空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第6話 飛行場姫強襲戦

――――1999年5月7日 PM11:00 インドネシア チルボン飛行場

 

 

 人類側から奪い取り、深海棲艦の飛行場へと姿を変えたチルボンにキィィィィーンと

いう甲高い音が鳴り響いたのは夜中の事だった。

 ここに人類側の兵士がいたならばこの音がジェットエンジンの音だと気が付いた

だろう。

 しかしここにいるのは、異形のバケモノだけでありこの音の脅威に気が付くことが

できなかった。

 亜音速で突き進んできた甲高い音の正体--―Ⅴ1改は暗い空に34本の白い帯を引き、

滑走路・高射陣地・格納庫・露天駐機の戦闘機群に次々と着弾、戦艦の主砲クラスの破壊力を周囲にばら撒きながら炸裂していった。

 それと同時に東の陣地より正体不明の部隊の攻撃を受けているとの報告が入る。

 事ここに至り、ようやく自身が攻撃されていることを理解した深海棲艦側は追加戦力を東側に派遣する事を決定。

 それと同時に周辺に展開する友軍の飛行場に対し救援要請を送ろうとした。

 しかし、突如として無線にノイズが走り始め通信設備がすべて使用不能となった。

 深海棲艦は艦娘の元になったというだけあって電波障害の影響を受けない。

 それが使用不能となったという事はこの一連の電波障害は艦娘による攻撃という事に

なる。

 それを理解した深海棲艦の兵士達は怨嗟の声を上げるものの、その声を押しつぶすように先ほどと同数のⅤ1改が飛来し

 建物・戦車・兵士を粉々に吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 「わー派手にやってますね」

 

 東側の陣地を攻撃する正体不明の部隊―――ベルンハルト小隊は丘の傾斜に身を

伏せながら陣地に対し攻撃を加えていた。

 そこで頭の帽子にどこからか拾ってきた枝を括り付け、伏せていたU-890は飛行場から響く爆音と真っ赤な炎、巻き上がる大量の煙と空を右往左往するサーチライトの光を見ながら暢気な声で呟いた。

 それに対し、丘からMG42機関銃をばら撒き続ける手を止めず指揮官は答えた。

 

 「こちらもかなり戦力の吸引ができたでしょう。仮にこちらが囮だと読まれていたとしても周辺に戦力を分散させるはず」

 「ええ、そして飛行場に展開する戦力は少なくなります」

 

 ベルンハルト小隊が攻撃を加え始めしばらくののち雲の隙間よりマキナの巨大な船体が現れ、黒い粒のようなものが基地に向かってばら撒かれていく。

 それを確認した小隊とU-890は攻撃を中止し次の作戦のために移動を開始した。

 

 

 

 

 マキナの船体が雲の隙間より姿を現す直前。

 司令部作戦室の中央、かつて「最後の大隊」を指揮した少佐の座していた椅子の傍らでマキナは複数のスクリーンに映し出された情報から作戦の進捗状況を

読み取っていた。

 34門の二斉射―――合計68発のⅤ1改により直接的な脅威となる戦闘機・高射陣地を

ひとつ残らず破壊し、深海棲艦の通信機器に対してジャミングが効果的であるという結果に笑みを浮かべつつ素早く次の指示の出す。

 

 「Ⅴ1改次弾準備 及び武装ss降下準備!準備が完了し次第、飛行船の高度を下げろ!」

 『了解!』

 

 妖精さんに指示を出し終え、マキナはふと傍らの椅子を眺めた。

 ミレニアム大隊の中で召喚に応じたものは724名であり、

 ベルンハルト小隊を合わせて754名だった。

 この中に召喚に応じなかった者は除くとして、ヴェアヴォルフの幹部や士官、

ドクそして少佐の姿はなかった。

 

 (今回の召喚ではやはり呼び出せなかったか……まだ俺の錬度が足りないという事

かな?)

 

 マキナは軽く頭を振り気分を変えると椅子に手を掛けながら言った。

 

 「さぁ戦争の交響音楽を奏でよう。少佐殿や幹部たちがすぐに来たくなるような

阿鼻叫喚の混成合唱を」

 

 

 

 

 マキナの降下準備の合図と共に船体側面から無数のカタパルトが伸びていき、射出台の上に次々とミレニアムの兵士が乗り込んでいく。

 カウントが始まる中、その光景を見ていた二人の兵士は自身も笑みを浮かべながら、

吐き捨てるように言った。

 

 「けっ、これから地獄に向かって真っ逆さまだってのに全員笑ってやがる」

 「そりゃそうだ。この光景を見て心を踊らせない連中なんか最初から呼び出されて

いないさ」

 「そりゃそうか」

 

