機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

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第6話

ラボに突入するガロード。

待ち構えるのは、4本の足で巨体を支えるグランディーネの姿。

その佇まいと大きく開く砲門に、ガロードは思わず鳥肌が立つ。

 

「コイツが……敵……」

 

「ふん、1機でのこのこと来おったか。対空防御」

 

「来るのか!?」

 

グランディーネに設置された4門の対空ビーム砲がGXを狙う。

無数に発射されるビームの弾が視界一杯に広がり、ガロードはビームライフルをシールドに切り替えて回避行動を取る。

リフレクターのエネルギー放出量を上げ機動力でどうにか攻撃を振り切るが、ここまで来て攻撃に転じる事ができない。

 

「上からじゃダメだ。下から潜り込む」

 

「やらせると思うか?」

 

機体の高度を下げて巨大な足の間へ潜り込もうとするガロード。

正面の、それも地面を移動して来る相手に、4門ある対空ビーム砲は正面の2門しか使えない。

ビームの数が減り、ガロードはシールドを再びライフルに切り替えて相手に銃口を向けた。

 

「足が失くなったら立てないだろ。崩れろ!!」

 

発射されたビームはグランディーネの脚部の1つに直撃する。

けれども、分厚い装甲で作られたその足は一撃では破壊できない。

更に、足裏部に設置されたホバーユニットを駆使して移動を始める。

 

「なんとしても奴を潰せ!! 先にはまだバルチャーも居るんだぞ!!」

 

「コイツ、動けるのか!? でもな!!」

 

ペダルを踏み込みGXを加速させる。

グランディーネの動きはモビルスーツの機動力に到底追い付けるモノではない。

回り込んで脚部を攻撃しようとするが、旋回するグランディーネはそうはさせまいとGXを正面に捉える。

対空ビームで弾幕を張りながら敵を寄せ付けない。

 

「思ったよりも機敏に動きやがる。アムロは、避けながら攻撃できてた。俺にだって!!」

 

攻撃を掻い潜りながらビームライフルのトリガーを引く。

発射されたビームは脚部に直撃するが、機体はまだ崩れ落ちない。

グランディーネに乗るフォンは、少しずつではあるが蓄積されるダメージに焦りを感じる。

 

「荷粒子光弾砲を撃て!! 奴を吹き飛ばすんだ!!」

 

「しかし、この距離で撃てば機体にもダメージが――」

 

「ここを突破されれば全てが無意味になる。やるんだ!!」

 

怒号を飛ばすフォンに操縦士は従う。

大きく開く砲門から、高エネルギーのビームを発射した。

 

「っ!!」

 

息を呑むガロード。

反射的にペダルを踏み、機体をジャンプさせてコレを回避する。

しかし飛び上がった事で、4門の対空ビームが一斉にGXを狙う。

 

「しまった!?」

 

「今だ!! もう1度荷光弾砲をぶち込め!!」

 

「やられっかよ!!」

 

ビームの雨を避けながらトリガーを引く。

対空ビーム砲の1つに直撃し爆発が起こる。

 

「もう1発撃ち込めば!!」

 

ガロードは攻撃に集中し過ぎていた。

そのせいで荷粒子光弾砲の存在を一瞬ではあるが頭から離してしまい、次の瞬間には発射されてしまう。

気付いた時には、目の前に強力なビームが迫る。

 

「やられる!?」

 

///

 

ガロードの元に急ぐアムロ。

モビルスーツの操縦もまだまだ甘い、更には初めてのモビルアーマーとの戦闘。

その様子を見て、アムロは脳裏に嫌な予感をピリピリと感じる。

 

「無茶をし過ぎだ。そんな事ではやられるぞ? 間に合ってくれよ」

 

機体を加速させる。

ビームの雨の中で懸命に戦うガロードに追い付こうとするが、瞬間、強い敵意を感じた。

感じた一瞬で既に回避行動に移っており、数秒後にはグランディーネの荷粒子光弾砲が飛んで来る。

幸いにも狙われたのはGXでνガンダムの方角に飛んで来る事はなかったが、アムロは敏感過ぎる自身の反応に苛立ちと焦りを感じた。

 

「なまじ戦いに慣れ過ぎた。こんな事では……」

 

それが原因で同じ艦のパイロットであるケーラ・スゥを死なせてしまった。

しかし、感傷に浸る時間はない。

GXはまだグランディーネと戦っており、感じる敵意は更に強くなる。

メインスラスターから青白い炎を噴射して機体をジャンプさせ、アムロは叫んだ。

 

「下がれ、ガロード!!」

 

