機動新世紀ガンダムX アムロの遺産   作:K-15

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メビウスの宇宙編
第1話


地球に向かって加速するアクシズ。

その最中、νガンダムはメインスラスターを全開にしてコレを押し返さんと試みた。

だが無情にもアクシズは地球の重力に引かれており、大気の摩擦が景色を赤くする。

ガンダムのマニピュレーターに収まる赤い球体。

その中に居るのはネオ・ジオン総帥であるシャア・アズナブル。

 

「そうか……しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それをわかるんだよアムロ!!」

 

「わかってるよ!! だから世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ」

 

ガンダムのコクピットの中でアムロは叫んだ。

ニュータイプと呼ばれる存在になってしまった2人。

だがジオン・ダイクンが提唱したニュータイプ論とは程遠く、今になってもぶつかり合ったままだ。

 

「ふん、そう言う男にしてはクェスに冷たかったな。えぇ!!」

 

「俺はマシーンじゃない。クェスの父親代わりなど出来ない。だからか!? 貴様はクェスをマシーンとして扱って!!」

 

「そうか、クェスは父親を求めていたのか。それで、私はそれを迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな」

 

「貴様程の男が、なんて器量の小さい」

 

「ララァ・スンは私の母になってくれたかもしれない人間だ。そのララァを殺した貴様に言えた事か!!」

 

「お母さん……ララァが?」

 

νガンダムとサザビーのコクピットに組み込まれたサイコフレーム。

人の心の光を具現化するそれは、アクシズを包み込むと地球から押し返して行く。

人々は見る、その眩い輝きを。

 

///

 

地球連邦軍と宇宙革命軍との間に起こった戦争。

その終結は悲惨で、スペースコロニーが地球に落下し人類の殆どが死滅した。

第7次宇宙戦争と呼ばれる戦争が終わって15年。

人類は再び大地に足を付け、自らの力で歩き始めた。

アフターウォー15年、新たな歴史は動き始めたばかり。

満月が昇る荒れ果てた荒野。

アルプス級陸上戦艦フリーデンを母艦とするバルチャーが給水作業の為に巨大な水溜まりに止まって居た。

艦長であるジャミル・ニートは、レーダーでいつ狙われるかも知れぬ状況に警戒しながらも、束の間の安息を得る。

 

「ようやく逃げ切れたか。今回は少し無茶をした」

 

「それもそうですが……キャプテン、あのティファって少女は何者なのですか?」

 

「彼女はニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……」

 

フリーデンのオペレーターであるサラ・タイレルは神妙な面持ちでジャミルの表情を覗いた。

黒いサングラスを掛ける彼の表情はいつにも増してわからない。

他のクルーは給水作業、もしくは他の作業を進めており、2人しか居ないブリッジは静寂に包まれて居る。

そんな中、数キロ先で爆発音が観測された。

シートから立ち上がるジャミルは爆発が起きた場所を見る。

 

「何の音だ? 戦闘だとすれば早急に切り上げるぞ」

 

「了解、すぐに確認を」

 

「ここまで来て、また奪われる訳にはいかん」

 

ジャミルの失われたニュータイプとしての能力では感じ取る事は出来ない。

この先に居る人物。

宇宙世紀時代のニュータイプ。

ジャミルにより救出された少女、ティファ・アディールは個室の窓から外の月を眺めて居た。

 

「ア……アムロ……あの人の名前は……」

 

 

 

第1話 アムロ・レイ

 

 

 

「っ!? どうなった……アクシズは……」

 

コクピットの中で意識を覚醒させたアムロ。

全天周囲モニターに映る景色には、アクシズの姿は見当たらない。

それどころか有り得ないモノを体が感じ取る。

地球の重たい重力。

 

「ここは……地球なのか? シャアはどうした?」

 

アームレイカーに両手を添えるアムロはガンダムを動かす。

シャアのサザビーとの激闘、大気の摩擦により装甲はボロボロだが、頑丈に設計された機体はまだ動く。

ツインアイが光輝き、エンジンからエネルギーが供給される。

νガンダムは大地に立ち、アムロはその目で地球の光景を見た。

 

「荒野……オデッサかどこかか? それよりもアクシズは落ちて居ない。だが、ガンダムには大気圏を突破出来る性能はない。どう言う事だ? いや、考えるのは後だな。軍に合流するのが先だ」

 

疑問は尽きないが、アムロはガンダムを歩かせて連邦軍との合流を優先させた。

オートで機体を歩かせながら、コンソールパネルを叩き状況を把握しようと試みるが、その全てが上手くいかない。

 

