機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

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ニュータイプ研究所編
第20話


 戦闘は終わった。

 ツインサテライトキャノンの一撃により合流を図ろうとした新連邦軍の部隊は消滅し、ゾンダーエプタから脱出しようとした大型船はガロード達により占拠される。

 ティファとジャミルも傷ひとつなく無事に救出され皆はフリーデンへと帰った。けれどもその中に、エニル・エルの姿は見当たらない。

 人知れず、彼女の姿はどこかへと消えて行く。

 

(ごめんなさい、トニヤ。でもアタシは、やっぱりここには居られない。本当にごめん……)

 

 エニルの声は誰にも届く事はないが、一緒に居た僅かな時間だけは記憶の中に留まり続ける。今と言う短い時間ではあるが。

 時を同じくして、フィクス・ブラッドマンは新連邦を樹立。同時に地球圏の統一を開始した。前回の戦争が終わって15年。既に60歳を超えたブラッドマンではあるが、その胸に宿す野望はまだ潰えていない。

 大歓声の中で壇上に立つ彼は、新たな時代が到来する事を声高らかに宣言する。

 

「忌まわしき戦いから15年の月日が流れた。だがようやく、今日と言う日は訪れた。混沌の時代は幕を閉じ、我々が進むべき道の先にあるのは輝かしき未来である。だが、世界はまだ1つに統一された訳ではない。故に、私はこの場で宣言する。新たなる地球連邦、今この瞬間から新連邦政府の樹立を宣言する! そして誓おう、我々は過ちを繰り返さない。過去に死んで行った同胞達の為にも、我々は成し遂げなければ成らぬ! 世界の統一を! 真の平和を!」

 

 盛大な拍手が壇上にまで響き渡る。ブラッドマンの宣言を持って、遂に新連邦は誕生した。そして同時に、圧倒的な戦力を持って地球圏の統一を開始する。

 それは新たなる激動の時代の到来でもあった。

 ようやく回復した地球環境、各地に出来上がった小国はブラッドマンの樹立宣言に反発する。そこには当然衝突が発生し、新連邦は力で持って相手を屈服させた。

 取り分け激戦となったのが南アジア地域、その戦火の中にはフリーデンの姿が。

 ガロードは再開したティファと一緒に甲板に上がると景色を眺めながら胸の内を話した。

 

「ケガもしてないみたいで良かったよ。何かあったらどうしようって心配でしょうがなかった」

 

「私の事は大丈夫。でも、ガロードは?」

 

「おれ? 俺なら何ともない。ピンピンしてるよ」

 

 そう答えるガロードだが、ティファは静かに首を横へ振る。彼女が向ける視線、その瞳は何もかもを見透かすかのように見えた。

 

「カリスも、カトックも、いいえ。もしかしたら他の人だって死んでしまうかもしれない。私は、ガロードの心の事が心配」

 

「ティファ……心配すんな! 確かにカリスやカトックは死んだよ。その事が悲しくない訳じゃない。でも俺は立ち止まる訳にはいかないんだ。只の強がりかな?」

 

「そんな事はないと思う。でも……」

 

「でも?」

 

「初めて会った頃と比べてガロードは変わった」

 

「そうかな? あんまり自覚なかったけど」

 

 ティファは以前、アムロに言われた言葉を思い出していた。その時は理解する事ができなかったが、今のガロードを昔と比べれば嫌でもわかる。

 少年は青年へと成長しつつあった。

 

(何かを失う事で前に進めるのだとしたら、俺にとって彼女がそうだったのだろ)

 

「ガロードにとってはあの2人が……」

 

「ティファ?」

 

「私は……」

 

 1歩先に進むガロードは青年となり、それに遅れてしまうティファは苦悩した。けれどもこれを解決するには彼女も前に進むしかない。

 悩める少女にガロードは何もする事ができなかった。2人の間を時間とそよ風だけが過ぎて行く。

 

///

 

