機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

28 / 31
第28話

 小惑星基地を放棄したサテリコン、ロイザー司令が指揮する艦隊はティファが言ったように月のマイクロウェーブ送信施設を目指していた。ジャミルも司令の図らいで艦艇を1隻譲渡して貰い、他の艦隊と共に月を目指している。

 ブリッジではフリーデンのクルー達が少しずつではあるが慣れてきた無重力と戦いながら艦を制御し、ジャミルはキャプテンとして艦長シートに座りながら状況を確認していた。

 

「サラ、後続部隊はどうなっている?」

 

「用意されていた艦艇は全て出港、撃墜された艦もありません。ですがキャプテン、新連邦と宇宙革命軍との戦闘、このままで良いのですか?」

 

「良い訳ではない。だがこちらの戦力で両軍を相手にする事はできない。敵の攻撃でコロニーレーザーが使えなくなっている今、マイクロウェーブ送信施設を奪われる事は避けねばならない。それに、ティファが言っていたD.O.M.E.と呼ばれている存在も気になる」

 

「D.O.M.E.ですか?」

 

「ティファが言うには、そこにたどり着けばニュータイプが何なのかがわかる。と、言っていた」

 

「またニュータイプですか」

 

「思えば15年前の戦争以前から人はニュータイプと言う言葉に囚われているのに、その真意を知る者は居なかった。私はそれが知りたい」

 

 

 新連邦と宇宙革命軍との戦闘が激しさを増す中で、サテリコンの部隊とジャミル達は目前にまで迫って来た月を見る。スクリーン一杯に映し出される月を見てトニヤは口を開く。

 

「これを地球から見上げてただなんて。随分遠くまで来ちゃったなぁ」

 

「ですがそれがキャプテンの意向でもあります。それにここまで来なければティファを助ける事もできなかった。そうでしょ?」

 

「そうね。この戦いが終わったら高いシャンパンでも開けましょ!」

 

「良いですね、でも全てが終わった後です。キャプテン、後方から2機のガンダムタイプ接近」

 

「あいつら、まだ来るか……ウィッツとロアビィを出撃させろ。我々はこのまま直進だ」

 

「了解しました。ウィッツ、ロアビィ、聞こえますか? 出撃した後、接近するガンタムタイプを迎撃」

 

 数秒前までの和気あいあいとした空気は一瞬で吹っ飛ぶ。ピリピリとした空気が艦内全域に走り、パイロットである2人もパイロットスーツを着用して機体のコクピットに滑り込むと、戦闘の空気を肌で感じる。

 

「これで2回目の宇宙戦か。それに相手はゲテモノガンダムと来た」

 

「俺達の機体だってパワーアップしてるんだし、何とかなるでしょ。それに向こうにまでサテライトキャノンを使われたらたまんないね」

 

「いつも通り行くぞ。俺が前衛、お前が後方援護だ。エアマスター、出るぞ!」

 

「ハイハイ、わかってますって。レオパルドも出るよ!」

 

 ジャミルの艦艇から出撃する2機、すぐにレーダーで位置を確認して敵機を視界に収めようとする。接近して来るヴァサーゴとアシュタロンは、先程のアムロとの戦闘の影響で少しダメージを追っていた。

 だがそれでもサテリコンの艦隊から出撃するモビルスーツを造作もなく撃破して行く。

 当然と言えば当然。寄せ集めの戦力でしかないサテリコンのモビルスーツはドートレスなどの量産機を少ない資源で改良した物に過ぎない。改良された2機のガンダムを前にしては性能差は歴然。

 放たれるビームは装甲を一撃で貫き、ビームサーベルの鋭い一閃が機体を分断する。

 

「倒すのは簡単だけど雑魚が多過ぎる。兄さん」

 

「わかっている、オルバ。発射線上から離れるんだ」

 

 ヴァサーゴは腹部を割り胸部装甲を展開させトリプルメガソニック砲をあらわにさせる。背部にある扇状の翼を展開させ放熱と機体冷却の準備をすると、高いジェネレーター出力から生み出される強力なビームが発射されようとしていた。

 けれども本来なら戦艦さえも飲み込むビームは複数のモビルスーツを相手に向ける為に拡散して発射される。

 

