ハリー・ポッターと欲望の錬金術師   作:ドラ夫

13 / 14
良いサブタイトルが思いつかない。






第13話 錬金術士と魔法使い

 天才錬金術士バーソロミュー・フラメル。彼の錬金術士としての技量は疑いようがない。

 また若干十一歳という若さでありながら、あらゆる学問を満遍なく、深く納めている。

 間違い無く、ホグワーツで最も優秀な学生だろう。

 ではそんな彼の魔法使いとしての技量はいかほどか?

 ダンブルドアやヴォルデモートと同等?

 

 ──答えは否。

 

 マクゴナガルやフリットウィックはおろか、並の闇祓いの域にさえ達していない、というのが現状である。

 その理由は彼の年齢にある。

 彼の大人びた容姿と言動に忘れがちになるが、彼は未だ十一。肉体にメスを入れているため筋力や体力などは問題ないが、肝心の魔力総量は同世代の子供より少し多い程度である。

 またレイブンクローの実体化のために、普段から魔力を消費している。

 よって、彼の魔法使いとしての技量は──

 

 

   ❇︎     ❇︎     ❇︎

 

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをしながら、大きくバックステップする。人智を超えた彼の脚力は、バーソロミューの体を容易く5メートル以上運ぶ。

 次の瞬間、先程までバーソロミューがいた所に巨大な尻尾が振り下ろされた。轟音と共に、大理石の床が発泡スチロールの様にあっさりと砕ける。

 

「『エクスペリアームス 武器よ去れ』」

 

 バーソロミューの杖から巨大な閃光が放たれ、にこやかに笑うトム・リドルの方へと向かう。

 しかし目の前に巨大な壁が現れ、閃光を弾く。

 いや、壁ではない。

 ──蛇だ。

 巨大な蛇の胴体が横たわっていた。びっしりと生えた鱗が容易くバーソロミューの呪文を弾く。

 続けざまに二、三と閃光を放つが、その全てがやはり弾かれる。強靭な鱗には焦げ目一つついていない。

 

 

 巨大な蛇の正体は蛇の王バジリスクである。

 その鱗はあらゆる呪文を弾き、ズラリと並ぶ牙にはほんの少し触れただけで死ぬ致死性の毒が滴っている。その上10メートルを超える巨大は、それだけで武器だ。

 これだけでも十分すぎるほど恐ろしいが、何より恐ろしいのは、琥珀色に光る瞳だ。

 バジリスクと眼を合わせたものは、それだけで死ぬ。例え間に何かを挟み直視しなくとも、石化してしまう。

 故にバーソロミューは瞳を閉じての戦いを余儀なくされていた。勿論彼自慢の聴覚は常人のそれを遥かに超えるが、それでも音だけで物体を把握するのは難しい。

 それがバジリスクという巨大で素早い相手となると、尚更だ。

 

「『ソラーノス・エコー 響き反響しろ』」

 

 呪文と共に、バーソロミューの杖から白い半透明の波が放たれる。波は地面や床、バジリスク、トム・リドルに当たると反響しバーソロミューの体へと帰っていく。

 これはバーソロミューが今創り上げた呪文(・・・・・・・・)だ。傾向と対策、バーソロミューが得意とするところだ。

 これによりバーソロミューは部屋の中の物体を詳しく把握していく、が──

 

「『シレンシオ・マキシマ 絶沈黙』」

 

 トム・リドルの杖から黒い波が放たれ、バーソロミューの波を喰らってゆく。バーソロミューの呪文は効力を失った。

 それどころか、

 

(──無音!)

 

 少しの物音さえしない。

 突然の無音に戸惑う中、空気を切って何かが近づく感覚を肌で感じる。

 左か、右か──

 迷ったバーソロミューは上に飛んだ。

 

「かはっ!」

 

 足裏のほんの少し下を何かが通過していくのを察知した直後、何かが飛来し胸の辺りを貫いた。

 恐らく、トム・リドルの放った何らかの呪文。

 バーソロミューは物凄い速度で吹き飛ばされ、後方の壁に激突した。大理石の壁に蜘蛛の巣状のヒビが入る。破片が背中に食い込み、血が飛び散った。

 壁に体がやや埋まり、磔になっているところに、バジリスクが口を開けて襲いかかる。

 口を開いたバジリスクの口臭は酷く、嗅覚が優れているバーソロミューは容易くバジリスクの位置を感じ取った。

 

「『アセンディオ 昇れ』」

 

 呪文と共にバーソロミューの体が上に飛ぶ。バジリスクは先程までバーソロミューがいた壁を噛み砕く。

 『粘着呪文』で天井にくっつくバーソロミューに対し、バジリスクは尻尾を振って追撃を掛ける。それを今度は『落下呪文』で下に落ちる事で回避。

 

