空中戦艦ーDeus ex machina 出撃する!   作:ワイスマン

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第10話 不穏な影

 1994年、全世界を覆い尽くすほどの深刻な電波障害と共に、ハワイ・オワフ島より、現れた深海棲艦と呼ばれる軍隊が出現、第二次世界大戦で使われた兵器の形を象っていた奴らは、交渉の一切を無視し人類殲滅を掲げ、全世界に対し侵攻を開始した。

 

 オワフ島を中心とし、東西南北に侵攻を開始した深海棲艦に対し、国際連合は連合海軍を組織し反撃を試みるも

先の電波障害での影響が尾を引き、また圧倒的な深海勢力の物量により各戦線で敗北し連合海軍は壊滅。

 太平洋の制海権を深海棲艦に奪われ、太平洋に隣接する島々にも深海棲艦の魔の手が迫った。

 

 各国共に防衛線を張り、必死に防ぐものの、ついには食い破られ内陸部への侵入を許してしまう。

 

 

 

 まず南ではオーストラリアが陥落、深海勢力の手に落ちた。

 そして、そこを足場に東南アジア、南米へと進軍を始め、先進国と違い脆弱な国力しか持たない国々は次々と落されていき、東南アジア方面ではマレーシア本島のシンガポール、南米方面では南米大陸の沿岸部全域が――――

 

 

 

 北ではアリューシャン列島を伝いユーラシア本土へと進撃、ソ連崩壊の影響を引きずっていたロシア連邦はこの動きに対応できず、また深海勢力も戦力を割いているのか、極東ロシア全域が―――

 

 

 

 東では深海棲艦の大部分が差し向けられているのか、カナダ・アメリカの沿岸が制圧され、パナマ運河をも奪われ、そこから大西洋に深海棲艦が入り込み、ヨーロッパの航路を脅し始め―――

 

 

 

 西ではフィリピンの首都マニラ手前まで、深海棲艦の版図は広がっていた。

 

 

 

 日本もこの深海棲艦との大戦と無関係ではいられなく、横須賀基地に駐屯していた、アメリカ軍第七艦隊と共に

出撃した、派遣艦隊の壊滅を皮切りに、東南アジアでの潜水艦によるシーレーン破壊、そして極東ロシアを版図に加えた深海棲艦の北海道侵攻と、オワフ島より直接派遣された、空母級32隻、戦艦級24隻、駆逐艦級400隻、上陸艦艇、輸送艦級2500隻、上陸戦力107万人による日本本土進攻が行われた。

 

 この二つの侵攻作戦は海上自衛隊の壊滅と、航空自衛隊、陸上自衛隊の半壊と引き換えに、侵攻部隊の壊滅させ侵攻退けるという結果で幕を閉じた。

 これは、レーダー、通信が使えないとはいえ、第二次世界大戦を模した戦闘機が追い付けない速度で飛行する、ジェット戦闘機群の集中運用と、電波障害下でも高い命中率を誇る主力戦車、豊富な携帯火器を持つ兵士、そして

本土である事を生かしたゲリラ戦、大量に配置された機雷原を複数個所侵攻ルートに配置し、敵戦力をあらかじめ削ぐことができたため。

 それでも一番の要因はアメリカ大陸、ユーラシア大陸制圧に深海棲艦の軍隊の大部分を差し向けており、日本にはごく一部の部隊しか(あれだけいても深海棲艦から見れば片手間程度)派遣されなかったためだが。

 

 

 

 日本は近海に沈んだ大量の深海棲艦の残骸を引き上げ解析、そして深海棲艦がコインの裏だとするなら表の存在である、第二次世界大戦時の艦艇の魂を持ち、自身の魂を持つ艦艇を手足のように操る『艦娘』を召喚することに成功した。

 

 

 

 『艦娘』という存在は召喚した国が第二次世界大戦時保持した艦艇の中から召喚される。

このことから第二次世界大戦時にはアメリカ、イギリスに次ぐ艦艇を保持していた日本が非常に優位となる。

 外見は女の子であるため、戦場に出すのはどうか、深海棲艦から解析して造りだしたものを、すぐに使っていいのかという意見も見受けられたが、先の戦いによって海上自衛隊の艦船は乗組員と共に壊滅しており、単独で船体を動かし、数も容易に揃えられる、そして女の子の姿でも身体に艤装を展開すれば戦車大隊すら単独で相手取れる『艦娘』は人手不足と艦艇不足に喘ぐ海上自衛隊の面々からは魅力的に映った。

