空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する! 作:ワイスマン
欧州イベント始まりそうですね。ティルピッツは出るのかな?
前回までのあらすじ
あきつ丸「(今更攻撃仕掛けてくるなんて)
そんな奴おらへんやろう~www(こだま・ひ○き並感)」
亡霊軍隊「戦争!戦争!( ゚∀゚)o彡゜」
あきつ丸「」
フローレス海にて発生していた、撤退中の深海棲艦・上陸部隊と、それを追撃する基地航空隊、第五作戦部隊、潜水艦隊で構成されたジャワ島方面軍との戦闘。
亡霊軍隊によるものと思われる攻撃で、戦闘前から甚大なダメージを負っていた深海棲艦・上陸部隊は、ジャワ島方面軍の追撃に耐えきれず組織体系が崩壊。
陸戦部隊を満載した輸送艦級や、航行不能となった艦艇全てを片端から切り捨ながら、潰走する深海棲艦・上陸部隊に対し、戦況は掃討戦へと移行していた。
そんな中、輸送機からの空挺降下にてフローレス海に展開し、強襲を仕掛けていた第五作戦部隊は今現在、司令部より送られてきた新たな任務を遂行すべく、亡霊軍隊によるものと思われる攻撃で損傷し、行動不能となった深海棲艦の大型艦艇に直接乗り込み、白兵戦を仕掛けていた。
全員が携帯武装を展開した艦娘のみで構成されている第五作戦部隊は、近接戦闘では無類の強さを誇る。
そのために中世の接舷攻撃よろしく敵艦に乗り込み、艦娘と同様に艦全体を制御している存在である人型の深海棲艦を狙い、始末することで、艦艇全体を完全制圧をするという手も使えるのだ。
もちろん、それを行える条件は厳しい。
まず艦娘が接舷攻撃を仕掛けるべく接近してきても、攻撃ができないほどにボコボコにし、単体でも非常に強い制御元の人型の深海棲艦を、艦艇の損傷が制御元にも反映されるフィードバック効果を利用して、しかし船体を沈まない程度にシバき回して、弱体化させなければならないという、非常に繊細かつ手間のかかることをしなければならないのだ。
元々航行不能になるほどダメージを食らっていたおかげで、比較的労力が少なくて済んだが、普通なら、これほど面倒くさいことはせず、さっさと遠距離攻撃で沈める。
しかし、新たな任務を遂行するためには、必要なことだった。
『亡霊軍隊の痕跡の調査』
亡霊軍隊の攻撃を食らったと思われる大型艦艇から、その痕跡の調査をするには、同艦は完全制圧されている状態が望ましい。
攻撃を食らった箇所を徹底的に調査し、砲弾や爆弾の断片や金属片なり、亡霊軍隊につながりそうな証拠を持ち帰る。
そのために、これほどの手間をかける必要があるのだ。
第五作戦部隊所属の四つの艦隊は、それぞれ分かれてターゲットを選定、攻撃を仕掛けた。
――――1999年9月30日 PM 5:00 フローレス海 深海棲艦・空母級 格納庫
「……絶対おかしい」
完全制圧した空母級の格納庫にて調査をしていた、ジャワ島方面軍・第五作戦部隊の旗艦であり、第一艦隊の旗艦も務める軽巡洋艦『川内』は、困惑と、僅かな苛立ちを含ませ、そう呟いた。
最初の内は非常に上手くいっていた。
第五作戦部隊・第一艦隊は、亡霊軍隊によるものと思われる攻撃で損傷し、行動不能となった深海棲艦の大型艦艇の内、空母級を選定。
船体に近づき、調査に影響の出ることのない箇所を重点的に砲撃。
その後、艦内に乗り込み、亡霊軍隊によるものと思われる攻撃と、先ほどの砲撃のダメージがフィードバックし、死にかけていた制御元の人型の深海棲艦にトドメを刺し、同艦の完全制圧を完了。
その後、亡霊軍隊の痕跡の調査を開始した。
そう、ここまでは上手くいっていたのだ。
短時間で、誰も被害なく完全制圧を成し得たのだから、満点と言ってもいい。
問題はこの後。亡霊軍隊の痕跡の調査の方だった。
目の前に広がる巨大な格納庫。本来なら空母級の桁違いな数の艦載機を収容しておくための広大なその場所は、凄惨な破壊の爪痕が残されていた。
薄暗い格納庫を明るく照らす太陽の光。
