BLEACHの世界でkou・kin・dou・ziィィンと叫びたい   作:白白明け

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太陽との出会い方①

 

 

本来、勝ちを拾える筈など無かった雀部長次郎との戦いを卯ノ花烈の機転によって潜り抜けた俺の歩みを妨げる者は最早いない。

 

---貴様何者だ!

---これより先は懴罪宮!立ち入り禁止の命が出ている!

---立ち去れ!

 

「待っていろよ。朽木ルキア。俺がお前を救ってやろう」

 

斬魄刀を静かに抜いて、『鴻鈞道人』の名前を呼ばずに斬魄刀を始解する。立ちふさがる者達を幸せな夢の中へと沈めながら静かに歩く。ここから先は砕蜂に倣い隠密行動だ。

雀部長次郎との戦いで些か俺は目立ち過ぎた。

雀部長次郎の卍解『黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』から放たれた落雷はこの戦いの行く末を何処かで見ている山本元柳斎重國に俺の敗北を伝え、そして、続き鳴り響いた雷鳴が俺の存命と雀部長次郎の敗北を伝えただろう。

己が副官たる雀部(ささきべ)長次郎(ちょうじろう)忠息(ただおき)の敗北。その事実を知れば山本元柳斎重國も重い腰を上げるだろう。

そして、俺を斬りに来るに違いない。

元は部下や仲間の命に灰ほどの重さも感じなかった剣の鬼。千年の時を越えて尚、その本質は変わってなどいない。

もうじきに最強は動き出す。

ならばその前に俺は朽木ルキアを救い出さなければならない。

それが万に一つ残された俺の勝機。

 

---故に痴れろと、懴罪宮を警備する死神達に声をかける。

 

そうして先を急ぐ俺は懴罪宮の牢と詰め所を繋ぐ大橋の半ばで見知った顔を見つけたことに安堵した。

 

「善哉善哉。間に合ったようだ」

 

クスリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朽木ルキアは感情の波に飲まれていた。

朽木ルキアは殛囚(死刑囚)として捕らわれていた懴罪宮の中で数多の霊圧の衝突を感じていた。霊圧を遮断する殺気石(せっきせき)の中にすら反響する程の巨大な霊圧同士のぶつかりを少なくとも三度以上は感じていた。

戦っているのは誰か。敗れたのは誰か。死んだのは誰か。殺気石(せっきせき)に響いた反響は乱反射によって霊圧の痕跡を消していく。

何も解らない闇の中で不安を募らせる最中に朽木ルキアは紆余曲折を経て黒崎一護と行動を共にすることとなった護廷十三隊四番隊第七席山田(やまだ)花太郎(はなたろう)と流魂街の花火師志波(しば)岩鷲(がんじゅ)の両名によって懴罪宮の牢から解放された。

 

しかし、混乱の最中で喜ぶ暇もなく懴罪宮の牢と詰め所を繋ぐ大橋にて義兄朽木白哉と鉢合わせる。

 

---仲間を見捨てて逃げられる様な腑抜けじゃない。

朽木ルキアを救う為に朽木白哉に戦いを挑む志波岩鷲に対して、掟を守る為だと朽木白哉の斬魄刀は振るわれた。

 

「そうか…貴様は志波家の者か…ならば、手を抜いて済まなかった…」

 

志波岩鷲は倒れた。次いで山田花太郎を狙い振るわれかけた朽木白哉の斬魄刀を止めたのは護廷十三隊十三番隊隊長浮竹(うきたけ)十四郎(じゅうしろう)。朽木ルキアの直属の上官に当たる男は朽木白哉の先走った行動を止めた後、朽木ルキアに朗らかに笑いかけた。

 

「おーす朽木!少し瘦せたな大丈夫か?」

 

浮竹十四郎の登場によって取りあえず自分を救ってくれようとした山田花太郎と志波岩鷲の命の安全は保障された。その事に安堵する朽木ルキアだったが、直後に感じた接近してくる巨大な霊圧によって再び困惑する。

