機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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夢の舞台へ

「ミサ……」

 

 宇宙では小惑星要塞アクシズが地球に迫るなか、地上では自分の名前を口にする一矢が目の前にいる。彼の熱の篭った瞳を向けられ、ミサは体が熱くなるのを感じながら息を飲む。

 

「い、一矢……!?」

 

 アクシズが赤熱化していき、地球に降下しようとするなか、一矢はそっと優しく繊細なものでも扱うかのように自身の肩を掴む。それだけでも胸が高鳴っていくと言うのに、一矢の顔が少しずつ近づいてくる。

 

「ま、待って! まだ心の準備が……っっ!?」

 

 一矢との距離は鼻先が触れるか否かの距離にまで迫っている。心の準備が出来てはいない。だけど嫌ではない。その証拠に無理に一矢を突き放そうとしない。二人の影は重なり、宇宙のアクシズから虹色の光があふれ出る。

 

 ・・・

 

「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!?」

 

 ……まぁ全部、夢だったわけだが。

 ここはメガフロート上に建てられた宿泊施設。そのベッドの上で飛び跳ねるように起きたのはミサであった。いつもは2本に結んでいる髪もそのまま背中に垂らしており、寝起きの為か、ところどころで寝癖が目立つ。

 

「ゆ、夢……っ!? アクシズは!? サイコフレームの共振は……っ!!?」

 

 寝汗がミサの身体を濡らす中、額の汗を拭い周囲を見渡す。

 中々、彼女にとって刺激の強い夢を見ていたせいか、心臓がバクバクと鼓動する中、周囲に広がっているのは昨晩、就寝前に見ていた光景と同じ為、今のは夢であったのを理解する。

 

「はあぁぁぁぁっっ……!? なんとゆう夢をぉぉ……っっ!?」

 

 先程の夢を思い返して、オーバーロードしたかのようにベッドの上でゴロゴロと転がって悶絶する。よくよく思い返してみれば、なんという滅茶苦茶な夢を見たのだろう。そのままアザレアでアクシズを押し返そうとして爆発してしまいたいくらいだ。

 

「うぅぅっ……」

 

 それもこれも全部、昨日、一矢と互いの呼称が変わったせいだろう。

 あの時の柔和な表情を浮かべる一矢を思い出して、転がっていたミサは掛け布団の裾を掴んで悶えている。確かに距離は近づいたとは思うが、別に呼称が変わった程度だと言うのに、何という夢を見てしまったのか。赤面するミサは熱を冷ますように、そのまま掛け布団に顔を埋めるのであった。

 

 ・・・

 

「……なんかあったの?」

 

 予選を終えた今、今日はメガフロートでの休みを兼ねた本選のトーナメントを決める抽選の日だ。パーカーのポケットに手を突っ込んで、トーナメントが決定するのを待っている一矢は先程からいつもより僅かに距離を取って、ちらちらと一矢を見てそわそわしているミサに問いかける。

 

「べ、べべべ、べつにぃっ!? ちょーいつも通りな感じぃっ!?」

「……違うでしょ、明らかに」

 

 外見こそ、いつもの2本に結んだ髪と前髪のヘアピンなどは同じなのだが、もみあげを弄りながら上擦った声であらぬ方向を見て答える。何かあったのかなんて言われても、隣の一矢とサイコフレームの共振めいた夢を見たなんて言えず、何も知らない一矢は呆れたようにため息をつく。

 

「……いつものミサの方が良いんだけど」

 

 消えるようなか細い声でボソッとこぼした一矢だが、それは近くにいるミサにも聞こえており、途端に顔が熱くなっていくのを感じる。

 

(最近、一矢がデレ過ぎて困る困らない)

 

 どこかしゅん……と寂しそうにしている一矢に、ぷしゅーと湯気が立つほど頬を朱く染めたミサは一矢に見られないようにと、両手で顔面を覆う。

 武者修行を終え、再会した時から一矢との僅かな壁も感じなくなった。今の一矢に面食らう事も多いが、それでもやはり嬉しい部分は多々あるのだろう。

 

(なんかあったのかって聞きたいのはこっちなんだけどなぁ……)

 

 そんな一矢とミサを傍から見ながらカドマツはやれやれと髪を掻きながら、隣のロボ太と顔を見合わせる。

 カドマツは一矢とミサの呼称が変わった場面に居合わせなかった為に、酔い捨てで呼び合い始めた二人に寧ろ一矢がミサに言った質問を投げかけたいくらいだ。

 

≪それではトーナメントの発表を行います≫

 

 そんな彩渡商店街チームや他の代表チームの耳にコントロールAIのアナウンスが流れる。すると、モニターには本選のトーナメント表が表示される。

 

「ほら、発表されてる」

「いたたたた……っ!!?」

 

 トーナメント表を見て、各チーム様々な反応を見せている中、一矢はいまだに顔を顔を覆っているミサの耳たぶを軽く引っ張りながら意識をトーナメント表に向けさせる。

 

「しょ、初戦からなんだ」

「……相手はアメリカ代表、らしいな」

 

 表示されるトーナメント表、彩渡商店街チームの名前は第一試合に記されており、対戦相手の欄となるその隣にはアメリカ代表チームの名前が。

 

「──そういうわけだ。何があっても恨みっこなしだ」

 

 対戦相手がアメリカ代表であると知った一矢達に声をかけたのは、そのアメリカ代表の莫耶であった。その隣にはアメリアもいる。

 

「しかし、大きくなったなぁ」

「えっと……なにが……?」

 

 そんな莫耶ではあるが、ミサを見てじみじみ呟き、ミサは何のことか理解できず顔を顰めて戸惑っている。

 