「通信は……ダメか。正確な位置だけでもわかれば動きやすいんだが。クソッ、これもか」

 

ゆっくりと進むガンダム。

コクピットの中で可能な限りの事は施したが、現状が変わる事はなかった。

今は只、闇雲でも進む事くらいしか出来ない。

コクピットのハッチを開放させるアムロは、夜風に当たりながら月を見上げる。

 

「でも地球か……久しぶりだな。コロニーの調査に掛かりっきりだったからな。結局、シャアに良いようにされてしまった」

 

アムロをライバルだと認めた男、シャア・アズナブル。

1年戦争の時から続く因縁の戦いも、最後まで決着が着く事はなかった。

そして何より、シャアは最後まで呪縛から逃れられず苦しんだ。

ジオン・ズム・ダイクンの息子としても、少女ララァ・スンを失った悲しみも、カミーユ・ビダンを通して見たニュータイプとしての可能性も、全てはシャアにとって呪いにしかならない。

どれだけ時間が経とうとも、シャアは未来を見る事が出来なかった。

 

「だが、アクシズの落下は阻止したんだ。ネオ・ジオンもこれで動きにくくなる筈だ。連邦内部との癒着はどうしようもないが」

 

連邦内部の幹部が金欲しさに譲り渡した小惑星アクシズ。

そのせいで自分達の住む場所である地球か寒冷化させられようとした事に彼らは全く危機意識がない。

連邦軍の腐敗は今に始まった事ではないが、アムロはシャアのように力で事をなす考えはなかった。

 

「奴の考えもわかってるつもりだ。だがその為に大勢の人間が犠牲になるのは間違ってる。そこだろうな、俺とアイツの違いは。俺はアイツとの決着よりもアクシズを優先した。シャアはまだ囚われたままだ」

 

過去しか見ないシャアとは違い、アムロは現実を見て居る。

ニュータイプでなくとも自分の隣には誰かが居る、けれどもシャアは共感出来るニュータイプだけを求めた。

 

「馬鹿な男だよ……全く……レーダーに反応、モビルスーツか?」

 

警告音を鳴らすコンソールパネル。

急いでシートに戻るアムロは反応が何なのかを確認すると、データには登録されて居ない機体が前方で待ち構えて居た。

ハッチを閉鎖して、メインカメラからのリアル映像に切り替えて自分の目で確かめると、見えるのは見た事のない機体。

 

「ネオ・ジオンの機体か? だがギラ・ドーガとは違う。地上専用にチューニングされて居るのか?」

 

『そこの白いモビルスーツ!! 誰に許可されて俺達の縄張りに入った!! えぇ!!』

 

野蛮な男の声が拡声器で響き渡る。

ガンダムの前に仁王立ちする3機のモビルスーツ。

それぞれフォルムが独特で、パイロットに合わせて独自にチューニングされて居る。

1機は緑色、もう1機は青色、最後の1機は黒色。

アムロはガンダムの動きを止めると、不快感をあらわにしながら男の質問に応えた。

 

「縄張りだと? ふざけて居るのか」

 

『キサマ!! 俺達を誰だと思ってる。ここいらじゃ名の知れた――』

 

「違法居住者だな。モビルスーツをどこで手に入れたかは知らないが、そんな旧型で」

 

『俺の愛機を旧型だとっ!! 野郎ども、あの白い奴を潰せ!!』

 

メインスラスターを吹かしガンダムに迫る3機のモビルスーツ。

アムロもアームレイカーに手を添えると戦闘に意識を集中させる。

 

「話しても無駄なようだな」

 

アクシズでの戦闘でフィン・ファンネルは全て使い切った。

ビームライフルは破壊され、バズーカとシールドももうない。

予備のビームサーベルも手放してしまい、頭部バルカンしか射撃武器はなかった。

それでも幾つもの激戦と修羅場を潜り抜けて来たアムロにとって、旧型のモビルスーツ3機を相手にする事など造作も無い。

ペダルを踏み込みメインスラスターとバーニアを吹かし、地上をホバーリングするように滑りながら前進する。

 

「行ける!!」

 

腰部からマシンガンを手に取る緑の機体、チューニングされたジェニスはガンダムと真っ向から対峙する。

構えを取り銃口を相手に向けトリガーを引く。

だが、弾丸が発射された時にはもう、ガンダムは回避行動を取って居た。

一切武器を持たないガンダムに、気が付いた時には間合いを詰めらて居る。

 