 

「な…なんだこの霊圧は!?明らかに隊長クラスだぞ‼…だが、知らない霊圧だ…!誰だ!?」

 

同じく困惑する浮竹十四郎とは違い、朽木ルキアと朽木白哉にはこの霊圧に覚えがあった。

 

「…こ…この霊圧の感覚は…まさか…」

 

黒崎一護がそこには居た。

 

「…ルキア。助けに来たぜ」

 

「…」

 

「なんだその顔!?助けに来てやってんだから、もうちょっと嬉しそうにしろよ」

 

「…莫迦者(ばかもの)……!来てはならぬと言った筈だ…あれほど……追ってきたら許さぬと…!」

 

「…ルキア」

 

強敵との戦いで傷を負った黒崎一護の身体を見て朽木ルキアの眼に涙が浮かぶ。

 

「ぼろぼろではないか…莫迦者」

 

朽木ルキアは感情の波に飲まれていた。

それは殛刑(死刑)を受け入れ死を受容していた朽木ルキアの凍った心が動かされた証だった。

    

 

                                                             

「愛い愛い。だから俺はお前たちが大好きだよ」

 

 

 

 

そして、此処にもう一人。朽木ルキアを救う為に男がやってくる。

希望を目指し勇気を抱いて立つ黒崎一護の輝く瞳とは対照的に混濁した眼で薄ら笑いを浮かべる男は、だがしかし、愛や勇気と言った青臭いモノを心の底から愛していて、だからこそ、朽木白哉を前にお前を倒すと言った黒崎一護の行動に心の底から感動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒崎一護と朽木ルキアの再開によって流れた桃色の空気の中、介入のタイミングを逃していた俺はひと段落つくのを待ってから声を掛ける。

 

「朽木ルキアを救うとよく吼えた。黒崎一護、俺はお前の様な男が大好きだ」

 

故に朽木ルキアを救うのがお前であるのなら嬉しいと笑いながら、俺は懴罪宮の牢の屋根から大橋の上に降りて黒崎一護と朽木白哉の間に入った。

 

「アンタ、何時から居たんだ?」

 

「いや…まさか、何故あなたが…」

 

俺の唐突な登場に驚きを隠せない黒崎一護と朽木ルキア。

対して対面に立つ朽木白哉と浮竹十四郎が風守風穴の登場に驚きながらも冷静さを保っていた。おそらくは先刻に起きた俺と雀部長次郎との戦いで瀞霊廷の一角が壊滅するほどの霊圧のぶつかり合いを感じ取っていたからだろう。

 

「風守風穴。やはり、来てしまったか…」

 

浮竹十四郎は焦燥を隠すことなく歯噛みする。

 

「…風守風穴。そうか、旅禍と共に(けい)もまた愚妹を助ける気なのか。ならば、旅禍諸共に私が消そう。それで終わりだ。この些細(ささい)な争いのすべてが終わる」

 

「待て!朽木隊長‼」

 

「散れ『千本桜(せんぼんざくら)』」

 

浮竹十四郎の声に耳を貸すこともなく朽木白哉は斬魄刀を始解する。

斬魄刀『千本桜』はその刀身を目に見えない程の無数の刃へと分裂させた。無数の刃は日の光を受けまるで花弁を思わせる桜色に輝きながら俺の身体をを襲う。

数瞬の後に無数の刃が俺の身体を切り刻む---筈だった。

 

「…なに?」

 

切り裂いた筈だった。朽木白哉は『千本桜』を俺を斬り裂く様に操った。だが、俺はそれに対して何の反応も示すことは無く、何の反射も示すことなく無傷でただ笑ってみせた。

朽木白哉は直後に『千本桜』から伝わってくる感覚に困惑したことだろう。それは『千本桜』の始解を果たして以降の修練で『千本桜』を己の手足の様に操れるようになって以来、感じたこともない感覚だった筈だ。

