機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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仮面を砕いて

 彩渡商店街チームとフォーマルハウトによる準決勝はどこまでも続くような煌めく星空の輝く荒野であった。既に戦闘は開始されており、轟音が鳴り響いている。

 

「手加減はしないよ。徹底的にすり潰すっ!」

≪望むところだッ!!≫

 

 二振りのGNバルチザンの先端部を展開して、粒子ビームを放つトランジェントに臆することなくバーサルソードと電磁ランスで切り払いながらバーサル騎士が接近していく。

 

「近づかせは──ッ!」

 

 粒子ビームを切り払い、物ともせずにトランジェントに近づいていくバーサル騎士にすかさずレギルスがライフルを構え、照準を定めて撃ち落とそうとするが、その前に無数のスーパードラグーンが迫る。

 すぐに察知したアルマはすかさずレギルスピットを防御フィールドとして展開することによってゲネシスブレイカーから放たれたスーパードラグーンによる波状攻撃を防ぐ。

 

「お返しよ」

 

 そしてそのまま桁外れに数の多いレギルスピットをゲネシスブレイカーに差し向ける。

 ゲネシスブレイカーの持ち味となる圧倒的な機動力を持ってしても、その襲いかかる数の多さには一矢も苦々しい表情を浮かべる。

 

「私も……っ!!」

 

 始まってすぐに激闘と呼べる身を削るバトルが行われている。アザレアフルフォースもすぐにゲネシスブレイカー達の援護に回ろうとするのだが、突如としてセンサーが反応した。

 

「……っ!!」

 

 バエルだ。スラスターウイングから噴射光を放って接近してきていた。

 アメリカでのバトルの時同様、こちらに捉えさせぬように相手を翻弄するような動きを交えながら、電磁砲をこちらに放ってくる。

 

「あの頃とは違うっ!!」

 

 かつてはまさに手も足も出なかった。だが、あの頃とは違う。自分だって成長したと言える程、様々な経験をしてきたのだ。すぐさまアザレアフルフォースは背部に取り付けたフラッシュバンを装備するとバエルへ向けて投擲し、アザレアフルフォースとの間に目が眩むような閃光が溢れる。

 

「へぇ、随分と小賢しい真似を覚えたんだねぇ」

 

 眩い閃光に反射的に一瞬、顔を顰めたセレナだがすぐに気にした様子もなく、笑みを浮かべながら、バエルの動きを切り返る。このままアザレアフルフォースに突っ込むつもりではあったが、まだ光が消えない以上は下手に突っ込まない方が良い。

 

 何か仕掛けてくるかと考えたセレナの予想は当たっていた。アラームが抜け、徐々に視界も閃光に馴染んでいくなか、ビームマシンガンの弾丸が迫り、すぐさまバエル・ソードの刃を盾代わりに素早く動かして払い落とすように防ぐ。

 

「強くなったって言ってよっ!」

 

 全てを防いだころにはアザレアフルフォースは驚くべきごとにバエルを相手にビームサーベルを引き抜いて迫って来ていた。咄嗟に鍔迫り合いの形で受け止めたバエル。すぐに次の手に出ようとしたが、アザレアフルフォースの脚部のミサイルポッドが展開し、切り払ったと同時に放たれたミサイルを電磁砲で破壊する。

 

「あはっ、そうだね。確かに見違えたよ」

 

 しかしそれもミサの計算のうちであったのか、爆炎を抜け出てビームマシンガンの弾丸が迫り、防ごうとはしたが、何発かは被弾してしまった。ビームマシンガンによる弾痕をモニターで確信しつつ、それでもセレナの表情から余裕が消える事はない。

 

 ・・・

 

「ったく、しぶといなぁっ!」

 

 一方、ゲネシスブレイカー達のバトルは継続されており、互いに損傷が目立つなか、二振りのGNバルチザンをランスピットに展開し、レギルスピットと共にゲネシスブレイカーやバーサル騎士に差し向けるわけだが、旋風竜巻蹴りやトルネードスパークなどで防がれ、モニカは苛立ち気に叫ぶ。

 

「っ!?」

 