その光の発生源を辿れば、格納庫の天井に空いたいくつもの大きな穴から洩れ出ているのが分かった。
おそらく、飛行甲板をぶち抜いた爆弾が、格納庫内で炸裂したのだろう、穴の真下の床には巨大なクレーターが出来ており、その外周部に沿って、爆風によってグシャグシャに押し潰された艦載機の山脈ができていた。
炎自体は、深海棲艦によってすぐさま消し止められ、煙も天井に強制的に開けられた換気口によって換気されてはいたのだろうが、それでも格納庫内にはうっすらと煙が漂い、鉄や燃料などが燃えたような不快な臭いが漂っている。
そこは紛うことなき、亡霊軍隊の手によって作り出された、破壊現場だった。
時間もそれほど経過しておらず、深海棲艦に残骸を撤去される前に制圧したため、ほとんど手つかずのまま、現場の保存状態もいいとなれば、亡霊軍隊の痕跡の調査をするには、まさに打って付けと言えるだろう。
川内率いる第五作戦部隊・第一艦隊のメンバーは、この格納庫内の破壊跡を重点的に調査をした。
その結果―――――何も発見できなかった
現場周辺に散らばるのは、どこまでも深海棲艦の残骸だけであり、それ以外、砲弾や爆弾の破片や金属片、ミサイル外殻、その他、人類が製造したと思しきパーツは一切、全く、一欠けらも発見できなかったのだ。
もちろん、自分たちは鑑識のような専門家ではないし、急きょ決まった任務であり、それ専用の装備を持ってきているわけではないため、精密な調査ができたわけではない。
しかし、一欠片も攻撃した者の痕跡を見つけることができないというのは、明らかに異常だった。
まるで攻撃後、何者かが乗り込んで徹底的に証拠を隠滅したかのように。
「……亡霊軍隊に、呪い壊されでもした?」
そんなふざけた考えすら、真剣に検討すべきか考えていた丁度その時、空母級の船体から、金属が裂けるよるなけたたましい音が聞こえてきた。
川内が立っている床も若干揺れており、次第にその揺れも大きくなっていた。
「この船も、もう持たないか」
そう呟く川内の視線の先にある壁には、毛細血管のような管のような塊は広範囲に張り付いていた。
深海棲艦の視覚的嫌悪感の主原因。
研究によれば、船体をサイケデリックに覆い尽くす、この血管のような赤色の管は、見た目通り自身の船体を繋ぎ、各所にエネルギーを供給する働きを持っているらしい。
各国の船の船体、艤装を寄せ集めて無理やり一つに固めたような、船として完全に破綻している深海棲艦の船体が、曲がりなりにも船として機能しているのも、これのおかげといえる。
しかし、艦全体を制御している存在がいなくなったことで、それもその機能を停止したのだろう。
本来なら真っ赤な色で発光しているそれらから、光は失なわれていた。
供給されるエネルギーが絶たれたことで、深海棲艦の船体はゆるやかに崩壊。
先ほどの音はその崩壊が、致命的な段階まで進んだということなのだろう。
「沖合であれば座礁させることもできたけど、ここじゃ無理だね。
川内より第一艦隊へ。時間切れだ、崩壊に巻き込まれる前に脱出するよ!」
『『『了解!』』』
散らばって調査をしていた自身の艦隊のメンバーに、そう相互通信で伝えると、川内自身も脱出行動に移り始めた。
時間切れとは言ったものの、本当の所まだまだ調査できる時間はあるし、最悪船が沈み始めてから脱出しても間に合いはするのだが、調査に全くの進展が見られないことから、川内は早々にこの船に見切りをつけ、違う船を調査することにした
赤く染まった夕暮れの中、第一艦隊の面々は次々と船体に開いた穴から脱出。
ギシギシと不気味な音を響かせる空母級から迅速に離れながら、旗艦である川内の元へと集まり始めた。
その様子を見ていた川内だったが、その時にふと、ある閃きが脳裏を過ぎった。
深海棲艦・上陸部隊の、いや亡霊軍隊に対するいくつもの『疑問』。
―――どうやって、作戦行動中で警戒を厳重にしていた深海棲艦・上陸部隊を、航空基地諸共、奇襲することができた?