 

「『千本桜』の手綱が、切れている?(けい)、一体なにをした?」

 

まるで誰かに操られてでもいるかのように『千本桜』が思うように操れないと言いたげに俺を睨みつける朽木白哉

その原因は言うまでもなく俺にあった。

俺はああと、事も無さげに言葉を放つ。

 

「俺の『鴻鈞道人』は朽木白哉、お前のモノと違って始解後の変化に乏しい。変化は切っ先に四連の穴が開く程度。そこから漏れ出す阿片の毒もこんな風通しの良い場所では直ぐに風に流されて消えてしまう。だから、気づかなかっただろう?『千本桜』は既に”落魂陣(らっこんじん)”へと堕ちている」

 

「”落魂陣”だと?」

 

「『鴻鈞道人』から生成される阿片特性の変化。墜落せし逆さまの(はりつけ)()って性命双修(せいめいそうしゅう)(あた)わざる(もの)()ちるべし。落魂(らっこん)(じん)の能力は斬魄刀を痴れさせること。『千本桜』はもうお前からの命令を正しく認識できない」

 

---斬魄刀を狂わせる斬魄刀『鴻鈞道人』の能力。その凶悪さにその場の誰もが息を飲む。

---敵を斬る為に共に研鑚を積んできた斬魄刀の裏切りともいえる行為を容易く実現させる男の言葉を聞いて朽木白哉の脳裏に鎧武者の姿をした女が苦しむ姿が浮かび、黒崎一護の脳裏のは黒衣を纏った男が忌々し気に顔を顰める姿が浮かんだ。

 

(けい)。自分が何をしているのか、理解しているか?(けい)は今、私の誇りに刃を向けているのだぞ」

 

「誇り?義妹に刃を向けながら、誇りなどと大層な口を叩くなよ。肉親の情に勝る誇りなどないだろう。何故救わぬ。何故助けぬ。助けを求める弱者(かぞく)の声に、なぜ耳を貸そうとしないのか…俺にはわからない」

 

「…そうか。(けい)には無いのだな。己が感情より優先すべき”(おきて)”と言う枷が。獣と人を分けるそれすら持たぬ(けい)に、最早問答は無意味か」

 

---ならば、静かに死ねと告げながら朽木白哉は再度『千本桜』を操った。

『鴻鈞道人』から生成される”落魂陣”の毒は斬魄刀を痴れさせ攻撃を反らし動きを止めることができる。しかし、それはあくまで一時的なモノ。人がそうであるように斬魄刀もまた阿片の毒を吸い続けることである程度の耐性を持つことができる。

故に時間が経てば斬魄刀は墜落の夢から覚める。

しかし、俺は驚いた眼で朽木白哉を見ていた。

 

”落魂陣”が時間と共に解けることはわかっていた。しかし、早すぎると驚愕して、嬉しぞと笑みを浮かべる。

 

「流石は歴代最強の朽木家当主か。なるほど、その肩書きはどうやら法螺(ほら)ではないらしい。だが…」

 

---”落魂の陣”阿片濃度強化。

 

「俺が『鴻鈞道人』に込める霊圧を高めれば、『千本桜』は再び散るぞ?」

 

「なん…だと…」

 

再度、動きを止めた『千本桜』を目に止める事も無く俺は朽木白哉の懐へと瞬歩で近づいていく。不用心と言っていい俺の接近は普段の朽木白哉であれば即座に斬り返せるモノだっただろう。しかし、自身の斬魄刀が二度に渡り拘束されるという衝撃を受けた一瞬の隙を突いて行われた俺の肉薄は不意打ちとして効果的に機能していて。

 

あまりにも呆気なく朽木白哉は肩から鎖骨までを切り裂かれた。

 

「朽木白哉。確かに強い。だが、お前は所詮、朽木家に置いての最強でしかない」

 

