機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

16 / 31
第16話

 ガロードが見た月から照射されるマイクロウェーブ、フリーデンは1週間と時間は掛かったがようやくその地点と思われる海域に到着する。しかし海域は広く、1日2日で見つかるような範囲ではなく、地図もデータも15年前のモノであり、コロニー落としにより大陸が変形した今は殆ど当てにならない。情報はガロードとアムロが見た1度切りで手掛かりは少なすぎる。

 艦長シートに座るジャミルはモニターに映る地図データを目にするが、簡単に見つかるモノではなかった。

 

「時間は掛かるが虱潰しに捜索するしかないな。ティファもマイクロウェーブの件に付いては何も感じていない」

 

「ではもう少し調査海域を広げます。ティファの事を便利に使いたくありませんから、できればこちらで見付けたいですね」

 

「そうだな。だが前回の戦闘に現れた部隊、気になるな」

 

「海のバルチャー、オルクではないのですか?」

 

「あの戦力はオルクのモノではない。それに統率の取れた動き、軍が作られている?」

 

 サラの疑問に答えるジャミルだが、本人も確信を持ってる訳ではなかった。それでも虎視眈々と進みつつある計画にジャミルは経験から嫌な予感を感じている。

 その頃トニヤは牢屋に閉じ込められたエニルと会っていた。怒り狂うエニルをガロードがどうにかするのは無理だと考え、トニヤが率先して面倒を見ている。

 以前のガロードとの戦闘に敗れ意気消沈していた彼女だが、数日も経てばちゃんと食事も取るようになりトニヤとも話すようになった。

 

「もう落ち着いてる見たいで安心した」

 

「流石に毎日あんな事してたら疲れるよ。今は大丈夫、今はね。でもあの子はアタシの視界に映さないで。見た瞬間にまたプッツンするかもしれない」

 

「わかってる。今日の分の朝食はもう食べたんだ」

 

「えぇ、美味しかった。モビルスーツ乗りやってた頃は食事も時々しか食べられなかったから。1日3食だなんて贅沢に感じちゃう」

 

「喜んで貰えるなら良かった。ねぇ、これからの事なんだけど」

 

 彼女の様子を確認してから、トニヤは本題を切り出す。その事はエニルにも薄々わかっていた事だし考えてもいた事であり、最悪の場合はいつでも死ぬ覚悟もできていた。

 生唾を飲み込み、重たい口をゆっくりと開く。

 

「アタシは……」

 

「エニル……もし良かったらなんだけど、ここで私と一緒に働かない?」

 

「え……」

 

 突然の申し出に口を開けたままのエニルだが、対するトニヤは至って真剣だ。

 

「パイロットなら新しく戦力にもなるし、そうでなくとも人手は多い方が良いから。もしもアナタが良ければ、だけど」

 

「まさかね、こんな事を言われるだなんて。アタシはてっきり殺されるか、良くて海へ流されるものだと」

 

「そんな事する訳ないじゃない」

 

「こう言う仕事が長いと疑り深くもなるよ。トニヤ、アナタには感謝してる。でもその提案を受ける事はできない」

 

「どうして?」

 

「アタシはアイツの事を許せる気がしないんだ。どうしても……たったそれだけの事でも……それだけは無理かもしれない」

 

 最後に呟く彼女の表情は悲しみに満ちていた。それを感じ取るトニヤもそれ以上は何も言えなくなってしまう。

 牢屋から踵を返し、自分の仕事をする為にブリッジに向かった。

 

///

 

 モビルスーツデッキのハンガーに固定されたドートレスを見上げるアムロ。前回の戦闘でGXのディバイダーがドートレスごとエスペランサーを撃ち抜き、そのせいで機体は致命的なダメージを受けてしまった。それでも度重なる戦闘とアムロの反応速度により機体の限界は近かったし、そうでもしなければパイロットを殺さずにエスペランサを鹵獲するのは厳しい。

 レンチを片手にキッドはアムロと今後の方針に付いて相談する。

 

「随分派手にやっちまったけどどうする? 腕の換えなんてないぜ」

 

「あぁ、これ以上この機体を使うのは無理だろ。ここまで良く保った方だ」

 

「でもそうするとアムロが乗る機体が失くなる。初めに乗ってたガンダムだって何にも手を付けれてない。埃が被って来たくらいだ。他に予備の機体もないし」

 

