機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15
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第23話

 フリーデンのブリッジに立つアムロはモニターに表示される座標と発振器との位置を交互に見て照らし合わせる。

「ティファの位置は確認できたが、あんな所に一体何がある? 研究施設とも思えんが」

「このまま正面から向かっても大丈夫でしょうか?」

 コンソールパネルを叩きながら振り返るサラはアムロに問い掛ける。ジャミルが負傷してケガの治療をしている今、艦長シートの隣に立つアムロがフリーデンの指揮を取っていた。

「こちらには今まともに戦える戦力がガロードのガンダムだけだ。できれば合流される前にティファを奪還したいが、無理なら後退してガンダム2機の調整を待つしかない。だが何だ? 嫌な予感がする」

「それは長年の経験からですか?」

「そうかもしれないが……」

「シャトルだ……」

 声が聞こえ振り返った先に居たのは脂汗を滲ませながらもブリッジにやって来たジャミルの姿。テクスの右肩を担がれながら、いつもの艦長シートへと座らされる。

「ジャミル、無理はするな」

「そうも言ってられん。ティファが向かった先にはシャトルがある。宇宙へ連れ出すつもりだ」

「宇宙へ?」

「宇宙革命軍。あの男がニュータイプ研究所の人間でないとするのならソレしか考えられない。宇宙の動きは詳しくないが、宇宙革命軍はまだ存在していたか」

「だとすると間に合わないぞ」

 ジャミルの言う事は的中した。望遠カメラが映し出す映像をクルーは見る事しかできない。スペースシャトルのブースターが点火されると炎と大量の煙を噴射しながら重力に逆らって飛び立つ。
 見る見る内に高度を上げていくシャトルは数秒後には雲の上へと消えていった。

「どうするジャミル? フリーデンでは宇宙へは行けない。それにマスドライバーすらもな」

「まだ可能性はある。サラ、通信を繋いでくれ」

「わかりました。どちらに?」

「エスタルドだ。頼れる場所があるとすればそこだ」

 以前、フリーデンはエスタルドに立ち寄った事がある。そして小国であるエスタルドに侵攻して来る新連邦を撃退しようとしたが、数で勝る相手にそれは叶わなかった。
 エスタルドは無条件降伏し、今は新連邦の領地となっている。
 サラはパネルを叩きながらジャミルに振り返り質問を投げ掛けた。

「ですがキャプテン。エスタルドに何があるのですか? それに今は新連邦の領地です。手助けしてくれるとはとても……」

「私も確信があっての事ではない。だが可能性はある。今はそれに掛けるしかない」

 ジャミルの本意はエスタルドとの交信ができればわかる事。フリーデンの艦長である彼を信用するサラは口を閉ざし作業に集中した。
 数秒後、通信が繋がりモニターには映像が流れる。そこに映っているのはエスタルドの国家元首を務める青年、ウィリス・アラミス。

『お久しぶりです、皆さん。緊急回線が繋がったので何事かと思いましたがフリーデンの人達でしたか』

「無礼は承知しています。ですがこちらも手段を選べる状況ではなかったもので」

『何かあったのですか?』

「私の情報が正しければ、先代の国家元首はシャトルを製造してた筈です。まだどこかにあるのではないかと」

『シャトル? 宇宙へ行くつもりなのですか!?』

 驚くウィリス、地球に住む人間からすれば今の宇宙は未知の秘境のような場所だ。戦争が終わり殆どのコロニーが地球に落下し、生きるのに必死な人々は宇宙の事を気にする余裕などない。
 そして環境が回復しつつある今、宇宙との交信は全くなされておらず情報は全く収拾されていなかった。
 同時に資源がまだまだ不足する中で新しくシャトルを作る余裕などある筈もなく、それを作れるだけの技術者も不足している。

「どうしても行く必要があるのです。どうか力を貸して頂きたい!」

『戦前に父から話は聞いた事があります。シャトルの建造計画も確かに存在しました。ですがすぐに使える状況なのかどうかは私にもわかりません』

「あるのですか? シャトルが?」

『エスタルドから南へ40キロ程進んだ先に地下シェルターがあります。バルチャーにも見つかってない筈です。そちらに』

「ウィリス元首、感謝する」

『いえ、以前に助けて頂いだお礼です。このくらいなら亡くなった父も許してくれると思います。地下シェルターは足取りを掴まれないように破壊して下さい。では、ご武運を』

 モニター越しに敬礼するウィリスとジャミル。ティファを取り戻す為、フリーデンの次なる進路は決まった。

「シンゴ、フリーデン全速前進だ」

「了解です、キャプテン!」

///

 ザイデル・ラッソ、スペースコロニー・クラウド9を拠点とする宇宙革命軍の指導者。御年55歳を迎える彼はシワも増えてきたし皮もたれ始めて来た。それでも若い時に徴兵され鍛え上げられたお陰で体格はまだガッシリとしている。
 15年前の戦争時から宇宙革命軍の総統として人々を束ねており、今も尚地球連邦を排除する為に活動を続けていた。
 本拠地であるクラウド9の執務室のデスクで待つ彼の所へニコラはティファと共に向かう。
 シャトルから降ろされたティファは初めて見るコロニーの景色を目に焼き付ける。