―――どうして、艦隊の中で最も安全な中枢にいたはずの空母級を全て攻撃することができた?。
―――なぜ、破壊現場から、人類が攻撃したとおぼしき破壊の証拠が見つからない?
それらの『疑問』に対する『答え』。
あまりにも荒唐無稽だった。
ただの妄想。
『普通』なら考慮するにも値しない、戯言の類。
だがしかし、その気の迷いとも思えるその閃きを、川内はなぜか切って捨てることができなかった。
それは―――
「もしかして…………
◇
早朝よりタウイタウイ沖にて繰り広げられていた、海上自衛隊タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊と深海棲艦・空母機動部隊との戦闘は最終局面へと移っていた。
九時間にも及ぶ熾烈な航空戦の末、艦隊を構成する駆逐艦級が全滅してもなお、破壊目標であるタウイタウイ軍港へ向け、狂ったように進撃を続ける深海棲艦・空母機動部隊に対し、海上自衛隊タウイタウイ方面軍・第一作戦部隊は敵艦隊を撃滅すべく、本隊より第七、第八艦隊が分離。
高速戦艦榛名、霧島を旗艦とした、高い戦闘能力を有する艦のみで編成された第七、第八艦隊は、深海棲艦・空母機動部隊に砲雷撃戦を仕掛けるため突撃を開始。
本隊も基地航空隊と連携しながら、先行する第七、第八艦隊に航空支援を行いつつ、その後に続いた。
この動きに、深海棲艦・空母機動部隊もすぐさま対応。
空母級、軽空母級を除いた残存艦を全て艦隊前面に押し出すことで邀撃の構えを見せた。
空では、制空権の奪い合いつつも次第に距離を詰めていく両軍。
しかし、表面上作戦通りに進んでいたはずの戦争は、想定外のイレギュラーにより、段階を経てついに破局へと至った。
――――1999年9月30日 PM 5:00 タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊 旗艦『大鳳』
「第一作戦部隊旗艦より各員に伝達。今現在、同海域にUnknownが接近中、第七、第八艦隊は突撃を中止、至急本隊と合流せよ!繰り返す第七、第八艦隊は至急本隊と合流せよ!」
作戦司令部より届いたUnknown接近の緊急連絡。
この連絡により、Unknown―――亡霊軍隊が第一作戦部隊、深海棲艦・空母機動部隊両軍が激突するここタウイタウイ海域に近づいているという情報を受け取った航空母艦・大鳳は、現時点までの作戦を全て放棄。
亡霊軍隊の動きに一丸となって対応すべく、先行していた第七、第八艦隊との合流を急いでいた。
「……くっ、今この段階になって仕掛けてくるなんて!」
『……深海棲艦・空母機動部隊の不自然な進路変更と、戦闘空域の南下は亡霊軍隊が原因でしたか』
「ええ、艦隊の進路を南西に取り、戦闘空域を南下させることで、私達第一作戦部隊と亡霊軍隊の双方を相手取れるようにしたのでしょう。
現に深海棲艦の航空隊が二手に分かれました。
と言うことは、深海棲艦側は、亡霊軍隊を第一作戦部隊と同じく撃滅すべき敵と認識しているわけですか」
『それは間違いないでしょう。
しかしこのまま新たに亡霊軍隊を加えて戦いを続けるわけにはいきません。
仮に状況に流され、第一作戦部隊、深海棲艦・空母機動部隊、亡霊軍隊との三つ巴の戦いになった場合、
赤城の言葉に大鳳は同意を返した。
「深海棲艦は第一作戦部隊と亡霊軍隊に、亡霊軍隊は深海棲艦と第一作戦部隊にそれぞれ攻撃できます。しかし私たちは深海棲艦に攻撃できても、
