った危機を前にした朽木白哉の心情を図ることは出来ない。急ぎ向かったその場所で立っていた元凶に向けて怒りを隠さず朽木白哉は口を開いた。しかし、元凶である男は何も堪えた様子もなく、緊張しているのかなどと訳の分からないことを言った挙句、笑いながら言ったのだ。

 

---お前にも用立ててやろうか?と。

 

あの時ほど、誰かに対して怒りを抱いた事はなかった。

朽木白哉とって風守風穴は忌むべき相手であり、そんな相手に何故か懐いてしまった義妹に歯噛みする日々を過ごし、過ごす内に怒りはさらに募っていった。

 

だから、朽木白哉は風守風穴と再会した時、らしくもない怒りにかられ早計に剣を向け、結果として倒れた。

倒れた後、その場に居合わせた護廷十三隊十三番隊隊長、浮竹十四郎により四番隊隊舎へと運ばれ治療を受け、眼を覚ました朽木白哉は己の愚かさを呪った。

 

あの男が成した功績は知っている。あの男の能力の高さを知っている。だというのに怒りにかられ、軽挙に走り無様に敗けた。知っていた筈の強さを前に怒りを持って対することの何と愚かしいことか。だが、次は勝つ。

 

回復した朽木白哉は風守風穴を追う。

 

 

 

 

 

 

「よっ。ほっ。とうっ。やっ。」

 

カランコロンという下駄の音と共に『王属特務』兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべい)は『霊王宮』から瀞霊廷へと下る為の螺旋階段を駆けていた。

空に浮かぶ『霊王宮』から瀞霊廷への距離はおおよそ普通に瞬歩で向かって一週間ほどという長いの距離。勿論、有事の際には瞬時に瀞霊廷へと降りられる『霊王宮』だけに存在する超霊術を元に作り出した『天柱輦(てんちゅうれん)』という乗り物もあるのだが、『王属特務』としての任務でもない、「気になるから行ってみようかの」なんていう気持ちで瀞霊廷へと向かう兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべい)一人の為に『天柱輦(てんちゅうれん)』を使える筈もなく、兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべい)は自分の足で瀞霊廷へと降りていた。

 

「普通の死神の瞬歩で一週間。が、儂なら半日で着く。それまでの間に全て終わっておるかもしれんが、まあいいか」

 

黒々とした髭を携えた坊主頭の身体の大きな死神、兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべい)は見た目通りの鷹揚な考えのまま左程急ぐことも無く行く。

 

その道中、しかし、成り行き位は見ておくかと外見から感じさせる年齢からは考えられない程純粋に輝く少年のような(まなこ)で下を除き込めば、そこには三つの局面があった。

 

 

 

凍てつく龍に選ばれた才能溢れる若い死神に対峙する生前の(とが)を負い畜生道へと堕ちた死神の戦い。

一人の男と出会い桃園の夢を見た蛇と蛇に率いられる中毒者(じゃくしゃ)達と一人の女に出会い戦狂いとなった鬼子と鬼子の背に最強を見た(きょうしゃ)達の戦い。

朽木ルキアの命を救う為に戦う狂人と妹の誇りを守る為に戦う義兄の戦い。

 

日番谷冬獅郎 対 狛村(こまむら)左陣(さじん)

市丸ギン 対 更木(ざらき)剣八(けんぱち)

風守風穴 対 朽木白哉

 

瀞霊廷は二つに割れていた。

 

 






(; ・`д・´)まだだ!まだ終わらぬよ‼

※この作品の藍染様は必死です。

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