機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15
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第21話

 新連邦の動きは想定以上に早かった。エスタルド軍は敵の圧倒的戦力を前に降伏を余儀なくされ、エスタルドは新連邦の配下に落ちた。
 辛うじて追撃を免れたフリーデンはエスタルド領を後にし、本来の目的であるニュータイプ研究所を目指す。
 そんな中でガロードは新しいガンダムダブルエックスを使いこなせるようにシミュレーター訓練と機体のセッティングに没頭していた。コクピットシートに座り操縦桿を握るガロードが戦うデータ上の相手はアムロが搭乗するバリエント。
 右手の操縦桿を押し込みトリガーを引くと画面上のバリエントの右肩にビームがかすめる。

「違う、やっぱデータはアムロの動きを真似してるだけだ。この程度の攻撃、アムロなら簡単に避けられる。本物のアムロならこんなもんじゃない!」

 現実と空想の違いにストレスを感じながらも、それでもデータとは言えバリエントは強かった。メインスラスターで加速しながらビームライフルのトリガーを引く。

「くっ!? 攻撃を避けながら先読みして撃つ!」

 左腕のディフェンスプレートでビームを受けながら機体を動かし銃口を向ける。バリエントはまだ動きを見せてない。

「まただ、やっぱりデータは動きが遅い。アムロなら、本物のアムロならライフルを向けた瞬間に動く」

 ダブルエックスが放つビームにバリエントは空中で姿勢制御しながらまたも避けると同時に振り返りトリガーを引く。ガロードも同様にビームライフルのトリガーを引くと互いのビームがぶつかり合う。
 激しい閃光に視界が真っ白になるが、ガロードは怯む事なくサイドスカートからハイパービームソードを引き抜き一気に加速。右腕を振り下ろす。

「でも……悔しいけど射撃戦じゃ勝てない!」

 ビームの刃は左肘を切断するが、バリエントはダブルエックスの胸部を殴り付け、更に右脚部を伸ばすとハイパービームソードを握るマニピュレーターを蹴った。ダブルエックスは耐え切れずビームライフルを手放す。

「このッ!」

 操縦桿を思い切り押し倒す。右腕を突き出すダブルエックスのマニピュレーターをバリエントは左手で受け止めるが、最新鋭のガンダムタイプと新型とは言え量産機のバリエントでは元のパワーが段違いだ。
 腕のフレームがメキメキと悲鳴を上げ、状況を打開せんと今度は股関節に右膝を叩き込む。シュミレーターなので振動などは伝わって来ないが、データとは言え最後まで足掻き続ける姿勢にガロードは舌を巻く。

「しつこいんだよッ!」

 もう片方のマニピュレータ―をバリエントの頭部へ伸ばすと、頭部と胴体を繋ぐ首に向かって挿し込んだ。何本もあるケーブルを引きちぎりメインカメラを機能させなくさせる。そしてバルカンとマシンキャノン、ブレストランチャーで至近距離でバリエントに撃ちまくる。
 連続して発射される弾丸は青い装甲を次々に貫き、破壊し、ズタボロに引き裂く。
 バリエントは反撃もできぬまま再起不能にされ、同時にシミュレーターもそこで終了した。
 額からどっと汗が吹き出しシートに体重を預けるガロードは未だに追い付けないアムロの技量にため息をつく。

「シミュレーターでも10回やって3回しか勝てない。クソッ……」

『どうだ? まだやるか?』

「キッド、やっぱシミュレーターじゃ完璧とは言えない。それにアムロのバリエントの動きも違うんだ』

『データ上の数値に狂いはねぇ。それにそんな偉そうな事言うくらいなら8、9回は余裕で勝ってみろ』

「ぐっ、そりゃそうなんだけどさ」

『こっちもエアマスターとレオパルドの最終調整に忙しいんだ。やらないなら体を休めとけ。ガロードに合わせたダブルエックスのセッティングも進めるからよ』

「わかった。すまねぇ……」

 日々訓練に勤しむガロードは少しずつ、でも確実に以前よりも強くなっている。けれどもソレに反してティファと会う時間が減っていく。
 人としても青年に成長したガロードだが彼女の気持ちに気が付けなかった。
 ティファはモビルスーツデッキの入り口の影からガロードを見つめるだけで姿を見せようとはしない。
 言葉を伝えない彼女の思いがガロードに伝わる事もなかった。

「ガロード……」

(彼の所に行かないの?)