 フリーデンのブリッジではジャミルとアムロがこれからの事を話し合っていた。このまま進んだ先にはエスタルドと呼ばれる小国がある。

 新連邦の地球侵攻作戦、そのターゲットにフリーデンも含まれている。ガンダムダブルエックスを奪取し、ニュータイプも保持し、ツインサテライトキャノンの一撃で新連邦の部隊を一掃した。

 ブラッドマンが唱える地球圏統一を前にすればフリーデンは目の上のたんこぶ。

 

「いよいよ新連邦が動き出したか。このままでは私達も自由には動きにくくなるな」

 

「それもそうだが次はどこへ向かうつもりだ? まさか真正面から奴らと戦うだなんて言わないよな?」

 

「いずれはその時も来るかもしれんが、モビルスーツの修復も終わってない今は避けて通るしかない。新連邦の動きは確かに気になるが、私達が次に目指すべき場所は別にある。ニュータイプ研究所だ」

 

「ニュータイプ研究所?」

 

「私とティファはニュータイプ研究所に連れて行かれる予定だった。どんな施設かはわからないが、確かめる必要はある」

 

「ジャミル……まだニュータイプに囚われているのか?」

 

 ニュータイプと呼ばれる能力、言葉、存在の呪縛からジャミルはまだ逃れる事はできない。ガロードやティファ、アムロとの出会いからその考え方は薄れつつあったが、それでも15年前に負った心の傷は拭い去る事ができなかった。

 

「情けないと笑うか?」

 

「俺だって彼女の呪縛から逃れるのに7年も掛かってしまった。そんな事はしないよ」

 

「そうか……」

 

(だがな、ジャミル。このままだとお前はシャアのようにならないとも限らない。過去ばかり見た所で何も変わらない。)

 

 アムロは同じニュータイプと呼ばれたシャアの事を心のどこかで信頼していたのか。かつて反地球連邦政府のティターンズと共に戦った時はそのように感じる事もあった。

 カミーユのように新たな世代が時代を築き、その為にシャアもダカールで自らの心情をさらけ出したが、それでも未来に待っていたのはすぐには変わらない民衆と時代。

 ニュータイプとして覚醒したカミーユでさえも組織と民衆の荒波の前では何にもならず、結果として地球連邦政府は更に増長するだけとなった。

 そしてハマーンはミネバ・ザビを傀儡にしてネオ・ジオンを語り、シャアは人類に対して本気で嫌気が差したのかもしれない。

 

「もうすぐエスタルド領に入るな。モビルスーツの修理にも時間が掛かる。暫くは停泊か?」

 

「そうできるならな。サラ、回線を繋げられるか?」

 

「キャプテン、それが向こうから既に」

 

「どう言う事だ?」

 

 コンソールパネルを操作するサラは先にエスタルド側から送られて来た通信を繋げるとモニターに映像が映し出される。

 見えるのは、まだ歳幾ばくもない青年の姿。

 

『ぼ……私はエスタルド人民共和国の国家首席を務めるウィリス・アラミスと申します。そちらの艦長とお話がしたい』

 

「私が艦長のジャミル・ニートだ。それで要件は?」

 

『そちらの事情は少なからず伺っております。何でも新連邦の基地の1つを破壊し新型のガンダムを奪ったとか。その事で折り入ってお願いがありまして。是非とも、私達の国であるエスタルドの防衛を手伝って頂けませんか?』

 

 青年の訴えを聞いたジャミルは眉を潜め、ちらりと隣に立つアムロに視線を向けた。アムロも同様に首を傾げるだけ。

 

「承知だとは思いますが私達はバルチャーです」

 

『存じております』

 

「それに、私達にとっても新連邦は厄介な存在です。ですがエスタルドの防衛に参加するともなれば事は政治です。事と次第によっては内政干渉にもなり兼ねませんが?」

 

『重々承知しております。ですが、現在の我が軍事力では敵軍を退けるどころが防衛も困難な状況。無茶な事を頼んでいるのはわかってます。それでもどうか力を貸して頂きたい』

 