「これがコロニー……これが宇宙……」

 密閉された空間に充填される空気、浄化装置により綺麗にされた水。太陽光を制御する巨大なミラー。
 地球環境を宇宙でも再現したスペースコロニーではあるが地球とは全ての事が違う。居住区が大半を占めるコロニーの中で野菜は全て水耕栽培。食肉はまた別のコロニーから送られてくる。
 全てが人工的に管理されたこの空間はある意味ではとても綺麗なのかもしれないが、果たしてそれがあるべき姿なのかは疑問だ。

「我々スペースノイドにとってコロニーこそが家であり母なる大地でもある。15年前の戦争で地球は悲惨な状態に変わり果てたがスペースコロニーは違う。見たまえ、この空間の一片たりとも汚染させられた場所などない。戦後も我々はここで生活し、高い技術力の進歩、発展を繰り返して来た。それが、今君が見てる景色だ」

「これが大地……」

「重力から解き放たれ、宇宙空間で生活するようになった人類は自らの能力を発展させた。その人類を皆はニュータイプと呼んだ。私はニュータイプこそが新しい時代を築くと信じている。君の意見を聞かせて貰いたいな」

「私は……」

 ニュータイプの概念。それは時代や人それぞれの解釈によっても変わってくる。新連邦は戦力としてのニュータイプを求め、宇宙革命軍は象徴としてのニュータイプを求めていた。
 そしてニコラは混沌とした時代を切り開く希望としてニュータイプを見ている。
 けれどもティファはそのどれでもない。新連邦が求める戦力としての力は持ってない、象徴とされる程のイメージを大衆に発信もしていない。まだ10代の少女を希望として祭り上げるには余りにも荷が重いが、今と言う時代にニュータイプは何かしらの役割を背負わされる。
 だがティファはフリーデンで過ごした短い時間の中で少しずつわかり始めていた。自分が何なのかを、ニュータイプが何なのかを。
 思い出すのは最後にアムロに言われた言葉。

(止めろティファ! ニュータイプはそんな便利じゃない!)

(ジャミルもルチルさんも15年前の戦争に利用された。アムロもそうなの? でもララァ・スンは違った。私にできる事は……)

 少女にできる事は限られている。その限られた選択肢の中でティファが選んだのは前に進む事。後ろに下がる事でも過去にしがみ付く事でも誰かに頼る事でもない。

「ニュータイプはそんな便利な存在ではありません」

「ほぅ、便利な存在ですか。私達はニュータイプをそのように扱っていると?」

「ニュータイプに力や希望を求めても何も変わらない。それにたった1人でできる事なんて限られてます。ニュータイプだけで世界を変革させるだなんて無理なんです」

「だが宇宙革命軍はその為に存在する。君は我々の大義を否定するつもりか?」

「その一方的な感情が、ニュータイプを大衆に飲み込ませるんです。そうなればもうニュータイプなんて関係ないのでは?」

「そんな事はない! 彼らの能力があれば、力があれば人類は変わる!」

 大声で叫び反論するニコラ。その様子をティファは物静かに見守るだけ。
 思いの丈をぶつける彼は感情的になりすぎているのを自覚し、まずは呼吸を整え制服の乱れを正す。
 ゆっくりと深呼吸して平常心を保ち暫く歩くと、サイデル・ラッソの待つ執務室の前まで来た。

「ここでザイデル総統がお待ちだ。大丈夫だとは思うがくれぐれも失礼のないように」

「わかっています」

「宜しい、では」

 ドアノブを捻り木製のドアを開ける。絨毯の敷かれた床、その先のデスクで待っているのが宇宙革命軍の指導者であるザイデル・ラッソ。
 その鋭い眼光は真っ先にティファを睨んだ。