「そればかりはどうしようもない。またどこかのタイミングで調達するしかないか。キッド、俺の機体の事は後回しで良い。残りのメンテナンスは頼んだぞ」

 

「任しとけ! 俺はプロのメカニックだぜ」

 

 サムズアップするキッド、パイロットのアムロだが今はやれる事はなくジャミル達の居るブリッジへ向かった。

 航海が始まって暫く経過するが未だに情報は掴めてない。ブリッジにまで来るアムロはシートに座るジャミルの隣に来ると、スクリーンに映る景色に目をやった。

 青く広い海が水平線まで続くだけで他には何も見えない。

 

「キャプテン、ガロード達の報告はまだか?」

 

「まだ何の報告もない」

 

「だろうな、手掛かりが少なすぎる。ガロードとウィッツが戻るまではこちらも地道にやるしかないが、相手に見つかる可能性もある。そうなったら」

 

「隠れる場所もないからな。あったとしてもサテライトキャノンで撃ち抜かれる。悠長にはしていられない」

 

「水柱が見えるぞ? 煙もだ」

 

 視線を鋭くするアムロはモニターの1点を見つめる。辛うじて見えるのは海面から上がる水柱と漁船から上がる黒煙だ。

 パネルを操作するサラはカメラをズームさせて状況を確実に視認する。

 

「船がモビルスーツに追われてます。煙は損傷してるせいです。救難信号も発進されてますがどうしますか?」

 

「無視する訳にもいかんだろ。偵察に生かせているガロードとウィッツにも伝えるんだ。フリーデン、微速前進」

 

「了解」

 

 加速するフリーデンは襲われている漁船に向かって進む。少しずつ近づくにつれてモニターに映る漁船は大きくなり、そして被害状況も見えてくる。側面に銃弾を1発受けてはいるが沈没する程ではない。

 水陸両用モビルスーツのドーシートは漁船を破壊する訳でもなく、武器をチラつかせおちょくっていた。

 それでもレーダーとモニターでフリーデンの存在を視認すると一目散にその海域から逃げ出していく。

 

「敵機、距離を離します。他にレーダー反応なし。只のオルクでしょうか?」

 

「そうかもしれん。回線を繋げてくれ、相手の艦長と話をする」

 

 言われてパネルを操作するサラはすぐに損傷した漁船の乗組員とコンタクトを取る。相手側の損小度合いは軽微だったお陰で通信はスムーズに繋がった。モニターには『SOUND ONLY』と表示され、肘掛けの受話器を手に取るジャミルは交信を試みる。

 

「こちらはフリーデン、私は艦長のジャミル・ニートだ。こちらは敵対するつもりはない。応答願う」

 

『あ゛あ゛――す――回線繋がったか? いやぁ、助かったぜぇ。オルクの野郎が遊び半分で撃ってきてよ。船に穴は開くしホント、死ぬかと思ったぜ』

 

「モビルスーツは引き上げたようだが危険な事には変わりない。良かったら簡単な修理くらいならこちらでできるがどうでしょう?」

 

『そいつはありがてぇ。でも俺達そんなに金は持ち合わせてねぇよ。あるのは魚だけだ』

 

「魚?」

 

『おうよ、俺達は漁師だからな。まぁ、そんな話は良いか。船を近寄らせるから後は頼んだぜ』

 

「了解した。こちらからモビルスーツを出してそれで運ぶ」

 

 了承を得るとジャミルは受話器を元の場所に戻し、モニターに表示された文字も消えて海の風景に変わる。

 隣に立つアムロは視線をレーダーに向け、フリーデンから最も近い機体反応を確認した。

 

「ここからだとガロードのGXが1番近い。呼び戻せるか?」

 

「既に連絡した。数分もアレば戻って来る」

 

「仕事が早いな、だったら俺は休憩を貰うぞ。食堂に行ってくる」

 

「わかった。だがいつもより早いな?」

 

「やる事もなくて暇なのさ」

 

 アムロがフリーデンに来て、もう数ヶ月が経過していた。ここでの生活にも慣れて、自分がやるべき役割も理解している。モビルスーツのパイロットとしてフリーデンを守る為に戦い、その背中を見て経験の浅いガロードも次第に成長して来た。ウィッツとロアビィも仲間に加わり、GXもキッドの手により改修され今のフリーデンの戦力は他のバルチャーと比べて申し分ない程に充実している。