 背もたれに体重を預けるジャミルは1度肩の力を抜いた。新連邦の地球侵攻作戦をこのまま野放しに傍観すれば地球圏が統一されるのも時間の問題。

 だが不用意に攻撃を仕掛ければ更に狙われる事に繋がる。そうなれば今よりももっと行動が取りづらくなってしまう。

 それを聞いていたアムロも腕を組む。

 

「どうする? 時間を急ぐか? だがそうなると補給できないのが辛いな」

 

「取り敢えずエスタルド領に入る。詳しい事は私が直接会って話す。みんなにもそう伝えてくれ」

 

「わかった。だったら俺はモビルスーツデッキに行く。バリエントの調整がまだ終わってないからな。他のガンダムの改修も急がせる」

 

「頼む」

 

 そう言うアムロは背を向けてブリッジから立ち去って行く。ジャミルもシンゴに指示を出してエスタルド領内にフリーデンを停泊させ、彼らと話し合うべく王国場内へと1人で向かった。

 エスタルドは戦後に独立した小国である。かつての戦争を生き残った数万人の人間によりようやく持ち直す事ができた本当に小さな国。

 それが今、新連邦の地球圏統一作戦により存続の危機に立たされ、同様の周辺国と同盟を結び反旗を翻していた。

 だが戦力の差は歴然であり、新連邦は日増しに領土を拡大している。そこでエスタルドはガンダムを所有するフリーデンに共同戦線を依頼した。

 赤い絨毯が敷き詰められた広い部屋に通されたジャミルは先程の通信で見た青年、国家主席を務めるウィリス・アラミスと対面する。

 彼の両隣には2人の男が立っていた。

 

「ご足労頂きありがとうございます。私がウィリス・アラミスです」

 

「フリーデンの艦長、ジャミル・ニートです」

 

 互いに右手を伸ばすを2人は握手を交わした。

 

(華奢な腕だな、緊張のせいか瞬きも多い。この青年が国家主席か。周囲の人間に担ぎ上げられたのか、止むに止まれぬ事情があるのか……)

 

「どうぞ座って下さい。ここに居る間はゆっくりくつろいで頂ければ」

 

「いえ、こちらにもやる事がありますのであまりゆっくりはできません」

 

「そ、そうですか」

 

 ジャミルの言葉に少し弱気になるウィリス。瞬間、彼の様子を見て隣に立つ男が声を荒げた。

 

「成りませぬぞ、ウィリス様! 交渉の初手に置いて相手に隙を晒すなどと!」

 

「ご、ごめん! え、えぇっとジャミルさん。こちらに協力して頂けるのなら、その間のフリーデンとモビルスーツの面倒はこちらで見させて頂く。必要なら少額ではありますが金も用意します」

 

「確かに、現状のフリーデンは新型のガンダムが1機ある以外は疲弊してます。そちらで修理と補給をしてくれるのなら、私共もエスタルド側の提案を考えさせて頂きます」

 

「本当ですか!?」

 

「ですが何度も言うように私達はバルチャーです。その事を忘れないで下さい。私は1度、艦に戻ってこの事をクルーと相談します」

 

「わかりました。ではフリーデンはこちらの工場に誘導させて頂きます。停泊中は他の乗組員の人達も国内を自由に動いて貰って結構です」

 

「感謝します」

 

 再び右手を伸ばして握手する2人。けれどもジャミルやウィリスが考えるよりも新連邦の動きは早かった。

 

///

 

 シャギアのガンダムヴァサーゴはゾンダーエプタ―でのアムロとの戦闘により致命的なダメージを負ってしまい今は使えない。

 弟であるオルバのガンダムアシュタロンと共に修理、強化を行っていた。フリーデンの戦力が増強される一方で彼らも独自に計画を進めている。

 薄暗い部屋の中、兄弟の目の前には4人の男が居た。

 

「私はシャギア・フロストだ。キミ達に来て貰ったのは他でもない。ゾンダーエプタ―で奪取された新型のガンダム。ガンダムダブルエックスを撃破して貰う。その為にわざわざニュータイプ研究所から候補生であるキミ達を呼んだ。ダブルエックスを撃破できたモノには2階級特進を約束しよう」

 

