機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

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第17話

 ブリッジにまで来たカトックはティファを人質にする事でその場を占拠する事に成功する。それはフリーデンを配下にして自由に動かせると言う事。

 艦長シートに座りながら左腕にはティファの小柄な体を抱えて右手にはライフルのトリガーを握る。

 サラ、トニヤ、シンゴはカトックの指示通りにフリーデンを動かすしかなく、ジャミルとガロードもティファを前にしては抵抗する事ができない。

 シートの上でふんぞり返るカトックは意気揚々としながらもブリッジの空気は一触即発でピリピリとしている。

 

「座り心地も良いじゃねぇか。快適な船旅になりそうだ」

 

「ゾンダーエプタ―、その島に何がある? 我々を連れて行く事に何の意味がある?」

 

「そんなのはお偉いさんに聞いてくれ。俺は命令されてやってるに過ぎない。ニュータイプの少女を捕まえる。その次はこの艦の奪取だ」

 

「お前はニュータイプの事を知ってるのか?」

 

「あぁ、知ってるぜぇ。ニュータイプの事だけでなくアンタの事もな」

 

「私の?」

 

「嬢ちゃんから聞いた、アンタの名前はジャミル・ニート。まさかよ、こんな所で出会えるだなんて思ってもみなかったよ。15年前、旧連邦でガンダムに乗ってたパイロット。そして、あの悲劇を起こした張本人」

 

 あの悲劇、地球へのコロニー落としへの引き金を引いたのは他でもないジャミルだった。目の前に迫る敵の大群、奪取された幾つものコロニー。

 当時でも高性能のガンダムとビットモビルスーツを10代にして任せられ数々の戦果を上げたジャミルだが、1人の少年に任せるには余りにも荷が重い。そして耐え切れず、ジャミルはサテライトキャノンのトリガーを引いてしまった。

 けれどもカトックの言う悲劇はそれではない。

 

「地球へのコロニー落とし……今更言い訳をするつもりはない。アレは自分の若さが招いた過ちだ」

 

「ほぅ、だったら知ってるか? あのコロニーは宇宙革命軍が連邦から奪取したコロニーだ。アンタは守るべき仲間を、領土を、国民を撃ったんだ。その事は自覚してるのか?」

 

「それもわかっている。私は――」

 

「お前は何人の人間を殺して来たのかわかっているのかッ! 敵だけじゃない、味方も、仲間も、家族も。その全てが殺された! たった1発の……お前の引き金が地球を地獄へと変えた! それに、あのコロニーには娘と女房が居たんだ! お前が殺した、お前のせいで死んだんだッ!」

 

 カトックの怒号が飛ぶ。眉間にシワを寄せ、殺意をみなぎらせジャミルの事を睨む。

 今にも人質にしているティファの事を撃ち殺す勢いだが、ギリギリの所でそれは守られている。カトックの殺意を、憎悪を、決して消えない悲しみを感じ、ティファは怯えるのではなく彼を理解しようと試みた。

 けれどもガロードはカトックの言い分に同調する事などできない。

 

「それでオッサンはまだこんな事を続けてるのかよ?」

 

「ナニィ?」

 

「15年前のコロニー落としのせいで、俺はずっと死ぬ思いをして来た。怖かったよ、今でも思い出せば恐怖が蘇って来そうだ。家族も友達も、名前も知らない隣の人も、地獄みたいな環境のせいでみんな死んで行った。でもな、悲しいからって、怖いからって、その場で立ち止まる事なんてできないんだ! 俺はな、オッサンとは違う!」

 

「知った風な口を聞くなッ! 只の小僧が!」

 

「うるさい! 俺はお前とは違う! 絶望に立ち止まってるお前とは違う!」

 

「黙れッ!」

 

 激昂したカトックは右手のライフルをガロードへ向けるとそのままトリガーを引いた。

 

 

 

第17話 かつて、戦争があった

 

 

 

 増えすぎた人工を宇宙に移民して幾年もの時間が経過した。宇宙に浮かぶ人類の新たな居住地、スペースコロニー。人工的に作られたその地で人々は子を産み、育て、そして死んでいった。

 この時代、既に国家と言う概念はなく地球連邦と言う1つの組織としてまとめられている。地球連邦はスペースコロニーを管理、運営し、地球をより良く住みやすい環境にしようと働いていた。