 

 

 

 海上自衛隊は様々な反対意見を黙殺して艦娘の運用を開始。

 それにともない各国と艦娘召喚の技術を配布を餌に交渉を始めた。

 本来なら艦娘召喚技術は重要な軍事機密として隠匿すべきものでもあるが、二度の戦いと、シーレーン破壊による疲弊がピークに達しており、一刻も早く現状の打開をしなければならないところまで追いつめられていた。

 こうして深海棲艦が現れ始めて3年後の1997年1月1日、各国で艦娘による反攻作戦が実施された。

 日本も近海の制海権を奪取し、ヨーロッパから派遣された艦娘の力も借り、東南アジアでの反攻作戦を開始、深海勢力を押し返すことに成功し、リンガ・ブルネイ・タウイタウイに防衛線を構築することに成功していた。

 

 

 

 しかし、深海棲艦側は押され始めると、世界各地の要所に陸上型深海棲艦を棲着させ始めた。

 この個体は 飛行場、港湾、泊地などに棲着し、単体で基地としての機能を統括する、司令官のような役割を持ち、自身の基地に配備されている戦闘機、爆撃機群も統括し操ることができる。

 陸上型深海棲艦は移動できないという欠点を持つものの、その力は強力で、船体を沈めれば終わる艦艇型深海棲艦と違い、陸上型は人間型の深海棲艦を殺さなければすぐに復旧してしまう。

 

 

 

 人類側も陸上型艦娘は召喚できなかったものの、妖精さんが指揮操縦する飛行隊を設立。

 妖精さんは戦闘で撃破されても、いつの間にかケロッとした顔で戻ってくる不思議生物で、艦娘が開発した戦闘機・攻撃機しか操縦できないものの、人的被害はなく、機体の補充も資源さえあれば妖精さんの力を借りて補充も容易という利点があった。

 これを用い、陸上型深海棲艦に対抗、日夜世界中で、海では大規模な海戦が繰り広げられ、空では戦闘機・爆撃機・攻撃機が際限なく散っていき、陸では、各国陸軍と艦娘が深海棲艦軍と激突を繰り返していた。

 

 

 

 徐々に押し始めているとはいえ、泥沼の深海勢力との戦いから、二年半後の東南アジア方面でゆっくりと戦況が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

――――1999年7月1日  リンガ軍港 提督執務室

 

 

 

 「どうなっているんだ一体……」

 

 東南アジア方面での最前線の一つ、リンガ軍港で一人の軍人がそう呟いた。

 黒い髪をオールバックにし、鋭い眼光を持ち、日本人にしては高い身長を持つ男性。

 彼の名前は、東条遥人少将。

 32歳という若さで少将に任命され、海上自衛隊より派遣された、艦娘の艦艇のみで構成された『東南アジア支援艦隊』のリンガ前線を担当する提督である。

 

 本来なら、海上自衛隊の少将の位は、海将補と呼ばれるはずで、このような若い歳の者が就けるものではない。

 だか、これは海上自衛隊が置かれている状況に深く関与していた。

 

 

 

 二度の本土進攻に見舞われ、海上自衛隊、航空自衛隊、陸上自衛隊共に深いダメージを負ったのだが、とりわけ人的被害が高かったのは、やはり海上自衛隊だった。

 墜落しても陸の上ならばパラシュートを開いて脱出し、うまくいけば歩いて自陣営に戻ることができる航空自衛隊や、撤退が可能な陸上自衛隊と違い、海の上というある意味孤立無援な場所で戦わなければならず、また、艦艇が沈没し内火艇で脱出したとしても、ジュネーブ条約など知らないだろうし、知っていたとしても人類の全滅を掲げる深海棲艦が逃がすわけもなく、徹底的に掃討された海上自衛隊は深刻なダメージを受けていた。

 

 

 

 本来なら東南アジアなどに戦力を割く余力などなかったが、シーレーン破壊が続けばこの現状の打開は難しいだろうと考えた日本政府は、東南アジアへの戦力の派遣を海上自衛隊に打診、この時にはある程度の艦娘運用のめどがついていた海上自衛隊は艦娘すべてを東南アジアに派遣することを決定した。