 頭の中に響くように声が聞こえる。アムロの記憶の中で出会った少女、ララァ・スンはティファの気持ちをわかっていながらそう言った。

「私が行くと邪魔になるから」

(ふふふっ、今までにもニュータイプの能力は使って来たのでしょう?)

「ガロードにはそう言う事、やりたくない」

(自分の本心を打ち明けるのは辛い事?)

「良くわからない……でも、胸が苦しい」

(アムロはもう私と会いたがらない、それはあの人が成長したから。私は成長も退化もする事なく永遠にこの宇宙を彷徨うの。でもアナタは違う)

 ララァに言われて足を1歩前に進めようとするが恐怖心にそれは叶わない。同じ空間で日々を過ごして来たティファとガロードは最近になってようやくお互いを知る事ができた。
 けれども知ってしまったが故にそれ以上踏み込もうとは思わない。少し前は少年だったガロードは可憐なティファに恋い焦がれ常に彼女を見ていたが、成長するに連れて自分を取り巻く環境の変化に順応してゆき、フリーデンに所属するモビルスーツパイロットとして技術を積み重ねていく。
 そうなれば常にティファばかりを見てる訳にもいかない。1つしか見えてなかった視野が広がったからだ。
 だがその思いが消えた訳ではない。
 しかし言葉を発さないガロードの気持ちをティファが知る事はできず、思いを打ち明けないティファが苦しみから開放される事もなかった。
 そのままゆっくりモビルスーツデッキを後にするティファは当てもなくフリーデンの通路を歩き続けた。

「あれ、ティファ? 何してんの、こんな所で?」

「トニヤさん?」

「珍しくブルーになっちゃって。何か嫌な事でもあった? あッ! サラに何か言われたんでしょ! アイツはマジメ過ぎる所があるから。」

「いいえ、違います」

「じゃあ、どうしたの?」

「私は……」

 通路で出会ったトニヤにうつむき加減に口を開けようとするティファ。けれども出て来た言葉はガロードの事ではなく、いつの間にかフリーデンから出て行ったエニル・エルの事。

「トニヤさんは寂しくないですか? 突然、エニルさんが居なくなって」

「寂しい……寂しいかぁ。寂しくないって言ったら嘘になる。短い時間だったけど意気投合したからね。でもいつまでも引きずって居られる程子どもじゃなくなったのかなぁ。こんな仕事してるからいつ死んでもおかしくないからね。マイナスの感情は抑え込まないと生死に繋がる。そうやっていつの間にか慣れちゃった」

「慣れ……ですか」

「そうかもね、上手く言葉にできないけれど。でもねティファ、ブルーな理由はそれじゃないでしょ? 全部吐き出しちゃった方がスッキリする事もあるよ。まぁ、そうとは限らないのが難しい所だけど」

「トニヤさん……」

「ここは男が多いから愚痴を吐き出すのも苦労するのよ。それにサラはマジメ過ぎるしさぁ。ティファが相手になってくれると嬉しいんだけどさ。ま、気分になったらまたアタシの所に来なさい。いつでも相談に乗ってあげる」

 言うて笑顔を向けるトニヤはティファを置いて業務に戻って行ってしまう。残されたティファはジレンマの中から結論を導き出すしかない。

///

 ニュータイプ研究所、そこは新連邦が建設したニュータイプの研究機関である。サテライトシステムとフラッシュシステムを起動させる事のできるニュータイプはたった1人でも強力な戦力となり、新連邦は新たなニュータイプを欲している。
 その中で候補生として訓練を受けていたパイロット3人が以前起こったエスタルドでの戦闘でダブルエックスに敗れてしまった。
 シャギアは残る1人であるアベル・バウアーにもう1度フリーデン襲撃の任務を任せる。

