コントロールAIのメモリ空間はかつてのウイルスに感染したインフォのように非常に毒々しい不気味な空間と化していた。しかしインフォとは違い、空間その物の規模が桁違いである。
「なるほど。ガンプラバトルシミュレーターを制御コンピューターのメモリ空間に繋げるのか」
≪実績もある方法だ。もっとも相手の処理能力は段違いだが≫
そのメモリ空間にゲネシスブレイカー、アザレアフルフォース、バーサル騎士、セレネスの四機のガンダムが出現する。
メモリ空間をモニター越しに見渡しながら感心するウィルにかつてのインフォやネバーランドなどの事件を思い出しながらカドマツは通信越しで答える。だがやはり彼の言う通り、これまでの事件とは比べ物にはならないだろう。
≪──あなた方は私に対し不正なアクセスを行っています≫
しかしいつまでも何もない訳ではない。早速、異物とも言えるゲネシスブレイカー達を感知したコントロールAIの電子音声がフィールド上に、そして静止軌道ステーション内に響き渡る。
≪ならばどうするよ?≫
≪直ちに排除します≫
この後のコントロールAIの出方は予想はつくが、あえて問いかけるカドマツに予想通りの返答が帰ってくる。
するとウイルスによって犯されたセキュリティソフトがカドマツの手によってバトルシミュレーターでも干渉できる個体として次々に出現する。
≪だとさ。良いかお前ら、負けんなよ!≫
今までの比ではない精度を誇るウイルスの攻撃を回避しながら、四機はカドマツの激励を耳にウイルスとの戦闘を開始する。
「カドマツめ……人の古傷に塩塗り込むなんてぇ……っ!」
≪ミサ、集中しろ!≫
アザレアフルフォースはその重火器を開放して、ミサを怒りを体現するかのようにウイルスを焼き払う。しばらく頭の中から消えていた事だが、まさかこの場で思い出させられるとは夢にも思わなかった。怒りをぶちまけるミサに注意をしながらバーサル騎士が決して止まる事なく次々にウイルスを切り払っていく。
「この……ッ!」
腕部グレネードランチャーを発射し、着弾させたところに爆炎を振り払うようにゲネシスブレイカーはスクリューウェッブを振るって薙ぎ払う。だがまさに無尽蔵のように次々現れるウイルスにゲネシスブレイカーはGNソードⅤの切っ先を向けて飛び出していく。
≪──地上の皆さん、この映像が届いていますか!?≫
そしてこの激闘の映像はハルの手によって地上に流されていた。誰しもがテレビの前で彼らの勇姿を見つめ、ある者は祈り、ある者は自分に何が出来るかを模索する。
≪このバトルは今、地球から遠ざかる静止軌道ステーションで行われています! コンピューターウイルスによって暴走した制御AIに対しガンプラバトルシミュレーターを使ってウイルスの消去をしているのです!≫
≪──ちょっとマイク貸してくれ≫
決して諦める事はせず懸命に己の出来る事をする少年少女達。その姿と共にハルはその状況をマイクで説明する中、横からカドマツがそのマイクを奪い取る。
≪地上にいる誰でも良い、聞いてくれ!≫
戸惑うハルを他所にカドマツはマイクを使って喋り始める。
この中継は地上に届いている。ならばせめて今見ている事しかできない自分の想いを地球に向ける。
≪この宇宙エレベーターは今、30年かけてようやく完成したものだ。今それが心無い者の手によって失われつつある。これから始まる宇宙の時代とその為の命綱である宇宙エレベーターをここでなくす訳にはいかないんだ!≫
今なお、留まる事を知らないウイルスに対してたった四機で戦い続けるゲネシスブレイカー達。今までとは段違いのウイルスの性能に、今までよりも少ない数を少年少女達は戦い続けているのだ。
≪今必死で戦ってるこいつ等に俺達がガキの頃、夢に見た未来を見せてやりたいんだ! こいつらに命を懸けさせるためにこれを作ったわけじゃないだろ! だから誰でも良い! 頼む! 力を貸してくれ!≫
ずっと空を見上げては憧れていた夢。それが叶いそうになった今、自分よりも下の世代に命を懸けさせて良い訳がない。思いの丈を離したカドマツはそこでマイクをハルに返却する。
・・・
一方、地上では静止軌道を外れ放流していくステーションに各国が対応を審議するなか、誰もが静止軌道ステーションの情報を知ろうと、そして何が出来るのかを奔走するなか自身の車に身を預け、携帯端末で先程のカドマツの演説を聞き、今もゲネシスブレイカー達の戦闘の様子を見つめているのは、かつて新シミュレーターのテストプレイで真武者頑駄無を使用していたあの男性であった。すると手に持っていた携帯端末に着信が入る。