アムロのνガンダムがGXの後方から飛んで来る。

タックルするようにして機体を押し出し荷粒子光弾砲からギリギリの所で離れさせた。

しかし、νガンダムにはもう回避するだけの時間はない。

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開にするが、荷粒子光弾砲はνガンダムの右脚部を飲み込む。

 

「足をやられたか。だがこの位置なら狙える!!」

 

「ガンダムがもう1機!?」

 

瞬時に狙いを定めるアムロはトリガーを引く。

グランディーネの前面にある巨大な砲門にビームは吸い込まれるように直撃し、装甲の内側から大きく爆発が起こる。

しかし、グランディーネはまだ崩れない。

ダメージを受けたνガンダムは四つん這いのように地面へ着地する。

ガロードは自身を助けてくれたアムロに視線を向けた。

 

「アムロ!?」

 

「前を見ろ!! 敵はまだ生きてる!!」

 

「くっ!! 突っ込むしかない!! うらぁぁぁっ!!」

 

ビームライフルをバックパックにマウントさせ、ビームサーベルを引き抜き一気に距離を詰める。

反撃を一切気にせず、両手で握るビームサーベルを大きく振り上げた。

モビルアーマーでは逃げる事もできず、ビームサーベルはグランディーネの頭部部分を焼き斬る。

緑色の分厚い装甲が飴のように溶け、ガロードはダメ押しに今度はビームサーベルを突き刺した。

コクピットは完全に破壊され、グランディーネは炎に包まれる。

 

「やったか?」

 

崩壊するモビルアーマーから距離を取るガロードは、不時着したνガンダムの傍に立つ。

 

 

「やった!! やったぞ、アムロ!!」

 

「いいや、敵の増援だ」

 

望遠カメラに切り替えて視線を向ける先、アルタネイティブ社に向かって一直線に進んで来るモビルスーツ部隊。

フリーデンと合流できれば倒す事はできるかもしれないが、被弾、損傷は免れない。

それ以上に、ティファを助ける事ができない。

 

「クソッ!! あいつらを相手にしてたらティファが」

 

「ガロード、ビーム砲を使うんだ。月が出た」

 

「え……」

 

太陽は沈み、月が登り始める。

暗くなり始める周囲の風景。

コントロールユニットを握るガロードはガジェットを指で押し込む。

背部のリフレクターが展開され、砲身をマニピュレーターで支える。

数秒後には月からマイクロウェーブが送信され、GXに莫大なエネルギーが供給された。

背中のリフレクターの放熱パイプが淡く光る。

 

「まだ敵の位置が遠すぎる。もっと引き付けないと」

 

照準を睨むようにして合わせる。

しかしそこに、フリーデンから通信が割り込んで来た。

声の主は、艦長であるジャミル。

 

『いいや、今撃つんだ』

 

「ジャミル!? でも、ここからだと」

 

『指示は私が出す。それに合わせるんだ』

 

聞こえて来るジャミルの声に疑いを持つガロード。

けれども彼女を安全に助けるにはこの提案に乗るしかなかった。

 

「わかった……」

 

ガロードは一切感じ取る事はできないが、ジャミルは苦痛を伴いながらではあるがそれができる。

敵意の源、それを撃ち抜く。

 

『経緯7度、緯度15度、そこに……ぐぅっ!?』

 

「ジャミル!?」

 

『カウントを始める、5秒後だ!!』

 

呻き声を上げるジャミルだが、痛みや苦しみは無視した。

ガロードにもその意思は伝わり、今はサテライトキャノンを命中させる事だけに意識を集中させる。

敵群の姿はまだ豆粒のように小さい。

 

『5……4……3……2……1……』

 

「あたれェェェッ!!」

 

引き金は引かれた。

サテライトキャノンから、高出力ビームが発射される。

全てを焼き尽くすエネルギーは一瞬の間に目標地点にまで飛び、瞬きをすると巨大な爆発が起こった。

地鳴りが響き、爆風が吹き荒れる。

ガロードは閃光の先を覗く。

 

「敵は……どうなった?」

 

『成功だ。レーダーに反応はない』

 

「やったぜ、ジャミル!! これでティファを助けに行ける!!」

 

『そうだな、フリーデンもすぐに合流させる』

 

言うとジャミルとの通信は切断された。

操縦桿を動かすガロードは砲身を収納しリフレクターを折り畳み、傍のνガンダムに向き直る。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

 

「あぁ、ガンダムに無理をさせ過ぎた。戦闘はもう無理だ」

 

「だったら――」

 

「俺の事は後で良い。フリーデンも来る。ガロードはティファの所に行くんだ」

 