「ラスヴェートの修理は完了した。今回はニュータイプ研究所の協力でビットモビルスーツも用意した」

「それはありがたいが、私は覚醒値5%だぞ? 今までの訓練でもフラッシュシステムの起動には成功してない」

「ニュータイプへの覚醒は死の恐怖が引き金になると聞いた。フリーデンに対し今回は1人で行って貰う」

「援護の艦隊もなしでか?」

「現在、私の機体は改修作業を進めている。それが間に合えば駆け付ける。アベル中尉はニュータイプ研究所で金が掛かってる。撤退も視野に入れて構わない。だが、もしもコレでニュータイプに覚醒しフラッシュシステムの起動に成功すれば中尉はガンダムを倒せる」

「私がガンダムを? フフフッ、ラズヴェートで出る!」

 意気揚々とコクピットに乗り込むアベルは操縦桿を握り締め機体のエンジンに火を入れ、頭部ツインアイが不気味に輝く。
 シャギアはその様子を見ながら、弟のオルバに声を飛ばす。

(オルバよ、そちらの準備はどうだ?)

(問題ないよ、兄さん。機体の改修は完了、予定通りそっちに向かうよ)

(そうか。ならば後は邪魔な存在を消すだけだ)

(僕達の計画を実行させる日も近いね)

///

 進路を進むフリーデンのブリッジ、ジャミルはいつもの様にシートの上に座るだけだったが他のクルーは不安を隠せない。何故ならここは新連邦の領地内、ニュータイプ研究所がそこにある。
 一見すると赤い岩肌の巨大な一枚岩がそびえ立つだけだがその内部には巨大な施設が建設されていた。
 舵を取るシンゴはいつ敵が襲って来るのか不安で仕方がない。

「元とは言え連邦の施設だったんでしょ? すぐ後ろからは新連邦の部隊が来てるかもしれないのに。艦長、本当に良いんですか?」

「皆に無理を言ってるのは重々承知している。だが私はどうしてもここに行く必要がある。ニュータイプ研究所に。ゾンダーエプタ―に居た時、奴らは私達をここに連れて来るつもりだった。きっと何かある筈だ」

「そうかもしれませんけど……」

「頼む。サラ、通信を送って来れ」

 指示を受けて何も言わずにサラはコンソールパネルを叩いた。フリーデンから送られる通信は確かにニュータイプ研究所にまで届き、数秒後ブリッジのモニターには女性の顔が映し出される。
 眼鏡を掛けるその女性は白衣を纏い少しやつれているようにも見えた。

『私はニュータイプ研究所所長のカロン・ラットです。フリーデン、と言う事は艦長のジャミル・ニートが居る筈でしょ?』

「私がそうだ。知っているのか?」

『ニュータイプの研究者なら知らない人は居ません。15年前の戦争で連邦軍が開発したガンダムのパイロット。若干15歳の少年にしてサテライトシステムとフレッシュシステムを起動させたニュータイプ。それは連邦軍にとって大きな戦力』

「15年も前だと言うのに良く知っているな」

『えぇ、もちろん。それで、何の用があってここまで?』

「初めに言っておく。我々は無益な戦いをするつもりはない。ただ知りたいだけだ。ニュータイプが何なのかを」

(アナタには無益でもコッチにはあるのにねぇ。情報によればティファ・アディールもあの艦に居る。狙わない手はない)

 カロンと名乗った女は腹の中で計画を企てるがジャミルがその事に気が付く事はできなかった。ニュータイプの能力が使えないからではない。ジャミルはどこかで焦っていた。
 ニュータイプの真実、自分自身の真実に。