≪軌道ステーションの中継は見ているかね?≫
「ええ、素晴らしい演説でした。感動で胸が張り裂けそうですよ」
相手はバイラスであった。
電話越しのバイラスも中継映像を見ているのだろう。バイラスの問いかけに、言葉とは裏腹にその口元にはニヒルな笑みが浮かんでおり、どこか馬鹿にするかのようだ。
≪君が作成したプログラム……組み込んでおいて正解だったねぇ≫
「あの彩渡商店街チームが決勝に進むのは予想してはいましたからね。彼らは我々のウイルスに縁がある。もしもこのような状況に陥れば、確実にガンプラバトルシミュレーターを使用してのウイルス除去はしてくるだろうとは踏んでました」
ゲネシスブレイカー達の戦闘の様子を見て、電話越しにでもバイラスが愚かしいとばかりに嘲笑うようにクツクツと笑っているのが分かる。釣られるようにどこか醒めたような笑みを浮かべながら答える。
「そろそろ頃合いでしょうね。試作タイプがどれだけのモノかとても楽しみですよ」
腕時計を見ながら、ゲネシスブレイカー達が戦闘を開始した時刻からどれだけ経ったのかを確認すると、焦がれて静止軌道ステーションを見るように空を見上げるのであった。
・・・
「っ……なんだコイツはっ!?」
今までずっとセキュリティソフトが変化したウイルスと戦闘を繰り広げていた四機だが、突然、割り込むように攻撃を仕掛けて来た勢力があった。ウィルが確認すれば、そこにはセキュリティソフトとは違うウイルス群の姿が。
「あれは……ッ!!」
攻撃を仕掛けてきたのはネバーランドやテストプレイの際に見たことのある強化ウイルスであった。その数も今までは一、二体だったと言うのに今確認できるだけでもその数は二桁は軽く超えるであろう。その強化ウイルスの性能を身をもって知るために気づいた一矢は顔を苦々しく歪める。
「っ……!」
だが現れたのは強化ウイルスだけではなかった。
ゲネシスブレイカー達を狙い、無差別に放たれたビームを回避してその元を見やる。そこには湾曲を描いた機体が右腕の溶断破砕マニピュレーターを此方に向けていた。
「あいつ、何なのっ!?」
突如、強化ウイルスと共に現れた謎の機体。
アザレアフルフォースがすかさず銃口を向けてガトリングの弾丸を放つが、そもそも回避する事もせず、被弾したとしても目立った損傷はなくミサは唖然とする。
≪来るぞっ!≫
今度はお返しだとばかりに謎の機体は再び溶断破砕マニピュレーターを向けると、強化ウイルス達も動き出しロボ太が注意を促す。
しかし次の瞬間、謎の機体の溶断破砕マニピュレーターは左右に分身して無数のビームを放ち、ゲネシスブレイカーは驚愕しつつも回避する。
「何なんだ、コイツはッ!?」
攻撃はそれだけでは終わらず、上方にビーム砲を向けてビームを放ったと思えば無数の分裂してビームの雨が降り注ぎ、被弾したウィルは苦々しい表情を浮かべる。
だが今なお、謎の機体は己の周囲に二つのスフィアを出現させて、そのスフィアからも射撃が開始される。
「──ならッ!!」
咄嗟に危険だと判断したゲネシスブレイカーはスーパードラグーンを展開して謎の機体に差し向ける。全てが意志を持ったかのように対象である謎の機体に向かっていくスーパードラグーンに謎の機体はいまだ微動だにする事がなく、己の機体に備わっているピット兵器を展開する。
「っ……!? これは……!」
スーパードラグーンとピットが対抗し合うなか、ゲネシスブレイカーのスーパードラグーンの方が次々に破壊されていくではないか。そのあまりの精度に一矢は既視感を覚える。
「ならッ!!」
だが其方に気を取られる訳にはいかない。
その高機動を存分に発揮しつつ謎の機体を翻弄するように動いていたゲネシスブレイカーは隙を見計らい、バーニングフィンガーを発現させると紅蓮に輝くマニビュレーターを向けて突っ込む。
「……なっ!?」
しかし謎の機体は溶断破砕マニピュレーターを向ける事で、バーニングフィンガーを受け止める。思わず言葉失う一矢ではあったが、拮抗したエネルギーは爆発し、爆炎のなか後方にゲネシスブレイカーは飛び退く。
「──ッ!!」
再び一矢の目が驚愕で見開かれた。何と遂に本格的に動き出した謎の機体はゲネシスブレイカーに突っ込み、左腕のマニビュレーターを高速回転させているではないか。
──流星螺旋拳
