ハリー・ポッターと欲望の錬金術師   作:ドラ夫

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第14話 紫

「退学、ということでよろしいですね?」

 

 ルシウス・マルフォイの言葉に、理事全員が同意した。

 教師であるマクゴナガルとフリットウィックに大怪我を負わせ、スリザリンの遺産を殺し、賢者の石及びみぞの鏡を盗み、世界に一つしかない火消しライターを壊した生徒、バーソロミュー・フラメル。今日の議題は彼の処分についてだ。

 彼の才能は確かに惜しいが、それでもこれは流石に目にあまる。

 退学、というところが妥当だろう。

 それに今世紀最高の魔法使いであり、校長であるダンブルドアが彼の退学に乗り気なのだ。

 その上理事の中で最も権力のあるルシウスまでそれに同意したとあっては、承認せざるをえない。

 こうして、バーソロミュー・フラメル、アン・フラメル、メアリー・フラメルの三名は、ホグワーツ魔法魔術学校を退学することになったのだ。

 

 

   ❇︎

 

 

 ダンブルドアは途方に暮れていた。

 チラリと、自分の右手を見る。はたして、人差し指と中指が根元から切り落とされていた。こんな言い方をするのは難だが、その断面は見事としか言いようがなく、一種の芸術品のようでもある。

 この傷をつけたのはバーソロミューのメイドの一人、メアリーだ。

 ホグワーツに戻ったダンブルドアは、真っ先に賢者の石の元へと向かった。今回ホグワーツを離れた理由は、端的に言えば釣り(・・)だ。

 バーソロミューをはじめとして、賢者の石を狙っている者を炙り出す意味と、バーソロミューが『みぞの鏡』に何を見るのか、というダンブルドア個人の意図が隠されていた。

 

 

 

 ホグワーツに戻ったダンブルドアが早速賢者の石が隠されている部屋に行こうとすると、入り口にはアンとメアリーが立っていた。

 足元にはマクゴナガル、フリットウィック、ロン、ハーマイオニーの四人が倒れている。

 部屋の中──壁や床には切り傷がいたるところにつけられており、マクゴナガルとフリットウィックの服は赤く染まっていた。

 しかし、アンとメアリーは涼しい顔で立っている。傷一つ汗一つどころか、服に埃一つ付いていない。

 

「……これはお主達が?」

 

「達、ではありませんね。結局アンちゃんが一人で片付けてしまいました」

 

「なるほどの」

 

 ダンブルドアが警戒レベルを1段階引き上げながら、杖を抜こうとした。が、抜けない。杖が指にひっかからない。

 もう百何年もしてきた動作だ。自分がミスをするはずもなく。

 疑問に思い、見てみると──人差し指と中指が切り落とされた。

 いつの間にやら、メアリーの左手にはカットラスが握られている。そして右腕には、ダンブルドアの指が握られていた。

 メアリーの足元を見ると、大理石の床に何やら馬車がスリップでもしたかのような焦げ目が付いていた。

 それはメアリーが超高速で動き、認識不可能な速さでダンブルドアの指を切り落とした後、再び元の立ち位置に戻った証拠に他ならない。

 

「おっと、動くなよ。声も出すな」

 

 激痛が指を襲う中、ヒヤリとした感触が右のこめかみに当てられる。

 いつの間にか隣にアンが立っており、マスケット銃をこめかみに押し当てている。

 魔法使いはマグルの兵器──銃の恐ろしさなど露ほども知らない。しかし幸か不幸かダンブルドアは博識であり、銃の恐ろしさをよく理解していた。

 

 ダンブルドアが直立不動を貫く中、メアリーがコツコツと音を立てて近づいてくる。その動きは酷く緩慢で、それ故に“近づいてくる”という事実をダンブルドアに強く認識させた。

 

「ご主人様には“殺すな”と命じられていますが、他は自由にして構わないと許可をいただいてます」

 

 ゾワリと、ダンブルドアの背筋を何かが這った。

 

「個人的な事を言うのなら、私は貴方に少々憤りを感じています。貴方が最初からご主人様に賢者の石を渡していたなら、ご主人様はわざわざご自分で取りに行かれる必要はありませんでした。その為に私達に警備を命じられた、つまり──私達がお側でお仕えする時間が減ったわけです」

 

 メアリーの顔には笑みが張り付いている。

 普段大人しい人間ほど怒ると怖いというが、メアリーが正しくそれだ、とアンは思う。

 彼女が怒り、笑った時はアンであっても背筋に寒いものが走る。

 

