ハヤテのまほう!   作:Mr,嶺上開花

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住宅街でサバイバル!?!?編
1話 なんか世界って突拍子も無く無茶なことを突っ込んできますよねbyハヤテ


 

しんしんと閑静な住宅街に雪が降る、とても寒い日。本日はクリスマスイヴなので、世間ではホワイトクリスマスとして幸せな一日を各々が過ごしているのかもしれない。けど抱えてしまった事情のせいで、本来なら幸せな意味合いを持った日であっても僕にとっては厄日でしかない。

 

「はぁ…」

 

数十分前に公園のベンチに座ってから何回しているか分からない溜息をつくと、口から白い息が逃げ出ていく。それを僕は無感情に眺めて、再び俯く。

 

 

1億5千万円。それが今日一日で押し付けられた借金の金額だ。

きっかけ、というか発端はいつも通り僕の両親で、今日の夕方家に帰ってみればクリスマスプレゼントという幸福感のあるワードと共に借金の請求書が窓ガラスにセロハンテープで貼られていた。その後数分しない内に借金の取り立て屋が襲来したため窓ガラスを突き破り2階の窓から飛び降り逃走、今に至る。

 

にしてもクズだクズだとは思っていたけれど、まさかこんな超絶高額な金額の借金を両親が抱えてたとは露とも知らなかった。どうせその金額の使い道は賭博なんだろうけど、ここまで借金を膨らませるとかこれはこれで一種の才能なんじゃないだらうか…?

 

…まあ消えた両親(クズ)のことはさておき。問題はこれからだ。

借金の請求書は家(と言っても恐らく既に売りに出されてると思うから過去形)に置いてきてしまったんだけど、これはまあいいや。問題は返済方法だ。

働いて返す…と言っても幾ら何でもキリがない。普通に働いたら借金返済だけで一生を終えるだろうし、何より金利を考えたらもしかすると払い終えられない可能性だってある。一番現実的な方法が一番非現実的な方法になってるのはどういうことなんだろうか。

 

次に宝くじや賭博で一攫千金ーーーそこまで考えて、一瞬で頭の中でバツ印を付ける。

まず宝くじは僕の運じゃ絶対に当らないし、当たっても僕の不運によってそのお金は懐に入らず終わる、そんな気がする。

それに賭博をしようにも元手が無い。法外な賭博をやってる裏カジノだとまず入場するのだけでも数万円、そして中のレートも凄まじく高いから多分無理だ。稼ぐ稼がない以前の問題になっちゃうだろう。

 

そして最後に残された手段ーーー犯罪。主には銀行強盗に身代金目的の誘拐だろうか。これなら手っ取り早く借金も返せるけど、だけどやることは犯罪だからリスクもかなり高いし道徳的な問題もある。僕としては一番選びたくない手段ではあるんだよぁ…。

 

…これが窮地ってやつなのかな…打つ手が無いしもうどうすることもできない…。

その時、僕の脳内で天使が舞い降りてきた。

 

『えーっ!犯罪を選ばないなんて勿体無いよ!簡単に借金を返済できるんだよ?やろうよ犯罪!レッツ犯罪!』

 

…ねえ僕の天使、本当に君は天使なの?天使ってそんな黒く汚れた方法を僕みたいな小市民に薦めていいものなの?

 

そんな時、今度は悪魔の声が脳内で響き渡る。

 

『え……でも犯罪ってなんか怖いし…とっちゃんもやっちゃいけないって…ダメだって…』

 

いや、とっちゃんってどういうことだ。しかも悪魔っていいながら良識的だなおい。

 

『大丈夫だよ!万全を期したらそう簡単にバレないから実質的にはローリスクハイリターンだよ!』

 

『いやでも…犯罪は犯罪だし…お巡りさんに捕まっちゃうよ…』

 

『君ならできるよハヤテ!ほら、あそこのベンチに見るからに身なりの良さそうな服を着た女の子がいるでしょ、あの子を攫って身代金を要求すれば良いんだよ!』

 

『そんなのダメだよ…怒られちゃうし…やめようハヤテ』

 

何かこれ、悪魔と天使の位置逆じゃない?

