ハリー・ポッターと欲望の錬金術師   作:ドラ夫

9 / 14
平均文字数約8000文字でもう9話なのに、まだ最初の一週間が終わらないという……
どんだけ亀更新やねん


第9話 ナメクジ

 ハグリッドのお茶会の次の日の夜、ホグワーツが始まって最初の土曜日の夜に、バーソロミューは校長室に呼ばれていた。

 一人で来る様言われていたので、メアリーとアンはいない。

 尤も、バーソロミュー以外に感知することの出来ない、バーソロミューから一定以上離れられないレイブンクローは近くに居るが。

 バーソロミューが校長室の前に着くと、二つのガーゴイルが道を塞いでいた

 

「チョコクランチ」

 

 バーソロミューが予め教えられていた合言葉を言うと、ガーゴイルの石像が生きた本物のガーゴイルになり、脇へどいた

 

『このガーゴイル像は、石像を変化させて生きたガーゴイル像にしたのではなく、生きていたガーゴイルを変化させて石像にしたんです。こいつら、とんでもない奴らだったんですよ。それでサラザールが怒って、この二人を石像にしたんです。使命(門番の役割)を果たしている間のみ石化が解ける仕組みになっているんです』

 

 一体どんな悪さをすれば1000年も石像にされる様な目にあうのか、バーソロミューは多分に興味が湧いた。しかしレイブンクローに昔の話を聞くと長いので、ダンブルドアとの約束がある今は我慢した

 

「大人しくしてろよ」

 

 校長室へと続く階段を登りながら、バーソロミューが子供をたしなめる様に言った

 

『あの、私貴方より歳上ですよ?』

 

 勿論、絶対の記憶力を持つバーソロミューがその事を忘れるはずがない。

 バーソロミューが校長室をノックすると、扉が素早く開いた。中には様々な魔法逸品(マジックアイテム)と山程の本が並べられていた。

 まるでニコラスの部屋の様な内装だとバーソロミューは思った

 

「おお、バーソロミュー、随分と早いの。約束の一時間前とは。感心じゃ」

 

「下らねえ世辞はいい。何の用だ?出来ることなら、早く帰って勉強したいんだがな」

 

 実際、これは本心だ。

 バーソロミューの『原初魔法(ワイルドマジック)』の研究は日々進んでいる。しかしその歩みは遅く、早く“未知”へとたどり着きたいバーソロミューは少々急いていた。

 しかしそんなバーソロミューとは反対に、ダンブルドアはほがらかに笑った

 

「ふむ、ますます関心関心。その歳で勉学の面白さに気づくとは、君は大変恵まれおるの。しかし、残念ながら、今宵の一件はお主だけの力では解決出来ぬのじゃ。故に、もう二人の協力者を待たねばならぬ」

 

「ほお、俺様だけでは解決出来ないだと?」

 

 スッとバーソロミューの紫色の瞳が細められた。その瞳には少なくない怒気が込められていた。

 一方的に呼びつけておいて、お前の力では解決とは何という言い草だ!そう告げていた

 

『バーソロミュー、大人しくしなさい』

 

 怒るバーソロミューに、先ほどバーソロミューが言った言葉をドヤ顔で言うレイブンクロー。

 ここで魔力の質を吸魂鬼のモノに変えてしまうと、ダンブルドアに感づかれるため今は何もしないが、今夜必ずお仕置きするとバーソロミューは決心した

 

「ところで、バーソロミューや。少し取引をせんか?」

 

「まずは内容を聞かせろ、話はそれからだ」

 

「うむ。今からとある場所に行き、新しい『魔法薬学』の先生を勧誘するのじゃが、それに協力して欲しいのじゃ」

 

 バーソロミューはその気になれば、いくらでも人に気に入られる事が出来た。教師を一人勧誘する事くらい訳ない

 

「それで、見返りは?」

 

「まず、授業の質が良くなる事を約束しよう」

 

