アムロの目の前に現れた白い陸戦艇。
警戒はしながらも、ビームライフルの銃口はまだ向けない。
2機のガンダムも戦闘を中止しており、相手の出方を待った。
「このガンダムの母艦か。だが今の時代、連邦軍で陸戦艇を使う所なんて聞いた事がないぞ」
理由はわからないが、地球に降下してから頭の中で疑問が尽きないアムロ。
そうして迷ってる間にも、相手側から外部音声で呼び掛けて来た。
『こちらはフリーデン。艦長のジャミル・ニートだ。そこの白いガンダムタイプのパイロット、応答願う』
「ロンド・ベル隊のアムロ・レイ大尉だ。2機のガンダムはそちらの所属で間違いないな?」
『そうだ。フリーのモビルスーツ乗りを雇って居る状態だがな』
(モビルスーツ乗り? どう言う意味だ?)
『こちらに攻撃の意思はない。出来れば話がしたい。その間に補給くらいはさせて貰う』
考えるが選択肢はなく、地球と宇宙の状況をいち早く知るには誘いに乗る他なかった。
「わかった。ハッチを開けてくれ」
『恩に着る』
開放されるハッチ、2機のガンダムも同じ所から内部へと入る。
アームレイカーに手を添えて機体を歩かせるアムロも同様に艦内へ足を踏み入れるが、その瞬間に何から頭の中を過った。
「なんだ!? この感覚……シャアでもない。カミーユなのか? いや、違う。プレッシャーのようなモノは感じない」
言いながらも内部に入り、ハンガーに機体を固定させた。
ハッチを開放させワイヤーで降下するアムロは、数年ぶりに地球の重力が掛かる地へ足をつける。
宇宙での活動に慣れて居たが、久しぶりの地球でも問題なく歩く事は出来た。
すぐ近くでは、さっきまで戦闘を行って居たガンダムのパイロットが2人、物珍しそうにアムロを見て居る。
「アイツが白い機体のパイロット? なんだジャミルと同じくらいじゃねぇか」
「それよりもさ、なんでノーマルスーツなんで着てるんだ? だってここ地球よ。普通そっちの方が先に来ると思うけどね」
「うるせぇ!! 悪かったな!!」
ウィッツとロアビーの会話を傍から聞いて居ると、スーツを来た女性がアムロの前に現れた。
「アナタがあの機体のパイロットですね。私はオペレーターのサラ・タイレルです。キャプテンの元へご案内します」
「頼む」
「ではこちらへ」
サラの案内に従い、アムロは艦内を進む。
彼女の背中を追いながら通路を歩いて行き、艦内の様子を観察した。
陸戦艇に乗った事のないアムロは、内部の構造を見るだけでも新鮮に感じる。
(だが、若いクルーが多いな。まるで昔の俺達みたいだ)
まだ少年だった頃の自分を思い出すアムロ。
連邦とジオンの戦争に巻き込まれ、ガンダムに乗って戦ったあの時の事を。
正規の連邦兵は殆ど居らず、民間人である自分達が生き残る為にホワイトベースを動かしジオンと戦った。
(もう13年も経つのか。それよりも、どうしてクルーは全員私服なんだ? 本当に連邦の管轄なのかも怪しくなって来たな)
疑いの目を向けながらも口を閉ざしてサラの後ろに付いて行く。
到着した先は陸戦艇のブリッジ。
扉を抜けた先には数名のクルーと黒いサングラスを掛ける男が立って居た。
(この男が艦長。やはり連邦ではないのか?)