 

『でも悪魔君悪魔君、良く考えてみてよ?』

 

『良く考える?』

 

『そうさ。身代金を要求する方法なんてそれこそ幾つもあるんだよ?受け取りと一緒に逃走用のヘリを要求したりすれば、ハヤテならどこにでも逃げれるよ!』

 

『言われてみれば…ハヤテ、犯罪しよ?』

 

「絶対にダメです!どっちも消えて下さい!!」

 

結局は天使が犯罪肯定派に悪魔を変えることに成功したので、頭を振って犯罪肯定派の天使と悪魔を消し思考をリセットさせる。悪魔的には正しい発言に変わった気もするけど、やっぱ犯罪は良くないと思うし、何より道徳的にもアウトだよなぁ。

 

…さて、本当にどうしようか。まさか天使の言うように、本当に向こうに座る金髪の女の子を誘拐するわけには行かないし、だからと言ってもう打つ手なんてありはしない。

 

「ううう…さぶっ」

 

思わずコートで全身を包み寒さから身を守る。もう日が完全に落ちてるから日光の暖かさはないし、天高くから降り注ぐ雪が肌に当たって仄かに冷たいし、何かもう体が鉛みたいに動かないし眠いし寒いし…。アレ、これ、やばい奴なんじゃ…?でも僕だって不肖ながらこの小説の主人公なんだし、1話からまさか死ぬなんて…。

 

「…あれ、おかしいな、意識が…視界がクルクルする…」

 

もうダメだ、ってかこれあれ、本当にものすごいやつなんじゃ…。

そう思い、限界を迎えた僕の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー。。。

 

 

 

 

 

 

「ううっ…ここは…」

 

思い瞼を開くと、眩ゆいほどの光が差し込んできた。ううっ…ここは…確か…。

 

「…そっか、僕、借金取りに追われたあとに公園で寝ちゃったんだ…」

 

キョロキョロと周りを見渡すと、公園の端の方に大きな時計があった。時間を見る限りどうやら既に昼のようだ。自分でも知らないうちに疲れていたのだろうか…まあ疲れる要因は両親のせいでたくさんあったしなぁ…。

 

「…ってかあれ、ちょっとこれは冬にしては暖かい…いや暑い…!」

 

思わず上に着ていたコートを脱ぎ横に投げ捨て…おっとと、上着はこれしか無いんだった。危ない危ない、お金も無いのに貴重な衣服を雑に扱うところだった。そんなことして破けたら後悔しかないし、何よりこれから本当にどうするか…。

 

「…?なんかやっぱり冬なのに暖かい、ってかこれ本当に12月の気温…?」

 

安物のシャツ1枚しか着てないのに、体感的に20度くらいはありそうだ。何かがおかしい、流石に12月の異常気象と言っても限界があるだろうに…。

 

「と言うかそもそも、良く見たらここさっきの公園じゃないような気がしてきた…」

 

僕の今座ってるベンチの向かい側にも一つ、寝る前に金髪少女が座ってたベンチがあるはずなのにそれが無い。つまりここは僕の知る先程の公園とは違うのかもしれない…。

 

「…!そうだ、公園の名前!」

 

僕はそのことを思い出すと、公園の出口まで走る。確か先程まで僕のいた公園の名前は「負け犬公園」とかいう素晴らしく僕のコンプレックスを弄る名前だったはずだ、あんな殊更酷い名前を忘れるはずはない。

 

「…あった!」

 

公園の名前は、ーーー海鳴海浜公園!?負け犬公園じゃない!?

 

「…ん?これは…」

 

足元まで風で吹かれてきた新聞を拾い上げる。そうか、これで今日が異常気象でこんな温かい気温なのかどうかの真偽が分かるんだ。

 

「日付日付〜っと………!?」

 

ええっと、待って待って。嘘でしょ、嘘ですよね、幾ら僕が不幸だとしてもこんなのってちょっとあんまりじゃ…。

 

「今日が2002年の5月…!?確か昨日は2004年の12月24日だったはずだし…」

 

咄嗟に脳裏に思い浮かんだのはタイムリープ。でもそんな事が洋画に出てくるようなゴテゴテの機械とか無しで出来るのだろうか?というかそもそもそんなの現実的に無理なんじゃ…。

 

「…いや、まだ方法は残ってる。そうだよ、最初から人に聞けば良かったんだ…!」

 

…最初からそうすれば良かったじゃん、何て野暮なツッコミはさておき。

かなりの時間固まってしまったけど、取り敢えず新聞を持ってさっきのベンチに戻る。すると少し前まで僕が座っていたベンチには先客が座っていた。

 