生きることは戦いである。ただ生きる魂魄や人間達ですらそうであるなら、虚と戦い人間を守ることを生業とする死神の場合は更に顕著(けんちょ)だろう。

その中で千年以上を生き抜いた死神(もの)がいるのなら、その力は現代を生きる死神達にとって最早理解の外だろう。

驕りではない現実として言うのなら、俺は強い。

始解に対して卍解を(もち)いてやっと互角に渡り合える。

あるいは弱点を突き戦わなければ十合も持たないだろう。複数で挑むべき相手(てき)だ。

その事実を朽木白哉は軽視していた.

あるいは認識していても尚、正面から挑まなければ、ならなかった。

 

---朽木白哉は義妹(ルキア)を斬ると言った。

---そう言ったのなら、義妹の前で敵が強大だからと言って剣を引く訳にはいかなかった。

 

朽木白哉は前のめりに倒れた。

 

「兄様!」

 

倒れていく義兄を前に思わず出た朽木ルキアの声。

その声に反応して俺は朽木ルキアと黒崎一護たちの方を振り向いた。

 

---朽木白哉は敵だった。そして、風守風穴は味方だ。それを黒崎一護は理解している。

---だが、理解している筈なのに思わず黒崎一護は朽木ルキアを守るように前に出て、風守風穴に斬魄刀の切っ先を向けていた。

 

「なっ、い、一護!何をしているのだ!」

 

朽木ルキアは倒れる朽木白哉を前に確かに声を出した。だが、それは自分を助けるために仕方無くやったことだと理解している。

確かに自分を心配してくれることは嬉しいが、味方である筈の俺に斬魄刀を事はやり過ぎだと(たしな)める朽木ルキアの声に、黒崎一護は動揺した様子で斬魄刀『斬月(ざんげつ)』の切っ先を下した。

 

「わ、悪い。風守さん。その、俺…」

 

「良い良い。気にするな。初めての戦場での混乱など、よくあることだ」

 

思わず剣を向けてしまったことに罪悪感を抱く黒崎一護を励ましながら、俺はさてと振り返り浮竹十四郎の方に身体を向ける。

朽木白哉は倒れたが、未だに朽木ルキア救出の脅威となる者はいる。

今は敵と呼ぶべきかつての仲間に背を向けるという隙を晒した事を恥ながら、俺は笑う。

 

霊圧を受けて浮竹十四郎の足が半歩下がった。

 

勝敗は既に決まっていた。

浮竹十四郎は病に侵され今の今まで寝込んでいた身。対して俺は風邪一つ引いたことのない強靭な身体を持つ健康優良児だ。加えて積み上げてきた年月が違う。

護廷十三隊の古参と呼んでいい十三番隊隊長である浮竹十四郎だが、積み上げた年月が四桁をこえる俺と比べれば差は歴然。

 

その差を覆すだけの才能が浮竹十四郎にあればよかった。

---否。才能を持つのが浮竹十四郎だけであればよかった。

 

浮竹十四郎は才能ある死神だ。身体は弱いが寛厚(かんこう)で人望厚く人の上に立てる器を持っている。そして、ひとたび戦いとなれば、その力は超軼絶塵(ちょういつぜつじん)。同輩にも先達にも並ぶ者はない。あの山本元柳斎重國にして替えの利かないと言わしめる隊長格。

 

だが、しかし、俺も才能(それ)は同じ。

 

故に勝敗は既に決まっていた。

 

 

 

 

その勝利を掻き消すように声が聞こえた。

 

 

 

「痛恨なり」

 

 

 

独り言のように呟かれた一言に俺は即座に敗北を悟る。

肌で感じる悪寒は最早暑く、一呼吸で吸えるだけの空気が10㏄を切っている。緊張感などという生易しい感覚ではなく、物理的に霊圧によって肌を刺激させられる感覚はどこ場に居る誰もの足を止めさせる。