『は、はやい!?』

 

「侮りすぎだ。そんな事では」

 

マニピュレーターを突き出し、ジェニスの頭部にあるエネルギーチューブを引っ掴む。

強引に機体を引き寄せ、相手の機体の装甲がギシギシと悲鳴を上げる。

 

『コイツ、何を!?』

 

「先に攻撃を仕掛けたのはそっちだ。爆発させずに動けなくすれば、地上の残党部隊の居所を掴める」

 

頭部のエネルギーチューブを掴んだまま、ジェニスを前方に突き出した。

チューブは耐え切れずに引きちぎられ、機体は為す術もないまま背部から地面に激突する。

激しく揺れるコクピット。

シートベルトも装着して居ないパイロットは中で体の至る所をぶつけ、すぐには操縦桿を握り直す事が出来ない。

 

「次は!!」

 

『白い奴、よくもボトスを!!』

 

「遅い!!」

 

仲間がやられた事で頭に血が上る。

青いジェニスはヒートホークを右手で振り上げ果敢にガンダムに攻めるが、連携も取らずに1体1での戦闘で勝てる相手ではない。

アムロはアームレイカーのボタンを押し込み頭部バルカンを相手に向けた。

大量に吐き出される薬莢。

90ミリの弾丸が頭部に集中して発射された。

潰されるモノアイ、引き裂かれる装甲。

満足に近づく事も出来ないまま青いジェニスの頭部は吹き飛ばされ、煙を上げて崩れ落ちる。

仲間が一瞬の内に倒され、残るパイロットはある事が頭の中を過った。

 

『白い機体……まさか!? 15年前に作られたって言うガンダムなのか? か、勝てない……うあぁぁぁ!!』

 

背を向けて逃げる黒いジェニス。

アムロは逃がすつもりはなくトリガーを押し込むが、頭部バルカンの弾は底を突きカタカタを音を鳴らすだけ。

 

「チィッ、使い過ぎたか。逃がすものか!!」

 

倒れる緑色のジェニスが装備するマシンガンを取るガンダム。

グリップを右手に握ると地面を蹴り、同時にメインスラスターの出力を上げてジャンプした。

相手との距離はまだ、そこまで離れて居ない。

青白い炎を噴射するバックパックに照準を合わせトリガーを引く。

マズルフラッシュと共に発射される弾丸は正確に狙った位置ヘ直撃し、爆発により姿勢を崩すジェニスはその場へ転げ落ちた。

 

「やったか。コクピットは無事な筈だ。うん、何だ?」

 

気配を感じた。

空中で姿勢制御したまま回避行動を取る。

ガンダムが居た場所に、数秒遅れてビームが飛んで来た。

攻撃された方向を見ながら機体を着地させるアムロは、新たな2機のモビルスーツを目にする。

 

「アレは……ガンダムタイプ」

 

「俺の攻撃を避けやがった。伊達にガンダムに乗ってる訳じゃねぇってか」

 

「まともな武器もナシに3機を撃墜。しかもコクピットは破壊してない。中々の芸当じゃないの」

 

赤い羽を持つガンダム。

そして左腕に巨大なガトリング砲を装備する緑のガンダム。

アムロの知識では見た事のない、νガンダムのデータにも載ってない新たなガンダムタイプ。

 

「これもデータにはない機体か。だが、ガンダムタイプともなればジオンでもない。どこの所属だ?」

 

考えるアムロだが答えがわかる筈もなく、それよりも先に相手が攻撃を仕掛けて来た。

 

「来るのか!?」

 

空を飛ぶガンダムが2丁のビームライフルを構えてトリガーを引く。

 

「ロアビィ、コイツの相手は俺がする!! お前は黙って見てろ!!」

 

「はいはい、ご自由に。でも、報酬は俺もキッチリ貰うからね」

 

「わかってるよ!!」

 

空を単独飛行出来る羽のあるガンダムは3次元的な動きが出来る事で、νガンダムより優位な立場にある。

安全な上空から連続してトリガーを引くガンダムは、一方的にアムロのガンダムを攻撃した。

 

「どうした、どうした!! やって来ねぇなら、バラバラにしてパーツにしてやんぞ!!」

 

「緑のガンダムは攻めて来ない。これなら」

 

メインスラスターとバーニアを駆使して動き回るνガンダム。

相手は連射性能の高いビームライフルでビームを撃ちまくるが、銃口を向けられた時には既に回避行動に移って居る。

発射されるビームは只の1発すら当たらず、それどころかかすりもしない。

 