「私達の邪魔をするのなら消えて貰う」

 

 拡散して発射されたビームが次々とサテリコンのモビルスーツ達を襲う。元々が高出力のビーム、拡散しても威力は充分ありドートレスを撃つ落として行く。

 障害が失くなれば2人が目指す先は1つ、ジャミル達に追い付くべく月を目指すが、エアマスターとレオパルトが立ち塞がる。

 

「こっから先は行かせねぇ!」

 

「退散して貰いましょ」

 

 レオパルドから放たれる大量の弾丸による面攻撃、回避行動を取るフロスト兄弟が行く先で待ち構えるエアマスターからの正確な射撃。

 オルバとシャギアは機体を減速させて後方に下がる事で攻撃を回避する。けれどもその隙を見て2機は更に距離を詰めて来る。

 今までの量産機とは違いガンダムタイプが相手ともなれば容易に倒す事はできない。

 

「オルバ、メガソニック砲をもう1度使う」

 

「わかったよ、兄さん。エアマスターは僕が仕留める」

 

 腹部を開口するヴァサーゴは再び拡散ビームを発射、エアマスターとレオパルドは瞬時に回避に移る。だが同時にアシュタロンはモビルアーマー形態に変形し、一瞬の隙を突きギガンティックシザースの巨大な爪でエアマスターの両腕を掴み上げた。

 

「しまった!?」

 

「悪いけど、ここまでだよ。両腕は破壊させて貰う。次はコクピットだ」

 

「舐めてんじゃねぇぞッ!」

 

 メインスラスターの出力を全開にするエアマスター。キッドの改修により元の状態よりも更に出力が向上しているスラスターは機体を加速させ、逃げるのではなく真正面に向かって突き進んだ。

 眼前のアシュタロンの股関節部に目掛けてエアマスターは加速を利用して膝をぶち当てる。

 

「コイツ!?」

 

「俺の機体だってパワーアップしてるんだぜ?」

 

「傲慢が綻びを生むと言うのか!? でもこんな事で!」

 

 衝撃によりエアマスターを手放すアシュタロン。距離を離す2機は互いにビーム攻撃で相手を仕留めようとするが、熟練したパイロット同士ではそう簡単に決着は付かない。

 撃っては避け、撃っては避け。

 時間が無駄になる事にオルバは焦る。

 

「時間稼ぎのつもりか?」

 

「お前らをマイクロウェーブに近付かせる訳にはいかないんだよ!」

 

「フンッ、そう言う事か。だったら」

 

 モビルアーマー形態に変形するアシュタロンはエアマスターを無視して強引に月へ進路を取る。当然をそれを逃さんとエアマスターも追い掛けると同時にビームを発射して何とか止めようとした。

 だがアシュタロンの速度は早く、強化された装甲もビームを防ぎ切る。

 

「ヤロウ、逃がすか!」

 

 変形するエアマスターはアシュタロンを後ろから追い掛ける。

 一方でロアビィもヴァサーゴに苦戦を強いられていた。レオパルドも射撃武装しか持たないピーキーな機体。射程距離外から一気に距離を詰めるとビームサーベルを引き抜く。

 

「対モビルスーツはこちらが有利。落ちろ!」

 

「接近戦だからってね!」

 

 互いのビームがぶつかり合う。咄嗟にビームナイフを引き抜いたレオパルドはヴァサーゴの攻撃を受け止めた。

 だがそれでも接近戦で不利な事には変わりない。このまま続けていては負けてしまうのはロアビィもわかっていたが、その時が来るのは早かった。

 

「沈んで貰う」

 

「なっ!?」

 

 再び振り下ろされるビームサーベル。激しい閃光が走りながらもビームナイフで受け止めたレオパルドだが、ヴァサーゴのもう片方の腕が伸びている。

 クロービーム砲から放たれるビームがレオパルドの赤い装甲に直撃した。

 

「しまった、こんな所で!」

 

「お前を殺すのは後回しだ。今は時間が惜しい」

 

(兄さん、乗って)

 

(来たか、オルバよ)

 