 

「---あっ」

 

朽木ルキアが霊圧によって潰されそうになる。倒れる朽木ルキアを支える様に動く黒崎一護の足もまた震えていた。

最早これまで---そう斬り捨てて俺は即座に『鴻鈞道人』の切っ先で黒崎一護の肌を少しだけ傷つける。

 

---(まわ)(まわ)れ。万仙陣(ばんせんじん)勇者(じゃくしゃ)の足を止めてくれるな。

 

黒崎一護は強い。元が人間とは思えないほどの霊圧と戦闘センスを持っている。この場にやってきた最強の死神の力量を正しく理解してしまえるだけの霊圧知覚があった。

故に止まる足。逃げろ。戦うな。首を垂れろと叫ぶ生存本能を『鴻鈞道人』で痴れさせる。

 

「っ‼」

 

気付(きつ)けだ。動けるな?」

 

「……ああ、悪い」

 

「良い良い。元より俺はお前たちを守る為に立っている」

 

そう言って俺は再び黒崎一護たちに背を向ける。

 

「黒崎一護。此処は俺に任せて、朽木ルキアを連れて行け」

 

「なっ!?何言ってるんだ‼そんなことできる訳がねぇ‼風守さんが強いのはわかった。けど、この霊圧は異常だ‼アンタ一人で勝てる訳がねぇ‼」

 

「うむ。勝てないだろう」

 

「なら、俺も戦う‼」

 

「………黒崎一護、太陽は斬れるか?」

 

「は?」

 

俺の口から零れた荒唐無稽な質問に黒崎一護は切迫した状況に似合わない間の抜けた声を零した。

当然だろう。その質問は太陽は東から昇るのかと、そんな答えの解りきった質問だ。

 

「斬れないだろう。ああ、誰にも斬れない。同じことだ。あの男には勝てない。誰であろうと勝てないのなら、二人で戦うことに意味はない。だから、お前は行け」

 

「………っ」

 

「そう苦しそうな顔をするなよ。お前は朽木ルキアを救いに来たのだろう?俺も同じだ。穿界門(せんかいもん)の中で言った筈だぞ。俺の目的も朽木ルキアを救うことだと。そして、お前たちの味方だとな」

 

---故に此処は任せて、先に行け。

 

「………ルキアを安全な場所に運んだら、戻ってくる。それまで死ぬなよ」

 

「…そうか。ああ、お前がそのつもりなら、うむ。善哉善哉。好きにしろ」

 

お前がそうしたいのなら、好きなようにすると言い。だが、朽木ルキアは必ず守れよと伝えた俺に返事をすることなく黒崎一護はその場から去っていった。

黒崎一護も傷を負っている。少しだけ心配だったが、黒崎一護を追うように動いていた四楓院夜一の霊圧が近づくのを感じ取り安堵する。

四楓院夜一ならば必ず黒崎一護と朽木ルキア安全な場所に案内することが出来るだろう。

 

最早、後顧の憂いは絶ったと笑い。

俺は太陽に目を向けた。

 

そこには護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國が立っていた。

 

「山本重國。何故、黒崎一護と朽木ルキアの二人を見逃した?俺が邪魔をするのわかっていただろうが、逃げる敵の背に一太刀の刃を振るわないなんてお前らしくないな」

 

「逃げだした者はただのにわか死神。抱えていた小娘はただの殛囚。他の隊士に捕えさせ、後で斬って焼けばそれで済む。じゃが、貴様は別。貴様を止められるのは最早(わし)しかおらん」

 

---だから、重い腰を上げたのだと山本元柳斎重國は語る。

そして、睨みつけるように俺を見ながら言う。

 

「…長次郎は敗れたか」

 

「ああ、やはりお前の右腕は強いな。流石は長次郎。そう言うしかない程に強かった」

 

「長次郎と戦い貴様が無事とは考えられん。…治療を受けたな?卯ノ花烈も裏切ったという訳か」

 