「その為にこちらも新型のモビルスーツを4機用意した。作戦の決行は今日の夜。それまでに準備を整えて欲しい」

 

 2人の言う事に4人は黙って頷くだけ。

 オルバは兄であるシャギアに念波を送ると目の前の候補生達に悟られぬようにしてこれからの計画に付いて話し合う。

 

(彼らでダブルエックスに勝てるかな? 一応、宿命のライバルなんだけど)

 

(ガロード・ランならやってくれるさ。そして邪魔者は居なくなる。我々のガンダムの改修が終われば、いよいよ動き出す日も近い)

 

 

 

第20話 世界に死の嵐が吹く

 

 

 

(フフフッ、そうだね兄さん。日増しに高まる僕達の憎悪。この事にブラッドマンは気が付いてない)

 

(所詮は奴もオールドタイプ。全てが終わった時に奴はこの世に居ない)

 

(その時が楽しみだね)

 

 4人はそれぞれに用意された新型モビルスーツのコクピットへと進んで行く。そしてフロスト兄弟もエスタルドに侵攻を開始した。

 

///

 

 雲1つない夜空で満月が眩しい程に光り輝く。フリーデンがエスタルドに入国したその日の夜、新連邦は早くもこの地域への攻撃を開始した。

 上空の爆撃機から落とされる大量のミサイルは街を一瞬で炎に包み、モビルスーツから放たれる攻撃は爆音と轟音を轟かせる。

 民間人の避難も満足に進まぬ内に、エスタルドは大きな打撃を与えられてしまう。

 急いでフリーデンへと戻ったジャミルはブリッジのシートでその惨劇を目の当たりにする。

 

「宣戦布告もなしにいきなり攻撃か。シンゴ、エンジンを起動させていつでも動けるようにしろ」

 

「了解!」

 

「サラ、ガンダムはどうなってる?」

 

「ダブルエックスとバリエントしか出撃できません。GXはまだ未調整で動ける状態ではないそうです。キャプテン、脱出するのではなく助けるのですか?」

 

「一宿一飯の恩義は尽くす。ガロードとアムロを発進させろ。我々は民間人の誘導、可能なら救護だ」

 

 ジャミルに一声でフリーデンのクルーは動き出し、モビルスーツデッキからもアムロのバリエントが出撃する。

 ガロードもダブルエックスのコクピットに入りコントロールユニットを接続させて機体のエンジンを起動させた。

 

「よっしゃッ! ガンダムダブルエックス、行く――」

 

『ちょっと待てガンダム坊や!』

 

「へぇ!?」

 

 カメラを向けると声の先に居たのは拡声器に向かって大きく口を開くキッドの姿。出撃ギリギリの所で踏み止まり、キッドに向かってガロードも外部音声で話し掛けた。

 

「何だよ突然! もう攻撃は始まってるんだぞ!」

 

『その機体でも使える武器を用意したんだ。取り敢えず持てるだけ持ってけ!」

 

「武器って……」

 

 モビルスーツデッキの壁に立て掛けられた装備品。ダブルエックスは標準装備でバスターライフルとハイパービームソード、ディフェンスプレートを持っているがそれらとは違う武器があった。

 ビームジャベリン、ツインビームソード発生機、G-ハンマー、ロケットランチャーガン、ロングレンジビームライフル。

 見た事もない武器の数にガロードは思わず圧巻する。

 

「いつのまにこんなの用意したんだよ!?」

 

『ここの整備の連中に貰ったんだ。これで少しは戦いやすいだろ?』

 

「サンキューな!」

 

 マニピュレーターを伸ばすガロードはビームジャベリンとG-ハンマーを腰部にマウントさせ、ロケットランチャーガンを空いた左手に握らせる。

 完全装備になったダブルエックスは開放されたハッチからいよいよ出撃した。

 

「これで完璧! ガンダムダブルエックス、行っちゃうぜ!」

 

 ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射して加速するダブルエックスはフリーデンから出撃した。

 だが目の前に広がる光景は既に悲惨で街は炎で燃え、建造物も手当たり次第に破壊されてしまっている。

 そして道端やガレキの隙間には逃げ遅れた市民の体。

 コクピットの中でガロードはコンソールパネルを操作するとアムロに繋げた。

 

