ハリー・ポッターと欲望の錬金術師   作:ドラ夫

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賢者の石編書き終わりました。
これから毎日1話づつ投稿していきます。


それと、前に投稿した10話は消しました


第10話 ハロウィン

 スラグホーン邸から帰った次の次の日、つまり明後日。早速スラグホーンの『魔法薬学』の授業があった。ちなみに、ハッフルパフ生との合同授業だ。

 ハッフルパフ生は中々成果に結びつかないものの、努力を惜しまない者が多いためバーソロミューは中々ハッフルパフ生を気に入っていた

 

 バーソロミューが地下牢に行くと、前任のスネイプの頃とは既に様子が変わっていた。

 蒸気や風変わりな臭気に満ち、スラグホーンのお気に入りだったであろう生徒達の写真が飾られていた。バーソロミューはその鋭すぎる嗅覚のせいで吐き気を催したが、予め『嗅覚弱化呪文』を掛けていたため幾らかマシだった。

 バーソロミューがいの一番に教室に入ってきた事に気がついたスラグホーンは、その大きな腹を殊更揺らしながら熱くバーソロミューを出迎えた

 

「あ、これ、ご主人様の匂いがします」

 

 一番前にあるテーブルを目指し、バーソロミュー達が歩いていると、金色の大鍋を指差しながらメアリーがそう言った

 

「『魅惑万能薬(アモルテンシア)』だな」

 

「なるほど、どおりで。ありがとうございます、勉強になりました」

 

 『魅惑万能薬(アモルテンシア)』とは世界で一番強力な愛の妙薬だ。真珠貝の様な独特な光沢を持ち、また湯気も独特の螺旋の様な湯気が立つ。更に匂いは殊更特殊で、嗅ぐ人間の惹かれるものによって違う匂いがする。

 アンとメアリーの場合はどうやら、バーソロミューの体臭と肉料理の香ばしい匂いの様だ

 

「ご主人様は何の香りに感じるんです?」

 

「俺様は場合は女物の香水の甘い匂いと、古びた羊皮紙だな。貴様は何だ、レイブンクロー」

 

『霊体である私は匂いを嗅げません!貴方、わかってて言ってるでしょう?』

 

 生前、ガーデニングを嗜んでいたレイブンクローは、この姿になってから花の匂いや感触を味わえない事を良く悔やんでいた。

 そこをバーソロミューにからかわれ、レイブンクローは地団駄を踏んで怒った

 

「しかし、『魅惑万能薬(アルモテンシア)』は知ってるんだな」

 

『ええ、その薬は私の時代からありました。尤も、名前は『天使の泉の水(エンタムアクア)』でしたが』

 

 どうやら、レイブンクローの時代と現代とで『魔法薬学』はそう変わっていないらしく、レイブンクローも幾つかの魔法薬を知っていた。しかしやはりと言うべきか、ここ最近(ここ最近と言っても百年単位だが)出来た魔法薬は知らなかった。

 そこで古代の見地から意見を貰おうと、バーソロミューが他の鍋に入っているここ最近出来た魔法薬物についてレイブンクローに解説していると、やがて全ての生徒達が集まって来ていた。

 レイブンクローは他の人間には感知できないので、バーソロミューは解説するのをやめ、スラグホーンが来るのをひたすら待つ事にした

 

「さて、さて、さーてと!みんな、秤を出して。魔法薬学キットもだよ。それに『下級魔法薬』の32Pを開いて!」

 

 やがてユラユラと揺らめく煙の向こうから、スラグホーンが巨大な腹を揺らしながら現れた。

 教科書を開いてみると、32Pには『忘れ薬』に関する記述が書かれていた

 

「さーてと!みんなに見せようと思って、いくつか魔法薬を煎じておいた。ちょっと面白いと思ったのでね。諸君がキチンと私の授業を学び、上級生になり、N.E.W.Tを終えたときには、こういうものを煎じる事が出来る様になっているはずだ。これ等は上級生で学ぶ魔法薬だが、名前ぐらいなら、魔法界に住む人は聞いた事があるかもしれないね。これが何だか、分かる者はいるかね?」

 

 スラグホーンは一見全員に質問している様で、明らかにバーソロミューに期待していた。その証拠に、目をキラキラと輝かせながらバーソロミューを凝視していた。

 期待をかけられておいてそれに応える事が出来ないのは、バーソロミューとしては不愉快な事なので、手を挙げることにした。それを見たスラグホーンは嬉々としてバーソロミューを当てた