「先程は一方的に攻撃してしまいすまなかった。私がこの艦のキャプテンをして居るジャミル・ニートだ」
「アムロ・レイ大尉です。よろしく」
言葉を交わす2人は互いに手を伸ばすと握手を交わした。
たった数秒触れただけ。
それでも2人は何かを感じるモノがあった。
「所で艦長。1つ聞きたいのだが、この艦はなんだ? ガンダムタイプを2機、それなりの部隊でなければ支給されない筈だ」
「この艦はフリーデン。修理と改修を繰り返して独自に改造したモノです。ガンダムに乗って居る彼らは、一時期雇って居るだけです。賞金を提示すれば、フリーの人間はすぐに寄って来る」
「そこだよ。ガンダムタイプは開発に時間と金が掛かる。それに企業も絡んでる。金さえあれば譲ってくれるような代物ではない」
「そこは私も知りかねます。金でやり取りをするモノ同士、深く探らないが暗黙のルール。彼らは腕の立つパイロット、くらいにしか」
「だったら開発元もわからないのか? 裏でアナハイムが開発したとも考えられるが」
「あの機体は15年前に連邦が開発したモノです。どこで見付けたのかはわかりませんが、整備されて今も使われて居ます」
「15年前!? キャプテン、冗談はよしてくれ。15年も前はガンダムどころか、モビルスーツだって開発されてない」
「うん? どう言う事ですか?」
(どうにも話が咬み合わない。どうなってる……)
「では、私からも1つ聞かせて下さい。アナタなら知って居る筈だ。ニュータイプの存在を」
ニュータイプ。
アフターウォー15年、かつて人の革新と呼ばれ、その力をもつ者を指す言葉。
アムロは苦笑しながら、その質問には応えた。
「あぁ、そうだな。俺の事をそう呼ぶ人間も居た。でも俺はそんな立派な存在じゃない。普通のパイロットさ」
「やはり……ニュータイプ……」
「成り損ないさ」
モビルスーツに乗って戦い戦果を上げる事で、アムロの事をニュータイプではないかと噂されるようになった。
ジャミルとアムロ。
2人が会話をする中で、トニヤは操舵士のシンゴにヒソヒソと話し掛けて居た。
「ねぇ、大尉って事はあの人軍人なの?」
「えぇ!? そうなんじゃないか」
「でも戦争が終わったのはもう昔の話じゃない。今もまだ階級付けて自分の事呼ぶなんて痛くない?」
「それに、宇宙でもないのにノーマルスーツ着てるしな」
「ねぇ~、だっさい」
2人が関係のない話をして居る時、モニターに表示される異変にサラは気付いた。
操作して居ないし、報告も受けて居ないハッチが開放されて中からバギーが走り去って行く。
「キャプテン、4番ハッチが開いてます!! あのバギーは」
「拡大しろ!!」
拡大される映像。
逃げるバギーのシートに座るのは見た事のない少年と、救出した筈のティファ・アディール。
「ティファ……すぐに追い掛けるぞ。フリーデン、全速前進」
ジャミルは話を切り上げ、フリーデンを動かし追い掛ける。
アムロはモニターに映ったティファを見て、心のなかで静かに思う。
(彼女がティファ・アディール……不思議な感覚だ)
///
バギーを走らせるガロードはティファを隣に乗せて、依頼主が待つ合流ポイントを目指した。
舗装されて居ない荒野でも、この車なら問題なく移動する事が出来る。
排気ガスと砂煙を撒き散らしながら、フリーデンとは反対方向に走った。
「上手く行った。後は引きちぎるだけだ。ティファ、しっかり捕まってろよ」
「はい」
静かに応えるティファ。
ゆっくりと後ろを振り返り、今まで自分が居たフリーデンの姿を視界に入れる。
けれども本当に見て居るのは、目に映るモノではない。
伝わって来る感覚を頼りに、彼女はもう1度名前を呼んだ。
「アム……ロ……」
「うん? 何か言った?」
「いいえ」
「すぐに着くからな。少し我慢してくれよ」
シフトレバーを握るガロードはギアを上げ、フルスロットルでバギーを加速させた。
荒野を抜け、細い林道を進んだ先。
予定した合流ポイントには、依頼を頼んで来た老紳士が立って居た。
ブレーキを踏みバギーを停止させるガロードは、エンジンは掛けたままシートから降りる。
「よぉ、オッサン。言われた通り助けて来たぜ」
「素晴らしい。時間もピッタリだ」
「高い報酬が掛かってるんでね。さぁ、ティファ。もう大丈夫だ。このオッサンと――」
老紳士の足元に用意されて居るのは幾つものアタッシュケース。
ガロードは報酬と引き換えにティファを引き渡そうとするが、少女の顔は恐怖に引きつって居た。
震えだす体、定まらない視点。
「あぁ……あっ……ああぁ……」
「ティファ?」
「さぁ、ガロード君。彼女をこちらへ」
「たす……け……て……」
震える声で、風にかき消されそうな程の小さな声で。
けれどもその一言を聞いたガロードは、自分が次にやるべき事を見出した。
バギーの運転席に飛び乗り、クラッチを踏み込んでギアを入れる。
アクセルを全開にして、目の前の老紳士を引き倒すつもりで突っ込んだ。
「なっ!?」
飛び退く老紳士。
