「やったっ! やったよーっ!! 初めて予選通過出来たぁっ!!」
予選終了、合計エースポイントが規定順位内に入るどころか1位になり決勝に進む事が出来た。一矢にとってはまだまだ通過点の一つに過ぎないが、初めて予選を突破できたことにミサは手放しで喜んでいる。
ミサはその笑顔を一矢に向ける。
ミサの笑顔を見た一矢は心なしか眩しそうなものを見る目でもどこか嬉しそうだ。
「……驚いた、マジで予選通るとはね」
そんな彩渡商店街ガンプラチームにカマセがやって来る。
去年、自分が身を置いていたと言うこともあって去年と同じように予選落ちすると思っていたのだろう。心底驚いているように見える。
「どう? 自分が捨てたチームの活躍を見た気分は!」
「俺はプロのガンプラファイターを目指してるんだ。より良い環境を選ぶのは当然だろ、商店街なんかのドノーマルなアセンブルシステムなんかで上が目指せるかよ」
チームを捨てたカマセにミサは問いかける。
彼女自身、チームを捨てたカマセに思うところがあるのだろう。言ってやったと言わんばかりだ。しかし、カマセは特に気にした様子もなくあっけらかんと答える。
「またそれ!? お金とか技術力がなくたって腕とかスピリッツ的な何かで頑張れば良いじゃん!!」
「だったらその金と技術力が可能にするものを見せてやるよ」
カマセの主張に対しては一矢は一理あると思ったのか口出しすることもせず黙っている。
確かに趣味や仲良しこよしでガンプラバトルをやるならまだしも、上を目指すならカマセのようなやり方も間違ってはいないだろう。先立つものとはよく言ったものだ。だがそうは思わないのかミサは食って掛かる。しかしそれすらもカマセは一蹴する。
「おい新入り。さっさと戻ってガンプラのセッティングしろって」
カマセを探していたカドマツがカマセの後ろからこちらに向かいながら声をかける。その様子はまたカマセがミサ達に絡んでいる姿を見て、どこか呆れているようにも見える。
「カドマツさんよ、あれ使うわ」
「やだよ」
こちらに来たカドマツにカマセが切り札でもあるのだろう。
金も技術力もないミサ達を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言うと、カドマツは了承することもなく即答する。
「断わるのかよ!? もう啖呵切っちゃったから使わせてくれよ!」
「俺はなぁ腕とかスピリッツ的な何かで頑張る感じが好きなんだよ。ああいうの好みじゃないの、タウンカップで使うもんじゃない」
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。カ
ドマツに頼むカマセの姿はどこか滑稽だ。カドマツは先程のミサの言葉を聞いていたのか、その言葉を言いつつ、何よりタウンカップの場で切り札を使うべきではないと拒否する。
「勝つのが目的なんだから良いだろ!? アレじゃなきゃ本選でないからなっ!!」
「はぁっ……。分かった、分かったよ……。じゃあセッティングするぞ」
だが啖呵を切ってしまった以上は引けないのかまるで駄々っ子のようにカドマツに詰め寄ってくる。
その姿にはミサも一矢も呆れるなか、流石にチームとして大会に出ている以上、ここで抜けられるのは痛手だ。折れたカドマツはため息をつくとカマセを連れてセッティングを行うために移動しようとする。
「良いか、金と技術力が可能にするものを見せてやるよッ!!」
「さっき聞いた」
カドマツと移動する中、捨て台詞を吐く。
しかしもうミサの中のカマセの評価はただ下がりなのか呆れ気味だ。
≪まもなく合計エースポイント上位2名による決勝戦が始まります。チームハイムロボティクスと彩渡商店街ガンプラチームは準備してください≫
カドマツ達が去った後、アナウンスが放送される。
複数のミッションによって獲得されたポイント、もっとも高かったのはカドマツとカマセが所属するハイムロボティクス、そして一矢とミサの彩渡商店街ガンプラチームだ。二人は早速、準備に取り掛かるのだった。