『わかりました。私もアナタには興味があります。こんな通信ではなく直接会う事は可能ですか?』

「こちらとしてもその方がありがたい」

『入口のシェルターを開放します。艦はそこから入って下さい』

「いいや、行くのは私1人で充分だ」

『用心深いのか、バルチャーの習性なのか……。では5分後に向かえのヘリを行かせます』

「了解した」

 意思の疎通が終わると通信は切られモニターに映るカロンも消えてしまう。サラは振り返るとジャミルに向かって口を開く。

「本当に大丈夫なのですか? 相手の罠が仕掛けられてる可能性も」

「私の心配ならいい。それよりも外から攻撃を受けた場合の自衛は任せる。私の事は構わずに行動しろ。良いな?」

「了解……しました」

 言葉では言われたが不安を払拭できるモノではなく、サラを含め他のクルーもニュータイプ研究所に乗り込む事に対して気持ちが落ち着かない。
 けれども事態は確実に動いていき、向かえのヘリは時間通りに来た。1人ヘリに乗り込むジャミルはいよいよニュータイプ研究所に乗り込む。
 そこで待っているのは通信で言葉をかわしたカロンの姿。

「ようこそ、ニュータイプ研究所へ。歓迎します、ジャミル・ニート」

「いいや、こちらこそ」

「立ち話も何ですから奥へ」

 言われてジャミルはカロンの後に続き研究所の奥へと進む。
 歩きながら施設内を見て行くと隔離された部屋の中には大量の機材が設置されている。外で暮らす人間は薬1つ手にするのも難しい状況にも関わらず、ここでは全室空調で温度管理され室内は清潔に保たれていた。
 食事も薬も機材もここになら全て揃っている。だがそれらはニュータイプ能力を解明する為だけに用意されたモノ。
 カロンは進んだ先にある扉を開けると中へと入り、床に敷かれた赤い絨毯の上を進んで行く。部屋の中央に置かれたソファーとテーブル。

「ではここの椅子にお掛け下さい。お茶でも用意させましょうか?」

「いいや、結構だ。私は話をしに来ただけだ」

「そうですか」

 ジャミルとカロンは対面しながらソファーに座ると早速本題に入った。

「単刀直入に聞かせて貰う。この研究所は一体何をしている?」

「ふふふっ、名前の通り。ここはニュータイプを研究する為の施設。新連邦は新たなニュータイプを求めてる。その為にニュータイプの素質がある人間を集め、ここで研究、願わくば覚醒させる事を目的に活動している」

「連邦はまだそんな事をしているのか。いいや、それだけではない。ニュータイプの事を研究していながらアナタにはわからないのか?」

「何の事? 当事者であるアナタの方が良く知っているでしょ? ニュータイプの戦場での力は絶大よ」

「良くわかっているから否定している。ニュータイプは戦争の道具ではない」

「センチメンタルなの? 例えオールドタイプだろうとニュータイプだろうと、その能力は有益に使うべきだと思うのだけど」

「それは詭弁だ。かつて連邦はニュータイプを人の理想と掲げた。だがその結果が今の地球だ。ニュータイプと呼ばれた私の仲間も多くが戦場で死んでいった。こんな事の為にニュータイプが存在するのか?」

「それは違う。ニュータイプこそ人類が繰り返して来た戦争によって生まれた新しい人類。だからこそニュータイプは未来を創る事ができる。生き残る為にね」

「戦争がニュータイプを生んだだと? なるほどな、だからここにはニュータイプが居ないのか」

「なんですって?」

 カロンの眉がピクリと動く。威圧感がピリピリとした空気を生むがジャミルは構わずに話した。

「私もかつてニュータイプと呼ばれた。そして時の流れを見た。人の革新があってこそ未来は創られるのだ」

「ふふっ、大した理想です事。でも今と言う時代、かつての戦争を経験した人間にその言葉は届かない」

「そうかもしれないな。だから私は未来の若者に託すさ。これからの時代を築くのは老人ではない」

「はぁ、アナタは話のわかる人だと思ってたけど残念ね」

 見かけは落胆した様に見せるカロンは立ち上がりジャミルを残して部屋から出て行く。

///

 ジャミルがニュータイプ研究所に行っている間、フリーデンは状況を見守り待機しているしかなかった。
 その瞬間を見計らったかのように上空には1隻の輸送機。
 アベル・バウアーが搭乗するラズヴェートがたったの1機で発進した。