 いつまでも旋風竜巻蹴りによる竜巻が続くわけではない。それが終われば、こちらのものだ。そう考えていたモニカだがその表情は驚愕に染まる。

 

 確かに旋風竜巻蹴りは永遠に続くものではなかった。

 しかし竜巻の中が光り輝いたかと思えば、旋風竜巻蹴りを繋ぎ技にゲネシスブレイカーが突っ込んできたのだ。

 

 視界に捉えきれぬ圧倒的な加速によって放たれたGNソードⅤの切っ先を半ば反射的に呼び戻したGNバルチザンで防ぐが、それでも覚醒による己の身を武器に変えたような突進は一振りのGNバルチザンを破壊する。

 

 残った一本のGNバルチザンを連結させるトランジェントだが、ゲネシスブレイカーは止まる事はなくそのまま体当たりをぶつけるとトランジェントの体勢が崩れ、そのままパルマフィオキーナを発動させた左腕がトランジェントの頭部を掴んだ。

 

「モニカっ!!」

≪させはせんっ!!≫

 

 アルマがすぐにでもモニカの援護をしようとビームバスターを放とうとするが、その射線上に割り込んだバーサル騎士はバーサルソードをブーメランのように投擲してきた為、シールドで上方に弾き飛ばす。

 

≪もらったッ!!≫

 

 しかしあくまで今のバーサルソードはブラフだったのだろう。

 既にバーサル騎士は電磁ランスを構えて突っ込んできており、既に距離は詰められていた。この距離ならば、ライフルで対応するよりもサーベルで対処した方が良いとすぐに判断したアルマはライフルを放棄し、マニビュレーターからビームサーベルを展開させる。

 

 しかし直前でバーサル騎士は己のマントを掴み、レギルスの視界を妨げるように覆い被せると、そのままマントごとレギルスピットを内蔵するシールドを装備した左腕目掛けて電磁ランスを突き刺す。

 

「やられた……ッ!!」

 

 そのままレギルスを蹴った反動で電磁ランスを引き抜き、マントを回収したバーサル騎士は上方へ弾かれたバーサルソードを掴み取るとそのままレギルスの左腕を切断し、落下していく左腕を見ながらアルマは忌々しそうに歯ぎしりする。

 

 ・・・

 

「このぉっ!!」

 

 パルマフィオキーナによって頭部を破壊されたトランジェントではあったが、その背部に光の翼をかたどったトランジェントバーストを発動させる。爆発的に性能を底上げしたトランジェントはゲネシスブレイカーを押し払い、そのまま胸部へ突き刺そうとする。

 

 しかし、そうはさせまいとゲネシスブレイカーは背部の大型ビームキャノンをありったけ発射して、その数発をGNバルチザンの持ち手に直撃させ破壊する。

 

 だがそれでもトランジェントは止まる事がない。

 マニビュレーターは破壊されたが、まだ両手首のビームサーベルを展開し、依然こちらを貫こうとする。それならばとゲネシスブレイカーはGNソードⅤを捨て、両手にバーニングフィンガーを発動させると真っ向からトランジェントのビームサーベルを粉砕し、そのままトランジェントを貫く。

 

「ごめん、お嬢様……っ!」

 

 両腕を失い、胸部を貫かれたトランジェントの背部の光の翼が露の如く消え去ると機体が限界に達し鮮やかなGN粒子を散らしながら爆散する。その刹那、力が及ばなかったことにモニカはセレナに謝罪の言葉を口にするのであった。

 

 ・・・

 

≪この距離ならば負けはせんっ!!≫

 

 残った右腕のマニビュレーターのビームサーベルを展開して、バーサル騎士に挑むレギルスではあったが、剣を扱った近接戦ではバーサル騎士の方が上手なのだろう。

 どんどんと激しさを増すバーサル騎士の剣技を前にレギルスは押されていき、バーサルソードと電磁ランスによる攻撃の嵐はレギルスを吹き飛ばす。

 

 距離が空いた事もあり、レギルスはレギルスキャノンを抱えるようにその銃口をバーサル騎士に向けるが、発射手前で投擲された電磁ランスがレギルスキャノンを破壊し、爆発する。

 

「……ここまでね」

 