 その条件は確かに、バーソロミューにとって魅力的だった。スネイプの能力は決して低くないが、今の授業体制には明らかに無理がある。いつか綻びが生まれ、授業の質が落ちていくだろう。

 それはバーソロミューの望むところではない。しかしーー

 

『それは学校として、当たり前の事です』

 

 そうしかし、レイブンクローの言う通り質の良い授業を与える事は学校側の義務であり、それを与える事が交換条件になるかと言われれば否だ。

 ダンブルドアがその事を理解していない訳がない。つまりこれは交換条件ではなく、『今から勧誘しに行く教師は確実に授業の質を上げる事が出来る、優秀な教師ですよ』という意味であり、バーソロミューのやる気を引き出す為の前口上だ

 

「次の条件じゃが、この校長室への立ち入りを許可しよう。勿論、いくつかの条件はつくがの」

 

「ほお」

 

 これもバーソロミューにとっては魅力的な条件だった。この校長室にはザッと見回しただけで少なくとも100冊以上バーソロミューが読んだ事のない本が置いてあり、実は先ほどから興味を惹かれていた

 

「そして最後に、『閲覧禁止の棚』から本を借りる許可を与えよう。しかし勿論、これもいくつかの条件つきじゃがの。どうじゃ?」

 

「……よし、いいだろう。喜べ、貴様は俺様の協力を勝ち取った」

 

『バーソロミュー!先生に何ていい方するんですか!!』

 

 今回ばかりは完全にレイブンクローが正しかったが、バーソロミューは無視した。

 あまり自分が騒ぎ立ててしまうと、ダンブルドアの声が聞こえなくなってしまうので黙ったが、今夜絶対に説教するとレイブンクローは決心した

 

「む、来たようじゃの」

 

「ああ、こいつらか」

 

 ダンブルドアは魔力の揺らぎで、バーソロミューは強化された聴覚で来訪者を察知した。

 ダンブルドアが人指し指をクイッと動かすと、扉がスルリと開いた。そして開いた扉から、ノックしようとしていた腕をからぶらせたハリーが入ってきた

 

「うむ、これでそろったの」

 

「御機嫌よう、ダンブルドア校長先生。それと久しぶり、バーソロミューくん」

 

 そしてハリーの後ろから、ダフネ・グリーングラスが微笑みながら入ってきた

 

「御機嫌よう、ミス・グリーングラス」

 

 ダンブルドアが愛想よく返事をする横で、バーソロミューは不機嫌そうに鼻を鳴らした

 

『グリーングラス、『傾国の女』の末裔ですか……』

 

 珍しく、レイブンクローも不機嫌そうにした。

 レイブンクローが『知』を、グリフィンドールが『勇』を司っているように、実は『聖28一族』もそれぞれ司っているものがある。

 各家が司るものに関してはレイブンクローの時代の戦争での活躍が由来している。例えば経済面で多大な貢献を残したマルフォイ家が『富』を司っていたりだ。

 そしてグリーングラス家が司っているのは『美』だ。

 レイブンクローの時代の戦争の最中、当時のグリーングラス家の当主は兵も杖も使わず、己の魅力のみで戦った。

 敵国に踊り子として潜入し話題を集め、興味を持って近づいて来た権力者を次々に魅了し、最後には国を虜にする。そんな彼女についたあだ名が『傾国の女』。

 その名残は今も残っており、グリーングラス家は『聖28一族』の中で最も富がなく、また歴代の当主もそれほど高い権力のある役職についていない。にも関わらず、グリーングラス家の当主は代々、魔法界に対して多大な影響力を持っている。

 グリーングラス家の力とは『美人には何となく優しくしてしまう現象』を究極的に強くした様なものだ。

 魔法よりずっと目に見えづらく、ずっと恐ろしい力。

 ちなみに、初代グリーングラスとレイブンクローは仲が悪かった

 

「や、やあバーソロミュー」

 

 何故か緊張した様子でしてくるハリーの挨拶に、バーソロミューは目で返した

 