第二次世界大戦後の日本の防衛戦略の基本的姿勢に『専守防衛』という防衛思想がある。
1989年の防衛白書で定められた「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使する」という軍事的合理性よりも、軍隊と交戦権の否定を謳う日本国憲法9条憲法など、さまざまな問題による内政上の要請が強く反映された防衛思想。
これにより日本に対して明確な武力攻撃を行い、内閣総理大臣より『防衛出動』の対象とされた深海棲艦ならともかく、亡霊軍隊に関しては、亡霊軍隊より明確な武力攻撃を受けない限り、
こちらから攻撃することはできないのだ。
『今まで散々戦場を荒らし回っていますが、
亡霊軍隊に
行使要件を満たしていない以上、『専守防衛』において私達は亡霊軍隊を敵として扱えません。
亡霊軍隊より攻撃を受けて初めて『反撃』ができます』
「……深海棲艦・上陸部隊を撤退に追い込むような軍事力を有する勢力の先制攻撃ですか。
それだけで致命傷になりえますね。
そして深海棲艦と亡霊軍隊が敵対関係にあるとはいえ、弱った敵勢力を先に脱落させるべく結果的に『共闘』することも、十分考えられますか……。
……亡霊軍隊が仕掛けたレーダージャミングを行使要件として扱うことは、厳しいでしょうか?」
『……無理でしょうね。
亡霊軍隊の背後に国がついていた場合、ジャミング程度何とでも言い訳がつきます。
そして亡霊軍隊は
もし、ここでレーダージャミングを理由に『反撃』した場合、後に手痛い代償を払わされることになるでしょう』
「どうすれば……」
状況を打開すべくを考えを巡らせる大鳳。
『まあ、対策自体はそれほど難しくもありませんが』
「え?」
しかし赤城は、あっさりとそう言ってのけた。
『第七、第八艦隊との合流後、艦隊の進路を
「進路を北東にですか?それでは、戦場から離れることに―――!!!そういうことですか!」
最初こそ、赤城の出した提案の意図を測りかねていた大鳳だったが、手元にある海図と敵味方の艦隊の位置を見たとき、ようやく理解することができた。
『ええ、我々が警戒すべきは亡霊軍隊による先制攻撃、そしてその後に起きるであろう亡霊軍隊と深海棲艦の共闘です。ならば話は簡単。
西から第一作戦部隊、東から深海棲艦・空母機動部隊、南から亡霊軍隊。
三角形を描くように、それぞれ三方向から集結する各艦隊だが、ここで第一作戦部隊が北東に進路を変更した場合、その形状は大きく変化する。
第一作戦部隊、深海棲艦・空母機動部隊、亡霊軍隊の順番で、全ての艦隊が一直線に並ぶのだ。
こうなってしまえば、亡霊軍隊は第一作戦部隊に先制攻撃することも、共闘することもできない。
亡霊軍隊が第一作戦部隊を攻撃するには、亡霊軍隊を間に挟んで攻撃せねばならない。
しかし亡霊軍隊も第一作戦部隊も敵と見做している深海棲艦・空母機動部隊とって、その亡霊軍隊の攻撃が、第一作戦部隊を狙ったものか、深海棲艦・空母機動部隊を狙ったものかなど分かるはずもない。
自身の艦隊を守るために全ての攻撃を妨害するしかないのだ。
そして、そうなれば第一作戦部隊に対し、先制攻撃で致命傷を与えることができず、弱った敵勢力を先に脱落させるべく、亡霊軍隊と深海棲艦・空母機動部隊が共闘することも不可能となる。
それはつまり――――――
「深海棲艦・空母機動部隊を、私達第一作戦部隊の『盾』とするのですね?」
「人聞きの悪いことを。
深海棲艦が自らの意志で、私たち第一作戦部隊に対する攻撃を弾いてくれるのです。