 通路を歩くアムロは言ったように食堂を目指して歩く。今までの戦闘でνガンダムもドートレスも破損させてしまい使える機体がないが、パイロットとしての仕事はなくてもまだまだやれる事はある。

 

(暫くは海上戦が続くかもな。機体のセッティングと調整、キッドの手伝いをするか。その間にジャミルと方針を固める必要もある。俺のモビルスーツも欲しい所だ)

 

 GXに乗るガロードは探索を中断すると、進路を反転させてフリーデンに帰艦する。ディバイダーを背部、ビームマシンガンを腰部にマウントさせてペダルを踏み込む。メインスラスターとディバイダーに備えられた大型スラスターが集中する事で機体の機動性は更に上る。

 青白い炎を噴射して加速するGXは一気に海上を進む。

 

「出たばっかりなのに戻って来いだなんて、人使いが荒いぜ。結局まだマイクロウェーブを受信したGXも見つかってないってのに」

 

 愚痴を零しながらも操縦桿を握るガロード。次第にモニターにはフリーデンが見えるようになり、その近くでは黒煙を上げる船が浮いていた。

 

「アレだな、さっさと回収しよっと」

 

 右足からペダルを離して減速するGX。浮上しながらもゆっくりと近寄りマニピュレーターを伸ばし、両手を使って船底を持ち上げる。

 

「オッサン、大丈夫か?」

 

「あぁ、助かったぜ。よろしく頼むよ、兄ちゃん」

 

 甲板に出る乗組員達は船を持ち上げるGXを見上げていた。その中に居る1人の男、ガロードはメインカメラが映すその男の事をじっと見る。

 40半ばのその男はシルバーの髪の毛、体付きも良く鋭い眼光を持っていた。白い帽子を被っている事からこの船の船長であると伺える。

 

「オイ、兄ちゃん? 動きが止まってんぞ」

 

「あぁ、悪い。すぐに運ぶ」

 

 船をなるべく揺らさないようにGXを動かすガロードはフリーデンに帰艦する。開放されたハッチからモビルスーツデッキに滑り込み、脚部を着地させて片膝を着く。繊細に操縦桿を動かしてマニピュレーターの漁船を同じくモビルスーツデッキの床に下ろしてあげた。

 軽く船体が揺れるが降ろされたのを確認すると乗組員はデッキに上がって来る。人数は4人、その中の船長である男はGXに向かって手を上げて大声で話す。

 

「ありがとうよ、兄ちゃん。もう1つ悪いんだけどよ、デッキから降ろしてくれるか?」

 

「本当に悪いんだけどそれはできない」

 

「ナニ、どう言う事だ?」

 

 船長が言うよりも早くGXのビームマシンガンの銃口が4人を狙う。突然の事に背中から冷たい汗が流れる。

 

「お、オイ! 無茶苦茶だぜ、兄ちゃんよぉ。ここの艦長さんは敵対しないって言ってたぜ。それは嘘だったのか?」

 

「アンタが敵じゃないならこんな事はしないよ。でもオッサン達は敵なんだろ? 艦の中で暴れられたら面倒だしな」

 

「オイオイ、何を証拠に敵だなんて決め付ける? 俺達は只の漁師だぜ」

 

「だったら船の中には魚しか入ってないよな? 今から軽く調べる、それが終わるまではデッキで大人しくしてろ」

 

 ガロードが言うと銃を携帯したアムロとロアビィがリフトを使って漁船のデッキに降りる。セーフティを解除した銃を突き付けながらアムロは船長と接触した。

 

「アナタがこの船の船長だな。俺はフリーデンのアムロ・レイだ。さっき言った通り、船中を調べさせて貰う」

 

「本気かい? あぁ、わかった。やれ、やってくれ。そうすれば気が済むんだろ?」

 

「助かる。ロアビィ、頼めるか?」

 

「了解、こっちとしては只の船乗りだと嬉しいんだけどね」

 

 軽口を叩きながらもロアビィは船内へと入って行く。使い古された船からは潮と魚のニオイがこびり付いている。悪臭を我慢しながらも進んだ先にはライフルや弾薬が大量に置かれていた。そして魚を貯蔵する冷凍庫には大量の爆薬が詰め込まれている。

 その物々しさにロアビィは口笛を吹く。

 

「ヒュ~、コイツは凄いねぇ。冷凍グレネードか、どうやって3枚に卸せば良い? 試しにやってくんない?」

 