 

 バーソロミューがバジリスクの攻撃をすんでのところで躱すのを見ながら、トム・リドルはとある疑問を抱いていた。

 先程自分が放ち、バーソロミューに当てた呪文。それは『アバダ・ケダブラ』──即ち『死の呪文』である。

 この部屋にバーソロミューを誘き寄せ、パイプを通って来させたバジリスクと戦わせる。そして不意をついてピーター・ペティグリューに持って来させた杖で自分がトドメを刺す。という構図を思い浮かべていた。

 そしてそれは現実のものとなり、予定通りバーソロミューに呪文を当てた、のは良いのだが。

 

(何故死なない?)

 

 自分は『死の呪文』──いや、『闇の魔術』に関してだけなら間違いなく世界一だ。今世紀最高の魔法使いと名高いダンブルドアでさえ、この分野に関してなら自分に一歩劣る。

 『死の呪文』に反対呪文はない。

 例えば『プロテゴ・マキシマ』や『エクスペリアームス』の様な呪文で相殺する事は出来ても、当たって尚死なないという事はありえない。

 最高の闇の魔法使いである自分にさえ、『死の呪文』から逃れる方法は分霊箱以外に思い浮かばない。

 そしてその分霊箱でさえ、直撃して直ぐ立ち直る、ましてや無傷などという事はありえない。

 十一歳の少年が『死の呪文』に対する反対呪文を考えついた? ありえない、とトム・リドルは自分の考えを一蹴した。

 

 

 恐らく、既存の技術を何らかの形で応用しているだけに過ぎない。

 幻覚系か、変身術か──その辺りの応用だろう。

 思えば、不自然な点は幾つかある。

 『死の呪文』に対する耐性はあっても、バジリスクの瞳に対する耐性はないらしい。わざわざ目を閉じて戦っているあたり、間違いないだろう。

 バジリスクの毒への耐性も、恐らくはない。まだ一撃を受けていないため明確ではないが、バーソロミューは明らかにバジリスクの牙を警戒している。

 そこまで考えて、はたとトム・リドルは思い出した。

 バーソロミュー・フラメル、彼は魔法使いではなく錬金術士である、と。

 

「『フィニート・インカンターテム 呪文よ終われ』」

 

 バーソロミューの呪文により、音が再び部屋の中に戻る。

 同時に、バーソロミューが左手に持っていた古い大きな木製のトランクを蹴り開けた。するとトランクの中から、先端が鋭く尖っている巨大な銀の鎖が勢い良く飛び出し、バジリスクに絡みついた。

 先端部分はバジリスクの鱗を貫き、鎖部分は複雑にバジリスクに絡みついている。

 なるほど。先程から何度も呪文をバジリスクの鱗に当てていたのは、バジリスクの鱗の強度を確かめるためか。そして鱗を貫ける強度の鎖を錬金した、と。

 

「『イネクション 射出せよ』」

 

 バーソロミューの目の前にある空気が勢い良く噴射され、見えない空気の弾となりバジリスクを襲う。

 そのまま眼にあたり失明させられば、しかし──

 

「『プロテゴ 護れ』、『ディフィンド 裂けよ』」

 

 トム・リドルの呪文がバジリスクの眼を守り、動きを封じていた銀の鎖を断ち切る。

 厄介だな、とバーソロミューは独りごちる。

 バジリスクに戦わせ、自分は後ろでサポートに徹する。

 トム・リドルも前面に出て戦っていたなら、一旦負けて油断したところに『死の呪文』を当てて逆転する、という手段もあったのだが……

 トム・リドルが直接戦わない分、楽ではある。楽ではあるが……以前不利な事には変わらない。

 世界最高の闇の魔法使いの補助を受けた最強の蛇、防御や回避で手一杯だ。

 

「『モーテーション・パルス 沼よ』」

 

 トム・リドルの杖から緑色の閃光が走り、床に広がっていく。すると床がうねりだし、やがて沼になった。

 バーソロミューが足を取られる中、バジリスクはスルスルの沼を抜けていく。

 何とかバーソロミューが足場を錬金した直後、バジリスクが襲い掛かった。

 咄嗟に横に飛ぶが、視覚が封じられている上に足場が不安定なせいか、反応が遅れる。

 バジリスクはその隙を見逃さない。

 バジリスクの毒牙がバーソロミューの右腕を捉えた。肘のあたりを噛みちぎられ、赤い鮮血が舞い、毒が入り込み、傷口から徐々に肉が腐り落ちていく。

 