共闘ですよ、共闘」
◇
「……結局、深海棲艦・空母機動部隊は艦隊の進路を変更しませんでしたか」
『あくまでも深海棲艦は、私たちと亡霊軍隊、その両方を相手取るつもりのようですね。こちらには好都合ではありますが、しかし―――』
先の赤城の提案通り、先行していた第七、第八艦隊との再合流後、第一作戦部隊の進路を北東に向けたのだが、深海棲艦・空母機動部隊は艦隊の進路を南西に向けたまま、変更することはなかった。
ただし、艦隊の陣形には変化があり、艦隊前面に集められていた空母級、軽空母級を除いた残存艦は、第一作戦部隊と亡霊軍隊からの攻撃を防ぐ為だろう、二つに分け艦隊の側面に配置し直されていた。
作戦続行不可と判断し撤退するような決断力もなく、かと言って、片方に最少戦力を用いて足止めをしつつ、もう片方に全主力を向けて状況を打開する、といった判断の柔軟性もない場当たり的な対応。
この対応力こそ、ある意味で深海棲艦という種の能力の限界であるともいえる。
しかし深海棲艦がこの対応をしたことで分かったこともあった。
『…深海棲艦は、亡霊軍隊を、私たち第一作戦部隊と同等の脅威であると判断しているようですね』
不幸にも第一作戦部隊と亡霊軍隊に挟まれる状況に陥った深海棲艦・空母機動部隊だが、双方からの攻撃を防ぐべく二つに分けて艦隊側面に配置し直されていた残存艦は、どちらか片一方に多めに艦艇を配置するのではなく『均等に』分けられていた。
これはつまり深海棲艦は、亡霊軍隊を同等の戦力を有していると判断しているに他ならないのだ。数十人の艦娘から構成され、周辺の航空基地から豊富な航空支援を受けているタウイタウイ方面軍 第一作戦部隊と。
「……そういう事になります、しかし…そんな事があり得るのですか?」
『………』
理屈の上ではそうなる。
しかし、その結論に大鳳も、そして赤城さえも、納得してはいなかった。
先ほどこそ、最悪の事態を想定し、艦隊を動かしはしたが、そもそも今こちらに向かっている亡霊軍隊が、自分たち第一作戦部隊や深海棲艦・空母機動部隊に匹敵する戦力を有している事自体、俄には信じられなかった。
結局の所、誰も見ていないのだ、亡霊軍隊の姿を。
何一つ分かっていないのだ、亡霊軍隊の目的を。
一人として知らないのだ、亡霊軍隊の正体を。
推測に推測を積み上げて作り上げた、何もかもあやふやな虚像。
艦隊の数も、攻撃方法も、所属も、移動手段すらも不明。
今確実に分かっている事は、フローレス海を進撃していた深海棲艦・上陸部隊が、航空基地ごと壊滅したこと、何かが第一作戦部隊と深海棲艦・空母機動部隊が争うタウイタウイ方面に向け、早期警戒線を構成するレーダーを無力化しながら近づいている、くらいしかない。
海峡などの要所を見張っていた潜水艦隊の監視網にも引っかからなかったことから、別働隊の可能性すら出てきているのだ。
亡霊軍隊に対し先制攻撃ができないため、深海棲艦と共闘(無断)し相手の出方を窺うという方針を取っているのの、例え先制攻撃が可能だったとしても、亡霊軍隊の実体を把握するために同様の方針を取ることになっただろう。
彼女たちには、亡霊軍隊の戦力を正確に推し量るだけの確かな情報が致命的なまでに欠けているのだから。
『分からないというのであれば、直接暴き出せばいいだけのこと。南に向かった深海棲艦の攻撃隊の様子はどうですか?』
「今の所何も。ただ、進路を一切変更していないことから亡霊軍隊の位置は掴んでいるようですね」