「こんな街中だとサテライトキャノンは使えない。でもどうすれば良い?」

 

「持久戦は無理だ、正面から戦わずに各個撃破しろ。相手の動きが早すぎる。撤退までの時間を稼ぐんだ」

 

「撤退……」

 

 アムロの一言にどうしようもない現実を叩き付けられる。フリーデンの残りのガンダムは修理がまだ終わっておらず出撃する事はできない。

 エスタルドの防衛部隊も懸命に戦ってはいるが、新連邦が開発した新型モビルスーツのバリエント。更にはドートレスのフライトタイプを数だけは用意しているせいで、性能面でも数の面でも圧倒的に負けていた。

 それはガロードとアムロの2人でどうにかできる問題ではなく撤退をしなければ被害が拡大する一方。

 生唾を飲み込むガロードは両手で操縦桿を力強く握る。

 

「お前ら……お前らッ! また戦争を繰り返すつもりか!」

 

 ビームライフルを構えて突撃するダブルエックスはトリガーを引き続けビームを撃ちまくる。迫る敵軍のモビルスーツを2機3機と撃ち落としながら確実に数を減らすが、倒した傍から増援が現れ勝ち筋が見えてこない。

 

「グッ!? どれだけの数が居るんだ?」

 

「ガロード、突っ込み過ぎだ!」

 

「でも……新型の反応!?」

 

「4機来るぞ。離れろ!」

 

 迫るミサイルとビーム攻撃に散開する2機。ガロードとアムロは視界に新たに現れた敵を収めた。骨の様に細く白いモビルスーツ。大量のマイクロミサイルを両肩に背負った黄色い機体に見るからに固く思い鈍重な機体。そしてビームライフルとビームサーベルと標準的な装備をした黒い機体。

 

「何だ、この機体は?」

 

「どちらにしても撤退の邪魔になる。俺達で相手をするしかない。ガロード、合わせろ」

 

「了解!」

 

 アムロを先頭にして4機の新型に戦いを挑もうとするが、その中の黒い機体がバリエントに目を付けると前に出て来た。

 装備するビームライフルを向けてトリガーを引くが敵意に反応するアムロはビームを簡単に避ける。

 

「何だ?」

 

「この反応速度、コイツはニュータイプなのか?」

 

「俺の事を見ているのか?」

 

「私の能力の覚醒の為にも、貴様には人柱になって貰う!」

 

 ビームライフルのトリガーを引き更にバリエントに向かって攻撃するが、アムロは操縦桿を匠に操作して回避行動に移る。そうなれば敵が攻撃をした時には機体は既に別の場所へと動いていた。

 アムロの培った経験と先読みを前にビーム攻撃はかすりもしない。

 だが機体性能の差は大きく、敵機を引き剥がそうとメインスラスターを全開にしても簡単に追い付かれてしまう。

 

「クッ、引き剥がせない」

 

「逃がす訳がなかろう! 貴様はこのラスヴェートの生贄だ! そして私は真に覚醒する!」 

 

「ガロードは先に行け!」

 

 互いにビームサーベルを引き抜き鍔迫り合い、眩い閃光が両者を照らす。その様子を見ていたガロードだが、あまりに早い2人の動きに援護できないでいた。

 

「わかった。負けるなよ、アムロ」

 

 ダブルエックスはバリエントを置いて残り3機のモビルスーツの相手をするべく先行した。しかし、新型3機は見た事もない機体、戦闘能力も全くの未知数であり戦い方もわからない。

 

「でもやるしかない! やってやる!」

 

 骨の様に細く白いモビルスーツ、コルレルは右手にビームナイフ1本しか装備してないが、それでも従来のモビルスーツからは想像もできない素早い動きと運動性能でガロードを翻弄する。