「さて、この責任どうとってもらいましょうか……?」

 

 メアリーがこれまたゆっくりとカットラスを振り上げた瞬間、ピクリとメアリーの耳が動いた。

 

「アンちゃん」

 

「うーん、私がデカイ方をやっていいカ?」

 

「構いませんよ」

 

 どういう意味か? とダンブルドアが疑問に思う中、アンはツカツカと壁に向かって歩いて行った。そして物凄い速さで壁に手を突っ込んだ。

 そして何かを掴むと、それを無理矢理に引き抜いた。引き抜いた何かが巨大過ぎたせいで、部屋の壁が全て壊れる。

 

「クヒヒヒ。バカデカイ蛇だな」

 

「バジリスク……」

 

 壁から出てきたのは蛇の王、バジリスクだった。

 アンの手は鱗を貫き、肉に突き刺さっている。

 どうしてバジリスクがホグワーツの壁の中に、という疑問をダンブルドアが口に出す前に、今度はメアリーが動いた。

 床を引っぺがし、その下を駆けていたネズミを捕まえた。

 

「こいつらはご主人様が居られる方向から来たな。どうする?」

 

 アンがバジリスクの身体に鼻を近づけて言った。

 僅かだが、バーソロミューの匂いがする。それと血の臭いも。

 

「其方に伺いたいのは山々ですが、ダンブルドア校長をここに置き去りにする訳にも行きませんし……」

 

 動けなくなるまで痛めつけちゃいます? とメアリーが言う前に、不死鳥がダンブルドアの方へと飛んできた。そしてダンブルドアに触れた瞬間、燃えて消えてしまった。

 もちろん不死鳥が近づいて来ることに気がつかない二人ではなかったが、特に問題ないだろうと無視した。

 もう向かってはこないだろうし、例え向かって来たとしてもやはり問題はない。

 

 

 魔法使いなど、どれだけ偉大で強かろうが二人には全く関係ないのだ。

 杖を構える前に、いやもっといえば、魔法を使おう、と思う前に殺せば魔法使いとしての技量など関係ない。

 人が脳から出された指令を実際に身体で実行するまで、最短で0.11秒程度のラグがある。二人にとってそれは、『遅すぎる』のである。

 0.11秒()あれば、少なくとも視界に収まっている人間なら、首を刎ねられる。

 

 

 あの時の事を思い出し、ダンブルドアはまた一つため息をついた。

 指が切り落とされたことも問題といえば問題だが、呪いの傷ではないため、マダム・ポンフリーに言えば治してもらえるだろう。

 それより問題なのは、

 

「……やはり、忠誠心を失っておるか」

 

 世界最強の杖、ニワトコの杖がダンブルドアへの忠誠心を失ってしまったのだ。

 恐らく今の主人はメアリーだろう。

 

 メアリーとアンが服従している以上、バーソロミューは二人より強いだろう。一体どれ程の実力を持っているのか、ダンブルドアには見当もつかない。

 またクィレルから飛び出した、霊体化したヴォルデモート卿を捕らえた時の様な、ダンブルドアでさえ知らない魔法も覚えている。しかもあの時、彼は呪文を唱えていないどころか杖も持っていなかった。

 今更無言呪文を使える程度で驚きはしないが、杖を使わずに魔法を使うなど聞いたことがない。

 

 そんな彼がこの杖を欲したら……

 もうニワトコの杖を使えない以上、まず間違いなく守りきれない。

 幸い、彼はまだこの杖がニワトコの杖である事に気がついていないようだ。しかし、いつ気がつくともわからない。

 それ故、ダンブルドアは自身から彼を遠ざける事にしたのだ。つまりは──退学だ。

 

 ダンブルドアはまた一つため息を吐きながら、彼の退学用の書類にサインした。

 

 

   ❇︎

 

 

 終業式の日、大広間の垂れ幕は緑色に──スリザリンの色に染まっていた。

 フラメル家の三人が点を大量に獲得していたため、今年はレイブンクローの優勝だと考えられていたのだが、テストを間近に控えたある日彼等は問題を起こし、一人300点の減点と退学の罰を受けたのだ。

 当然レイブンクロー寮は1位の座を引きずり降ろされ、繰り上げでスリザリンが1位となった。

 

 起こした問題の内容は詳しく知らされていないが、マクゴナガルとフリットウィックが包帯だらけで宴に出席されていることや、レイブンクロー寮のゴーストが灰色の淑女から嘆きの乙女──つまりマートルに変更になったことが関係していると噂されている。

 