「ニコラ・ファファスであります。総統閣下、ご報告させて頂きましたニュータイプと思われる少女を連れてまいりました」

「ご苦労だ、ニコラ。データは見させて貰った。何でも彼女は地球生まれだとか?」

「そうです。ですが能力は確かなモノがあります。彼女が民衆に支持されれば宇宙革命軍の指揮も跳ね上がる事でしょう。そうすれば新連邦と戦う力にもなります」

「ふむ、そうか。だがなニコラ、その少女は我々には必要ない」

「なっ!?」

 ザイデルの一言に目を見開き驚愕するニコラ。だが彼が説明を求めるよりも早くにザイデルは再び口を開いた。

「ニュータイプこそが宇宙の革新であり新たな人類になる存在、宇宙革命軍のプロパガンダだ」

「そうです。私が知る限り、地球生まれのニュータイプでここまでの能力を開花させたのは彼女だけです。それなのにどうして?」

「だからだよ。わからんか? 地球生まれのニュータイプなど私は認めん! もう1度言うぞ。ニュータイプとはこの宇宙が人間を変革させて初めて成立する。高度の認識力と洞察力、宇宙で生きる事で初めて露呈される人の本質。私は君の事をニュータイプではなく突然変異と考えている」

「お言葉ですが総統閣下。ニュータイプ主義が唱える人の革新がこれ程までに具現化されたのを私は見た事がありません」

「だからこそ、私はこの少女を認める訳にはいかんのだ!」

 声を荒らげるザイデルは怒りに体を震わせる。ニコラにどれだけ説明されようとも、ティファがどれだけの能力を持っていようとも、彼がニュータイプとしてティファを見る事は決してない。

「我々スペースノイドが信じるニュータイプこそが真のニュータイプ! どれだけの能力があろうとも我々が認めぬ限りニュータイプではない! そして宇宙革命軍総統の私こそ、ニュータイプを正しく定義するモノなのだ!」

 ザイデルの言葉をティファはしっかりと受け止めた。そして心の中で考える。今までの自分の人生、様々な人々とニュータイプと呼ばれる人達との出会いを得て、自らが思う信念。

(ジャミルとルチルさん。アムロとシャア、そしてララァ・スン。私の周りに居るニュータイプと呼ばれた人達はみんな戦争に身を投じて来た。でもニュータイプは戦うだけの存在じゃない。私がそうであるように、みんなの1人の人間として必死に生きてる)

 ティファの声に答えたのか、ララァの残留思念が脳裏に感じ取れる。ティファの頭の中に流れ込んで来るのは、まだ若かりし頃の2人の決闘。
 無重力空間でノーマルスーツを装着する2人は互いに剣を握り白兵戦を繰り広げた。刃と刃がぶつかり合い甲高い音が響く。

(わかるか? ここに誘い込んだ訳を?)

(ニュータイプでも体を使う事は普通の人間と同じと思ったからだ!)

(体を使う技はニュータイプと言えども訓練をしなければな!)

(そんな理屈!)

 何度となく混じり合う刃。その間、戦いながらも2人は言葉を交え続ける。連邦軍とジオン軍のエースとして戦って来た2人が、今や原始的な武器を用いて最後の戦いを繰り広げていた。

(今、ララァが言った。ニュータイプは殺し合いをする道具ではないと)

(今と言う時ではニュータイプも殺し合いの道具にしか使えん。ララァは死にゆく運命だったのだ)

(貴様だってニュータイプだろうに!)

 会話は平行線を辿る。結局2人はこの戦いに決着が付いてもわかり合う事はなかった。それはニュータイプと世間から持てはやされても只の人間でしかないと言う証明なのかもしれない。
 だからティファはザイデルの事を普通の人間として見た。そして微かに感じるは妬みと憎悪。眉1つ動かさないティファはまっすぐ彼を見つめると口を開いた。

「アナタの中に確かな何かを感じます。それはとてつもない力を秘めた存在。アナタの……いいえ、アナタ達の中には確かにそれが存在している。私もいずれソレに触れる……全ての源……ニュータイプの真実……」

「こ、この小娘……私の心の中を覗いているのか?」

「ドーム?」

 ザイデルの意識の間から見えた一筋の光。ティファが呟くと同時に視界の景色が一片した。真っ暗な宇宙空間の中から光り輝く蝶の大群。
 初めて見る光景に圧倒されながらも、蝶が現れる奥から何かが見える。

(これは何? 誰かが居るの?)

 光る蝶とは違う、またもう1つの輝く物体。球体のソレはティファの前に現れた。

(D.O.M.E.? アナタがD.O.M.E.なの? でもどうして私を?)