 けれどもそれも順風満帆とはいかない。あるスペースコロニーが独立を訴え、地球連邦と戦争を始めたからだ。彼らは自らを宇宙革命軍と名乗り、地球連邦軍と長きに渡る戦争を繰り広げる。

 地球連邦軍に所属するカトック・アルザミールは、束の間の休暇を我が家で味わっていた。

 

「アンタ、またどっかで無駄遣いしたろ?」

 

「無駄じゃねぇよ、必要だったんだ」

 

「へぇ、詳しく説明して貰おうじゃない。どうせくだらない理由なんでしょ」

 

 その歳で30歳になるカトックはようやく買えた一戸建てリビングのソファーに座るカトックは妻であるノーラに問い詰められていた。

 ノーラは肩まで伸びる茶色の髪の毛をリボンで1つにまとめて、黄色のエプロンを身に付け目を吊り上げてカトックを睨む。

 けれどもカトックも慣れたモノで、口喧しい彼女に笑みを浮かべてあしらおうとする。

 

「ノーラ、男ってのは建前で生きてるんだ。俺だって部下を持つくらいには役職は上がってるんだぜ? 男の威厳ってモノを見せないとならない」

 

「だから朝まで店でどんちゃん騒ぎか。それはまだ良いよ、生活費まで使い込むなんて大層な理由だね」

 

「だから、あの時は必要だったんだ」

 

「良く言うよ」

 

 呆れるノーラは口から大きく息を吐くとテーブルのリモコンを手に取りテレビに向けて電源を入れた。モニターに映る映像には男のアナウンサーが原稿を読み上げている。

 

『地球連邦軍の部隊は宇宙革命軍の侵攻作戦の迎撃に成功しました。これによりコロニー間の治安維持にも――』

 

「この戦争も随分と長いね。もうすぐ1年か」

 

「いいや、敵軍はもう疲弊してる。もうそんなに長くはない」

 

「とは言っても安心はできないだろ? アンタも死ぬんじゃないよ」

 

「おぉ、心配してくれるのか?」

 

「アンタが死んだら誰がこの家のローン払うんだよ? あの子だってもうすぐ小学校に入るんだ。稼ぎ頭が居なくなると困るよ」

 

「たはぁ! 手厳しい事で」

 

 長く続いた地球連邦軍と宇宙革命軍との戦争も終わりが見え始めていた。宇宙を拠点とする宇宙革命軍だが、物資の枯渇が目に見え始め近頃は連戦連敗を繰り返している。領土も奪われ、これ以上の戦争の継続は困難だ。ここまま戦って地球連邦に勝つ事はできない。

 それでも駒として扱われる兵士はいつ死んでもおかしくなく、カトックは前線で白兵戦の指揮を取る立場。もっとも危険が付き纏い、ノーラが心配するのも無理はなかった。

 

「明日にはまた出るんだろ? 頼んだよ」

 

「おう、任されて。お前も家の事は頼んだぞ」

 

「カトック……」

 

 2人は自然と抱き合うと互いの体温を直に感じる。伝わる鼓動、束の間ではあるが心が安らいだ。

 この18時間後に、、宇宙革命軍はコロニー内部に毒ガスを散布して地球連邦軍のスペースコロニーを奪取する。

 

///

 

 目の前に迫る敵の大群、カトックはノーマルスーツを身に纏い味方の艦の中で状況を見守るしかなかった。待機室では戦闘に備えて部下の1人もモニターで戦況を覗いている。

 

「どうなると思います? アイツラ、コロニーまで担いで来ましたよ。本気で地球に落とすつもりか?」

 

「まさか、脅しだよ。逆に考えれば、いよいよここまでしないといけないくらい宇宙革命軍は弱ってる。この戦争ももうすぐで終わる」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

「数えただけでもコロニーはどれだけある? あれだけの数を地球に落とせば、もはや戦争をしてる意味が失くなる。帰る場所が失くなっちまうんだからな。相手だってそこまで馬鹿じゃねぇよ」

 

 楽観視するカトックだが、地球連邦軍上層部はそうではなかった。彼らは目の前に迫るスペースコロニーが自軍のモノであると確認が取れている。そして追い込まれつつある宇宙革命軍の立場。