「ここを生き残る事ができれば私は覚醒する! その為の試練として立ち塞がってみろ! 乗り越えてみせる。来い、バリエントのパイロット、そして新たなガンダムよ!」

 ラズヴェートの機体反応をすぐに察知するフリーデン、ブリッジでは艦長の代理を任せられたサラが声を張り上げ指示を飛ばす。

「このモビルスーツの反応はエスタルドで見たのと同じ!? モビルスーツは順次発進して下さい」

 モビルスーツデッキでは準備が完了しているダブルエックスとバリエントにパイロットが乗り込む。ウィッツとロアビィは未だに完成しない自分の機体に歯痒さを感じキッドに詰めたてる。

「オイ、まだ俺のエアマスターは直らないのかよ! 見かけはもうできてるじゃなぇか!」

「俺のレオパルドもね。ちょっとくらいなら腕でカバーする」

「こっちだって全力でやってるよ! でもダメなモンはダメだ! まだ電気系統の配線やシステムの調整が全くできてないんだ。今操縦桿を握っても指1本動かねぇ」

 ゾンダーエプタ―での戦闘で損傷したエアマスターとレオパルド、その改修作業も目前に迫っていた。損傷した装甲だけでなく武装に至るまで大改造を行ったせいもあり普通よりも時間が掛かってしまっている。
 エアマスターバースト、レオパルドデストロイ、その完成も近いが今は戦えない。
自分の機体に搭乗するガロードとアムロはフリーデンから出撃し、迫るラズヴェートの迎撃に向かう。

「どうして1機だけなんだ?」

「兎も角今はフリーデンの防御に専念しるんだ。ジャミルも居ないんだ」

「了解!」

 メインスラスターから青白い炎を噴射するダブルエックスは上昇するとラズヴェートと向かい合う。互いにビームライフルを向け中距離からビームの射撃戦。
 次々に発射されるビームは装甲にかすめる事もなく、両者は回避行動を取りながらトリガーを引く。

「敵は標準的な武器しか持ってない。これなら!」

「来いガンダム! 私の踏み台となれ!」

「誰が踏み台になんかなるかよッ!」

 素早く操縦桿を動かすガロード。ダブルエックスはその反応に充分に答え機敏に動き、高い性能でラズヴェートの攻撃を簡単に避ける。
 そして回避行動を取りながら相手に向かってトリガーを引く。だが今回はアムロのバリエントも味方に付いている。
 アムロの正確無比なビームライフルの射撃がラズヴェートを襲う。

「あの時の機体か。だが1機で来たのは気になるな」

「その動き、エスタルドで戦った時と同じパイロットと見た! 貴様も私が覚醒する為の糧となれ!」

「そんな事では!」

 ニュータイプ専用機として開発されたラズヴェート。その性能はガンダムにも引けを取らない。それでも2対1と言う不利な状況。機体とパイロットの技量の差は大きく、徐々に追い詰められる。
 交差するビームの雨、攻撃は確実にアベルを追い込む。