「クソッ!! ちょこまかと、落ちろっつてんだよ!!」

 

「相手は1機なのよ? 何やってんの」

 

「うるせぇ!! こんな奴すぐに!!」

 

苛立ちはしながらも、射撃の腕に衰えはない。

それでも直撃させる事が出来ないのは、単純に技術と経験の差だった。

ビームは地面に直撃して砂煙を上げるだけで、無駄にエネルギーばかりが減って行く。

アムロは不利な状況でも相手の力量を見極めて、反撃出来る一瞬を狙う。

 

「腕は悪くないが、まだまだ若いな。落とさせて貰う」

 

「あんなボロボロの機体に……なんで!!」

 

「甘い!!」

 

マシンガンの銃口を向けた。

初めての攻撃にパイロットは目を見開き瞬時に回避に移るが、アムロはそこまで読んで居る。

避ける先、コンマ数秒早くトリガーを引きマシンガンが火を噴く。

発射された弾丸は避けた所のガンダムのマニピュレーターに直撃し、握って居た右手のビームライフルを落としてしまう。

 

「しまった!? こんな所で!!」

 

マニピュレーターは無事だが、数少ない武器を手放してしまった。

回収に行く事も出来ず、ビームライフルはνガンダムに奪われてしまう。

 

「ウィッツ、何やってんの!! 見ちゃ居られないよ!!」

 

「ロアビィ、邪魔するんじゃない!!」

 

緑のガンダムも戦闘に加わり、左腕のガトリング砲でνガンダムを狙う。

 

「チィッ、もう1機が来たか」

 

マシンガンを投げ捨て、奪い取ったビームライフルを握らせると、直ぐ様行動に移る。

向けられるガトリング砲の弾速は早い。

それでもメインスラスターの出力を上げて何とか避けはするが、推進剤も余裕がある訳ではなかった。

 

「長引くと不利だ。仕掛ける!!」

 

ビームライフルを向け、トリガーを引く。

発射されるビームを緑のガンダムは足の裏のローラーを稼働させて回避する。

重武装であるが故に機体重量も重く、ローラーで移動する事で脚部への負荷を軽減させ、尚且つ自立走行よりも高速で動く。

アムロは瞬時に照準を合わせるとトリガーを引いた。

 

「機体の性能に頼りすぎだ!!」

 

瞬間的に引かれるトリガー、発射されるビームは3発。

緑のガンダムが避ける先、構えて居たガトリング砲の装甲にビームがかすめた。

2発目は地面に直撃して砂煙を発生させると、3発目が右脚部に直撃する。

 

「ウソでしょ!? 射撃のセンスは抜群だな。コイツの装甲じゃなかったらヤバかった。でもね!!」

 

「浅かったか」

 

「こっちだってギャラを貰ってるんでね。たかが1機に!!」

 

ビームは直撃したが機体にそれほどダメージはない。

向かって来る相手にビームライフルと推進剤の残りを気にするアムロだが、突如として上空に眩い光が灯る。

それを合図にして、迫る2機のガンダムは動きを止めた。

 

「何だ、信号弾……」

 

「停戦信号? ウィッツ、撃つなよ」

 

「わかってるよ。クッ!! 仕留められねぇなんて」

 

事態を理解出来ないアムロはガンダムの動きを止めて事の成り行きを見守った。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦闘を見るクルー達は、白いモビルスーツの動きに目を奪われる。

まともな装備もない相手、見た目にも明らかに損傷して居る相手に2人は苦戦を強いられて居た。

ウィッツ・スーの搭乗するガンダムエアマスター。

空中からのビームによる攻撃は、そのどれもが見切られて居る。

戦いを見ていた通信オペレーターのトニヤ・マームは、思わず声を上げた。

 

「あぁ~、もぅ!! 何やってんのよ!! あれだけ撃ってるのに1発も当たってないじゃない!!」

 

オペレーターのサラも、この有様を見て口を尖らせた。

 

「高い報酬を払って居るんだから、これくらいはしてもらわないと。これだからフリーの人間は信用出来ません」

 

「あの動き……」

 

その中で唯一、艦長であるジャミルだけは、白いモビルスーツの動きに思い当たる節がある。

かつての自分と同じ、或いはそれ以上の。

 

「サラ、あの白い機体。もう少し拡大出来るか?」

 

「はい。すぐに」

 