 カウントが終了し、筋金入りの戦争狂達は思い思いの装備を手にし次々と高度1000mの空へと打ち出されていく。

 彼らの背にはパラシュートの類などは一切存在しない。

 ただの人間ならばそのまま地面に叩きつけられ小規模なクレーターを作るだけに

終わるが、彼らは違う。

 彼らは人為的に作られた吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)。

 強靭な身体能力と普通の銃弾では死なない生命力、常人をはるかに凌駕する怪力を

持つ。

 1000mの高さから落ちてきたとは思えないような軽やかな着地をした兵士たちは

手始めに周囲に散らばって飛行場の復旧活動をしていた深海棲艦の兵士群に

襲い掛かった。

 まさか、落下傘も展開せずに降下してくるとは思いもせず、また人類側の兵士を圧倒

する怪力を持つ深海棲艦の兵士級がボロ雑巾のように瞬時に叩き壊され、バラバラにされていき、深海棲艦得意の力押しが通用しない事で、その場にいた150名近い兵士級は

ミレニアムの兵士により物言わぬ残骸へと変わっていった。

 主要な戦闘員を降下させたマキナは下げていた高度を上昇させ、ミレニアムの兵士達は一度集結したあと、小隊単位に分かれ、司令部作戦室より送られてくる指示の元、

四方に分かれ猛烈な勢いで進撃を開始した。

 

 深海棲艦側の兵士級は次々と各個撃破されていき、かろうじて急造の陣地で抵抗する

ものの、制圧射撃に対し恐怖の色を見せず嬉々として突っ込んでくる兵士たちに陣地の中まで侵入を許してしまい、怪力やシャベルによって兵士級は原型留めないほどに破壊され戦死者を増やしていった。

 

 

 

 

 

 飛行場の三分の一程度を制圧した頃、東より追加戦力として派遣されていた

戦車大隊(36両)が飛行場の危険を察知し引き返し、進撃を続けるミレニアムに対し攻撃を開始。

 深海棲艦側の戦車はアメリカ合衆国のM5軽戦車を原型としているのだが、

表面は黒く無数の血管が走っている、深海棲艦特有の機械生物染みた生理的嫌悪を齎す

外見をしていた。

 軽戦車級の砲撃は一時的にミレニアムの進撃を止め、それを見た飛行場の残存兵力も合流を果たそうと被害覚悟で移動を始める。

 ミレニアム側は焦らず移動を始めた残存兵力の殲滅を優先し、戦車大隊には

対戦車攻撃能力を持つ二個小隊を宛がった。

 作戦室より戦車大隊の撃破を命じられた二個小隊は背中に背負っていた

携帯式対戦車擲弾発射器『パンツァーファウスト』を肩に担ぎ、友軍の撤退支援を

している戦車大隊に向かって突撃を敢行していった。

 距離を分散しながら突撃してくる小隊に気付いた戦車大隊は、主砲の榴弾を次々と

撃ちだし、さらに副武装である重機関銃が猛烈な勢いで弾を吐き出す。

 榴弾の爆発と広範囲に飛び散る弾殻の破片、人体を消し飛ばす重機関銃の弾丸で

舗装させた死の街道を、気負った様子を見せずまるで散歩に行くような気軽さで

駆け抜けていく。

 途中何名かの兵士が弾殻の破片と弾丸で蜂の巣になるものの、大半の兵士は踏破し、

パンツァーファウストの射程圏内に戦車大隊を収めることができた。

 

 「パンツァーファウスト Feuer!(発射)」

 

 先頭を走る上官の指示の元、本来ならば構えて打つパンツァーファウストを

高速で駆け回りながら軽戦車級に向けて次々と発射。

 首都で押収した資料によれば深海棲艦の兵器は元になった兵器の性能に準ずる

らしい。

 ならば、最大の装甲厚が51㎜前後しかないM5軽戦車に準じた軽戦車級が、ミレニアムによって改良され700㎜以上の装甲を貫通する能力を付与されたパンツァーファウストに

対し抵抗できるわけもなく、着弾していった順から次々と粉砕され、戦車大隊を構成していた全車両は友軍の撤退支援の任務も果たすことができずにスクラップへと姿を変えていった。

 

 

 

 

 

 司令部作戦室にてマキナは刻一刻と変化していく戦場を完全に掌握し、作戦行動を

続ける小隊各位に的確な指示を出していく。

 ミレニアムは現在幹部クラスが召喚されていないため、将官が不足している。

 それをマキナは自身の艦と身体に備わっている情報処理能力と妖精さんの力を借り、小隊すべてを自身が指揮することでこの問題を強引に解決していた。

 今のところ順調に進んでいる作戦だが、今だ最重要目標を発見することができず、

戦場を映し出すスクリーンを見回して、苛立ちの声を上げた。

 

 「飛行場姫とかいう野郎、どこに隠れてやがる……」

 