「ぐぅッ!? 流石は新型のガンダム、簡単にはやられんか」

「何なんだコイツ? 死にに来たのか?」

 一切引く事もなく攻め続けるアベルにガロードは恐怖さえ覚える。それでも冷静にビームライフルの銃口を向け、発射したビームはコクピットを捕えた。

「そこだァァァッ!」

「ッ!?」

 時が止まる、死の恐怖が全身を駆け巡り何も考えられない。体中の毛が逆立ち冷たい汗が背中を伝う。だがこの瞬間だけは全てが止まっていた。
 音も、光も、時間さえも。
 それに反応してラズヴェートのフラッシュシステムが起動した。ツインアイが赤く輝き、上空の輸送機に搭載された7機のビットモビルスーツが一斉に起動する。
 意思を持ったかのように動く無人のビットモビルスーツはメインスラスターから青白い炎を噴射すると輸送機から発進した。
 アベルには感覚的にビットモビルスーツが起動した事がわかり、同時に操縦桿を匠に動かすと左手からビームサーベルを抜き、ダブルエックスから放たれるビームを寸前の所で防いだ。

「はぁ、はぁ、はぁっ!? この感覚……間違いない、フラッシュシステムが起動した! 私にはわかる! フハハハハッ、遂に覚醒したぞ!」

「クソッ、もう少しの所で防がれた。うん、何だ?」

「上から増援が来る。動けガロード」

 散開するダブルエックスとバリエント。その眼前に現れたのはさっきまで戦っていた機体と全く同じモノ。けれども漂うプレッシャーは今までのモノとは違う。

「何だ、この感覚は? パイロットの敵意か?」

「今更増援かよ。でも数が増えただけで勝てると思うな!」

「止めろ、迂闊に前へ出るな!」

 アムロが静止するよりも早くにペダルを踏み込むガロードが8機のラズヴェートを相手にするべく前に出た。
 ビームライフルの銃口を向けトリガーを引きビームを放つ。

「遅い! 遅すぎる!」

「なっ!? コイツ!」

 ダブルエックスの攻撃を避けるラズヴェートは一斉に武器を構えて攻め立てる。四方からのビーム攻撃、ビームサーベルでの接近戦。
 それらの攻撃は互いに干渉する事もなく、完璧なタイミングでダブルエックスに襲い掛かる。

「ぐぅっ!?」

 ビームの直撃がコクピットを激しく揺らす。ルナチタニウム合金の強固な装甲は1撃くらいで破壊される事はないが、それでも確実にダメージを蓄積していく。
 右から、左から、ビームサーベルの斬撃が襲う。上からも下からもビームの追撃。
 ペダルを踏み込み機体を加速させても避けた先から攻撃が迫る。ディフェンスプレートで何とかして攻撃を防ぐが、絶え間ない攻撃に機体も心身も疲労していく。
 すかさずアムロのバリエントが間に割って入りダブルエックスを何とか援護した。

「機体の性能を引き出せ。これだけの数、バリエントでどこまで保つ?」

「アムロ……」

「1機づつ確実に仕留める」

 トリガーを引くアムロのバリエントはラズヴェートを狙う。次々に発射されるビームにアベルは回避行動を取るが、逃げる先を狙うアムロの攻撃に思わず舌を巻く。

「ナニィ!?」

「この動き……相手もニュータイプか? だが、妙だな」

「私の動きに付いて来る。これで確信が行った! 貴様もやはりニュータイプ!」

「敵意が来る」

 ビームを避けながら攻撃をするアムロ。その動きはまるで先に起こる事を知ってるかのように攻撃が当たる気配が見えない。

「何故だ? 私もニュータイプの筈だ。それを……」

「見える! 落ちろ!」

 ビームがラズヴェートの右腕を撃ち抜く。衝撃に動きがわずかに止まった瞬間、更に右脚部とコクピットを撃ち抜いた。けれども他のラズヴェートがバリエントに襲い掛かる。
 右手にビームサーベルを握り振り下ろす。激しい閃光が発生するとバリエントもビームサーベルを引き抜きコレを防いだ。

「チィ、数が多い。反応が遅い!」

 右脚部を伸ばし目の前の敵を蹴り飛ばす。衝撃と鈍重な音が響き渡り、姿勢を崩した所へ銃口を向けトリガーを引いた。
 一撃でコクピットが撃ち抜かれ、2機目のラズヴェートが黒煙を上げながら地上へと落下して行く。
 瞬く間に2機のモビルスーツを倒したアムロの動きを間近で見たガロードは、思わず声を漏らさずには居られなかった。