「みな時間に正確で結構。それでは、行くとするかの」

 

「あの、先生。どこに行くんですか?」

 

「スラグホーン先生のところじゃ」

 

 ハリーはそれが誰なのか聞きたかったが、ダンブルドアはもう話は終わりと言わんばかりの態度だ。

 横を見てみるとバーソロミューとダフネはスラグホーン先生の事に対して疑問を持っていない様だったので、ハリーはそれ以上何も追及しなかった

 

『今度はスラグホーンですか。懐かしい名前がポンポン出てきますね』

 

 とレイブンクロー。スラグホーン家もまた、『聖28一族』の一つだ

 

『今代のスラグホーンは分かりませんが、私の時代のスラグホーンは才能を見抜く力がずば抜けてました。戦争で活躍した英雄達や、ホグワーツの最初の生徒の大半は彼が見つけてきたようなものです』

 

 レイブンクローのその発言で、漸くバーソロミューは合点がいった。というのも、何故このメンバーが集められたのか分からなかったのだ。

 性別も寮も能力もバラバラの三人だが、才能ある人間が好きな人間であれば、間違いなく気に入るであろう三人だ

 

「さて、では腕に捕まってくれるかの」

 

 最初にバーソロミューが腕を掴み、その次にダフネが掴んだ。ハリーがどういう事かと数瞬考えた後に掴むと、『パチンッ』という音と共に四人の姿が消えた

 

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

 

「おえええええ」

 

 『姿あらわし』でスラグホーン家の前に現れた瞬間、ハリーが吐いた。まだ魔法界に来て日が浅く、箒にさえ乗った事がないハリーが『姿あらわし』の強烈な“揺れ”に耐えられないことは仕方がない事だった。

 ちなみに、バーソロミューとダフネは何でもないようだ

 

「ハリー、落ち着いたらこれを食べるのじゃ。気分が良くなる」

 

 そう言ってダンブルドアはハッカ入りキャンディーを渡した。ハリーはとても食べる気にならなかったが、あまりにダンブルドアが進めるので仕方なく食べると、たちまち気分が良くなった

 

「おい、アポは取ったのか?」

 

「そのはずじゃ」

 

「じゃあそいつは約束を忘れてるか、さもなきゃ貴様が嫌われているか、それとも……」

 

 バーソロミューは屋敷の方を鋭く見た。

 ハリーもつられて見てみたが、暗くて良く見えない

 

(暗い?)

 

 そう、暗いのだ。巨大なスラグホーン家の屋敷のどの部屋にも明かりが灯っておらず、人のいる気配が全くしなかった。

 ダンブルドアはバーソロミューの言葉に答える代わりに、懐から杖を取り出した

 

「近くに寄っておれ」

 

 そう言いながら、ダンブルドアが歩き出した。ハリーは出来るだけダンブルドアの近くにいようとした。しかしダンブルドアの歩みは早く、やや早歩きになってしまった

 

「先生、あれ」

 

「分かっておる」

 

 屋敷に近づいてみて分かったのだが、屋敷は荒れ果てていた。カーテンは破け、窓は割れている。

 ダンブルドアが玄関のノッカーを叩くと、その衝撃でドアは崩れてしまった。ダンブルドアは杖を光らせ、屋敷の中を照らした。

屋敷の中は外見以上に荒れ果てていて、足の踏み場もない程だった

 

「先生、あれ!」

 

「分かっておる」

 

 本当に分かっているのか、ハリーは問い詰めたくなった。何故なら穴の開いた天井から、おびただしい量の血が滴り落ちていたのだ

 

「ふむ、バーソロミュー、任せてもいいかの?」

 

 バーソロミューはダンブルドアの問いに答えず、黙って屋敷の中に入っていった。そして屋敷に入ってすぐの巨大な玄関ホール内をグルリと見渡し、やがて視線が固定された。

 視線の先には、折れた傘が四本ほど刺さっている錆びた傘立てが置いてあった

 