「あれは…女の子?でもさっき座ってた金髪少女より背は小さいし…小学生かな?」

 

栗色の髪をした女の子はずっと顔を俯かせている。表情こそ読めないけど…雰囲気的に落ち込んでいるのだろう。

 

「…あ、コート……あのベンチに置いたままだった…」

 

コートをベンチに置きっぱなしにして公園出口まで走ったんだった…。

でもこうなると、あの女の子に話し掛けずにコートだけ取って立ち去るのは少し不自然になっちゃう気が…というかそもそも行く宛も無いんだけど…。けど話しかけるにしてもあんな重い空気相手に何を言えば良いのやら…

 

…考えても仕方ない。ここは一人の高校生として、人生の先輩として上手く臨機応変にこの場を切り抜けよう!

 

 

「や、やあ。こんにちわ」

 

「…こんにちわなの」

 

何をやってるんだ僕。早速切り出し方から不自然な感じになってるぞ。絵面だけ見たら、もしかしたら幼女趣味の高校生が話しかけてるように見えるかもしれない。…どうにかせねば…!

 

「えっと…ところで何してるの?砂場とかで他の子と混ざって遊んだりしないの?」

 

少し離れたところに見える砂場では女の子と同い年くらいの子どもたちがトンネルを作って遊んでいる。…もしかして仲間外れ、とか…?

 

「…なんか、やる気が起きないの」

 

どうやら僕が懸念した可能性は間違っていたようだ。

僕はその先の事を聞いていいのかどうか迷い、内心で葛藤していると女の子の方から続きを話し掛けてきた。

 

「…実は、パパが入院してからママとお兄ちゃんとお姉ちゃん、家の仕事が大変になって全然遊んでくれなくなったの。でもなのははママ達に迷惑掛けたくないから、こうしてお外にいるの…」

 

…僕がこの話を聞いて、まず思ったのはこの女の子の大人っぽさだ。こんな幼いのに自分の我が儘に振り回されず、喫茶店を営む家族に配慮できるなんて正直凄いと思う。…僕?僕はそもそも環境自体が普通じゃなかったしなぁ…。

でも幼い子を寂しがらせた挙句、こんな所で一人にするなんて、どれだけ忙しいと言ってもそれは間違ってると思う。多分ネグレクトではないのだろう、だけどこのまま放置も良くないのは明確だし…。…そっか、一人の時間を減らせば良いのか。

 

「ねぇ、名前は?」

 

「…高町なのはなの」

 

「じゃあ高町ちゃん、これから一緒に遊ばない?」

 

「…へっ?」

 

幸いこの公園には遊び道具が沢山ある、これらを使えば問題ないだろう。

 

「じゃあブランコでもしようよ、楽しいよ」

 

「…うん、じゃあやるの!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー。。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎ、夕暮れ。

既に時刻は四時を回っており、僕と高町ちゃん以外にこの公園で遊んでた子どもたちも親の手を引かれながら続々と園内から出ていき始める。

そして高町ちゃんも、そろそろ帰る時間になっていた。

 

「今日は楽しかったの!」

 

「そうなんだ、それは良かったよ」

 

僕が話しかける前までは高町ちゃんがこんな満面の笑顔を浮かべることはなかっただろう、そう思うと少し良いことをした気分になる。実際はただ遊んでただけだけど。

 

「そうだ、君、名前はなんて言うの?」

 

「えっと、綾崎ハヤテだよ」

 

「綾崎ハヤテ…ハヤテ君なの!」

 

「いや君付けって高町ちゃん…」

 

一応仮にも高校生相手に君って…僕ってそんな年上オーラとかないのかな…。

 

「…え?でもハヤテ君、見た目はなのはと同じくらいなの」

 

「………えっ」

 

「ほら、身長もこんななの」

 

そう言って僕の目の前に立ち、自分の頭のてっぺんから僕の頭のてっぺんまで右手を移動させる。その軌跡はとてもフラット、つまり平行だ。

 

「ね?なのはと一緒!」

 

「そ、そうだね、あはははは…」

 

拝啓、どうやら僕はタイムリープ&ワープしただけでは収まらず、体が某高校生探偵のように縮んでしまったようです。これからどうしよう。




年代はオリジナル設定です
そういえばハヤテのごとく!の映画版等ではスマホの描写がありましたが、作中では2005年のはずなんですよね…流石ギャグアニメ。見習います。

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