アムロに諭されて、ガロードはアルタネイティブ社に視線を移す。

もはや基地としての戦闘能力は残っておらず、ガロードは内部へと突入した。

 

///

 

フリーデンに制圧されたアルタネイティブ社。

そこに囚われていたティファも救出、今はテクスに治療されている。

ブリッジではモビルスーツ乗りのウィッツとロアビィ、アムロとガロード、3人のクルーがジャミルを見つめていた。

オペレーターのサラは、ジャミルがここまでティファに拘る理由がわからない。

 

「説明して頂けますか、キャプテン。あのティファ・アディールと言う少女の事を。何故、ここまでして彼女に固執するのですか? 私達はキャプテンを信用するからこそ、今まで一緒に行動して来ました。ですが今回の件、わからない事が多すぎます」

 

「まさかその歳であの娘の事を好きだ、なんて言うのはナシよ」

 

茶化すロアビィにサラは突き刺さるような視線を向ける。

緊張感の漂うブリッジ。

 

「そうだな……言うべき時が来たのかもしれん」

 

艦長シートに座りながら、ジャミルは重たい口を開ける。

それでも、サングラスの奥にある表情は伺えない。

 

「15年前、私は連邦の兵士として戦った。モビルスーツのパイロット……あのGXに乗って」

 

そのセリフを聞いてガロードは驚きを隠せない。

 

「GXだって!? だから金庫にコントロールユニットなんて置いてあったのか!!」

 

「今のは聞かなかった事にしてやる。そうだ、私はGXに乗っていた。そしてあの悲劇を引き起こしたのも私なのだ。15年前の戦争、革命軍は硬直状態を打破する為に無数のスペースコロニーを地球に落とす作戦に出た。連邦もこれに対抗し、秘密裏に開発した決戦モビルスーツ、ガンダムを投入した。私はGXに乗ってあの戦場に居たのだ」

 

「でもコロニーは地球に落ちた。そのせいで大勢の人間が死んだ……」

 

「そうだ。私は止める事が出来なかった。ガロード、GXにはサテライトキャノン以外にもう1つ、フラッシュシステムが組み込まれている」

 

「フラッシュシステム?」

 

「それがガンダムが決戦兵器と呼ばれる由縁だ。GXには専用の無人モビルスーツが用意された。パイロットの精神波で無人モビルスーツを操作する。その為の装置がフラッシュシステムであり、それを動かす事が出来るのがニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……ティファの持ってる力……」

 

自らが犯した過ちの過去を語るジャミル。

全員が戦争の真実を聞く中で、アムロだけは違った感情を抱いて居た。

話を聞く表情が次第に険しくなる。

 

「私のようなニュータイプは戦争の道具として使われ、多くのモノは戦死した」

 

「キャプテンはニュータイプの力を今も使えるのですか?」

 

「いいや、もう満足に使う事はできない。使おうとすれば痛みと苦痛を伴う。コクピットに入る事すらできないのが現状だ」

 

「でもジャミルは!! 俺とアムロ、ティファを助ける為にその力を使った!! だからサテライトキャノンを命中させて敵を倒す事ができた!! 俺……知らなかったんだ。今の今まで、アンタがそんな人だったなんて。自分がニュータイプだったから、ティファをそこまでして助けようとした」

 

「ティファだけではない。私のようなニュータイプは他にも居る。もし見付ける事ができたのなら、どんな事があっても守り抜く。これが、私が彼女に固執する理由だ」

 

言い終わるジャミルに、アムロは不快感をあらわにしながら1歩前に出た。

 

「ジャミル――」

 

 

第6話 エゴだよ、それは

 

 

 

「アムロ?」

 

アムロのこの言葉に、ガロードは納得できないで居た。

 

「そうやってニュータイプと呼ばれる人間を助けて、過去の罪を消すつもりか? そんな事をしてもどうにもならない。人の罪なんてモノは消えない」

 

「私にはあの惨劇を引き起こした責任がある。あの時、恐怖に耐え切れずサテライトキャノンを発射してしまった。私の弱さが招いた結果なのだ」

 

「だとしてもだ。その罪を1人で背負うつもりか? ジャミル、そんな事はできないし、する必要もない。生き残った人間はそんな事をされなくても生きて行ける」

 

「アムロ、お前もニュータイプならわかる筈だ。あの時の戦争を。歪んだ価値観に支配され、戦争に勝つにはニュータイプが必要だった。それが道義に反する事であっても、戦争を終わらせるにはそれしかなかった」

 

「ニュータイプが何なのか、俺にはわからない。だがな、その力だけでどうにかなる程、世界は単純ではない。ニュータイプはそんな便利な存在ではないんだ。ジャミル、今のままでは死人に魂を引っ張られるぞ」