「これが……ニュータイプの戦い……」

///

 アムロとガロードが戦う最中、フリーデンは動く事ができないで居た。ジャミルがまだ戻って来ない事もあるが、密集した戦闘に援護射撃もできない。
 ブリッジではその様子を見守る事しかできなかった。
 そんな中、ティファはモビルスーツデッキへと走っている。地上へ直撃するビーム攻撃が時々艦内を揺らすが、壁に手を付きながらでもティファは急いでソコに向かう。

「はぁ、はぁ、もう少し……」

 よろけながらもモビルスーツデッキまで到着したティファが見るのはワイヤーで固定されたνガンダム。
 補給も整備もされてない機体には埃も被っている。

「ん……」

 生唾を飲み込むティファは意を決して歩を進めると横たわるνガンダムの所にまで足を運ぶ。そして見上げる白い巨人。
 思い出すのはアムロとララァに言われた言葉。

(何かを失う事で前に進めるのだとしたら、俺にとって彼女がそうだったのだろ)

(アムロはもう私と会いたがらない、それはあの人が成長したから)

「そんなの……嫌!」

 装甲の隙間に足を掛けてよじ登るティファ。非力な彼女の筋力では補助もなしにモビルスーツのコクピットに乗り込むのは難しい。そのせいで時間が掛かった事もあり、ティファを見付けたキッドが急いで駆け付けて来た。

「ティファ、何やってんだ! 落ちたら危ないぞ!」

「行く必要があるの。ガロードを助けないと」

「行くって……モビルスーツの操縦なんてできないだろ! それにこの機体はもう満足に戦闘なんてできない!」

「コクピットに入れれば良いの。お願い!」

 今までになく必死なティファの姿にキッドも思わずたじろぐ。そうしてる間にも脚部装甲によじ登ったティファはコクピットに向かって歩いて行ってしまう。

「あ゛あぁッ! わかったよ、座るだけだからな!」

 ティファに追い付くべくキッドも急いでνガンダムによじ登って行く。ティファは開放されたままのハッチからコクピット内部に入り込みシートの上に座った。

「これがガンダム……」

「ティファ、さっきも言ったけど座るだけだからな。コイツは戦えない」

「私もルチルさんみたいにサイコフレームを使えれば」

 ハッチから覗き込むキッドは約束を破って動かさないかどうかを心配して見ていた。けれどもティファがした事は胸元で両手を握り祈るようなポーズを取るだけ。
 不信に思ったキッドだたがこれ以上は何も言えない。そしてコクピットフレームに使用されたサイコフレームがティファの声に答えようと淡い光を放出する。

(お願い、ガロードに私の声を届けて)

 淡い緑色の光はνガンダムから溢れ出す。
 彼女の願いは光の粒子に乗ってガロードの所にまで届こうとしていたが、その声は彼だけでなく他の人間にも伝わっていた。

「この感覚、ティファか!?」

 能力を失ったジャミルにもティファの声が聞こえた。そしてそれはガロードも同じ。操縦桿を握り締め必死に戦いながらも、突然聞こえた声に動きを止めてしまう。

「何だ!? さっきの声、ティファなのか?」

 ニュータイプへと覚醒したアベルにもまた、その声は届いてしまう。

「声が聞こえただと!? 奴以外にもニュータイプが居るのか?」

 突然の事に戦場に居る人間の誰もが驚いた。動きを止め、フリーデンから溢れ出てくる光に目を奪われてしまう。
 けれどもアムロだけは、明確な意思を持って叫んだ。

「止めろティファ!」



第21話 ニュータイプはそんな便利じゃない!





活動報告へのコメントありがとうございます。
取り敢えずサブタイトルはそのままに章を追加して見ました。
ご意見、ご感想お待ちしております。