 

   ❇︎

 

 

「僕の腕、差し出されん」

 

 メアリーは自身の腕をカットラスでスッパリと切り落とし、鍋の中に入れた。

 次の瞬間には新たな腕が生えている。

 

「仇の血、無理矢理に奪われん」

 

 瓶詰めにしていたバジリスクから血を数滴採り、アンが大鍋の中に入れた。

 

「父の骨、捧げられん」

 

 古い大きな木製のトランクから骨を取り出し、バーソロミューが大鍋の中に入れた。すると鍋がより一層沸き立ち、白く濁った。

 そのままバーソロミューは沸き立つ鍋の中に入った。明らかに大鍋よりバーソロミューの方が大きいが、大鍋はスルスルとバーソロミューを飲み込んだ。

 2分ほどが経ったとき、鍋の中身が突如空中に舞った。それはやがて人の形になった。

 

「やれやれ、腕を生やすのがこんなに面倒くさいとはな」

 

 バジリスクに食い千切られてしまった右腕は毒に侵され、完全に腐ってしまっていた。

 彼の腕は彼自らが設計、製作した特別製であり、回復呪文や薬で治すのは不可能。そこで古より伝わる闇の魔術で体ごと新調する事にしたのだ。

 

「うむ、うむ。問題ない、か」

 

「「おめでとうございます」」

 

 右手を動かしながら、以前と変わりないか確かめる。

 バーソロミューの右手の五本指、実は中に骨が入っていない。変わりに、彼が設計した小型の杖が入っている。初めてレイブンクローに出会ったとき、レイブンクローの杖と共鳴したのはこれだ。

 またトム・リドルが放った『死の呪文』を受けて死ななかったのも、済んでのところで右手で『盾呪文』を放ったからだ。

 

 再生した右手でレイブンクローの杖を掴むと、再び繋がりが発生し、レイブンクローが姿を現した。

 

「二ヶ月ぶりか」

 

「ええ、そうですね」

 

「すっかり元通りになったようだな」

 

「お陰様で……」

 

「うーむしかし、流石はヘルガ・ハッフルパフといったところか」

 

 惚れ惚れした表情でバーソロミューが言った。あれだけクシャクシャになっていたレイブンクローの心が、ものの見事に復活している。

 

 ヘルガ・ハッフルパフが自分を封じ込めていた魔法逸品(マジックアイテム)、それは生前使っていた姿鏡。即ち、『みぞの鏡』である。

 元々普通の鏡だったあの鏡に「理想の姿を見ることでそれを目指してより頑張れるように……」という願いを込めて原初魔法(ワイルドマジック)の一つ、『心術魔法』を掛けて『みぞの鏡』にしたのだ。

 『心術魔法』とは『開心術』や『閉心術』などの元になった原初魔法(ワイルドマジック)であり、心を操ったり、記憶を覗いたりすることが出来る。これにより、『みぞの鏡』は“心の中の本当ののぞみ”を見抜いていたのだ。

 

 尤もハッフルパフの意図とは全く離れ、人を魅了してしまうあまり堕落させてしまう鏡として、『みぞの鏡』は忌み嫌われてしまったのだが。

 人を信じすぎてしまうのがハッフルパフの弱点である。

 閑話休題。

 

 みぞの鏡の中にハッフルパフが眠っていることを見抜いたバーソロミューは、レイブンクローを杖ごとその中にぶち込んだ。

 自分が右腕を治すまでの間、レイブンクローの心をハッフルパフに治療させようとしたのだ。そしてその企みは上手くいったようで、レイブンクローはギリギリ立ち直っていた。

 

「レイブンクロー、アレを」

 

「はい」

 

 レイブンクローは『みぞの』鏡に手を突っ込み、火消しライターを取り出すとバーソロミューに手渡した。中には依然として賢者の石が嵌め込んである。

 カチリ、とバーソロミューが火消しライターを鳴らすと中からフワフワと光が放たれ、やがて人の形になった。

 

 深窓の令嬢、という言葉を体現させたような女性が佇んでいた。

 真っ白なドレスに真っ白な靴、腰まで届く長い栗色の髪。

 バーソロミューでさえ、その高貴な雰囲気に呑まれかける。普段の乱暴な口調で話し掛ければそれだけで壊れてしまいそうで、非常に躊躇われる。

 この女性こそが、かのヘルガ・ハッフルパフだ。

 

「……お腹が空きました」

 

 この女性こそが、かのヘルガ・ハッフルパフだ。

 

 

   ❇︎

 

 