 深海棲艦の中には飛行場、港湾、泊地などに棲着し、単体で基地としての機能を統括する、司令官のような役割を持つ者がいるらしい。

 当然、この飛行場にもいるはずなのだが、ベルンハルト小隊の諜報活動でも居場所を

発見することはできず、飛行場の半分を手中に収めた現在も、それらしき者の姿は

見えなかった。

 

 「……もしかしたら、最初のⅤ1改の爆発に巻き込まれて死んだか?」

 

 若干の楽観的思考に傾いた直後、西側の方向に進撃を続けていた、オルランド小隊に

向けて、巡洋艦の艦砲射撃と同等の威力を持つ砲弾が立て続けに撃ち込まれた。

 小隊のメンバーは持ち前の身体能力を発揮し、着弾予想地点から離れるが、広範囲に

広がる爆発に全員逃れることはできず、一部の隊員が消し飛んだ。

 その様子をスクリーンで確認したマキナは、すぐに砲弾が発射されたであろう地点に

望遠カメラを向ける。

 そこに現れたのは、他の深海棲艦のような人間の骨格から逸脱した異形の姿ではなく

人間と同じように見えて、しかし決定的に違う、艦娘と似たような姿をした女性が、建物の地下から這い出てきていた。

 その女性の肌は病的なほどに白く頭には角のようなものが生えていた。

 そして負傷しているのか、体中に亀裂のようなものが走り、そこからは、血ではない

何か黒いものが止め処なく流れ、顔には憎悪の表情を浮かべ、血のような赤い目を

先ほどの砲弾が着弾した箇所に向けていた。

 腰には艦娘と同じような艤装が、しかし艦娘の艤装と比べ機械生物ののような外見を

した艤装が展開され、生き物の口のような物からまっすぐ伸びた砲から、白い煙が

上がっていた。

 

 「忌々シイ、カンムスメノ手先共メッッ!!!」

 

 今まで雄叫びのような奇声を上げても、意味のある言葉を吐かなかった、深海棲艦だったが、この個体だけが片言だが明確に憎しみ言葉を叫んだ。

 それに同調したのか周辺には生き残った兵士が集まり、今までの陣地とは比べものにならないほどの堅牢な陣形を整え、生き残った小隊メンバーに対し、苛烈な攻撃を加えていく。

 オルランド小隊も接近を試みようとするもの先ほど戦車大隊の比ではない統率された濃密な弾幕に手をこまねいていた。

 他の者とは明らかに違う個体の出現に、作戦室で観察をしていたマキナは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 「間違いない、あれがこの基地の司令官―――飛行場姫とかいうやつだな。

 しかし、地下に隠れてやがったとは……道理で見つからない訳だ」

 

 周辺の残存兵力を次々と傘下に加え、徐々にミレニアムを押し返し始めた飛行場姫に

対しマキナは鼻で笑った。

 

 「ようやく混乱から脱して、反撃を始めたか……

だが、まだ分かってないようだな? 今、空を支配しているのが()()ということを」 

 

 

 

 

 

 ようやく敵を押し返し始めた飛行場姫の耳に届いたのは、襲撃直前に聞こえた甲高い

音だった。

 亜音速で突き進んできた甲高い音の正体--―Ⅴ1改は集結し健気にも反撃を始めた深海棲艦を、周辺の土地ごと木端微塵にしていく。

 その光景はさながら最初の惨劇の焼き直しのようであった

 飛行場姫は、自身も爆発に巻き込まれながらも艦娘と同様に、基地の能力を受け継いでいるために強靭な防御力を発揮、全身傷だらけになりながらも何とか耐え抜くこと

ができた。

 彼女はⅤ1改を撃ち込んできた下手人―――空を優雅に航行する飛行船にあらん限りの

憎悪を向けた。

 それに応じたのかどうかはわからないが、また一発、飛行場姫に撃ち込まれた。

 

 一番最初に撃ち込まれたⅤ1改は二発。

 それだけで、結集したほぼすべての残存兵力がやられたわけだが、最初から、34門の

一斉発射を食らっていれば耐えられなかっただろう。

 しかし二発しか撃ち込まれず、それからは一発づつ、飛行場姫の耐久力を調べるように間隔を開けて丁寧に撃ち込まれていく。

――――遊ばれている

 そう理解した飛行場姫は屈辱で顔を歪めながらも、何も抵抗することができず。

 五発目のⅤ1改を食らった直後ついにその場に倒れ伏せた。

 その直後、深海棲艦側の兵士は統率力を乱し完全に瓦解。

 あとは雑草を狩られるかの如く、ミレニアムの兵士に掃討され、飛行場に展開する

深海勢力は壊滅した。

 

 




ミレニアムの扱うパンツァーファウストは、陸上自衛隊でも扱っている110mm個人携帯対戦車弾と同等の威力にしています。

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