 これについては、艦娘の運用データの取得と、深海棲艦を解析して召喚された艦娘が反逆をした場合に備え日本から引き離すという目的もあった。

 

 

 

 この『東南アジア支援艦隊』を指揮する任務は、最初から長期間の過酷な任務になることが予想されており、なおかつ幹部は海上自衛隊の再建という重要な任務があったので、比較的年齢が若く、柔軟な発想で艦娘と交流できる士官を選び任命、他国の軍隊とも交渉の機会があるだろうと予想し、また現場での混乱を少しでも避けるため、本来なら海将補と呼ばれる地位を少将に変更し、派遣任務に従事する士官に授けた。

 

 それが、彼が32歳の若さで少将に任命された経緯である。

 

 

 

 その彼が見ていた資料にはここ二か月ほどの深海棲艦との戦いが記録されおり、その資料を見ながら眉をひそめていた。

 彼が眉をひそめた原因は何も人類側が惨敗を喫しているからというわけではない。

 むしろ各戦線で勝利を収めていた。 ()()()なほどに。

 

 

 

 2年半前の人類の反攻作戦以来、東南アジア戦線では、少しずつ人類側が押しているとはいえ、ほぼ停滞しているといっていい。

 というのも、海の方は艦娘の力を借りて押しているとはいえ、陸の方の陸上型深海棲艦が問題であった。

 

 陸は主に東南アジア各国の陸軍がスマトラ島奪還作戦を指揮しているのだが、やはり戦闘による被害が大きく作戦は遅々として進まず、また艦娘も海の方に専念しており、そうそう陸の支援できず、そのせいでジャワ島より飛来する深海棲艦基地の航空隊による攻撃に悩まされていた。この間までは―――

 

 

 

 しかし、2か月前より状況が変わる。

 ジャワ島より飛来していた航空隊が激減し、それに伴いスマトラ島に展開していた深海棲艦軍の攻勢が徐々に弱体化、これを好機と見た東南アジア連合陸軍は、一大攻勢作戦を発令し進軍を開始。

 今まで深海勢力と骨肉の争いをしていた、パレンバンを奪還、そのまま猛烈な勢いで押し返し、スマトラ島より深海棲艦軍をたたき出した。

 海の方も進攻する深海棲艦の艦自体が減少し、日夜激突していた艦娘と深海棲艦の海戦自体が減少方向にある。

 

 

  

 本来なら人類側が勝利を重ねていることは、喜ぶべきことだが、あまりにも不自然すぎた。

 深海棲艦自体の力が弱まっているのかと思い、他の前線に確認を取るものの、他はいままでと変わっておらず、

 大攻勢の準備をしているのかとも考えたが、そういう様子はなく、この不可思議な現象はリンガ周辺のみで起こっているらしい。

 

 

 

 資料を何度も確認し深海棲艦の意図を探ろうと思考の海に埋没していた東条提督が、ドアをノックする音に反応し思考の海から脱したのは30分後のことだった。

 

 「入れ」

 「失礼するわ」

 

 あらかじめ誰がくるか想像がついていた提督はノックをする人物を確認もせずに通し、ノックをした人物もそれが当たりというように、ためらいなくドアを開けた。

 

 入ってきた人物は端正な顔立ちに自信の宿った勝気な瞳、長く美しい金髪の髪と、モデルのような体形に軍服を アレンジしたような恰好をした女性――――

 東条提督の秘書官であり東条提督が最も信頼を寄せる女性―――

 第二次世界大戦のドイツにおいて大英帝国の象徴ともいえる戦艦を沈め、最新の戦艦を大破させた、ドイツの巡洋戦艦―――Bismarck級戦艦1番艦  Bismarck(ビスマルク)の艦艇の魂を持ち、ドイツ政府から日本政府に、数隻のドイツ艦艇と共に、『東洋艦隊』として東南アジア解放という名目で ()()()()()()()艦娘――――ビスマルクが立っていた。

 ビスマルクは入ってくると素早く敬礼をし、東条提督に、自信を漲らせたままこう告げた。

 

 「作戦終了、艦隊が母港に帰還したわ」

 

 

 




 ※日本侵攻作戦はコロネット・オリンピック作戦を参考にしました。
 ※売り飛ばされたといっても別にエロい方面ではなく戦力面ですので、あしからず

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