 接近戦はコルレルが担当し、中距離からはマイクロミサイルを両肩に装備するブリトヴァがダブルエックスを狙う。

 そして超重量級のモビルスーツ、ガブルは2機の盾代わりに動くと同時にダブルエックスを壁際へと追いやる。そのサイズはもはやモビルアーマーと呼べる程で、固い装甲は何ぴとたりとも攻撃を通さない。だがぞのせいで何1つとして武器を装備してなかった。

 地上に着地するダブルエックスはコルレルを狙うがその動きに翻弄されてトリガーを引けない。

 

「何だこの機体? バッタか何かみたいにピョンピョン跳ね回りやがって」

 

「ガンダムを倒せば2階級特進……かッ! 白い悪魔と呼ばれた俺の敵じゃない」

 

「来るッ!?」

 

 ビームナイフを握るコルレルはダブルエックスに向かってジャンプした。その瞬発力とスピードにトリガーを引く時間さえない。ビームナイフの切っ先はダブルエックスの胴体を捕らえるが、ルナチタニウム合金の高い防御力を前にダメージは小さかった。

 

「フフフッ、何もできないまま斬り刻んでやるよ!」

 

「ビームライフルは無理だ。バルカンで!」

 

 頭部バルカン、肩部マシンキャノン、胸部インテーク下に2門装備された三砲身ガトリング式大口径機関砲ブレストランチャー。

 一斉射撃で面攻撃する事でコルレルを仕留めようとするが上空からマイクロミサイルの雨。

 

「クッ!? 後ろの奴か。動きを止めたらダメだ」

 

「動きが散漫だぞ、ガンダムッ!」

 

 ビームナイフの攻撃がダブルエックスを襲う。辛うじてシールドで防いだガロードだが、動きを止めた瞬間にまたマイクロミサイルの応酬が来る。

 

「まずはアイツをやるしかない! そこだッ!」

 

 ビームライフルの銃口を向けるガロードはマイクロミサイルを持つブリトヴァに向かってトリガーを引く。ビームは一直線に敵機に向かうが、分厚い装甲がそれを許さない。

 超重量級モビルスーツ、ガブルがダブルエックスから放たれたビームを容易く防いだ。

 

「コイツ、ビームが効かない。だったらコイツで!」

 

 左手に握るロケットランチャーガンを向けるガロードはすぐさまトリガーを引いた。小型化された武器ではあるが威力は折り紙付きである。

 発射された弾頭はガブルの装甲に直撃した。

 激しい衝撃と炎、舞い上がる煙が視界を一時的に効かなくする。数秒後、煙の先にはキズ1つないガブルが立っていた。

 

「ロケットランチャーの直撃でもダメか。だったら!」

 

 握った武器を投げ捨て、腰部のG-ハンマを手に取る。グリップの先にチェーンが伸び、更にその先にはトゲの付いた鉄球。原始的な武器ではあるが並のモビルスーツなら一撃で装甲をグシャグシャに破壊されてしまう。

 左腕を大きく振り上げ鉄球を敵機に目掛けて振り下ろす。

 

「なっ!?」

 

「そんな武器が何だって言うんだ! このガブルには何ともないぜぇッ!」

 

「チッ! ならコレでどうだ!」

 

 マニピュレーターと呼べる代物かどうかすら怪しいガブルの手、巨大な2本のアームによって鉄球は簡単に受け止められてしまう。

 効果がないの見たガロードはG-ハンマーも手放し、コントロールユニットのガジェットを押し込んだ。月のマイクロウェーブ送信機に信号が伝わり、ダブルエックスも砲身とリフレクターを展開しようとする。

 だが、ツインサテライトキャノンの発射を見逃してくれるような相手ではない。

 

「そんなチャージに時間の掛かる武器、撃たせるものかよ!」

 

「白い奴が来るか。良し!」

 

 迫るコルレルにツインサテライトキャノンを展開する暇はない。繰り出される斬撃にメインスラスターを吹かし機体を飛び上がらせると攻撃を回避する。

 ダブルエックスを追い詰めるべく、ブリトヴァとガブルも前に出た。

 

「もう逃げる事はできないッ! ここで死ねェェェッ!」

 