慣れた手付きでスムーズにパネルを叩くサラ。

望遠カメラに切り替わり、モニターに映し出される映像が何倍にも拡大された。

白い装甲、ツインアイ。

この世界に生きる人間ならその殆どが知る伝説のモビルスーツ。

 

「ガンダム……」

 

「ですがデータにはありません。見た目だけなのでは?」

 

「いいや、奴はそうだ。それにあの動き、あの2人では勝てない。シンゴ、フリーデンを前進。停戦信号もだ」

 

「了解です。メインエンジン始動、フリーデン発進します」

 

操舵士のシンゴは艦長からの指示を受け、停止させて居たフリーデンを戦闘領域目指して前進させる。

同時に停戦を意味する信号弾も発射さた。

シートに座るジャミルは、自身に残った僅かな力を頼りに、モニターに映る白いモビルスーツをもう1度見る。

 

(あのガンダムに乗って居るパイロットが本当にニュータイプだとしたら……急がねば)

 

その頃、フリーデン内部には1人侵入者が紛れ込んで居た。

名はガロード・ラン。

高額な報酬を貰う事を条件に、フリーデンに囚われて居る少女、ティファ・アディールを救うべく侵入した。

戦後の世界を生き延びる為に、この手の事は慣れてしまって居る。

 

「へへ、警備が手薄で助かったぜ。問題はどこにこの子が居るかだけど……手当たり次第に行くしかねぇか」

 

足音を消して、影に隠れて、誰にも見つからずに通路を進む。

 

(捕まえられてるんだから、ロックの掛かってる部屋。ご丁寧にどの部屋も開けっ放しだ。これならわかりやすい!!)

 

進むガロードはティファが囚えられて居る部屋を探す。

その途中、欲に目が眩んだ彼はプレートに艦長室と書かれた部屋の前で足を止めた。

ニヤリと表情を変えると、懐からピッキングツールを取り出し鍵穴に差し込む。

 

(バルチャー、それも親玉の部屋なんだから、金目のモノがあるだろ。良し、開いた!!)

 

ものの数秒で解除したロック。

ドアノブを捻り、静かに開けるドアの隙間から中に滑りこむ。

真っ暗な部屋の中で、ガロードの培われて来た嗅覚が瞬時に金庫を見つけ出す。

 

「あったあった。後はコイツを解除しちまえば」

 

ダイヤル式の金庫。

経験と勘、そして自らの技術を頼りに素早くダイヤルを回すガロード。

それでも金庫が開くかどうかはやってみなければわからないし、時間との勝負だ。

ジリジリ音を鳴らして回されるダイヤル。

 

「よ~し、頼むぜぇ……キタッ!! ん、何だコレ?」

 

開かれた金庫にあったモノは1つの操縦桿。

それ以外には何も入って居ない。

 

「モビルスーツのコントロールユニット? まぁ、良いや。バラすなりすれば金になるだろ」

 

握ったコントロールユニットを懐に入れるガロードは、金庫の扉を閉じ素早く部屋から立ち去った。

本来の目的であるティファの救出。

再び影に隠れながら進むガロード。

すると、どこからかメロディーが聞こえて来る。

 

(音楽……鼻歌か?)

 

音を頼りに歩くガロード。

近づくにつれて聞こえて来る音が透き通って聞こえる。

可憐な少女の声。

 

(キレイな声……)

 

その歌が聞こえて来る部屋の前まで来たガロードは、無意識の内にドアを開けて居た。

部屋の中に居るのは、鼻歌を奏で月明かりに照らされる少女。

思わず見惚れるガロードはその場に立ち尽くしてしまう。

穏やかな雰囲気。

自分が何を目的にここまで来たのかも忘れて、少女をずっと眺めて居た。

すると、少女はゆっくりガロートに視線を向ける。

 

「アム……ロ?」

 

「えっ!? い……いやぁ、俺はアムロじゃなくてガロード。キミはティファ・アディールだよね? つまりそのぉ……」

 

突然話し掛けられ慌てふためくガロード。

頭が上手く回らず、口から言葉が出ない。

けれども、そうして居る間にもフリーデンが動き出してしまう。

艦内に多少ではあるが揺れと振動が伝わって来る。

 

「っと、こんな事してる場合じゃない。俺はガロード・ラン。キミを助けに来た」

 

「アナタを……待っていました」

 

「あのオッサンが教えてくれたのか? でも通信機があるなら俺じゃなくても……まぁ、細かい事は良いや。逃げるぞ」

 

「はい」

 

ガロードに手を引かれ、ティファは部屋から出た。




明日更新。
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