 

「『真実薬(ペリタセラム)』。無色無臭であり、一滴でも摂取すればありとあらゆる真実を吐く」

 

「よろしい!大変よろしい!何処でこの薬の事を知ったのかな?」

 

「『上級魔法薬』の58P、それから『危険魔法薬物』の736P、『魔法省所持非認定魔法薬』の241P、『解毒薬のない魔法薬及び魔法薬草』の198P」

 

「いや、いやいやいや、驚いた!という事は、勿論他の魔法薬についても知っているね?」

 

「『ポリジュース薬』、『魅惑万能薬(アモルテンシア)』、『龍皮薬』、『脱狼薬』、『フェリックス・フェリシス』」

 

 バーソロミューは順番に鍋を指差して言った。答えがあってるかどうかは、スラグホーンの嬉しそうな顔を見れば一発だった

 

「素晴らしい!十点あげよう、一つの魔法薬につきだ!さて、最後に上がった『フェリックス・フェリシス』だが、効能を知っている者はいるかね?」

 

 今度はバーソロミューは手を挙げず、その代わりにアンとメアリーが手を挙げた。スラグホーンはどちらを当てるか暫し迷ったが、結局メアリーを当てた

 

「『フェリックス・フェリシス』幸運の液体です。飲めば全ての企みが上手くいきます。ですがそのあまりの効能に、調合法の開示が禁止されています。また中毒性も高いので、無許可に煎じる事も禁止されています。それを煎じる事が出来るなんて、スラグホーン先生は素晴らしい魔法薬学者なのですね」

 

「いやはや。嬉しいお言葉をありがとう、ミス・フラメル!しかしどうやら、今年度の一年生は大変優秀らしい。答えは勿論正解だ!レイブンクローに更にもう十点だ。さて、この『幸運の液体』を小瓶一本、今日『忘れ薬』を見事に調合出来た生徒にあげよう!」

 

 スラグホーンのその言葉に、生徒達が沸き立った。全員が見た事もないほどの速度で材料を取り出し、穴が空くほど教科書を読み込み始めた

 

(下らねえな)

 

 しかしバーソロミューはいつもと全く変わりがない様子だった。というのも、バーソロミューはこの『幸運の液体』が好きではなかった。

 バーソロミューに言わせれば幸運とは即ち積み重ねてきた努力が突如として実を結んだ瞬間であり、間違っても薬で手に入れる様なものではなかった。

 またやる気を出すために褒美を出すというのは、バーソロミューにしてみれば邪道だった。学問とは何処までも己の為であり、そこには一切の他が入らないというのがバーソロミューの考えだった。

 褒美のためにやったと思われるのも癪だが、失敗するのはもっと癪なので、結局バーソロミューは完璧な『忘れ薬』を調合した。そして当然の如く『幸運の液体』を手にしたが、適当にベットの脇に放置した

 

 

   ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

 スラグホーンの授業から暫くたったある日、レイブンクローとバーソロミューは魔法の解釈についての話で夜遅くまで喧嘩した。

 そしてその次の朝、流石のバーソロミューと言えど疲労困憊で、朝食と昼食に遅れてしまった。そのため今はもう主菜は下げられていて、デザートしかない状態だ

 

 大広間に着くとバーソロミューは『ヘビクッキー』と『カエルチョコレート』を手に取った。二つを金の皿の上に置くと、『ヘビクッキー』が『カエルチョコレート』を丸呑みにし、『ヘビチョコクッキー』になった。

 アンとメアリーは『ミルクハエ』を『カエルチョコレート』に食べさせ『カエルミルクチョコレート』にしていた。

 結局バーソロミューは『ヘビチョコクッキー』だけしか食べなかったが、アンとメアリーは『カエルミルクチョコレート』の他に『カムカムキャディ』、『酔っ払いプリン』、『ムカムカムカデクランチ』、『ホエールケーキ』などを山ほど平らげた

 

 バーソロミューは朝食兼昼食のおやつを食べ終えると、消灯の時間まで『原初魔法(ワイルドマジック)』の練習をする事にした。予め予約しておいた教室に入り、ここ最近ずっと考えていた呪文を練習する

 

「『インセンディオ アグアメンディ 火の水よ』」

 