「『ディフィンド 裂けよ』」

 

 毒の侵食を防ぐために、肩のあたりから右腕をバッサリと切断する。大量の血が噴出するが、着ているローブを錬金し包帯にすることで止血する。

 

「ぬふふふ」

 

「あ?」

 

 バーソロミューが止血を済ませた瞬間、背後に突如男が現れた。

 

「『ボンバーダ・マキシマ 爆散せよ』」

 

「ッ! 『プロテゴ 護れ』!」

 

 至近距離からの『爆発呪文』。咄嗟に『盾呪文』で防いだが相手の呪文の方が優っていたようで、『盾呪文』は吹き飛ばされ、防ぎきれなかった爆風がバーソロミューの左半身を焼いた。

 

(音が……消えた?)

 

 反撃しようとした瞬間、攻撃を仕掛けてきた男の音が忽然と消えた。

 ホグワーツでは『姿くらまし』は出来ない。ならば一体どうやって……?

 

「チュー、チュー」

 

 耳をすますと、ネズミの鳴き声と小動物が走り去る音が聴こえてきた。これはつまり、

 

動物もどき(アニメーガス)か)

 

 ネズミの動物もどき(アニメーガス)、それがあの男の能力だろう。

 しかし、これは厄介だ。

 バーソロミューは今、音と臭いだけで物体を把握している。バジリスクはその巨体故に音が分かりやすいが、ネズミの音を聴き分けるのは非常に難しい。

 かといってネズミ男の方を疎かにした場合、先程のように不意打ちを受けてしまう。そしてその痛みでうっかり目を開いてしまったが最後……

 

「『エスト ネズミよ』」

 

 トム・リドルが大量のネズミを召喚する。部屋の中にネズミの音と臭いが満ちていく。

 

 ──これは詰んだか? とバーソロミューは思った。

 

 トム・リドル本体はバジリスクに護られている、そのバジリスクはトム・リドルに護られており倒す術がない。ネズミ男のせいで回避や防御も追いつかなくなった、そのネズミ男の居場所は他のネズミが増えたせいで分からない。

 その上右腕を噛みちぎられた際に錬金術の道具が入ったトランクを落とした。眼が開けられない以上、どこに落ちているか分からない。

 いやそもそも、見つけたとしても左手は魔法に使ってしまっているため錬金術は使えない。

 

「さあ、そろそろ死のうか。『グラント・ポイズン 毒よ結び付け』、『オパグノ 襲え』」

 

 毒の牙──ペスト菌を得た1000を超えるネズミの大群が、バーソロミューに襲いかかる。

 

「『プロテゴ・トタラム 万全の護り』」

 

 『盾呪文』がドーム状に広がり、バーソロミューの体を覆い隠す。ネズミ達はドームに群がり、カリカリと齧ってゆく。

 

『バジリスクよ、叩き潰せ』

 

 トム・リドルがパーセルタングで命じると、バジリスクは直ぐさま『盾呪文』のドームに向かって巨大な尻尾を振り下ろした。

 ドームはあっけなく破れ、その直後肉を砕く音が響き渡る。バジリスクが尻尾を持ち上げると、ネチャリと血が尾を引いた。

 そして地面に残った肉片に、ネズミ達が群がる。

 クチャクチャと、ネズミが肉を齧る音が響いた。

 

 

   ❇︎     ❇︎     ❇︎

 

 

「ふむ……」

 

 意外とあっけなかったな、とトム・リドルは思った。

 まあ、手こずるよりはいいか。いや、世界最高の闇の魔法使いである自分と、サラザール・スリザリンの遺産、まあまあ強いピーター・ペティグリューの三人がかり、いや二人と一匹がかりだったんだ、むしろ手こずった方か。

 後はピーター・ペティグリューに何人か子供を攫わせて、人質と交換にダンブルドアに自殺を強要して、バジリスクを大広間に解き放って……やる事が山積みだ。

 いやその前に、ダンブルドアの切り札であるハリー・ポッターを殺すのが先か。復讐も兼ねて。

 

「ペティグリュー」

 

「な、何でしょうか我が君」

 

「君の飼い主であるウィーズリーの末弟に『服従の呪文』を掛けてハリー・ポッターを殺させるんだ」

 

「畏まりました」

 

 ピーター・ペティグリューは恭しく一礼するとネズミになり、直ぐさま走り出して行った。

 

『バジリスク、校内で暴れてこい』

 

 バジリスクはスルスルとパイプの中を這って行った。これで陽動は完璧だ。

 さて、後は自分が──

 とトム・リドルが考えた瞬間、腹部から剣が飛び出した。

 

「かっ!」

 

「やっと一人になったな」

 