「貴方がミスター・スラグホーンですか?」

 

「ハハハハハ!こいつは驚いた!まさか一年生に見破られるとは、え!?」

 

 バーソロミューが傘立てに話しかけると、傘立てから頭が生えて大笑いした。

 見る見るうちに傘立ては姿を変えていき、傘立て本体は胴体に、刺さっていた傘は手足になった

 

「今回はまた随分と大掛かりな仕掛けじゃな、ホラス」

 

「そうだろうとも、なんせ、お前が手紙をよこした一週間前から準備したからな!」

 

 傘立てだった男とダンブルドアは笑いながら抱擁を交わした

 

「しかし、最初にお前が出し抜かれたと新聞で見たときはとうとうダンブルドアも老いに負けと思ったものだが、どうやらこの子の才能がずば抜けていたらしい!」

 

 傘立てだった男、ホラス・スラグホーンは巨大なお腹を揺らしながら愉快そうに笑った

 

「わしは少し席を外してるとしよう。この屋敷を直しておこう」

 

 そう言うと、ダンブルドアはさっさとその場を去った

 

(あの件を新聞に載せたのはこの為か。まったく、嫌なやり方をする)

 

 出会ってまだ一分ほどだが、バーソロミューはこの男が優秀な才能を持つ者と有名な人間が好きな事が良く分かった。

 最近表に出ていなかったバーソロミューの名声を再度高める為に、自分を引き合いに出しながらあの件を新聞に掲載したに違いないと推理した

 

「僕はバーソロミュー・フラメルです。改めて挨拶を、ミスター」

 

 バーソロミューが手を差し出すと、スラグホーンはがっちりと両手で掴んだ

 

「君の出した本を読んだ。専門ではないが、私は錬金術の分野にも造詣があるからね。いやいや勿論、君には劣るだろうがな」

 

「ああ、知っていますよ。預言者新聞に貴方が掲載した評論を読みました。貴方が魔法薬学ではなく、錬金術を専攻にしなかった事が残念でならない」

 

「ほっほう!まったく、お世辞が上手い!シエラ・レイントンは知ってるね?あの子は私の教え子で、いつも私の意見を大事にしてくれる。その縁であの評論を掲載したんだよ。彼女は確か、君に夢中だったね」

 

「ええ、まあ。ですがその、彼女は少し苦手です」

 

「まあ確かに彼女は美しく聡明だが、多少性格に問題があるな」

 

 バーソロミューとスラグホーンは苦笑いした。

 シエラ・レイントンとはバーソロミューの追っかけ記者で、日刊預言者新聞の編集長を任されている。ついこの間のクィレル逮捕の件を書いたのも彼女だ。

 シエラは人類で唯一、バーソロミューが苦手としてる人物だ

 

「もう一人の編集長、バーナバス・カッフも私に懇意にしてくれる。この写真立てを見てくれ!」

 

 スラグホーンは弾む様に体を揺らしながら、満足げな笑みを浮かべてドレッサーの上にずらりと並んだ輝く写真立てを指差した。

 それぞれの額の中で小さな写真の主が動いている

 

「シエラとバーナバス同様、全部昔の生徒だ。サイン入り。ハニーデュークスのアンブロシウス・フルーム、誕生日に一箱よこす。それもすべて、私がシセロン・ハーキスに紹介してやったおかげで、彼が最初の仕事に就けたからだ!後ろの列ーー君は背が高いから見えるかな?ーーあれがグウェノダ・ジョーンズ。言うまでもなく女性だけのチームのホリヘッド・ハーピーズのキャプテンだ……私とハーピーズの選手達とは、姓名の名のほうで気軽に呼び合う仲だと聞くと、みんな必ず驚く。それにほしければいつでも、ただの切符が手に入る!」

 