ガロードは報酬に目もくれず、一目散にこの場から逃げ出した。
「ティファ、これで良かった?」
「ありが……とう……」
「ヨシ!! こっからまだド派手なドライブになるぜ!!」
逃げるガロード。
だが後方からは、意地でもティファを捕まえようとモビルスーツまで借りだして追手が迫る。
バックミラーに映る3機のモビルスーツ。
手には武器を手にしており、逃走は困難を極める。
「チッ!! モビルスーツまで出して来るのかよ」
「ガロード……あそこへ……」
ティファが指差す先。
そこに見えるのは、旧連邦軍のモビルスーツ工場跡。
辛うじてまだ、建造物としての形状は保って居るが、モビルスーツ工場としての面影はもうない。
至る所にゴミや瓦礫が散乱した状態。
「あそこに行けば良いのか?」
「はい……」
「わかった!!」
更にバギーを加速させる。
けれども追手は2人を逃がす筈もなく、モビルスーツが装備したライフルがバギーを狙う。
発射される弾丸。
1発でも当たれば車は大破、搭乗者も生き残れない。
それでもギリギリ外れるように放たれた1発は、バギーに当たる所がキズも付かない。
右へ左へ蛇行運転するバギーに照準を合わせてトリガーを引く。
だがそのどれも、寸前の所でかわされてしまう。
ハンドルを握るガロードの隣で、ティファが逃げる先をナビゲートして居た。
「次は右です。そのまま真っ直ぐに」
言われた通りにハンドルを切れば、弾丸はバギーと離れた所に着弾する。
ガロードはティファのナビゲートを信用しながら、モビルスーツ工場へ侵入した。
電気が通ってる筈もない古びた工場の中、ヘッドライトだけが視界を確保してくれる。
「なんとか着いた。でも、何で弾が来る位置がわかったんだ? まるでエスパーみたいだ」
「そのせいで私は狙われて居ます。ニュータイプの力……」
「ニュータイプ? ティファはそのニュータイプなのか? だからアイツラやバルチャーに狙われるのか?」
「ガロード……あれを……」
質問には応えないティファは、ある1点を指差した。
その方向にヘッドライトを向けると、見えて来るのは白い巨人。
「あれは……ガンダム……」
息を呑むガロード。
15年前に開発された伝説の機体。
思わず立ち上がると、鳥肌が立つのがわかる。
ティファもバギーから降りると、ゆっくりとガンダムに向かって歩いて行く。
だが、悠長にして居る時間はなかい。
外側からの攻撃で、工場の外壁は破壊された。
飛び散るコンクリート片、大量の砂煙。
その方向を鋭い視線で見るガロードは、バギーから飛び出し歩くティファの手を掴んで走った。
「あの機体に乗ろう。そうすれば勝てる!!」
仰向けに寝る白い機体。
ガロードはティファの体を抱えて、装甲の隙間を足場にしてコクピットへの登って行く。
その間にも、追手の3機が工場内へ侵入して来た。
『もう逃げられないぞ、ガロード君。彼女をこちらに渡すんだ。うん、アレは……』
量産機であるドートレスに乗る老紳士は、装備するライフルを突き付けて勧告した。
だが少年と少女はそれを無視して、内部に置かれて居たモビルスーツに乗り込む。
この男もまた、目の前の伝説の機体に目を見開いた。
『ガンダムだと!? どうしてこんな所に!!』
『動かれる前に破壊します!!』
味方のドートレスが銃口を向け、躊躇わずにトリガーを引く。
発射される弾丸は確実に白い装甲へ直撃し、ガンダムを激しく揺らす。
コクピットのガロードは敵からの攻撃に驚きながらも、全くダメージを受け付けてない装甲に目を見張った。
「全然壊れない。コイツの性能なら!! って、あれ? 操縦桿がない!!」
本来在るべき筈の、右手で操縦する為のレバーがぽっかりと失くなって居た。
これでは動かす事も出来ず、破壊されなくてもガンダムごと連れて行かれるだけだ。
尚も敵は攻撃を続けて来るが、いつまで経っても動かなくては相手もすぐに感づく。
焦るガロードだが、解決策は見つからない。
コンソールパネルを叩いても、ペダルを踏み込んでも、何をしてもガンダムは全く動かなかった。
「どうする? 折角のガンダムでもこれじゃ宝の持ち腐れだ。それにコクピットから出る事も出来ない」
「ガロード、コレを」
ティファはガロードの服に手を伸ばすと、フリーデンの金庫から盗んで来たコントロールユニットを取り出した。
それを見たガロードは笑みを浮かべて、コントロールユニットを受け取る。
「コイツで動かせるんだな、ティファ? 行くぜッ!!」
握るコントロールユニットを接続させる。
形はピッタリはまり込み、遂にガンダムのエンジンが機動した。
「動いた!? これなら!!」
ツインアイが輝き、ガンダムはゆっくりと動き出す。
攻撃を受け続けながらも、地面に足を付け上体を起き上がらせる。
「良いぞ、このまま。立て、立てよ~」
『ガンダムが動き始めた!?』
『怯むな、このまま撃ち続けろ!!』
「こんな奴らに負けてたまるか!! 立つんだ――」
第2話 立て!! ガンダム!!