『まあ亡霊軍隊の発見自体は深海棲艦の方が早かったですからね。航空隊の後をつけていれば、亡霊軍隊の元まで連れていってくれることでしょう』
「こちらに向かってくる攻撃隊については?」
『全て撃ち落とします。ただこちらの攻撃隊は空中待機をさせましょう。亡霊軍隊の手札が割れるまで前衛(強制)を務めてくれる深海棲艦を磨り潰すわけにはいきません』
「空中待機ですか?」
『ええ、仮にこの亡霊軍隊が、フローレス海の深海棲艦の航空基地を破壊した艦隊と同一、または同等の戦力を有していた場合、何らかの遠距離に対する攻撃手段があるとみていいでしょう。その場合、先制攻撃で滑走路や飛行甲板を破壊しにくる可能性があります』
「分かりました。では第一、第二艦と各航空基地には、補給を除き攻撃隊を空中待機させるように伝達……をーーー」
『……?大鳳さん、どうかしましたか?』
突然、会話が途切れたことを不審に思った赤城が問いかけたものの、大鳳は何かを確認しているのか、返事を返さなかった。
「………これ……は……」
(亡霊軍隊を捉らえましたか)
遠くに見える何かに、目を細め確認するかのような呟きを漏らす大鳳に、赤城は南に向かった深海棲艦の攻撃隊を追尾している偵察機が亡霊軍隊を見つけた、とアタリをつけた。
偵察機には、大鳳と視界共有することのできる妖精さんも同乗している。
百聞は一見にしかず、という諺もあるように、伝え聞く情報よりも、直接『視た』情報は万倍の価値がある。
特にあらゆる情報が不足している亡霊軍隊の情報というのは、この閉塞した状況を打開できる、まさに福音というべきものだ。
―――しかし
―――困惑した様子で大鳳が口にしたその情報は。
―――本来なら突破口となるはずのその情報は。
「………これは、飛行船?」
―――あまりにも予想外だった。
◇
同時刻 深海棲艦・攻撃隊上空『林隊』
「どうだ、何か見つけたか?」
『ダメです、何にも浮遊物一つ見当たりません』
林大尉の問いかけに、上田少尉そう答えた。
少し前まで海棲艦・空母機動部隊の監視を担当していた『林隊』のリーダーであり、パイロットの林大尉と、複座式である一〇〇式司令部偵察機の後席に乗り込む、ナビゲーターの上田少尉のコンビは、今現在、第一作戦部隊旗艦の命令に従い、南に向かった深海棲艦の攻撃隊を追跡していた。
だが目的は深海棲艦の攻撃隊ではない。
目的はその行先。
攻撃隊が向かっているだろうその行先に待つ、亡霊軍隊の正体を暴くためだ。
そのために深海棲艦の攻撃隊をかなりの時間、追跡していたのだが、攻撃隊は進路も変更せず高度も落とすことなくまっすぐに飛び続けるばかり。
それどころか、眼下に広がっている大海原には、夕焼けに照らされキラキラと光る海面ばかりで、亡霊軍隊の船団どころか浮遊物一つ見当たらなかった。
「攻撃隊の行動範囲から考えれば、もう攻撃対象を見つけてもおかしくないんだがな…。
一体こいつら、どこ目掛けて飛んでんだ?」
林大尉は、そう愚痴を零しつつ深海棲艦の攻撃隊に目を向けた。
彼らが飛ばす飛行機の右斜め下。
そこには数百もの夥しい数の航空機が、編隊を組み飛行していた。
その数は、先ほどまで第一作戦部隊に向けられていた、攻撃隊のちょうど半分。
しかし、半分でも圧倒的な数を有する深海棲艦の攻撃隊の前では、生半可な戦力ではろくな抵抗もできず、踏み潰されることだろう。
それほどの圧倒的な戦力。
しかし林大尉は、その深海棲艦の攻撃隊にわずかな違和感を持っていた。
(こちらを排除しに来ないのか?)