 スラグホーンはこの話をしている間に、大いに愉快になった様子だった。

 バーソロミューはスラグホーンが紹介したほとんどの著名人達と知り合いだったし、それ以上の者達とも知り合いだったが、それを言うとスラグホーンの気を損ねるだろうと黙った。

 スラグホーンとバーソロミューの会話が一旦落ち着いたのを見ると、すかさずダフネが話しかけた

 

「お久しぶりですね、おじ様。お母様のお茶会以来でしょうか」

 

「ああ、ダフネ、相変わらずの美貌だね。マリーは元気かね?彼女のお茶会に呼ばれる事は、私の最も楽しい行事の一つだ」

 

「お母様もおじ様を招く事を毎回楽しみにしてます」

 

 ダフネは優雅に微笑んだ。

 グリーングラス家のお茶会に招かれる事はある種のステータスなのだ。そしてスラグホーンの教え子だったダフネの母親、マリー・グリーングラスはよくスラグホーンをお茶会に招いていた。

 その後少しの間ダフネとスラグホーンは思い出話に花を咲かせた。人というのは、いつだって思い出が好きだ。特にスラグホーンはそれが顕著だ。

 二人が五分ほど話すと、ダフネは思い出したかの様に言った

 

「ああ、紹介が遅れましたね。といっても、わたくしもそれほど親しい訳ではありませんが。こちら、ハリー・ポッターです」

 

 ダフネはバーソロミューが見事な初対面を飾り、ダフネが思い出話に花を咲かせる横で、ただ突っ立っていたハリーを紹介した。

 スラグホーンはハリー見ると、まるで初めて孫を目にした祖父の様な笑顔を浮かべた

 

「僕、ハリーです。ハリー・ポッター」

 

「ほっほう!これはこれは、“生き残った男の子”ーー英雄だ!魔法界で君の事を知らない者は居ないだろう」

 

 ハリーは引きつった様な変な愛想笑いを浮かべた。しかしそれでもスラグホーンには満面の笑みに映る様で、益々巨大なお腹を揺らした

 

「君は父親そっくりだ。しかし目だけが違う。目はーー」

 

「母さんそっくり?」

 

「そう、そうだ。教師として贔屓はしてはいけないが、君の母、リリーは私の一番のお気に入りの一人だった。いつも生き生きとして、それでいて思慮深かった。私はいつも彼女に私の寮に来る様に言ったが、悪戯っぽく返されるだけだった」

 

 スラグホーンは昔を思い出して、慈しんでいる様だった

 

「どの寮だったんですか?」

 

「スリザリンだ」

 

 ハリーの頭の中でマルフォイが高笑いし、スネイプが嫌味ったらしく嘲ってきた

 

「それ、それ!その事で私を責めるな!君は母親と同じ様にグリフィンドールなのだろうな。普通は家系で決まる。必ずしもそうではないが、シリウス・ブラックの名を聞いた事あるか?」

 

 ハリーは首を横に振った。シリウス・ブラックどころか、ほとんどの魔法界の人間を知らなかった

 

「代々ブラック家はスリザリンだ。弟のレギュラスもスリザリンだった。出来れば一揃い揃えたかったが、グリフィンドールにとられた。まあとにかく、シリウスはグリフィンドールだった。そして、君のお父さんの親友だった」

 

 ハリーは先程までスラグホーンとの会話を早く切り上げたい気持ちでいっぱいだったが、父親の名前を聞いて一気に気分が変わった

 

「お父さんの事を知ってるんですか?」

 

「ああ、勿論知ってるとも。大変な悪ガキだった。いつもシリウスと悪戯ばかりしていてね。リーマス・ルーピンという男がいつも止めていた。それと、あー、何だったか…そう!ピーター・ペティグリューという小さな男の子と四人で学校中を我が物顔で闊歩していたよ」

 

 父親がそんな生徒だったと知って、ハリーはショックを受けた。しかし同時に、好奇心がメキメキと湧いてきた。

 父親の親友だった彼等から話を聞きたい、そう思った

 

「それで、シリウス達は今どうしてるんですか?」

 