 今は緊張状態を保ちつつあるが何かの拍子に本当に落とすとも限らない。それに落とした所でそのスペースコロニーは地球連邦軍のモノ、彼らに痛みは伴わない。

 この状況を打破する為に、地球連邦軍は決戦兵器ガンダムを用意した。そのパイロットはニュータイプと呼ばれ、数々の戦果を上げて若干15歳にしてエースパイロットである。

 その彼の名はジャミル・ニート。

 

「まさか……相手は本気なのか? こんなモノが落とされたら!?」

 

『ジャミル、聞こえているな? フラッシュシステムの許可が下りた。Gビットを起動させ、サテライトキャノンで相手を威嚇しろ。威力は相手だって充分知っている。下手に動く事はできなくなる』

 

「り、了解!」

 

 目を閉じて集中するジャミルは精神波を飛ばし、艦のモビルスーツデッキで待機させてあるビットモビルスーツを起動させる。一斉に動き出すビットモビルスーツ。

 脚部をカタパルトに固定させて順次発進する機体。それらはジャミルの操縦するガンダムへ集結し、いつでも攻撃できるように編隊を組む。

 

「遮蔽物ナシ、サテライトキャノン展開。マイクロウェーブ照射」

 

 操縦桿のガジェットを親指で押し込みセーフティーを解除する。月のマイクロウェーブ送信装置がガンダムからの反応をキャッチして、サテライトキャノンを照射するのに必要なエネルギーを送り込む。

 ガンダムの胸部に送り込まれるマイクロウェーブ、瞬時に充填されるエネルギー。リフレクターを展開し砲身を構えるガンダムは、迫り来るコロニー群に照準を合わせる。 それに同調し、ビットモビルスーツもエネルギーを充填するとリフレクターを展開、サテライトキャノンを構えた。

 

「エネルギー充填完了。でも……来るのか?」

 

 いつでも発射できるようトリガーに指を掛けるジャミル、けれども発射の許可は降りてない。両軍とも威嚇をしてる状態。サテライトキャノンを一斉射撃されればどうなるかは容易いし、地球にコロニーが落とされればどうなるのかも皆が想像できる。

 けれどもジャミルには、他の人間とは違うモノが見えていた。

 この戦場に漂う殺意、そして恐怖。

 

(本気なのか? 本気で地球にコロニーを落とすのか? もしそうなら、阻止防衛ラインはもうすぐそこだ。これだけのGビットとガンダムでも1発では全てを破壊できない。再充填の時間を考えればここで撃たないと……)

 

 ニュータイプのジャミルは戦場に渦巻く人々の感情を感じていた。それは敵だけてはなく味方も、そして毒ガスにより殺された民間人の残留思念。

 体が震える、汗が出る、息が荒くなる。

 恐怖も悲しみも全てがごちゃ混ぜにされて、耐え切れなくなったジャミルは引き金を引いてしまった。

 充填されたエネルギーを機体を通じてサテライトキャノンから発射される。それもビットモビルスーツも同時にだ。全てを破壊するとてつもないエネルギーの矢がスペースコロニーに目掛けて撃たれる。

 その光景をカトックは艦内のモニターで見ていた。

 

「撃ったのか、サテライトキャノンを!?」

 

 発射されるビームはコロニーを次々に撃ち抜き、破壊していく。バラバラに壊れていくコロニー。けれどもその一撃は宇宙革命軍にとって後には引けない一撃。このまま後退したのでは大打撃を受けただけ。もはや後退すると言う選択肢はなかった。

 ガンダムからの一撃を受けて宇宙革命軍は遂に攻撃を開始する。全部隊が攻撃に打って出て、残りのスペースコロニーの推進剤も点火させ地球に目掛けて落とす。

 

「遂にやりやがった……。おい、ここから動くぞ」

 

「動いてどうするんですか!? モビルスーツが攻めて来たら俺達なんて……」

 

「動かなかったら無駄死にするだけだ。死にたくなかったら兎に角――」

 

 ビームの1発が乗っていた艦に直撃する。大きく艦体が揺れると同時に直撃した箇所から空気が漏れ、2人は踏ん張る事もできずに外に投げ出された。

 

「うおおおぉぉぉッ!」

 

「た、隊長!?」

 

「エアーで姿勢制御だ! 宇宙で溺れたら死ぬぞ!」

 