 バーソロミューが呪文を唱えると、杖から水蒸気が噴出した

 

「チッ!失敗か……『インセンディオ アグアメンディ 火の水よ』」

 

 やはりさっきと結果は同じで、杖から勢いよく水蒸気が噴出するだけだ。

 実を言うと、バーソロミューの『原初魔法(ワイルドマジック)』の研究は行き詰っていた。というのも、前に練習していた『武装解除』と『麻痺呪文』の複合呪文などは同系統の呪文だった故に、比較的簡単だったのだ。

 しかし今練習している『火吹呪文』と『水呼呪文』は反対呪文であり、複合させるのが非常に難しいのだ。

 レイブンクロー曰く、成功すれば『火の性質を持った水』か『水の性質を持った火』が出るらしのだが、バーソロミューの杖からは熱された水、つまり水蒸気が噴出するだけだった

 

『バーソロミュー、貴方は少し我が強すぎます。『精霊魔法』を習得するためには、もっと自然との調和を大事にしなくてはなりません』

 

 『精霊魔法』──10ある『原初魔法(ワイルドマジック)』の一つ。『精霊魔法』といっても、別に精霊の力を使う訳ではない。単に『火』や『水』や『風』といった自然界にあるものも使う呪文を指す。

 では何故『精霊魔法』というのかと言うと、レイブンクローの時代の人間達は『火』や『水』や『風』に精霊が宿っていると考えていたからだ。

 特定の石を擦り合わせると火が起きるのは火の精霊がいるから。

 川の水が絶えることなく湧き出るのは水の精霊がいるから。

 季節によって吹く風の温度が変わるのは風の精霊がいるから。

 当時の魔法使い達はそう考えていたのだという。そしてそれらの自然現象の、精霊の力を借りる呪文を『精霊魔法』と名付けた。

 『攻撃魔法』や『防御魔法』といった『原初魔法(ワイルドマジック)』が自分の(呪文)(呪文)を混ぜ合わせるのに対し、『精霊魔法』は自分(魔力)自然(精霊)を混ぜ合わせる。

 そして我が強すぎるバーソロミューは、これが苦手だった

 

『思えば、ヘルガは自然との調和が大変上手でした。他にも『心術魔法』は他のどの魔女、魔法使いよりも優れていましたね。良く人の気持ちを汲んでくれる子でしたから』

 

 魔法の練習をしていると、事あるごとに昔の話をするのがレイブンクローの癖だった

 

「『インセンディオ アグアメンディ 火の水よ』……ちったあ進んだのか、これ?」

 

『ど、どうなんでしょう?』

 

 今度はバーソロミューの杖から餡の様な、ドロドロとした水が出てきた。どうやら温度は高い様で、グツグツと煮立っている。

 バーソロミューが杖から枯れ木を作り出し、水に浸してみると少し煙が上がったが燃える様子はない

 

「少しだけ火を水にエンチャント出来たか?しかし未だ九割以上が水の性質か……。今度は『水の性質があるを持った火』を試してみるか。『アグアメンディ インセンディオ 水の火よ』」

 

 次は杖から火が枯れ木に向かって勢いよく噴出された。今度の火は重さを持っており、枯れ木に燃え広がらず下にボトボトと落ちていった

 

『火が八割、水が二割といったところでしょうか』

 

「ふむ、今度は『火の性質を持った水』を再びやってみるか。『インセンディオ アグアメンディ 火の水よ』

 

 今度はまたしても、勢いよく水蒸気が噴出された

 

「どうやら、俺様はこっちの方が得意の様だな『アグアメンディ インセンディオ 水の火よ』」

 

 火は水の様に枯れ木に染み込み、中から枯れ木を燃やしていった。どうやらバーソロミューは『火の性質を持つ水』よりも『水の性質を持つ火』の方が得意な様だ

 

 

   ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

「フィルチを撒いたかな」

 

 冷たい壁に寄りかかり、額に汗を拭いながらハリーは息を弾ませていた。ネビルは体を二つ折りにしながらゼイゼイ咳き込んで言った

 

 ハリーとロンはマルフォイに決闘の呼び出しをされ、真夜中にトロフィー室に向かったのだ。そして寮に入れなくなったネビルとハーマイオニーはそれに着いて行った。

 しかしトロフィー室で待ち構えていたのはマルフォイではなく、管理人のフィルチだった

 