 爆発によって大破に追いやられたレギルスはそれでもとビームバスターを放つが、バーサル騎士は盾装甲を前面に突進して防ぐと、そのまますれ違いざまにレギルスを両断する。悔しさはあるのものアルマは客観的に己の敗北を認めるのであった。

 

≪やったな、主殿っ!≫

「ああ、流石ロボ太。早くミサの援護に……」

 

 トランジェントとレギルスを撃破し、合流したバーサル騎士とゲネシスブレイカー。互いに称賛し合うなか、一矢は今もまた戦闘を続けているであろうアザレアフルフォースとバエルのもとへ急行する。

 

 ・・・

 

「きゃあぁっ!!?」

 

 しかし、訪れて早々に見たのは吹き飛ばされて、地面を削る中破状態のアザレアフルフォースの姿であった。

 

「確かに強くなってるみたいだね。でも……それは君だけじゃないよ」

 

 そうさせた相手であろうバエルは小破ながらも健在そうな様子で体勢を直すようにバエル・ソードを軽く振るう。

 確かにミサはセレナと初めてバトルをしたアメリカに居た時よりも飛躍的に成長したと言っても過言ではないだろう。しかしあれから期間を経て強くなったのはセレナとて同じことなのだ。

 

「ようこそ。どうやらモニカ達は負けちゃったみたいだね」

 

 アザレアフルフォースの傍らに降り立ち、ゲネシスブレイカーがアザレアフルフォースを支えて起き上がらせると、セレナはロストしたトランジェントとレギルスの反応を見ながら、さながら舞踏会に誘うかのようにバエルは両手を広げる。

 

「余裕だな」

「やる事は変わらないからね」

 

 あくまで飄々と余裕のある態度で笑みを崩さないセレナに一矢は鋭くバエルを見据えながら口を開くと、バエルは右腕に握られたバエル・ソードの切っ先を向ける。

 

「一矢……っ……」

「……俺達はチームだ。みんなが強くなったのはその為だろ」

 

 セレナとのいまだにある実力差にミサは苦々しい表情を浮かべると、一矢は安心させるようにアザレアフルフォースを支えながら、語りかけるとミサも安心したようにコクリと頷く。

 

 それを皮切りに彩渡商店街チームは弾かれるように動いた。

 バーサル騎士がバエルに先行すれば、飛び上がって覚醒したゲネシスブレイカーはスーパードラグーンを放ち、背後からアザレアフルフォースがビームマシンガンと大型ガトリングを発射する。

 

「ふぅん……まぁ、確かにチームらしい動きだ」

 

 仕掛けられた嵐ともいえる攻撃にセレナは笑みを作る事で細めていた目をスッと開くとバエルのツインアイは妖しく発光する。それと同時にバエルはマシンガンの弾丸を避けるように飛びあがるとまずは仕掛けられたスーパードラグーンによる波状攻撃を全てバエル・ソードの刀身によって弾くと、弾いた一部のビームを計算してスーパードラグーンを何基か破壊する。

 

 そのまま近づいてきたバーサル騎士のバーサルソードと電磁ランスを二振りのバエル・ソードによって受け止めるバエルだが鍔迫り合いは長くは続かず、そのまま小さな機体であるバーサル騎士に膝蹴りを見まい、そのまま片側の盾装甲を切断して蹴り飛ばす。

 

「ッ!?」

 

 だが、バーサル騎士を追撃するわけでもなく、その次の標的をゲネシスブレイカーに移したバエルは電磁砲を発射しながら接近する。電磁砲をビームシールドで防ぎつつもバエルに立ち向かうようにGNソードⅤを展開したゲネシスブレイカーはバエルと交差するが、ゲネシスブレイカーの片翼を破壊される。

 

「セレナちゃんッ!」

 

 三対一の状況でさえ無類の強さを見せるセレナ。しかしやはり一人では限界があるのか放たれたシュツルムファウストに動作が間に合わず、咄嗟に左腕を構えて防ぐが、被弾してしまい爆炎が上がる。すぐにでも爆炎を振り払おうとするバエルだったが、その前に爆炎を突っ込んできたアザレアフルフォースがビームサーベルを振りかぶる。

 