 

鈍い音が響く。

握りこぶしを作るジャミルは肘掛けに思わず叩き付けた。

歯を食いしばり、苦しく辛い記憶に顔を歪めながらも、アムロの言葉を心に受け止める。

全員の視線を浴びながら、それでも言葉を続けた。

 

「私は……間違ってるとでも言うのか?」

 

「どうだろうな? 俺だってその1人かもしれない。だが過去は消えないし、人の罪が消える事もない。それでも、人間は頼まれなくても生きて行ける。今のガロード達がそうだ」

 

2人の間に割り込めるモノなど居ない。

アムロに言われた事で自分の考えを客観的に見る事ができたジャミルだが、そう簡単に拭い去れるモノでもなかった。

 

///

 

翌日、契約を終えたウィッツとロアビィはそれぞれの機体に乗ってフリーデンから出て行く。

この腐敗した世界を生き残る。

その目的を同じくするが、各々が行く道は違う。

次に出会う時は敵か、味方か。

もしくはもう、出会う事はないかもしれない。

朝になり、ガロードは医務室のティファの所へ行った。

アルタネイティブ社の施設により治療は滞り無く行われ、今は起き上がって動く事もできる。

それでも1週間は安静にするように指示され、ベッドの上からガロードと顔を合わせて居た。

 

「もう少ししたらフリーデンも出港するってよ。ウィッツとロアビィも居ないから、これからは俺がGXに乗る」

 

「アムロは?」

 

「アムロは盗んだドートレスを調整してる。俺のせいでガンダムを壊しちまった……」

 

「あの人なら大丈夫です」

 

「まぁ、そうだよな。悔しいけど、この前の戦闘で良くわかった。アムロは強い。モビルスーツに乗ってる経験が違うんだろうな」

 

「でも、アナタにはアナタのできる事があります」

 

「そうは言ってもよ。ティファにはわかるか? アムロの事が?」

 

言われて彼女は静かに頭を横に振った。

 

「ガロードは……」

 

「俺? 俺がどうしたんだ?」

 

「私は、アナタの事が知りたい」

 

ガロードは思わず顔がニヤけてしまう。

口元が緩んでしまうのをどうにか隠しながら、当時を思い出して彼女に語り掛ける。

 

「えぇ~と、俺の事と言っても何を言って良いか。あの戦争があってから家族も友達も死んじまった。ようやく日の当たる所に出てからは、1人で荒仕事をしてその日の食い物を食べるので精一杯だった。俺なんてこんなもんだよ。何か特別な事があった訳じゃない。今日を生きてるのも、運かもしれない」

 

「それでも、今は私の傍に居てくれてる」

 

「あぁ、そうだな」

 

ガロードの手はティファに触れるか触れないかまで近づいた。

その頃、モビルスーツデッキでは着々と作業が進んでいる。

損傷したνガンダムは修理の目処が立たず、ワイヤーで固定されデッキの隅に置かれていた。

アムロはキッドと共に、回収したドートレスのチューニングとメンテナンスを行っている。

 

「アムロ、このキャノン砲外して良いんだな?」

 

「頼む。追加で武器を付ける必要もない」

 

「でも変だよなぁ。普通のパイロットなら武器とか火力を上げるモンなのに」

 

「装備を増やせば重量が重くなる。この機体にそこまでのポテンシャルはない」

 

「重量を落として運動性能を上げるんだろ? でも、どこまで行っても量産機だからな。GXやガンダムには及ばないぞ」

 

「わかってるさ。やれるだけで良い」

 

パイロットであるアムロの注文を受けて、ドートレスのチューニングが進められて行く。

アルタネイティブ社はグランディーネを用意できるだけあってモビルスーツの設備も揃っており、弾薬や予備のパーツも充分に補充できた。

その中から拝借したのがアムロのドートレス。

メインスラスターの出力を向上させ、関節部の反応を良くする。

武器も標準的なビームライフルとビームサーベル、左腕にシールドを装備させた。

 

「シールドの裏にミサイル?」

 

「あぁ、電気信号で発射できるようにする」

 

「でもさ、防御する為のシールドにそんなの付けて大丈夫なのか?」

 

「ガンダムもそうだが、今はビーム兵器が標準装備されている。実体シールドではそこまで使えない。それなら少しでも手数を増やすほうが生き延びられる」

 

「そう言うモノなのか。わかったよ、試してみる」

 

見た目にそこまで変化はないが、アムロ用にセッティングされた機体ができあがって行く。

そうしてまた、フリーデンも次の目的地へ向かって発進する。




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