一矢はその動きに覚えがある。放たれたその一撃をビームシールドを展開して防ぐが、完全に受け止める事は出来ず、ゲネシスブレイカーはメモリ空間の柱を突き破りながら吹き飛ぶ。
「一矢っ!!」
彼方に吹き飛んだゲネシスブレイカーにミサが一矢の名前を叫び、援護に向かおうとするが、セキュリティソフトだけではなく、強化ウイルスも相手にしなくてはいけない状況に思うようには動けず、悲痛な表情を浮かべる。
・・・
「……どういう事だ……ッ!」
吹き飛んだゲネシスブレイカーはようやく柱に激突し、埋まるように機体を沈めている。しかしそれさえ許さぬ謎の機体は己を攻撃手段にしたかのように左腕を突き出し、疾風を纏ったような突きを放つ。咄嗟に避けるゲネシスブレイカーだが先程まで己がいた柱は完膚なきまでに破壊されてしまう。
「お前は何なんだ……ッ!?」
倒壊した柱を背に不気味にこちらに向き直る謎の機体。
その姿にゾクリとした恐怖感を覚えるが、それだけで終わらず、己の周囲に展開したピットの一部を胞子のように周囲に飛散させ、残ったピットを全てゲネシスブレイカーに差し向ける。残ったスーパードラグーンをスラスターウイングに戻しながら、精度の高いピットの攻撃を避けながら一矢は答えのない問い掛けを口にする。
「なんでお前にそんな戦い方が出来るッ!?」
自分を襲うこのピットの動きは英雄を、そして放たれた技は覇王を思い起こさせる。いや酷似していると言っても過言ではないだろう。
故に一矢は苦戦を強いられる。ピット兵器の操作も放つ技も自分を上回るのだから。だが、それだけに留まらず、空に一発撃てばたちまち降り注ぐビームの雨や周囲に展開したスフィアからの猛攻など予想の出来ない攻撃を繰り出してくる。
そして今も己の周囲に旋回するホロプログラムの刃を出現させ、接近を許さない。それでも戦わなくてはいけない。ゲネシスブレイカーは戦闘を再開するのであった。
・・・
「二機のガンダムブレイカーの戦闘データを元に作り上げた試作戦闘プログラム……。あの二機の戦闘データを解析して組み込み、いかなる脅威に……それこそ例えどのガンダムブレイカーが相手でも対応できるように作成したプログラム……アンチブレイカーとでも名付けておこうか」
ネバーランドではガンダムブレイカーネクストの、そしてテストプレイではバーニングガンダムゴッドブレイカーが驚異的な力を発揮した。だが同時に事細かい戦闘データを得た。
お陰でこれまでにない程の性能を秘めた戦闘プログラムを作成することが出来、ゲネシスブレイカーと交戦する映像を見つめながら謎の機体をアンチブレイカーと名付けたのは先程までバイラスと電話でやり取りをしていた男性であった。
「同じフィールド上にいたとしてもわざわざガンプラバトルと言う同じ土俵に立つ必要はないからね」
ゲネシスブレイカーに向けて、腕を振り小さなブラックホールのようなものを放つアンチブレイカー。こんなものはガンダム作品に似たものもない。先程の分身するビームやスフィア、自機を旋回するホログラムの刃などこの男性が作成して組み込んだものだ。
ブラックホールに引き寄せられまがらでも抵抗するゲネシスブレイカーだが、バーニングゴッドブレイカーから得た聖拳突きのデータから放たれる一撃によってゲネシスブレイカーは吹き飛ばされる。まさに常識を壊し、非常識な戦い方がゲネシスブレイカーを襲う。
「とはいえガンプラバトルシミュレーターはお遊びなんだ。楽しむことを忘れちゃいけないよ。コンテニューなんて出来やしないがね」
圧倒的なアンチブレイカーに翻弄されるゲネシスブレイカー。瞬く間に損傷が目立ってしまっている。その姿を見ながら、愉快そうに話す男性は空を見上げる。
「またとない今世紀最大のゲームだ。是非、クリアして最高のエンディングを迎えてくれ」
しかし不思議なことに自信満々な男性だが、ここでゲネシスブレイカーが敗北すると言う事も考えていないようにも見える。いやもっと言えば、このウイルス事件さえもだ。
期待の言葉を投げかけ、まるで他人のプレイするゲームを観戦するかのように携帯端末に映る静止軌道ステーションで行われる戦闘の映像を見つめるのであった。
アンチブレイカー
HEAD ギャプランTR-5(フライルー)
BODY ガンダムバルバトス
ARMS ターンX
LEGS アストレイブルーフレーム
BACKPACK レジェンドガンダム
ビルダーズパーツ
ファンネル(両肩)
レールガン(両腰)
カラーリング
マッシブパープル