「だから──そう──言ったじゃない」

 

 ハーマイオニーは胸を押さえて、喘ぎ喘ぎ言った

 

「グリフィンドール塔に戻らなくちゃ、出来るだけ早く」

 

 とロン。

 

「マルフォイにはめられたのよ。ハリー、あなたも分かってるんでしょう?はじめから来る気なんてなかったんだわ──マルフォイが告げ口したのよ。だからフィルチはトロフィー室に来るって知ってたんだわ」

 

 ハリーも多分そうだと思ったが、ハーマイオニーの前ではそうだと言いたくなかった

 

「行こう」

 

 一刻も早くハーマイオニーから離れてベッドに潜り込みたかった。しかし、そうは問屋がおろさなかった。ほんの十歩と進まないうちに、ドアの取っ手がガチャガチャ鳴り、教室から何かが飛び出してきた。

 ピーブズだ。彼は四人を見ると、歓声を上げだ。

 ピーブズはポルターガイストと呼ばれる幽霊の一種で、大変な悪戯好きだった。彼を制御出来るのはスリザリン寮のゴーストである血みどろ男爵だけだ

 

「真夜中にフラフラしてるのかい?一年生ちゃん。チッ、チッ、チッ、悪い子、悪い子、捕まえるぞ」

 

 ピーブズが意地の悪い笑みを浮かべながら、人差し指を立てて口の前でふった。ハリーはそんなピープズの態度にイライラしたが、ピーブズに騒がれてはマズイので、下手に出た

 

「黙っててくれたら捕まらずに済む。お願いだ。ピーブズ」

 

 ハリーがそうお願いすると、ロンとハーマイオニーとネビルもそれに続いた。ピーブズは四人も満足そうに一瞥すると、ことさら満足そうに言った

 

「フィルチに言おう。言わなくちゃ。君たちのためになることだものね」

 

 ピーブズは聖人君子のような声を出したが、目は意地悪く光っていた。それに対し、ロンの顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。

 ハリーは『マズイ!』と思ったが、遅かった

 

「どいてくれよ!」

 

 とロンが怒鳴ってピーブズを払い退けようとした──これが大間違いだった

 

「生徒がベッドから抜け出した!──『妖精の呪文』教室の廊下にいるぞ!」

 

 ピーブズは大声で叫んだ。

 ピーブズの下をすり抜け、四人は命からがら逃げ出した。廊下の突き当たりでドアにぶち当たったが──鍵が掛かっている。

 

「もうダメだ!」

 

 とロンがうめいた。みんなでドアを押したが、どうにもならない

 

「おしまいだ!一巻の終わりだ!」

 

「黙って!」

 

 ロンの情けない声に、ハーマイオニーがイライラしながら怒鳴った。そしてハリーの杖をひったくり、一か八か鍵を杖で叩こうとした瞬間──ドアが開いた。

 教師かと思い、四人がギクリとしながらドアを見ると

 

「貴様等、ドアの前で何をしているんだ?」

 

 果たして、ドアから出てきたのはバーソロミュー・フラメルだった

 

 

   ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

 バーソロミューはハリー達を部屋の中に招き入れ、再び鍵をした。その後息をひそめること十分ほど、フィルチとピーブズは何処かへ行ったようだった。

 

「それで、何をしてたんだ?」

 

 バーソロミューの問い掛けに、ハリーとロンは気まずい思いをした。

 反対にハーマイオニーは水を得た魚のように嬉々としてハリーとロンの失態と、自分とネビルがただ巻き込まれただけである事を語り出した

 

「お前は何でここにいるんだよ」

 

 ロンがむくれながら言った

 

「魔術の研究のためだ。貴様等と違い、俺様は許可を得ている」

 

 そう言いながら、バーソロミューはハリー達の後ろを指差した。

 一体いつからそこに居たのか。

 ハリー達の後ろにアンとメアリーが立っていた。メアリーは紅茶の準備をし、アンはフリットウィックが書いた『深夜外出許可証』を持っていた。それを見たロンの顔は真っ赤になった

 

「贔屓だ!」

 

「いいや、区別だ。優秀な者とそうでない者の、な」

 

 それを聞いたロンの顔は益々赤くなった。しかしバーソロミューはどこ吹く風で、メアリーが淹れた紅茶を平然と飲んでいた

 

「皆様もどうぞ」

 