林大尉から攻撃隊が見える以上、攻撃隊からも林大尉の操る偵察機が見えているはずだ。
その証拠に、偵察機が隣接する面には、攻撃隊を守る護衛戦闘機が少し厚めに配置されている。
いつ攻撃されても対処できるようにだろう。
しかし、それだけだ。
監視されていることが分かっているはずなのに、いつものようにこちらの監視を妨害したり、撃墜しようという動きは一切見られなかった
それは直接には攻撃隊を害するだけの戦闘能力を持たない偵察機という存在だからこそ、見逃しているのか。
それとも―――
(俺たちの程度に構っている暇はない、ということか?)
だがそこまで考え、林大尉は思考を途中で打ち切った。
結局の深海棲艦の思考を直接読むことができない以上、ただの仮説でしかない。
そして自分達の任務は、仮説を立てることではなく、亡霊軍隊の捜索。
余計なことを考える必要はない、そう考え、任務に集中するよう気持ちを切り替えた。
しかし、気持ちを切り替えたといっても、パイロットである林大尉にできることは、今の所ないのだが。
護衛戦闘機が妨害してこない以上、自身の優れた操縦技術が必要となることはなく。
そもそも深海棲艦の攻撃隊の監視と、亡霊軍隊の捜索自体はナビゲーターの上田少尉がしているのだ。
偵察機の各所に追加で取り付けられた現代の高性能カメラによって、広範囲をカバーできているために手伝いといったものも必要ない。
そもそも広範囲に妨害電波を発信していることから、亡霊軍隊の正体、もしくはその艦隊の内の一隻は、莫大な電力を生み出せる大型の水上艦と予想されているのだ。
捜索する場所が海上である以上、林大尉の出番はない。
本当に今やることは、機体をまっすぐ飛ばすくらいしかやることはないのだ。
退屈を紛らわそうと、コックピット内で体をほぐそうと腕を回そうとし、その腕が同乗している妖精さんに当たりかけた。
わたしは怒ってます、と、パタパタと腕を振るう妖精さんに平謝りをし、そして視線を正面に向けた時――――
「………!?」
背筋に寒気が走った。
数多の戦場を飛び交い、命のやり取りをすることで研ぎ澄まされてきた超人的な直感能力。
一流と言っても過言ではない豊富な実戦経験と、何度も死に戻りという非常識な体験とをしたことで鍛え上げられた、疑似的な未来予知と呼ばれる領域まで足を踏み込んだ自身の第六感。
その直感が告げていた。自身に迫る濃厚な死の気配を。
(何だ?どこにいる!?)
林大尉は自身の直感に従い、その気配の発生源を探る。
深海棲艦の攻撃隊ではなかった。
深海棲艦の編隊は先ほどと変わらず攻撃隊を守る護衛戦闘機が動く様子もない。
しかしそれ以外に何もなかった。
血のような夕日に染められた見渡す限り雲一つない真っ赤な空には、二人の乗る偵察機と深海棲艦の攻撃隊以外、静寂が広がっているだけだ。
だかそれを確認しても林大尉の直感は、鳴り止まぬことなく自身の命の危険を知らせ、死ぬ間際に感じる、死神に纏わりつかれているような、心臓を握りつぶされるような壮絶な嫌悪感は、未だ消えることはない。
林大尉は何とか見つけようと視線を走らせる。そして―――
「………何だ?」
林大尉の視線が、真正面、一二時の方向の空へと吸い寄せられた。
何かを見つけたわけではない。一際優秀な彼の視力を以ても、夕焼け空が広がるばかりにそれ以外の異物は発見できなかった。
そう、何かを見つけたわけではない。
「……違う、違う違う違う!」
『林大尉?』
だが、直感が、経験が、そして本能が告げていた。
林大尉は視線を正面に向けたまま、足元にある双眼鏡を引っ手繰ると、件の場所へと向ける。
そして見つけた。
『林大尉、一体どうし――――――』
「海上じゃない、空だ!!!」
『え!?』
「12時の方向!!!
空の向こう、赤と黒で彩られた船体を。
戦況報告
タウイタウイ方面
人類陣営
タウイタウイ方面軍 第一作戦部隊
深海陣営
ポート・モレスビー方面 空母機動部隊
ミレニアム陣営
空中戦艦ーDeus ex machina
戦闘開始