動き出したガンダム。
量産機であるドートレスでは、もはや止める術はない。
「今まで散々追い掛け回してくれたな、今度はこっちの番だ!!」
『後退しろ、撤退だ。撤退するんだ!!』
「逃がすかよ!!」
工場内から逃げ出す3機のドートレス。
ガロードはバックパックにあるビームサーベルを引き抜き、逃げるドートレスに向かってジャンプした。
『う、ウワァァァッ!?』
「落ちろォォォッ!!」
ビームサーベルの刃が背後から迫る。
軽々と上を取るガンダムは腰部へビームサーベルを振り下ろし、ドートレスを真っ二つに両断した。
着地するガンダム、それに続いて斬られたドートレスが爆発を起こす。
「ビームサーベルが標準装備されてる。やっぱりガンダムってすげぇ!!」
『たった一撃で!? ガンダムが何だって言うんだ!!』
『止せ!! 勝てる相手ではない!!』
指揮を取る老紳士は逃げる事を優先するが、仲間を殺された事で逆上したもう1人のパイロット。
腰部のヒートサーベルを手に取り果敢にもガンダムへ突撃した。
「来るのか!? 至近距離でエンジンが爆発したらマズイ!!」
ヒートサーベルを片手に飛びかかるドートレス。
モビルスーツの爆発を避けようとするガロードはコクピットに狙いを定め、迫り来る敵機にビームサーベルを突き立てた。
『――――』
ビームサーベルの高熱はパイロットを髪の毛1本と残さない。
自分が死んだ事さえも気付かずに、ガンダムのビームサーベルはコクピットに突き刺さった。
パイロットが居なくなった事で力を失う機体。
ガロードは撃破した機体を捨て、逃げる最後の1機を目指して追い掛けた。
「逃がすもんか!!」
///
ティファを追い掛けるフリーデンは、戦闘による爆発をキャッチする。
レーダーですぐに方角と位置を確認し、クルーがそれぞれの仕事を進めた。
爆発が起こったのは旧連邦軍のモビルスーツ工場。
オペレーターのサラがこの事を伝える。
「キャプテン、場所がわかりました。西へ3キロの方角です」
「モビルスーツをいつでも出せるようにしておけ」
「はい。ですが、他の位置からもモビルスーツの反応が。恐らくさっきの爆発で嗅ぎ付けて来た可能性が」
「乱戦になれば救出するのが困難になる。急ぐしかない」
レーダーに反応するモビルスーツの数は時間が経過するごとに増えて行く。
モビルスーツ乗り達が自前の機体を頼りに、爆発元に向かって進んで行った。
僅かでもパーツを確保出来れば金に変える事が出来る。
自分の機体に使う事も出来る為、モビルスーツ乗り達はハイエナのように増えるばかり。
その様子を見守るアムロ。
「キャプテン、俺も出よう。モビルスーツで出た方が早い」
「良いのか?」
「乗りかかった船だ。ライフルだけ借りるぞ」
言うとアムロはブリッジを後にして、モビルスーツデッキに向かう。
歩いて来た通路を戻りデッキにまで来ると、既に2機のガンダムは出撃して居た。
広い空間でνガンダムだけがハンガーに固定されており、機体の足元にまで来るとハッチから伸びるワイヤーを手に取る。
コクピットにまで上昇しようとした時、背後から声が掛かった。
「アンタがこの機体のパイロットかい?」
「キミは?」
「俺はこの艦でメカニックをしてるキッドってんだ。時間がなかったけど、推進剤だけは補充したからな」
「キミのような子がモビルスーツのメカニック?」
「そうさ、なんたって天才だからね。それよりもライフルを使うんだろ? ジャミルから聞いてる。アレを使ってくれ」
キッドが言う先には、ビームライフルが1丁壁のアンカーに固定されて居る。
目でちらりと確認するアムロは、握ったワイヤーを巻き取らせた。
「わかった。助かる」
「おう、死ぬんじゃねぇぞ」
ハッチまで上昇するとコクピットシートに滑り込み、コンソールパネルを叩きエンジンを起動させる。
光るツインアイ。
ゆっくり歩き出すνガンダムは壁のビームライフルのマニピュレーターを伸ばす。
右手に武器を装備し、開放されたハッチから外に出る。
メインスラスターから青白い炎を噴射し機体をジャンプさせるアムロは、開放されたままのハッチから直接
外の景色を覗く。
冷たい夜風が、額に滲む汗を乾かす。
「本当にここは俺が知ってる地球なのか? 頭が混乱して居る。どうなって居るんだ?」
頭を抱えながらも、今は目の前の事態に集中する。
それでも不安は拭えないが。
ジャンプを繰り返しながら進むガンダム。
戦闘が行われて居るであろう場所まではまだ少し時間が掛かる。
その最中、月から一筋の光が降りて来た。
「レーザー光線? いや、違う……」
ご意見、ご感想お待ちしております。