「いてててて」

 

 全員が寝静まったホグワーツ。灯りひとつない廊下を一人の男が歩いていた。背中にはこれでもかというほど剣が突き刺さっている。

 それでも死なないのは、体の中に流れる『命の水』のお陰だ。

 この剣は剣先が錨の様になっており、ひとつ抜くのに激痛を伴った。それゆえ男はとりあえず剣をそのままにし、後で魔法で消し去ってしまおうと考えた。

 しかし今は杖がない。とりあえずは我慢だ。

 そう、我慢だ。

 

 あの男、バーソロミュー・フラメル。奴は殺さなくてはならない。奴は危険な存在だ。今はまだそれ程ではないが、奴の成長速度は目をみはるものがある。

 それに何より、あの二人のメイド。

 ネズミに変身したピーター・ペティグリューと、蛇の王バジリスクを容易く生け捕りにしたあの二人。あの二人がバーソロミューを守っている間は、手出し出来ない。

 

 しかし、それが逆説的に弱点にもなる。

 男はやろうと思えば、非常に魅力的になれた。

 あの二人を、味方に引き入れることが出来れば…… あの二人だって人間だ、必ず弱点はある。

 しかし今はとりあえず、力を蓄えなくては。

 男はズリズリとホグワーツ城の中を歩いて行った。

 

 

   ❇︎

 

 

 セブルス・スネイプは上機嫌で歩いていた。

 今は深夜、終業式が終わった直後だ。

 今学期、初めこそ忙しさで死にそうになったが、途中からは念願の闇の魔術に対する防衛術に専念出来たし、最後にはスリザリン寮が逆転優勝できた。

 あの時のフリットウィックの顔と言ったら、スネイプは一人笑みを浮かべた。

 今日は上等な酒を飲もう、とスネイプは自室の扉を開けた。

 

「やあ、スネイプ教授」

 

 はたして、出迎えたのはバーソロミュー・フラメルだった。ソファーに腰掛け、スネイプが飲もうと思っていたブランデーを開けている。ご丁寧に、グラスは二つ揃えてあった。

 

 ──いや、彼ではない。

 

 非常によく似ているが、眼が違った。あの蠱惑的な紫色の瞳ではなく、冷たい──そうまるで深海を覗き込んだ時の様な感覚を受ける──とても冷たい青色の瞳をしていた。

 

「貴様は……誰だ?」

 

「僕はバーソロミュー・フラメルだよ」

 

 バーソロミューを名乗る少年は、手でスネイプに座る様促した。スネイプはそれを無視し、ドアの前から動かない。

 

「やれやれ、強情だね『インペリオ 服従せよ』」

 

 ──気がつくとスネイプはソファーに腰掛け、ブランデーを煽っていた。

 

「まあまず説明させてもらうと、僕は人じゃあない。僕の“本体”が造った不出来な自立人形(オートマタ)だ。魂の類が内包されていない、記憶と魔力だけを埋め込まれた、プログラム通りに動く存在だよ」

 

 そんな技術、聞いたことがない。しかし、何故かスネイプはそれが本当のことであると分かった。

 

「“本体”とは、退学になったあ奴のことか?」

 

「いいや違う。紫色の“僕”も自立人形(オートマタ)さ。と言っても、紫色の“僕”は自分が自立人形(オートマタ)である事を理解していないけどね。“僕達”は何人もいるけど、自分が自立人形(オートマタ)である事を理解しているのは僕含め三人しかいない」

 

「…………どういうことだ?」

 

 全く理解が追いつかず、スネイプはそれだけ捻り出した。

 

「もっともな質問だ。アンとメアリーを生み出した代償に、僕の“本体”は非常に弱っていてね。あと少しで死んでしまうんだ。なんとかしようにも、手足も満足に動かないから研究もままならない。そこで“本体”は考えついた。僕達自立人形(オートマタ)を造り、代わりに学習させる事を。

 現在世界中に、30人の“僕達”が散らばってる。マグルの学問を学んでる“僕”もいれば、森の奥地で動物や虫を研究している“僕”もいる。僕の“本体”は“僕達”の記憶を共有してててね、つまり普通の30倍の速度で学習出来るんだ」

 

 30倍。

 1分で30分、1日で30日、1月で30月分学習出来るということ。ただでさえ常人より学習速度の速い彼が30倍の速度で学習している、なんと恐ろしい事だろうとスネイプは思った。

 

「僕がここに来た理由だけどね、ここに送り込まれた紫色の“僕”が遂に“本体”の復活方法を見つけ出したからさ。紫色の“僕”は無意識だろうけどね」

 