 腰部のエアー噴射装置に手を伸ばすカトックは衝撃に振り回されれる体をなんとか制御して溺れるのは避ける。部下である男も振り回される体を何とかしようと腰に手を伸ばすが、次の瞬間にはビームに飲み込まれた。髪の毛1本とてこの世に残らず、男の存在は消え去る。そして損傷した艦も爆発を始め、クルーが逃げる時間もなく原型が崩れていった。

 

「チィッ! 俺だけ生き残っちまった。どこかで味方と合流を」

 

 生き残る為に周囲を見渡し体を動かす。だがそこで、ヘルメット越しにカトックが見たのは地球へと進むスペースコロニー。そして不幸にも気が付いてしまった。

 

「こいつぁ……連邦のコロニーじゃねぇか!? あいつらまさか……まさか!?」

 

 カトックか住む17番地コロニー、それは連邦の管轄下にある。コロニーの外壁に大きくペイントされた文字、カトックは地球に落とされようとしているコロニーがソレだと気が付いてしまう。

 そしてコロニーの先にはサテライトキャノンを発射するガンダムとビットモビルスーツの姿。

 

「止めろ、撃つなぁぁぁッ!」

 

 カトックの叫びは誰にも届く事はない。彼の前でコロニーは次々と撃ち落されていく。あふれ出る感情、思い起こすのは娘と妻。

 彼の心は宇宙の闇に蝕まれるように、怒りと悲しみにまた大声で叫んだ。

 

「うおおおぉぉぉぁぁぁッ!」

 

 ///

 

 泥沼と化す戦場、もはや勝ち負けなどと言う概念はなくなっていた。生き残る為の目の前の敵を倒す。そうする事でしかこの地獄からは生還する事はできない。

 ガンダムに搭乗するジャミルも目の前に現れる敵と戦っていた。相手は今までにも何度となく戦って来た相手、ニュータイプのランスロー・ダーウェル。

 

「この感覚はランスローか!?」

 

「見つけたぞ、ジャミル・ニート! 今日こそ貴様と決着を付ける!」

 

「新型だからって!」

 

 ランスローの機体は見た事もない新型だ。脚部が付いておらず、下半身が紡錘形のような特異な形状をしており、そこに設置された大型バーニアで高い機動力を駆使しながら指先に内蔵されたビーム砲を主武装として戦う。

 互いに相手の動きを先読みしてビームを放つ。ジェネレーターと直結されたランスローの機体は威力が高く、左腕にビームの1本が刺さると爆発して持って行った。

 

「ランスロー!」

 

「ジャミル!」

 

 更にトリガーを引くランスローは姿勢を崩すガンダムに追い込みを掛ける。両手のビーム砲で一斉にビームを放つも、敵意を感じ取るジャミルは操縦桿を巧みに動かして攻撃を回避しようとした。

 それでも、相手は何度も戦って来た宿敵。ビームの1発はガンダムの頭部に直撃したが、ジャミルもビームライフルのトリガーを引いていた。発射されるビームはランスローの機体胸部に直撃し、エンジンの爆発が機体を飲み込んでいく。

 だが頭部だけが独立して動きバーニアで加速するとギリギリの所で爆発から脱出した。

 

「ジャミル! クッ、これ以上は戦えんか」

 

 ランスローは頭部だけになった機体で味方と合流すべく戦域から離れていく。一方、ジャミルのガンダムは頭部を破壊されて宇宙空間を彷徨っていた。

 

「サブカメラも……ダメか。ランスローのプレッシャーは感じられない、味方はどうなった?」

 

 コンソールパネルを叩きハッチを開放させるジャミルはシートから立ち上がるとコクピットから出た。

 そして彼の目に映るモノは、宇宙に漂う味方のモビルスーツでもなければ爆散する艦隊でもない。地球へと落下する無数のスペースコロニー。

 

「あぁ……あああぁぁぁ!? 地球が……燃えてる……」

 

 紅蓮の炎に包まれる蒼い水の星。大陸は形を変え、本来ならある筈もないクレーターが無数に作られる。

 人々は逃げる事もできず鉄塊に押し潰され、灼熱の業火に骨まで燃やされ、荒れ狂う海の波に飲み込まれていった。

 そして漂う残留思念。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!」

 

///

 