・・・
「イッチの試合はどうなった?」
「レンじゃん、おひさー。今から始まるよ」
決勝戦が間近に迫った頃、褐色肌の銀髪ショートの女性を連れたレンが会場に足を運んでいた。一矢の知り合いということもあり、面識もある夕香が声をかける。
「あれがレンが言ってた人?」
「ああ、俺の自慢の友達だ」
レンが連れてきた褐色肌の女性……ジーナ・M・アメリアはモニターに映る一矢を見ながら、レンに問いかけるとレンは笑顔で頷き一矢の勝利を信じる。
「一矢、勝てるかな……?」
「さーね。アタシは最後まで見届けるだけだよー」
決勝は間もなく始まる、
貴弘が不安げに誰にというわけでもなく問いかけると、夕香はその視線をモニターに映る一矢に向けながら答える。別に夕香にとって一矢が勝とうが負けようがどうでも良かった。ただ彼が前に進む姿を家族として見届けるだけだ。
・・・
「……勝てるかな」
カマセの切り札がミサは気になっていた。
口ではあぁ言ったものの実際、金も技術もない自分達とは違い、ハイムロボティクスは恵まれた環境だ。不安な気持ちがある。それを一矢に通信でポツリと打ち明ける。
「そんな気持ちなら負けんじゃない」
一矢はチラッとモニター越しのミサを一瞥すると静かに答える。
一矢の中で負けるなどというのはないのだろう。それを知ったミサはクスリと笑い頷く。
「ブレイカーⅢ……出るよ」
シミュレーター同士のマッチングを終え、ブレイカーⅢはカタパルトにホログラム投影される。深く腰を落とし、ブレイカーⅢは発進するのだった……。
・・・
決勝の場に選ばれたのは宇宙に浮かぶコロニーの外壁だった。
ブレイカーⅢとアザレアのシミュレーターにそれぞれ敵機を知らせるアラートが鳴り響く。どこから来るのか、二人が意識を集中させると巨大な影が上方から舞い降りる。
「来たかよ! 見ろ、この圧倒的なガンプラをッ!!」
そこには赤と白を基調にしたガンダムがいた。
そのパーツ構成はユニコーンガンダムやオーライザーなどが使われている。GNソードⅢとライフルを装備していた。
だが別にこれだけならば特に問題はない……が……。
「PG機体!? タウンカップにそんなの出すチーム見たことないよッ!?」
ミサはカマセが駆るガンプラを見て信じられないと言わんばかりに声を上げる。
カマセが持ち出してきたのは
通常、大体のチームが
「うちもこれを出すのは予想外だったぜ……。だけどなお前に現実、見せてやりたくてな!!」
PG機体はティンセルガンダムとブレイカーⅢ達のシミュレーターに表示されている。カマセはPGから見下ろすHGを見て気分が良いのか、GNマイクロミサイルとライフルを同時に発射し攻撃をしかける。
ブレイカーⅢとアザレアが回避する中、真っ先に前に動いたのはブレイカーⅢだ。
GNマイクロミサイルとビームを紙一重で避けてティンセルへと向かっていく。
「チョロチョロと……ッ!!」
カマセは紙一重で避け、どんどんこちらとの距離を縮めていくブレイカーⅢを見て苛立つ。攻撃が当たらないのだ。それでも尚、ブレイカーⅢはティンセルに近づき、その足元で右に左に動き回る。
「そこッ!」
その間にミサのアザレアが飛び上がって、二つのジャイアントバズーカを装備して引き金を引く。砲弾は真っすぐティンセルへと向かい、直撃、爆発するが流石にPGだけあってダメージは少ない。
(……普通のPGならダメージの通りはもっと少ない筈……。それに動きもぎこちない……)
ティンセルを引き付ける為にあえて前に出た一矢はブレイカーⅢでティンセルを翻弄する中で、ジャパンカップなどでもPGと交戦した事もあるのか経験則を元に考える。
先程のカマセの言葉やその前のカドマツとのやり取りを見て、急遽、使用することを考えるならばアセンブルシステムはその場で組んだようなものだろう。攻略法にするならばまずはそこだろう。
「……まっ……結局は乗り手次第なんだけど」