「いいや、狙い通り! マイクロウェーブ、来るッ!」

 

 月からマイクロウェーブは既に発射されている。だがその先に居るのはダブルエックスではない。初めに砲身とリフレクターを展開した位置に居るのは動きの遅いガブル。

 大容量のエネルギーを乗せてマイクロウェーブの眩いばかりの輝きはガブルに触れた。

 

「サテライトキャノンのマイクロウェーブ!? な、内部から壊れる!?」

 

 ガブルに膨大なエネルギーを受け止める事はできない。エンジンなどの装甲内部の部品が破壊され、ガブルは内側から爆散した。

 機体の爆発に留まらずマイクロウェーブのエネルギーも地上にぶつかる事で巨大な爆発と衝撃が伝わる。

 ダブルエックスとブリトヴァは脚部を踏ん張り衝撃に耐える事がコルレルはそれができない。そのあまりに軽すぎる機体重量と細すぎる手足とボディーは衝撃波に吹き飛ばされる。

 コルレルは背部から建物にぶつかりフレームが歪む。

 俊敏だった動きも今は見る影もなく、ぐったりと倒れるコルレルにガロードは追い打ちを掛ける。

 

「作戦が上手くいった。もう1機!」

 

「操作を受け付けない!? 電気系統か? 何が壊れた?」

 

「落ちろッ!」

 

 トリガーを引くガロード。発射されたビームはコルレルの胸部を1発で貫き、パイロットは髪の毛1本とて残る事なく焼き尽くされた。同時にコルレルの動きも完全に停止する。

 

「あと1機、逃がすか」

 

「クッ、こんなチープな作戦に2機が破壊されただと!?」

 

「ライフルのエネルギーが少ない。ビームジャベリンを使う」

 

 腰部からビームジャベリンを引き抜くダブルエックス、対してブリトヴァは味方が2機もやられた事で戦況が不利になったと判断し、逃げるようにしてダブルエックスから離れて行く。

 当然それを逃がすガロードではなく、ペダルを踏み込み機体を加速させて投擲のようにビームジャベリンを投げた。

 

「こう言う使い方だってできるんだ! 届けぇぇぇ!」

 

「うあ゛あ゛あ゛ァァァッ!」

 

 切っ先はブリトヴァの背部に突き刺さ黒煙を上げ、メインスラスターの出力も低下する。ガロードは次にサイドスカートからハイパービームソードを引き抜くと高度を下げるブリトヴァに向かって更に投擲。

ハイパービームソードの切っ先はブリトヴァの胴体部分に突き刺さり、損傷により出力が低下する機体は何もできずに地上へと落下した。

 完全に機能不全に陥り、もはや戦闘継続はできない。それを確認したガロードは1人で戦うアムロに合流しようと機体を動かす。

 一方でアムロとラスヴェートとの戦闘も終わろうとしていた。

 機体の性能差はあるがパイロットの技量がそれをカバーする。

 

「ガロード、そっちはやったか」

 

「クッ、たかが1機も落とせんとは。ここは引くしかない。貴様の事は忘れんぞ、バリエントのパイロット!」

 

 逃げるラスヴェートにアムロはこれ以上深追いはしない。新型4機を退けた事で新連邦の部隊にも乱れが発生し、大部隊も後退を始めた。

 アムロは合流したガロードのガンダムにマニピュレーターを触れさせ接触回線を繋げる。

 

「新型のガンダムとは言え、初めての相手によくやった。フリーデンに帰艦するぞ」

 

「なぁ、アムロ。俺、ここまでしかできなかったのかな? このままだとまた新連邦は攻めて来る」

 

「1人の人間にできる事なんてたかがしれてる。それでも今の自分にできる精一杯をやるしかないんだ。新連邦がどんな動きを見せるのかはわからないが、俺達もずっとここに居る訳にはいかない。あとはこの国の問題だ」

 

「そうか……」

 

「帰艦する」

 

 エスタルドの街から離れる2機。燃え盛る建物とそこから上がる黒煙はいつ消えるとも知れず、夜空の月光を真っ黒に隠している。




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