「彼、昔、彩渡街に住んでいたの」

「アメリカトーナメント、見てたんだよ。うっすらとだったんだけど、チームの名前とかで思い出したんだよ」

 

 ミサは一矢を見るが、一矢も知る由がない。そんな二人にアメリアが莫耶の言葉の意味を教える。現在は日本国籍を捨て、アメリカに帰化している莫耶ではあるが、その前は彩渡街に住んでいた。当時通っていた商店街のトイショップの店の幼い娘をうっすらと覚えていたのだが、それが現在、その商店街の名を背負ってチームでバトルをしているとは驚いた。もっともミサにとってはまだ幼い頃の話であり、今一ピンとは来ていない様子だ。

 

「……なんであれアンタの言葉通りだ。なにがあっても恨みっこなしだ」

 

 とはいえ、いつまでも話をしているわけにもいかない。今日は休みとはいえ、本選に向けてアセンブルシステムの調整も行っておきたいし、やる事はあるのだ。一矢は言葉を締め括ると、莫耶達も頷く。

 

 ・・・

 

「ジャパンカップもそれなりじゃったが、比じゃないのぉ……」

「流石は世界大会と言うか……」

 

 このメガフロートはガンプラバトルの世界大会の会場であると同時に、一つのガンダムのイベント会場でもある。様々な人種の人間が周囲を行き来するなか、メガフロートに訪れていた厳也や咲は圧倒されている。

 

「影二さんと一緒にいるのは久しぶりですね」

「そうだな……」

「彼女が出来たからってそっちばっかりに夢中になられても困るよね」

 

 また近くにはかつての熊本代表チームもおり、皐月は軽く影二に笑いかけると、影二が頷いている隣で陽太が茶化すように口を開く。

 

 ・・・

 

「物販も凄いな、こりゃ……」

 

 また限定商品が売られている物販コーナーでは、時間ごとに一定人数が案内される程長蛇の列が出来ており、そこに並びながら秀哉達はいつ買えるかも分からない行列にため息をつく。

 

「そう言えば、プロのモデラーやファイターの一部のガンプラって商品化されてるんだよね?」

「ああ、フルアーマーダイテツや翔さんのガンプラなんかもキット化されている筈だが……」

 

 列には風香や碧も並んでおり、退屈を紛らわすために小話をしている。その内容はかつてGGFでアナウンスが流れていた企画のものだ。

 

「つまり風香ちゃんもプロになれば、エクリプスの商品化もワンチャン……!?」

「まぁ……あり得るかもしれんが」

 

 有名なファイターやモデラー達のガンプラが商品化されているのであれば、プロになって名が知られ、ファンが多く出来れば夢ではないだろう。だが、そこまで行くのは夢のような話だ。

 

「夢が広がるねぇ……。購入特典のグラビアは水着まででOK?」

「却下だ。この不埒者め」

 

 自身のエクリプスが商品化された時の事を妄想しているのだろう。

 身を屈め、グラビアのようなポーズをとりながら碧にウインクをする風香に碧はその頬を引っ張り、「いたぁーいっ!?」と風香は涙目で悲鳴をあげる。

 

 ・・・

 

「これで良いかな?」

 

 メガフロートの広間には翔も来ており、訪れて早々ずっと彼のファン達からサインをねだられ、手慣れた仕草でささっと書いて、微笑みながら手渡すと軽く手を振る。今のでようやく落ち着いた。

 

「有名人は辛ぇなぁ」

「知らないうちにこうなってたんだよ」

 

 その光景を腕を組んで壁に寄りかかって見ていたシュウジは茶化すように軽く笑いながら声をかける。翔を慕う者は異世界にもいる。もっともそれだけではなく、翔の存在に影響された者が起こした戦いにトライブレイカーズが身を投じたと言うケースは多くある。そんな翔はシュウジの元に歩み寄りながら肩を竦める。

 

「レーアお姉ちゃん、この白雪姫(スノーホワイト)ってアイス、美味しそう」

「真っ白ね……」

 

 その近くで販売されているフードコートではリーナはとあるアイスクリームを指さす。

 カップから何から何まで純白のアイスクリームを見て、レーアは頬を引き攣らせる。

 

「けど、明日かぁ……」

「そうだな」

 

 リーナとレーア、そして近くにいるルルを何気なく見ていたシュウジと翔であったが、不意にシュウジは明日行われるであろう本選について触れると、翔はシュウジの隣に立って壁に寄りかかる。

 

「どう思います?」

「ここは世界一を決めるファイターにとっての夢の舞台だ。当然、本選にもなれば彼が考える予想も悉く覆されていくだろう」

 

 本選で一矢は一体、どれだけの活躍を見せてくれるのか。予想が付かない世界大会の本選にシュウジは隣の翔に尋ねると、翔も一矢達を応戦しているものの、予想が難しいのだろう。

 

「だが……彼は一人じゃない」

「ああ。友と戦い、共に討てって奴っすね」

 

 一矢だけなら予想に反することがあってどうしようもなくとも、彼は一人で戦っているわけではないのだ。翔の言葉にシュウジは笑みを浮かべながら頷く。

 

「ああ、そうだ……。そして俺達もそうだった」

「アイツにも背中を押してくれる仲間達がいる」

 

 シュウジの言葉に頷き、翔はシュウジと共にそれぞれの中のかけがえのない仲間達に思いを馳せる。近くにいるレーア達も、そしてヴェル達も、仲間達がいたから、戦い抜いてこれた。

 

「後は最後まで誇り(プライド)をぶつけるだけだ」

「そいつを最後まで見届けましょうか。俺達の後輩の戦いを」

 

 立っていられるように背中を支えてくれる仲間はいる。後は最後まで誇り(プライド)を世界にぶつけるだけだ。明日、行われるであろう本選に翔もシュウジも心待ちにするのであった。


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