 メアリーが人数分の紅茶とスコーンを出しながら、愛想良く言った。ネビルはスコーンにかぶりつき、ハーマイオニーは紅茶を一口で飲み干した

 

「この部屋に教師やフィルチは来ない。このまま朝までここに居ても良い。それか談話室に帰るのであれば、俺様が『目くらまし呪文』──姿を消す呪文を掛けてやろう」

 

「本当にありがとう、バーソロミュー。貴方が居てくれて良かったわ」

 

「良い、気にするな」

 

 ハーマイオニーは深々とお礼を言った。慌ててそれにハリーとネビルが続いた。

 ハーマイオニーは学校を退学になるのを何より恐れていた。偶然とは言え、それを助けてもらったのだ。バーソロミューに感謝するのは当然だった

 

「ね、ねえ。あれは何?」

 

 さっきからバーソロミューを恐れてか、視線を彷徨わせていたネビルが部屋の奥にあった床の仕掛け扉を指差した

 

「あれは気にするな。貴様等には関係のないものだ」

 

 バーソロミューはぴしゃりと言った。

 その言葉にびくりと体を震わすと、ネビルはスコーンを頬張る作業に戻った。

 ハリーはあの仕掛け扉の先に何があるのか、非常に気になった。しかし偶然とは言え、退学の危機を助けられたバーソロミューの言葉に反する行動をするのは躊躇われた。

 『グリンゴッツは、何かを隠すには世界で一番安全な場所だ──たぶんホグワーツ以外ではな』ハグリッドの言葉を思い出しながら、ハリーは七一三版金庫から持ってきたあの汚い小さな包みが、今どこにあるのか、分かった気がした

 

 

   ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

「ハリー・ポッターの噂聞いた!?一年生なのにシーカーをやるんですって!その上、使う箒はニンバス2000ってウワサだわ!」

 

 ホグワーツが始まってから約二ヶ月、ハロウィーンの日。かぼちゃ甘ったるい匂いにバーソロミューがうんざりしていると、スリザリン生であるダフネ・グリーングラスがわざわざレイブンクローの席に来て話しかけてきた。

 クィディッチの選手、殊更シーカーは女の子にとって憧れなのだ。それが“生き残った男の子”となれば尚更だろう。それに、高級な箒を持つことはマグルで言うところの高級車を持つようなもので、多くの女の子達がニンバス2000でハリーと相乗りする事を夢見ていた。

 グリーングラスもその類なのだろうとバーソロミューは思った

 

「バーソロミューくんはやらないの?クィディッチ」

 

「あんな前時代的なルールの競技、俺様がやると思うか」

 

 バーソロミューは心底つまらなさそうに言った。

 

「シーカー一人に勝敗の全てを預け、他の人間はほぼ関与しない。その上、700あるルールを選手に開示しないなど、意味がわからん」

 

「私は見てみたいけどな、バーソロミューくんが箒に乗って活躍するところ」

 

「はっ、おだてても無駄だ。それに、出場するとしたら俺様よりアンとメアリーの方が適任だろう。恐らく、箒が無くとも容易くスニッチを掴めるだろうよ」

 

 バーソロミューの視線の先をダフネが見ると、アンとメアリーが信じられない量のかぼちゃ料理を食べていた。誰も止めなければ、この大広間にある全ての、いやホグワーツにある全てのかぼちゃを食べ尽くしてしまうのでは、とダフネは思った

 

「って、そうじゃ無くて、私はバーソロミューくんが活躍するところが見たいの!」

 

『『傾国の女』の子孫と同意見なのは癪ですが、私も同じ気持ちです、バーソロミュー。人が、バーソロミューが箒を使って飛ぶところを見てみたいですね。それと、クィディッチなる競技にも興味があります』

 

 ダフネとレイブンクローが目をキラキラさせながら言った。

 クィディッチが始まったのは11世紀、レイブンクローが死んだ後の事だ。故に、レイブンクローはクィディッチを知識として知っていても見たことは無かった。それどころか、箒で飛ぶということさえ知らなかった。

 レイブンクローの時代では、着ている服や靴に『操作魔法』を掛けて飛行していたのだと言う。箒も似たような仕組みなのだが、魔法の操作と体幹を同時にやらねばならない『操作魔法』での飛行に比べ、箒での飛行は箒の操作だけすれば良いので格段に楽だった。そういう訳で、『操作魔法』による飛行は廃れていったのでは、とバーソロミューは推測する