 モビルアーマー形態のアシュタロンと合流するヴァサーゴは、直撃を受けて宙に浮くレオパルドを置いて先を急ぐ。

 

「悪いウィッツ、抜かれた」

 

「大丈夫だ、こっちに任せろ」

 

 月へと向かう2機に向かってモビルアーマー形態からビーム攻撃をするエアマスターだが、その攻撃は1度だって当たってはくれない。それどころか伸びた両腕のストライククローから逃げながらにして正確な射撃が飛んで来る。

 ビームの1発がエアマスターの主翼に当ってしまう。

 

「クッ!? パワーがダウンしただと?」

 

「これで付いて来れまい。急ぐぞ、オルバ」

 

「了解、兄さん」

 

 スラスターが損傷してしまいエアマスターでも2機の加速に追い付く事ができなくなる。アシュタロンに乗るヴァサーゴは月へと進路を取り、先行するジャミル達の艦隊を視野に入れた。

 

「マイクロウェーブを守るつもりでいるのだろうが、それだけでこの戦争は勝てはしない。サテライトランチャーは我々の作戦を成功させるピースの1つに過ぎん」

 

「もっとも、あいつらは目の前の事しか見えてないだろうけどね。さぁ、アムロが来るか? それともガロード・ラン?」

 

 ヴァサーゴとアシュタロンの機動力は高く、艦艇へ見る見る内に迫って来る。レーダー、そしてスクリーンに映し出される映像を見て操舵手のシンゴはジャミルに振り返る。

 

「加速すれば敵の接近を遅らせる事ができますが帰りの推進剤に余力が失くなります。キャプテン、どうしますか?」

 

「速度はそのまま、近付かれれば残ったモビルスーツを出す。必要となれば私もGXで出撃する。ここまで来てマイクロウェーブを奪われる訳にはいかん」

 

「了解です」

 

 ジャミルから伝えられる指示を聞くとサラも振り返った。この状況、サテリコンの戦力も減りつつある今、元の作戦を遂行できるかどうかも疑問だ。

 

「ですがキャプテンまで出撃すればこの艦の守備が薄くなります。それにたった2機で先行して来た理由も、マイクロウェーブ以外にあるのかもしれません」

 

「だが奪われればこちらに勝利はない。兎に角前に進むんだ。月に辿り着くまでにガンダムを撃破する」

 

 新連邦と宇宙革命軍との戦争。コロニーレーザーが一時的に使えなくなっているお陰で戦力は拮抗しているが、それも長くは続かない。コロニーレーザーが修復されれば革命軍が、長期戦になれば地球から次々と物資を送り込んで来る新連邦の方が有利になる。

 フロスト兄弟の狙うマイクロウェーブ送信施設を死守し、ティファの言うD.O.M.E.に接触できれば、サテリコン側にも攻撃のチャンスが巡って来るかもしれない。

 その為にGXの武装もディバイダーからサテライトキャノンへと換装してある。

 サングラス越しに月を見るジャミル。けれどもそこに、ノーマルスーツを着用したティファが現れた。

 

「ティファ……ブリッジは危険だ。部屋に--」

 

「ジャミルも一緒に来て下さい。一緒にD.O.M.E.の所へ」

 

「私も? だが……」

 

「アムロも一緒です。私だけじゃない。ガロードにもアムロにも、ジャミルにも一緒に見て欲しい。ニュータイプが何なのかを」

 

「だが敵が近くまで来ている。サテリコンの艦隊やこの艦を潰させる訳にはいかん」

 

「大丈夫です。もう少しで来ます」

 

「もう少し?」

 

 ティファの言葉通り、ソレは突如として現れた。月のマイクロウェーブ送信施設の格納庫。そこには無人で動く大量のビットモビルスーツ。

 頭部のバイザーが光るとエンジンに火が入り、シェルターが開放されてビットモビルスーツ達が一斉に動き出す。メインスラスターから青白い炎を噴射して飛び上がる機体達は、まるでジャミル達を迎え入れるかの如く隊列を組む。

 

「アレはビットモビルスーツ!? どうして月に?」

 

「彼が呼んでいます」

 

「彼? 行くしかないか……」

 