 背後から剣を突き刺しているのは、先程殺した筈のバーソロミュー・フラメル。彼はそのまま剣を横に振り、右半分の腹部を完全に切断した。

 

「俺様の魔法使いとしての練度は精々ホグワーツ7年生の首席レベル、貴様に勝てるべくもない。しかし、錬金術士としての練度なら、世界の誰にも負ける気はねえ。例えクソジジイ(ニコラス)相手でもな」

 

 そう言ってバーソロミューはローブの裏側を捲って見せた。そこには、ビッシリと何かの文字や記号、図が描かれていた。

 

「死んだ後に俺様自身を(・・・・・)錬金した。時限式の錬金術を組んどいてな」

 

「なっ──!」

 

 ありえない。

 生物を錬金する、というのは錬金術の永遠のテーマだ。長い長い魔法使いの歴史の中で、それを成し遂げたものは一人として居らず、微生物の様な単調な生物でさえ成功していない。

 それを、人間という複雑な生物で成功させた? ありえない。

 しかしそれなら、目の前に立っているこの男はなんだ? 確かにさっき殺した。肉片はバジリスクの尾に付着していたし、残った破片もネズミ共に食べさせた。

 あの状態から生還するなぞ、あり得ない。

 そうそれこそ、死んだ状態から復活でもしなければ。

 それに、時限式の錬金術? そんなもの見た事も聞いた事もない。

 錬金術の仕組みからしても不可能だ。しかし、しかし──

 

 いや先ずは、バジリスクとピーター・ペティグリューを呼び、今度こそこの男を殺さなくてはならない。

 錬金術で復活できない様、今度は肉片が残らないほど完膚なきまで!

 

「『ソラーノス ひび──」

 

 『拡声呪文』を使おうとしたが、声が出ない。いやそれどころか、魔力が上手く練れない。これは──?

 

「この剣、呪文で無から生み出したものじゃねえ。とある媒体を錬金して創った物だ」

 

 とある媒体?

 

「以外と鈍いな。俺様の右腕だよ。テメーの蛇に噛まれた俺様の右腕。折角だから、まわった毒ごと錬金させてもらったぜ」

 

 一体いつの間に?

 錬金術をするには、それなりに準備がいる。

 文字や記号、図で正確な式を描かなくてはならない。そんな隙などなかったはずだ。

 グルリと、トム・リドルは部屋の中を見渡した。

 目に飛び込んできたのは血だ。バーソロミューの血、あたりに飛び散ったそれが式になっている。

 

「さて、そろそろ死ぬか」

 

 バーソロミューが指を鳴らすと、部屋中に描かれた血文字が光り始めた。やがて床や壁が型を変え、無数の剣となりトム・リドルを襲った。

 バジリスクの毒に侵された彼に、それを避ける術はない。

 

 

   ❇︎     ❇︎     ❇︎

 

 

 無数の剣が突き刺さり、剣山の様になったトム・リドルを見降ろしながら、バーソロミューは溜息を吐いた。

 ハッタリが上手くいってよかった、と。

 自分自身を錬金し直す?

 時限式錬金術?

 戦闘中に血を上手く飛び散らせ式を書く?

 そんなこと、出来るわけがない。

 バーソロミューがした事はもっと簡単だ。

 

 先ず始めに、最初に襲ってきたネズミを人間の肉に錬金する。バジリスクにそれを踏み潰させ、自分は『掘削呪文』で地中に逃げる。

 次にローブを錬金し、床に変える。ネズミたちは床になったローブの上にある錬金された人肉を貪る。

 その隙に自分は『掘削呪文』でトム・リドルの背後へ(この時、右腕を回収した上で血で式を書く)。

 そしてあたかも今その場に現れたかの様に振舞う。これがバーソロミューの立ち回りの真実だ。

 

 別にバラしてしまっても良かったが、この(・・)トム・リドルが死んだだけで他の(・・)トム・リドルは未だいる。

 みすみす敵に情報を渡す必要はあるまい。むしろ、偽の情報を流しておいたほうが有益か。

 

「「ご主人様」」

 

 一体いつからそこに居たのか。

 アンとメアリーが控えていた。

 アンの手にはネズミ──ピーター・ペティグリューが握られており、メアリーの背にはバジリスクが担がれていた。

 

「殺すな、というご命令でしたので生け捕りにしております」

 

「いかがなさいますか?」

 

「そうだな……ネズミの方は殺していい。蛇の方は『収縮呪文』を掛けた上でビンにでも詰めておけ」

 

「「畏まりました」」

 

 アンはネズミをヒョイと投げると、空中にいるそれをマスケット銃で撃ち抜いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。