「その方法とは……なんだ?」

 

「うん。ヒントはハリー・ポッターだったよ。彼は一つの体に二つの魂を宿してたんだ。そんな事出来ないし、仮にやったとしても魂同士が混ざり合って発狂しちゃうのに、彼はキチンと自我を保ってる。

 紫色の“僕”が調べたところによると、彼の中にある魂の一つはヴォルデモート卿のものだ。そして僕の調べによると、その魂を宿したのは幼少期。母親から古の『保護呪文』を受けた状態で、『死の呪文』を受けた際ヴォルデモートの魂が裂けて、ハリー・ポッターに宿ったみたいだね」

 

「まさか……」

 

「そう、そのまさかだ。『保護呪文』──いや原初魔法(ワイルドマジック)の一つ、『守護魔法』を“本体”に掛けた状態で『死の呪文』を“本体”にぶつけてもらう。

 その為の準備も始めてる。『守護魔法』を修めてる人は確保したし、術者も確保しつつある。“僕達”は無意識のうちに“本体”の命令に従ってるんだ。もちろん紫色の“僕”もね。ハーマイオニー・グレンジャーという生徒を知ってるかな? 彼女には僕を愛してもらって、『守護魔法』を掛けてもらう予定だよ」

 

 娘の仇を討つ事でレイブンクローに恩を売り、ハーマイオニー・グレンジャーを助け魅了する。バーソロミューは実によく働いてくれた。

 

「さて本題だけど、君には死喰い人(デスイーター)を斡旋してもらいたいんだ。“本体”に『死の呪文』を放つ人は多い方がいいからね。

 “本体”から提示するメリットは、君が愛した女性であるリリー・ポッターの復活だよ」

 

 なるほど。

 それは大したメリットだ。

 スネイプのリリーへの愛は未だに少しも衰えていないし、想い出も色褪せていない。

 一日たりとも彼女に会いたいと思わなかった日はない。

 しかし──

 

「舐めるなよ。我輩は教師だ。である以上、生徒を売るような真似はしない」

 

 そう言ってスネイプは懐から杖を抜き、バーソロミューの額に突き付けた。その動作は洗練されており、目にも止まらない。

 

「……言っておくけど、君が拒否しても僕には未だ未だ他のプランがある。つまり、君を殺しても何も困りはしないら。加えて言うなら、紫色の“僕”は“僕達”の中だと8番目くらいの強さだ。ホグワーツに侵入してる時点で分かると思うけど、僕はそれより強い。具体的に言うと、3番目だ」

 

「『セクタム──」

 

 スネイプが呪文を唱えようとした瞬間、ブランデーの入っていたグラスがナイフに変わり、スネイプの胸を貫いた。

 

(馬鹿な。式はない! 錬金術は使えぬ筈では……)

 

「時限式の錬金術だよ。僕は“本体”の知識を少しだけ貰ってるんだ。その中に、時限式の錬金術に関する記憶もあってね」

 

 スネイプは即座にローブから小瓶を取り出し、穴の開いた胸にかけた。するとあっという間に傷が塞がり、元どおりになった。

 

「やれやれ、今ので死んでおけばいいものを……

 僕達はそれぞれ付与された性質がある。紫色の“僕”の持つ性質は『魅了』。元々ここへはダンブルドアを魅了して、手助けしてもらおうと考えてきたんだ。大分予定は狂っちゃったけどね。

 青色の僕が待つ性質は『冷酷』だ。ちょっとキツイ人体実験なんかをする為に創り出された個体だよ。──だから楽に死ねると思うなよ?」

 

 

   ❇︎

 

 

「ハイ、チーズ」

 

 パシャリと写真を撮る。所謂“自撮り”という奴だ。スネイプと肩を並べて、記念撮影。尤も顔は剥がしちゃったから、写真を見ても誰かは分からないけど。

 

「さてさてさーてと、文字を書いておかなきゃね」

 

 スネイプの右腕をとって、ペン代わりにして壁に文字を書く。血がインクの代わりだ。

 

『ヴォルデモート卿、又の名をトム・マールヴォロ・リドルここに復活せり』っと、ウンウン。中々に達筆だ。

 

 これで争いが起きるだろう。

 後は上手く“僕”を戦いの中に入れて、死喰い人(デスイーター)と敵対させよう。彼等は馬鹿のひとつ覚えみたいに『死の呪文』ばかり使うから、実に利用しやすい。






第1章おわちっ!

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