 輝く球体、D.O.M.E.は言葉を発さない。それでも頭の中に流れて来る情報でティファにはわかった。

(私が望んだから……いいえ、私の望みは他にあります。地球も宇宙もニュータイプもオールドタイプも関係ない。生きとし生けるモノが懸命に生きられる世界。このままだと新連邦と宇宙革命軍は戦争を起こすでしょう。そうなれば、また悲しみだけが広がって行く)

 ティファの思いに応えてD.O.M.E.はより一層強く光る。頭の中に流れ込んで来るビジョン。見えて来たモノは月のマイクロウェーブ送信施設。

(月? 月に行けば何かが変わるのですか? ニュータイプの真実……)

 わずか一瞬の出来事だった。それを最後にD.O.M.E.からの声は届かなくなりティファの意識も現実へと引き戻された。
 目を見開いた先に居るのは額に青筋を立てているザイデルの姿。拳をワナワナと震わせながら怒気の孕んだ目で睨み付ける。

「D.O.M.E.だと! 私の心を覗くなど愚劣なッ! 貴様は能力の使い方を何もわかっていない。だからこそ私は、貴様の事をニュータイプなどと決して認めん! 認めてなるモノかッ! 宇宙革命軍の総統たる私こそがニュータイプの定義を決定付けられる。そして人類は革新し、選ばれしスペースノイドが世界を牛耳るのだ! その為の未来を実現させる為に、貴様は邪魔な存在だ! 今は生かしておく。だがこれ以上私を怒らせるなら小娘と言えども容赦はせん! 宇宙の藻屑にするぞ!」

「アナタに認められなくても私は自分の意思で生きます。ニュータイプも何も関係ありません。アナタ達に利用されるつもりもありませんし、ここで死ぬつもりもありません。例えアナタの言う未来が訪れたとしても――」



第23話 私は頼まれなくても生き抜いてみせます





 宇宙、15年の時を得て再び戦乱の火蓋が切って落とされようとしていた。
 地球での領土を拡大する新連邦は戦力を整えていよいよ宇宙へと進出し、その動きをキャッチした宇宙革命軍も迎撃態勢を整えている。
  両者が本格的に動き出せは時代は再び戦争時代に突入するのは火を見るより明らか。当然、ソレを良しとしない者達は居た。
 宇宙革命軍の軍備増強の為にコロニーを追われた人々は独自に組織を作り出し、反政府組織サテリコンと名乗り宇宙革命軍と対峙している。
 だが戦力の差は歴然としており、小競り合いが続くばかりで打撃を与えたとは言い難い。放棄された小惑星を拠点とし、敵軍の流れを見る司令官のロイザーはこの状況に危惧する。

「遂に宇宙革命軍が本格的に動き出す時が来たか。地球からは新連邦、このままでは……」

「司令、ご報告したい事が」

「うん、どうした?」

「新連邦とは違う反応が1機確認できました。恐らくシャトルかと」

「シャトル? 新連邦とは違うのか?」

 司令室でロイザーはモニターに表示される反応を見るべく通信兵の居る所にまで体を進める。無重力空間で床を軽く蹴ると体は自然と宙に浮き、通信兵の隣にまで移動した。

「距離が近いな。目的はなんだ? 何処へ行くつもりだ?」

「どうしますか? 偵察機でも出しますか?」

「そうだな。パーラを呼べ。Gファルコンの出撃準備だ」

「了解です」

 通信兵に呼び出されてパーラと呼ばれた少女はノーマルスーツを身に纏いモビルスーツデッキへと向かった。
 少女の名前はパーラ・シス。反政府組織サテリコンに所属する最年少の兵士だ。勝ち気で男勝りな彼女は
黒い髪の毛も短く切っている。
 ノーマルスーツを装着したパーラはヘルメットを被ると右手にワイヤーガンを握るとモビルスーツデッキにやって来た。

「宇宙革命軍が何かしようって時に所属不明機の偵察だって? 呑気してる場合なのかねぇ」

 ワイヤーガンをGファルコンに向けたパーラはトリガーを引くと先端にマグネットの付いたワイヤーが射出された。マグネットが赤い装甲に接地するとワイヤーが巻き取られパーラの体が機体の元まで引っ張られる。
 自機の元にまで来るパーラはハッチを開放させるとコクピットシートへと乗り込んだ。
 Gファルコン、赤い装甲をした戦闘機タイプのモビルアーマー。パーラの専用機としてサテリコンでは扱われている。
 コンソールパネルを叩きエンジンを起動させ、操縦桿を握り前方を見据えるパーラはフットペダルに足を掛けヘルメットのマイクに向かって叫んだ。

「パーラ・シス、Gファルコンで出るよ!」

 右足でペダルを全開に踏み込むとメインスラスターから青白い炎が噴射し機体が加速する。小惑星から飛び出したGファルコンは旋回して機首の向きを変えると所属不明のシャトルの元に向かって飛んだ。



いつもの事ながら更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
次回から宇宙戦です。結末もアニメとは変えていきますのでお楽しみに。