「確かに俺は卯ノ花に助けられた。だが、卯ノ花は裏切ってなどはいないさ。そして、それは俺も同じこと。俺が生涯唯一見た夢を、護廷十三隊を裏切る筈がないだろう」

 

「………”ならば何故、護廷十三隊に刃を向けるのか”などと問う気はない。最早(もはや)問答(もんどう)(らち)()し。貴様は瀞霊廷の敵と成った。護廷十三隊の敵と成った。儂の敵となった。---抜け」

 

俺の言葉など切って捨てるという山本元柳斎重國の言動は予想通りのものだった。

そうだ。この男は敵に言葉になど耳を貸そうとしない。そういう男だ。

だが、そんな男だからこそ千年前に起きた滅却師との生存戦争に勝利することが出来たし、俺はそんな確固たる己の意思のみを持ち戦う燃える男の背だからこそ夢を見た。

 

「儂の重い腰を上げさせたのだ。覚悟はできているな?」

 

山本元柳斎重國の声を聴く度に恐怖する。身体の震えを止める為、俺は”万仙陣(ばんせんじん)”を(まわ)し『鴻鈞道人』の生成する阿片の濃度を上げる。

阿片に痴れない身体を痴れさせる為、恐怖を拭えと自傷行為を繰り返す。

そうして得られた全能感に浸りながら、口角を上げて笑ってみせる。

 

「…太陽は斬れない。だが、()()()()()()()()()()()()()。俺がそう思う限りは、俺の中ではそうなのだから」

 

「愚かなり、風守風穴。儂を相手に正面から戦おうとするとは。唯一、貴様が取れた”逃走”による時間稼ぎという手段すら捨てるとはのぅ。儂を前に震えぬために阿片に痴れるのは良い。じゃが、痴れた頭では、千年前以上前の敗北を忘れたか。貴様では儂には勝てん。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「忘れてなどいないさ。俺はお前には勝てない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「矛盾を孕み剣を振るうか。哀れなり。いや、元より貴様は白痴の剣士。狂えず生きた阿片窟の番人がようやく狂ったその様はあるいは正しきあり方か。………風守よ、貴様は死ぬ事を選んだのじゃな?」

 

「否。死ぬ気などない。俺は朽木ルキアを生かすことを選んだだけだ」

 

「ただの小娘になぜそこまで肩入れする?」

 

そんなものは無論----護廷が為だ。

 

『鴻鈞道人』の切っ先を天に向け太陽を斬らんと柄に両の手を添えた。

その型はかつて俺の故郷を一振りで焼き払った一太刀の構え。天の構えと称される上段の構えを山本元柳斎重國に向けながら、守る為の殺意を研ぎ澄ます。

 

---救ってやろう。俺はお前の幸せを心の底から願っている。

 

零れる言葉に嘘はない。遍く全てを救わんと願う心に嘘はない。みんなが幸せになればいいと心の底から思っている。

そんな俺の思いを千年前に世間知らずと断じた男は、再び夢を焼かんと刃を奔らせる。

 

「万象一切灰燼と化せ『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』」

 

阿片の煙を(ことごと)く焼き尽くす炎の瞳に写しながら俺はニタァと笑ってみせる。

敗北を知りながら戦うことが狂っているというのなら、俺は喜んで狂気に身を捧げよう。

 

 

 

朽木ルキア。お前は幸せになるべきだ。

 

 

 





(; ・`д・´)

やめて!『流刃若火』の能力で、『鴻鈞道人』の阿片の煙を焼き払われたら、阿片に痴れることで恐怖を消している風守の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで風守!あんたが今ここで倒れたら、卯ノ花さんや砕蜂との約束はどうなっちゃうの? 一護(きぼう)はまだ残ってる。ここを耐えれば、黒幕に勝てるんだから!

次回「風守死す」。決闘開始(デュエルスタンバイ)



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