 スラグホーンは苦い顔をした

 

「アズカバンに送られたよ」

 

「え?」

 

「シリウスは“名前を言ってはいけない例のあの人”の僕だった……。裏切り者だ。あの時代に裏切りはさして珍しくなかったが、それでも彼の裏切りには多くの者が驚いた。彼はピーターと大量のマグルを殺した後捕まり、アズカバンに収容されたよ。リーマスは…少し特殊な事情があってね、在学中は私が薬を調合していたがその後は、しかし……」

 

 スラグホーンは口ごもった。

 父親の親友だったシリウスが裏切り、同じく親友だったピーターを殺した……

 ハリーはそれまで実感が湧かなかった闇の帝王の恐ろしさが、沸々と体の奥底から湧き上がってくるのを感じた

 

「ホラス、ハリー達との自己紹介は済んだかな?」

 

 いつの間にかダンブルドアがハリーのすぐ後ろに立っていた。それを見たスラグホーンは、少し嫌な顔をした

 

「ああ、ダンブルドア。実に有意義な時間だった」

 

「それで本題なのじゃが、ホグワーツでもう一度教鞭を振るってはくれんかの?」

 

 ダンブルドアの言葉を聞いた瞬間、スラグホーンは癇癪を起こしたかの様に騒いだ

 

「ほーら、やっぱりそれだ!何度も言ってるが、私は戻る気はない。いや戻るにしても、学校が始まってから行くなど、考えられん!」

 

「ならば仕方がない。行くとするかの」

 

「え?」

 

 ダンブルドアの拍子抜けするほどあっさりとした言葉に、スラグホーンは意表を突かれた

 

「見込みがない様じゃからの」

 

「見込みがない?」

 

「いかにも」

 

 スラグホーンは揺れている様だった。ハリーは後少し説得すればスラグホーンは首を縦にふるのでは?と思ったが、バーソロミューとダフネが躊躇せず席を立ったのでそれに習った

 

「それでは失礼します、ミスター。また何処かで会える日を楽しみにしています」

 

 バーソロミューが非常に残念そうに言った

 

「次に会うのはクリスマスでしょうか」

 

 ダフネが微笑みながらそう言った

 

「では、さらばじゃ」

 

「さようなら」

 

 四人が玄関口まで行ったときに、後ろから叫ぶ声が聞こえた

 

「わかった、わかった。引き受ける!」

 

 振り返ると、スラグホーンは居間の出口に息を切らせて立っていた

 

「引退生活から出てくるのかね?」

 

「そうだ、そうだ。バカな事に違いない。しかしそうだ」

 

 スラグホーンは咳き込んで言った。対し、ダンブルドアはニッコリ微笑んだ

 

「素晴らしい事じゃ。ではホラス、明後日から早速教壇に立ってくれるかの?」

 

「ああ、そう言う事になるな」

 

 スラグホーンが唸った。

 バーソロミューを除いた御一行ははクスクスと笑い、門を出た。そしてすっかり暗くなった空が覆う中を、元来た道を戻った

 

 

 

     *     *     *

 

 

 

「あー、久しぶりにお嬢様言葉を使って疲れたわ。バタービールが飲みたいわね。とっておきがあるんだけど、一緒にどう?」

 

 ホグワーツに戻り、三人で校長室を出ると、ダフネが肩を回しながら言った

 

「俺様はパスだ。今日はまだやる事がある」

 

 それは勿論、レイブンクローのお仕置きだ。バーソロミューは決して、受けた屈辱は忘れない。それが例えどんな些細な事でもだ

 

「僕もいいや、もう今日は疲れた」

 

 と、本心からハリー

 

「そうなの?つまんない。それじゃあね、二人とも」

 

 言うや否や、ダフネは去っていった

 

(バーソロミュー・フラメル、やっぱり面白いわね)

 

 狡猾な笑みを浮かべながら、彼女は闇に溶け込んでいった












▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。