「確かにセレナちゃんが言ってたように弱いって苦しいよ……っ! でも、だから強くなりたいって思えるッ! 苦しかった思いも勝てなかった悔しさも全部ひっくるめて、今の私の強さに繋がってるッ!!」

 

 バエルとアザレアフルフォースの剣戟が続く。その中で放たれたミサの言葉にセレナの浮かべる笑みはピクリと反応する。

 

「セレナちゃんも私を強くしてくれた一人だよッ! セレナちゃんがいたから私は強くなれたッ!!」

「──ッ!」

 

 取り繕うこともなにもせず、ただあるがままに熱の入った言葉を吐き出す。

 その言葉にセレナの操縦桿を握る腕が震え、それがバエルの隙に繋がったのだろう。覚醒状態のゲネシスブレイカーによる光の刃とバーサル騎士のトルネードスパークをまともに受けてしまい、地面に真っ逆さまに叩きつけられる。

 

 地面に叩きつけられたバエルによって周囲に土煙が巻き上がる。

 三機がバエルの様子を伺うように、周囲に浮かび上がり、バエルの出方を見る。シミュレーターが終了しないと言う事は先程の攻撃を受けてまだバエルは撃破されてはいないのだろう。

 

「……っ……!?」

 

 しばらくして土煙が消え去る。隕石が落下したかのように広がっているクレーターの中心にバエルはいた。やはり無事ではないのだろう。その機体状況はもはや大破に近くいつ行動不能になってもおかしくなかった。これでさらに優勢にはなった。しかしそんな状況なのにも関わらず、バエルの姿を見た、ミサは恐怖で息を飲む。

 

「……勝たなくちゃいけないんだ……。ボクの戦い方で勝って……空っぽじゃないって証明しなくちゃ……。それに……弱かったら……誰も見向きもしてくれない……」

 

 火花と共に全身をスパークが散るなか、バエルは静かに立ち上がる。

 しかしその機体状況から、あちこちが軋み、さながら悲鳴のようにも聞こえる。そのシミュレーター内で俯いたセレナはうわ言のように呟く。

 

「……ボク……勝つから……っ……

 

 そしたら……褒めてくれるよね……?

 

 認めてくれるよね……?

 

 ボクを……見てくれるよね……?」

 

 頭部の半分が潰れ、フレームさえ剥き出しになっているのにバエルはそのツインアイを輝かせるなか、セレナの笑みは消え去り、感情が乏しいかのように虚ろな表情で頬に涙を流しながらモニター越しに輝く星空に手を伸ばすと、そのままバエルは近くに落ちているバエル・ソードを手に取る。

 

「……」

 

 その姿を見て、ミサは意を決したように下降しクレーターの中に降り立ち、バエルと向き合う。ゲネシスブレイカーとバーサル騎士は見届けるようにただ静かにクレーターの外から成り行きを見守る。

 

「……終わりにしよう、セレナちゃん」

「……うん……」

 

 アザレアフルフォースはビームサーベルを構え、ミサはセレナに声をかけると、虚ろなままセレナは頷き、バエル・ソードの切っ先を向けると両者はどちらかと言うわけでもなく同時に飛び出し、互いの刃を突き出す。

 

 バエル・ソードの刃は確かにアザレアフルフォースを貫いていた。

 それと同時にアザレアフルフォースのツインアイから輝きが消え機能を停止する。しかしそれだけではなかった。アザレアフルフォースのビームサーベルもまたバエルを貫いているではないか。

 

「ありがとう、セレナちゃん……。私、セレナちゃんもいたお陰で強くなれた」

「……ボクの……お陰……?」

「うん……。セレナちゃんに会えて……本当に良かった……」

 

 アザレアフルフォースとバエルは互いに身を預け合うようにそのまま動きを静止させる。バトルが終わるその刹那、ミサはセレナに会えたことに感謝すると、僅かに驚いたように表情を動かすセレナに、ただ微笑みを浮かべると彩渡商店街チームの勝利で幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「──……お姉さまっ!!」

 

 試合終了後、アルマやモニカが気を利かせてセレナを一人にすれば彼女はテラスで窓から見える海を眺めていた。すると彼女に声をかける者がおり、見やればこちらに駆け寄ってくるシオンの姿があった。