 無数のスペースコロニーが落下し、地球の環境は劇的に変化した。黒い雲は日光を完全に遮断して、下がる気温は気候を冬へと変える。1日中吹雪が襲い、何とか生き残る事ができた人間も寒さに凍え死ぬ。

 あの戦争が終結して7年の月日が経過してもそれは変わらない。

 シェルターも破壊されて、命からがら防空壕に逃げ込んだガロード・ランはそこで年月を共にするしかなかった。

 両親も死に、友人達ともバラバラになりどうなったかわからない。けれども生き残ってる可能性は限りなく低いだろう。

 

「食べるモノも少なくなって来た。外にもなかなか出られないし、大人も居ない……」

 

 防空壕に逃げ込んで来た人間の数も日に日に減っている。寒さで凍え死ぬモノ、食糧難に餓死するモノ。

 それでも自ら命を絶つなどと言う選択肢は選べない。幼い少年はこのような状況でも生きる事を選択した。その為にできる事をやるだけ。

 

「ガロード、どうかしたの?」

 

「おばちゃん……何でもない。食べられるパンも減って来たなって」

 

「そうだね、水も食料も切り詰めながら生活してもコレが精一杯。日の光もいつになったら見れるやら」

 

「俺、やっぱり外で探して来る。このまま餓死するなんて嫌だからな!」

 

「止めなさい、外に出るなんて」

 

「でも!」

 

 外に出ようとするガロードを引き留める老人。彼女は懐に手を伸ばすと何かを取り出した。手に握るのはわずかばかりの干し肉と豆。

 

「コレをお食べ」

 

「え……良いの?」

 

「少ないけれどね。でももし、もしも吹雪が止んで日の光が見えるようになったら、その豆を地面に撒いてくれないか?」

 

「豆を?」

 

「この荒れ果てた地面でも、もしかしたら花を咲かすかもしれない。それを見てみたい」

 

「わかった。でもおばちゃん、もしもなんて言うなよ。いつになるかわからないけど一緒に見よう!」

 

「あぁ、そうだね……」

 

 無邪気なガロードの笑顔に癒される老人は冷たい地面へとゆっくり座る。渡された干し肉をガロードは口の中で噛み締め、数日ぶりに食料を口にした。量が少なかった事もあり食べ終わるのに時間は掛からない。

 

「肉なんて久しぶりだ! おばちゃん、ありがと。うまかった! おばちゃん?」

 

 ガロードの声にさっきまで返事をしていた老人はピクリとも動かない。目を閉じて、静かに眠るだけ。つい数分前まで会話をしていた人が死んだ。それも突然に。

 彼にも、誰にもどうする事もできなかった。この過酷な環境で彼女はガロードに看取られる。氷のように冷たい体はもう動かない。

 

「おばちゃん……おばちゃん! うぅっ……うあああぁぁぁッ!」

 

///

 

ライフルの弾丸はパネルに直撃するだけでガロードの体には当たらなかった。そして3人は確かに見た。それぞれの過去を。

 

「何だったんだ……今のは?」

 

 カトックは思わず声にすると人質にしているティファを見た。

 

「この嬢ちゃんの仕業か?」

 

 ティファのニュータイプ能力を通じて互いの過去を覗いた。けれどもそれだけで、相手の事を理解できる程人間は簡単ではない。

 

「オッサン、あんたは……」

 

「何が言いたい? ボウズにどうこう言われる程俺は落ちぶれちゃいない!」

 

「違う、俺は!」

 

「黙れ! お前、自分の立場をわかってるのか? お前らはこのまま本部に引き渡す。それが俺の任務だ。おっと、言ってればお迎えが来たみたいだぜ」

 

 そう言うカトックが向く先から数隻の艦隊がやって来た。モビルスーツも多く所持しており、抵抗した所で勝ち目はない。今はカトックの指示に従って動くしかなかった。

 

「さて、なら来て貰おうか。ゾンダーエプターに。それから艦長、アンタはアソコで出会う事になる」

 

「出会う?」

 

「そうだ、15年前の悪夢にな」




たぶん次でこの章も終わりです。
ご意見、ご感想お待ちしております。


あと、感想はどんなモノを書かれてもちゃんと返事をしますが規約違反はしないようにして下さい。僕は良いのですが運営の人は困るので。
後になって感想が削除されてても書いた人が嫌な気分になるのではないかと。

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