カマセの戦い方はPGの性能に頼ったものだ。
撃破は難しくはないだろう。ティンセルの股下を潜り抜け、GNソードⅢを展開して関節を狙い攻撃を仕掛ける。
「クッソ!! 舐めんなよッ!!」
関節を攻撃するブレイカーⅢとその間にこちらに砲撃をするアザレア。このままではいくらPGと言えど耐久値が危うい。カマセはEXアクションと呼ばれるオプションを開き、あるEXアクションを選択する。ティンセルの動きを見て、何かすることを見抜いたのか、ブレイカーⅢは急遽、その場から退避する。
「まだだ、勝負はこれからだッ!」
宙に飛んだティンセルはオーライザーを使って膨大な緑色の粒子を放つ。
広範囲に及ぶその攻撃はブレイカーⅢやアザレアを飲み込もうとしていた。
流石にこれに飲み込まれるのは危険だ、タイミングが遅れたアザレアは飲み込まれてしまうだろう。
「一矢君っ!?」
だがそんなことはさせなかった。
ブレイカーⅢはアザレアを掴んで共に逃れようとしたのだ。
思わずミサが一矢の名を叫ぶなか。その間に最大速度で広範囲攻撃から何とか逃れることには成功した。
「金と技術なしで……勝てるのかよ?!」
逃れることには成功したのだが、その間にティンセルはライフルを捨てGNソードⅢを展開して斬りかかってくる。ブレイカーⅢとアザレアを裂くように放たれた一撃にそれぞれ左右に別れて回避するのだが……。
「あぁぁっ!!?」
アザレアを捉えたのか、ティンセルの大きな横振りの一撃が直撃して、ミサは悲鳴を上げるなか、アザレアはコロニーの外壁に叩きつけられてしまう。
「潰れろよッ!!」
標的をアザレアに切り替えたティンセルはライフルを捨てたマニュビレーターを握り、大きく振りかぶって叩き付けようとする。このままではミサがやられる。誰もがそう思った。
「……ッ!」
一矢は諦めたくなかった。
言葉には絶対に出さないが新しく出来たチームメイトと共にこの決勝を勝ちたかった。それは何よりミサが喜ぶ顔がまた見たかったからだ。
羨ましかった、
眩しかった。
不器用な自分とは違い、太陽のように明るい彼女が。
自分はよく誤解をされる。
人と関わろうとしてもどうやって接すればいいのか自分の趣味ぐらいでしか自分を表現できない。だがそれでも他人からの評価が怖く、自分を卑下してそれで良いと過ごしていた。
俯いて歩いてきた人生だ、
友達なんて少ない。
だけどミサは違う。
周りにも人がいて彼女は前を見つめている。自分のようなゴミみたいな存在とは違うのだ。
(……ゴミでも良い……。だけど……ッ!!)
彼女はそんな自分を選んで手を伸ばしてくれた。
こんな自分でも彼女と共に進む事で出来るのだ。ならばミサは絶対に守る。それがゴミのような自分でも出来ることの筈だ。
「……う……?」
ミサも自分がこのまま撃破されると思っていた。
しかしいつまでも撃墜を知らせる表示が流れない。
思わずギュッと閉じてしまった目をゆっくりと開く。そこには両腕でティンセルのマニュビレーターを受け止めるブレイカーⅢの後ろ姿があった。
「なんだと……ッ!!?」
カマセは目の前でPGのマニュビレーターを受け止めているブレイカーⅢを見て、目を見開いて驚く。いやそれはカマセだけではない。ミサもこの場で観戦している全ての者が驚いていたのだ。
(……コイツの顔……曇らせたくない……ッ!!)
両腕でティンセルのマニュビレーターを受け止める俯いていたブレイカーⅢはゆっくりと頭部を上げる。そのままティンセルを振り払うように大きく手を広げると辺り一面にブレイカーⅢを中心に赤色の衝撃波が放たれ、巨躯を誇0るティンセルは大きく仰け反った。
「……ッ!!」
後ろで見ていたミサは口を開けたまま、目を見開く。
自分を守るように両手を広げて立つブレイカーⅢの機体はまるで太陽のような赤色の光を纏っているからだ。
超常現象か何かか、こんなこと見た事がない。ブレイカーⅢはただ静かに肩越しにアザレアの無事を確認すると、ティンセルに向き直るのだった……。