 

「……ごめん……シオン……。ボク……負けちゃった」

「いえ、お姉さまの勇姿はわたくしの目に、そしてこの脳に確かに焼き付いておりますわ」

 

 準決勝で敗北をしてしまったセレナは申し訳なさそうに自嘲気味に笑っていると、そんな事はどうだって良いとばかりにシオンは首を横に振ってセレナを包み込むように抱き着く。

 

「わたくしは……お姉さまがどのような想いで生きているか推し測れません……。それでも……お姉さまはわたくしの唯一無二の憧れですわ」

「シオンも……”ボク”を見ていてくれるんだね……」

「わたくしはお姉ちゃん子ですもの」

 

 力なくシオンに抱きしめられたセレナはシオンからの言葉に胸が熱くなるのを感じるが、それを堪えながらシオンの背中に手を回しながら嬉しそうに呟くとシオンは微笑を浮かべながら答える。

 

「セレナちゃんっ!!」

 

 そんなアルトニクス姉妹の空間の中、またしてもセレナに声をかけられる。

 見てみれば、セレナを探していたのか、汗ばんだ様子のミサが笑顔で手を振って駆け寄ってきた。

 

「セレナちゃん、本っ当に強かった! 一矢達がいなかったら負けてたと思う……。でも、また強くなるよっ!! 今度はセレナちゃんに一人でも負けないくらいっ!! だからセレナちゃん、また私とバトルしてねっ!!」

 

 勝利を収めたものの、ミサはセレナに一人で勝てたと思ってはいない。寧ろ負けたと考えていた。セレナの実力を再度、認めているミサにセレナはシオンから離れながら、その言葉に耳を傾ければ、ミサは今度は負けないと闘志を燃やしながら晴やかな笑みを浮かべ、再戦を誓うように手を差し伸べる。

 

「……お姉さまを満たしてくれるのは、きっとただ強いだけの存在ではありませんわ。切磋琢磨し、時には支えになるであろうライバルの存在だと、わたくしは思いますの」

「ライバル……?」

 

 不意に傍らに立つシオンが微笑みながら、セレナに試合前に言われた言葉の自分なりの答えを話すと、セレナはライバルの言葉を口にするとシオンは頷く。

 

「……そっか……。うん……。ボクで良かったら、いつでも」

 

 己に言い聞かせるように呟いた言葉に、セレナは頷くとミサから差し伸べられた手を掴み、握手を交わすとミサは嬉しそうに「うん! うん!」と頷く。

 

「はじめまして」

 

 ミサと握手を交わすセレナの表情に笑みが浮かび上がる。

 それは仮面を被ったような笑みではない。優しく、どこか儚いながらでも少女らしい可愛らしさを感じる笑みだ。これが彼女の本来の笑顔なのだろう。

 とはいえ、その言葉の意味はミサには分からず、きょとんとした様子のミサに苦笑しながら、なんでもないと口にする。

 

「ありゃ……何か良い感じになってんの?」

 

 愛らしい笑顔を浮かべながら握手を交わす二人の光景を感動したように両手を組んで見つめていたシオンだが、ふと声をかけられて見てみれば夕香とセレナの様子を見に来たアルマやモニカの姿があった。

 

「あら、どうしたのかしら?」

「いや、お姉さんが負けたからアンタが自棄になってまた海に飛び込もうとするんじゃないかなって」

 

 何故、夕香がわざわざここにと、先程まで感動していた顔を見せないように顔を背け目尻を拭っているシオンの問いかけに夕香は何げなく答え、その言葉にシオンは人を何だと思っておりますの、と顔を引きつらせる。

 

「それより夕香。わたくし、今回よい刺激を受けておりますの。ボヤボヤしてたら置いていきますわよ」

「刺激ねぇ……。まぁ分からんでもないけど。けどアンタにドヤられても鬱陶しいからねぇ……。置いてかれるのはアンタかもね」

 

 まあ良いですわと仕切り直し、セレナとミサを見ながら心底楽しそうに夕香に挑発的に笑いかけるとシオンの言葉に同意しながらでも夕香は不敵な笑みを浮かべるのであった。




セレナ・アルトニクス

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