「ッ!? どうして気が付いた?」

 

「運が悪かった、としか言い様がないね。ホラホラ、両手を上げて両膝を床に」

 

(これがニュータイプの能力か。俺とした事が侮っていたようだ。だが、全く対策してない訳ではない。この程度の窮地など何度も潜り抜けて来た。舐めるなよ)

 

 ロアビィに銃を突き付けられて、4人はデッキで言われたように両手を上げる。膝も床に付ける事で完全に隙を晒す。彼らの後ろに回り込むアムロは腕に手錠を掛けようとする。

 

「武器を持って侵入して来た以上、それ相応の扱いはさせて貰う」

 

「あぁ、そうだな。そりゃそうだ。だがよ兄ちゃん、こう言う事する人間はそれ相応の覚悟ってモンを持ってる。覚えておけ!」

 

 瞬間、男はズボンのポケットに手を伸ばし隠してあったフラッシュグレネードを叩き付ける。耐え難い光がアムロを襲い、視界は白い闇に覆われてしまう。その隙を狙って4人は立ち上がりデッキの上から駈け出した。

 

「しまった!? 逃げるつもりか?」

 

「任務は遂行させて貰う」

 

 逃げ出す4人の乗組員だが、待機していたロアビィはそうはさせまいと銃を構えトリガーを引いた。銃声が響き渡る。発射される弾丸、逃げ出す男の1人を捕らえ更に銃声が響く。

 ロアビィの狙いは正確で後頭部を撃ち抜かれた2人の男は線が切れた人形のように倒れ込んだ。

 

「クソッ、2人逃がした! アムロ、生きてる?」

 

「あぁ、何ともない。助かった。侵入者を追うぞ」

 

「了解、白兵戦か……」

 

 逃げる2人は船内からライフルを持ち出すとフリーデンのモビルスーツデッキに飛び降りた。2メートルはある高さだが着地と同時に前転する事で衝撃を逃がす。

 

「隊長、ションとネクタが殺られました」

 

「わかっている。だが振り向いてる時間なんてない。やる事はわかってるな?」

 

「ニュータイプの少女を捕まえる、ブリッジで合流しましょう」

 

「抜かるなよ」

 

 通路に向かって走る2人は確立を上げる為に別れて行動した。部下の男はライフルを構え下へと進む。けれども居住スペースがあるだけで目的の人物は見当たらない。

 

「どうする? 追手か来る前に隊長と合流できるか? いいや、進むしかない!」

 

 任務を遂行を優先して男は更に走る。そうして走った先、辿り着いた先に居たのは牢屋に閉じ込められた赤毛の女だ。銃口を向ける男だが事前に知らされた人物とは別人。

 

「チッ、あの女はどこだ? やはり隊長が向かった先か」

 

「アンタ、フリーデンの人間じゃない。侵入者?」

 

「なんだ? 関係ない人間は黙ってろ。それとも撃ち殺されたいか?」

 

 赤毛の女、エニル・エルは両手をオーバーに上げると無抵抗の意思を示す。

 

「牢屋に閉じ込められてる人間を撃つ事ないでしょ?」

 

「だったら黙ってろ。次に何か喋ったら撃ち殺す」

 

 言うと男は背を向けて更に奥へ向かって進もうとする。エニルは鋭い視線で慎重に男の姿を睨むと、ベッドに隠してあった銃を引き抜きトリガーを引いた。

 頭から赤黒い血を流して男は力なく倒れ、空薬莢が音と立てて落ちる。

 

「なんか、ヤバイ感じ?」

 

 もう1人の男は上を目指して走った。途中で妨害に来るフリーデンのクルーは容赦なくライフルで撃つ。銃撃戦の轟音が艦内に響き渡り、火薬と血の匂いが溢れてくる。

 

「状況は厄介だが、こんな所で足止めを食うつもりはない。あの女……ティファ・アディールさえ捕まえれば」

 

「居たぞ、コッチだ!」

 

「チィッ! 急ぐか!」

 

 ライフルの銃声は尚も響く。銃撃戦の中を男は姿勢を低くしながら走る。傷付くのを恐れず、恐怖は既に克服した。フリーデンのクルー数人は血を流して倒れている。

 15年以上前の戦争時からの叩き上げである彼にとって白兵戦の経験は誰よりも長い。戦場のニオイを嗅ぎ分け、与えられた任務を遂行する。進んだ先にある1つの部屋、彼はライフルのトリガーを引きドアノブを壊し、そして間髪入れずドアを蹴破った。