 ジャミルはビットモビルスーツの誘導に従い艦の進路を指示する。後方から続くサテリコンの艦隊も突然現れたビットモビルスーツに驚きはするも攻撃は仕掛けない。誘導に従い月への着陸態勢に入る。

 だが、フロスト兄弟のガンダムだけは違った。敵意をむき出しにする彼らに対し、ビットモビルスーツはビームライフルを手に取り銃口を向ける。

 

「兄さん、こいつらは……」

 

「防衛装置か何かか。障害となるなら撃破するまで」

 

「わかったよ」

 

 アシュタロンから離れるヴァサーゴは迫るビットモビルスーツに両腕のストライククローを伸ばす。アシュタロンもモビルスーツ形態へと変形し、ビームサーベルを引き抜いて加速した。

 ブリッジからその様子を見るジャミルはティファを見る。

 

「時間稼ぎには充分な筈だ。行こう」

 

「はい……」

 

「サラ、艦は任せる」

 

 ジャミルとティファはブリッジから移動し、頼まれたサラも何も言わずに仕事へ取り掛かる。モビルスーツデッキに移動する2人はそれぞれの場所へ向かう。

 ティファはガロードとパーラの待つダブルエックスの所へ。ジャミルはかつて自らが搭乗したGXの元へ。

 手を差し出すガロードはティファの腕を取り体を支える。

 

「行こう、ティファ。月に」

 

「えぇ、みんなも一緒。D.O.M.E.が待ってます」

 

「そこに行けばニュータイプが何なのかがわかるんだな?」

 

「その為にジャミルとアムロも来て貰います。ニュータイプ、私が何者なのかを知りたい」

 

 ニュータイプの能力に翻弄されて危険に晒されて来たティファ。それは一重にニュータイプの能力が卓越していたから。けれども彼女は自分自身の事でありながらニュータイプについて無知だ。でもそれはティファだけではなかった。ジャミルもアムロも、もしかすると誰1人として真意を理解してる者は居ないのかもしれない。

 だから確かめに行く。月へ降り立つのはその為の1歩に過ぎない。

 

「そんじゃ行くぜ、2人共。ドッキングしたらひとっ飛びだ」

 

「頼む、パーラ」

 

 パーラはGファルコンに乗り込み、ガロードとティファもダブルエックスのコクピットに入った。既にジャミルはGXに搭乗し、アムロもラスヴェートのコクピットに入る。

 コンソールパネルを操作してハッチを閉鎖させ、GXに通信を繋げた。

 

「俺まで行く必要があるのか?」

 

「ニュータイプの真相がわかるかもしれないんだ。アムロにも来て貰いたい」

 

「結局……俺も囚われているのかもな。アイツのように」

 

 操縦桿を握り締めるアムロは機体を操作し、脚部をカタパルトに固定させる。

 ダブルエックス、GX、ラスヴェートの3機は月のマイクロウェーブ送信施設に向かって出撃した。

 

 

 

第28話 アムロ、行きます!

 

 

 

 出撃したダブルエックスはすぐにパーラのGファルコンとドッキング。GXとラスヴェートもマニピュレーターを伸ばしGファルコンの装甲を掴み、3機で固まりながら送信施設に飛んだ。その間もビットモビルスーツが警護を兼ねて機体を誘導し、3機は迷う事なくシェルターの内部へ侵入し入り口を見付ける。

 

「ここなのか、ティファ?」

 

「はい、恐らく」

 

『ガロード、機体はアタシが見ておく。2人は先に行け』

 

「パーラ、頼んだ」

 

『あいよッ!』

 

 ヘルメットのバイザーを下ろすガロードとティファはハッチを開放させて外へ出た。ダブルエックスのすぐ隣へと着地したGXとラスヴェートも同様に、開放されたハッチからパイロットが降りて来る。

 ジャミルとアムロに合流するガロード。全員が無言、互いに視線を合わせるだけで意思を疎通し頷くと、ガロード達はいよいよD.O.M.E.が待つ内部に足を踏み入れた。




もっと早く完結させるつもりでしたが、いつものように時間が掛かってしまっております。
次回作の構成には既に取り掛かっておりますので、この作品が終わるまでもうしばらくお待ち下さい。
ご意見、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。