 

「まあ、そのうちな」

 

 そうバーソロミューは言葉を濁した

 

「そろそろ行くぞ」

 

 バーソロミューが告げると、アンとメアリーはスッと席を立った。そしてダフネもまた席を立ち、バーソロミューについて行った

 

「まだ授業の二時間前なのに、バーソロミューくんって真面目なのね」

 

「俺様以外の人間がふざけてるだけだ」

 

 次の授業──『妖精の呪文学』は週に一度、レイブンクローとスリザリンの合同授業があるのだ。そしてお察しの通り、それは今日だ。

 バーソロミュー御一行が廊下を歩いていると、一つ前のコマで『妖精の呪文学』を受けていたであろうグリフィンドール生達とすれ違った。

 どうやら今日は実際に呪文を唱えてみたらしく、『少しだけ浮いた』とか『羽は無理だったけどインク壺ならいけた』とか『ちゃんと成功したグレンジャーは口だけじゃなかったんだな』とか、大半の生徒が興奮した様子で授業の感想を言い合っていた。

 そして、ことさら興奮している生徒がいた。それは、ロン・ウィーズリーだ

 

「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ」

 

 廊下の人混みを押し分けながら、ロンがハリーに言った

 

「『言い方が間違ってるわ。貴方のは『ウィンガディアム レヴィオーサ』。本当はウィン・ガー・ディアム レヴィ・オー・サ。『ガー』と長くーく綺麗に言わなくちゃ』本当、嫌味な奴だよな」

 

 ロンは大袈裟にハーマイオニーのモノマネをした。

 流石に言い過ぎだとロンの発言をハリーが注意をする前に──ロンが吹き飛んで行った。

 なんてことない、バーソロミューがロンを横から殴り飛ばしたのだ。そのままバーソロミューは、吹き飛ばされて地面にへばっているロンの方へと歩いて行った。

 そしてロンの胸倉を掴み、自分の目の辺りに持ち上げだ。ロンは同世代の中ではかなり背が高い方だが、それより更に高いバーソロミューに持ち上げられて、空で足をバタツかせた

 

「か、かひゅ」

 

 どうやらロンは歯が折れているようで、何事か喋ろうとしたようだったが、口から血と息を吐き出すだけだった。ロンの血がバーソロミューの袖を汚していくが、バーソロミューはその事を気に留めず、顔を近づけた

 

「ウィーズリー、貴様が誰を嫌い、誰を好こうが知った事ではない。しかし、俺様の前で努力する奴を乏しめる事は許さん。今回は手加減してやったが、俺様の前で再び同じ事をすれば次は容赦しない。分かるな?」

 

 バーソロミューの顔は珍しく、不機嫌そうでは無かった。

 その代わり、激しい怒りを湛えていた。蠱惑的な紫色の瞳はすっかりなりを潜め、憤怒に燃える赤紫色へと変化していた

 

「貴方達、一体何をしているのですか!?」

 

 マクゴナガルが血相を変えながら、生徒を掻き分けて乱入して来た。それを見たバーソロミューはロンをマクゴナガルの方へと放った。

 マクゴナガルは魔法でロンを浮かし、ゆっくりと地面に下ろした

 

「立てますか?」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「ポッター、ウィーズリーを保健室へ連れて行きなさい!」

 

「分かりました。みんな、道を開けてくれ!」

 

 まだ授業が始まるまで時間があるせいか、廊下にほとんど生徒は居なかった。ハリーはシェーマスと共にロンを担ぐと、出来るだけロンを揺らさない様にしながら保健室を目指した

 

「それで、フラメル。何故この様な事態が起きたのか、説明してもらえるのでしょうね!」

 

「ムカついから殴った。それだけだ」

 

 バーソロミューはあっけらかんと言った

 

「フラメル、貴方は少々傲慢なところがありましたが、無闇に暴力は振るわない生徒だと思っていました!50点の減点と、それから貴方に罰則を貸します!今は特に罰則がありませんから、良い罰則が思いつき次第、連絡します!」

 

 そのことについてハーマイオニーは抗議しようとしたが、バーソロミューが無言呪文で『沈黙呪文』を唱えて黙らせた。

 この後ハロウィンパーティーの席で、バーソロミューがロンに暴行を加え、罰則を受ける事になった事が全生徒に知れ渡った


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