 

「へへ、長年の経験ってモンは役に立つな。死にたくなかったら手を上げろ。そうすれば悪いようにはしねぇよ」

 

 ライフルの前に立つのは1人の少女、ニュータイプのティファ・アディール。けれども彼女は命乞いする所か動揺すらもせず、目の前の男に向かって1歩前に出る。

 

「アナタが来るのはわかっていました」

 

「ほぅ、だったらどうしてここに居る? わかってたのなら逃げるなりなんなりすれば良いだろ?」

 

「アナタは優しい人だから。心から伝わって来ます」

 

「優しい人……か。死んだ女房の口癖だ。でもな嬢ちゃん、俺だって後には引けねぇんだ。人質にはなって貰うぜ」

 

「アナタの名前は?」

 

「良いよ、言ってやるよ。俺はカトック・アルザミールだ。わかったら付いて来い」

 

 男の指示にティファは素直に従った。背中にライフルを突き付けられながら、男の人質としてゆっくりと進む。そんな状況でもティファはカトックに話し掛ける。

 

「アナタは心の時間が止まってる。15年前からずっと」

 

「ニュータイプってのは心まで覗けるのかい? だとすれば、それはやり過ぎだな。土足で心の中に踏み込まれるのは誰だって不愉快だ」

 

「このまま続けていてもアナタは何も変われない。変わろうとしない」

 

「良い事を教えてやる。嬢ちゃん、人生は何事も経験だ。俺もこの世に生まれてもう40年が過ぎた。だから人間ってモンを少しは理解してる。その経験が人格を形成するし、考えを身に付けさせる。俺はな、学がねぇから軍人なんて職を選んだがそれもまた1つの経験だ。25年、長かった。でもな、そのお陰でわかる!」

 

 カトックは殺気をみなぎらせ素早く後ろに振り返った。そこに居たのはナイフを構えるガロードの姿。鋭利な先端を首筋目掛けて突き刺すが、カトックは皮膚に刃が届くよりも早くライフルを盾にした。鉄で作られたライフルにナイフは僅かなキズを付ける事しかできない。

 

「クッ!? バレてたか」

 

「甘いぜ、兄ちゃんッ!」

 

 ナイフを弾き飛ばし、そのままガロードの側頭部を殴り付ける。衝撃に体は吹き飛ばされ、皮膚は裂けて血が流れ出した。間髪入れずライフルを構えトリガーに指を掛けるが、ティファは前に飛び出すと倒れるガロードに覆い被さる。

 

「止めて!」

 

「ティ……ティファ、逃げるんだ」

 

「フフッ、その程度で俺を殺そうなんざ甘いぜ兄ちゃん。だが安心しろ、そこの女の子は殺さねぇよ。それが任務だからな」

 

「どうだか、そんな事言う奴なんて数え切れないくらい見て来た。それに敵のアンタを信じろって言うのか? 嘘を言ってない保証がどこにある?」

 

「嘘、嘘か。そうだよな、信じれる筈もないか。俺はなぁボウズ、こう見えてタバコは吸わないんだ。酒だって仲間内で集まった時だけ、娘の誕生日にはちゃんと休暇を取ったもんだ。でもそんな俺でも1つだけ悪い部分があるんだ。どこだかわかるか?」

 

「さぁね、知らないよ」

 

「俺は嘘つきだって事さ。何回言われたか数えるのも嫌になるくらい言われた。アンタはどうしようもない嘘つきだって」

 

 

 

第16話 死んだ女房の口癖だ

 

 

 

 痛みに耐えるガロードはティファに支えられながら立ち上がる。その間もカトックが構える銃口はガロードを狙う。

 

「さて、ブリッジまで案内して貰うぞ。この艦の進路を変更してゾンダーエプタ―に向え」

 

「ゾンダーエプタ―だって?」

 

「そうだ、そこに到着したら殺してやるよボウズ。まぁ、今すぐ死にたいなら反抗しても良いがな。」

 

「クッ! わかったよ」

 

 すぐ傍にティファが居る状態で歯向かう事はできない。ガロードとティファはカトックに言われたようにブリッジに向かって歩き出した。




ご意見、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。