機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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第七章 誇りをぶつけろ いざ夢の舞台へ
再会


 宇宙エレベーター

 

 太平洋赤道上に浮かぶメガフロートから静止軌道ステーション。そして先端のカウンターウェイトへとテザーと呼ばれる糸でつながっている。人類が30年と言う時間を費やして作り上げた来たるべき宇宙時代への扉である。

 

≪ようこそ、宇宙エレベーターへ。私は宇宙エレベーターコントロールAIです≫

 

 その宇宙エレベーターが建造されたメガフロートは今、コントロールAIのアナウンスが流れるなか、ガンプラバトル世界大会の会場となっている。ここで勝ち進んだ者が静止軌道ステーションでの決勝に臨むことができる。

 

≪本大会の進行管理を任されることになりました。僅かな期間ですが、みなさまよろしくお願いします≫

「AIが大会の進行管理?」

「宇宙エレベーターは全てがAIがコントロールしてるんだ。カーゴの発着スケジュールからデブリ回避マニューバまでな。イベントスケジュールをインプットして、進行管理させてるんだろう」

 

 メガフロートには当然、彩渡商店街チームの姿もあり、AIが発した内容にミサが不思議に思いながら首を傾げていると、技術者として、宇宙エレベーターのあるこの場にいる事に興奮を感じさせながらカドマツが答えてくれる。教えてもらった宇宙エレベーターやコントロールAIについて、ミサは「ハイテクだねー……」と感嘆としている。

 

「──やあ来たね」

 

 そんなミサ達に声をかけてくる者がいた。

 その声を聞いた瞬間、感嘆としていたミサの表情が厳しいものとなり、そちらに視線を向ければウィル、そして傍らにはドロシーの姿があった。

 

「約束、守ってよね。商店街は絶対に潰させないから」

「……へぇ、お嬢さん。見違えたね」

 

 ここまで来るのに何もしてこなかった訳ではない。

 もうジャパンカップで何も出来なかったあの頃とは違うのだ。ウィルの目をまっすぐ見据えて静かながら強く言い放ったミサの面構えを見て、ウィルは僅かに驚いている。

 

「いや……思っていた以上に楽しくなりそうだ。行こう、ドロシー」

「はい、それでは皆さん。これから宇宙エレベーター見物がありますので」

 

 ウィルの言葉に今一つ意味が届いてはいなかったのか、不可解そうにしているミサに言葉通り楽しそうに口角を上げながら、ドロシーを引き連れて、この場を離れようとする……のだが、ドロシーの別れ際の言葉で何とも締まらない形となってしまった。

 

「は、わたくしこのような巨大建造物を前にして舞い上がっているようです」

 

 何とも言えない表情を向けているウィルに気づいたドロシーは心なしか僅かに声色に高揚を感じさせながら答える。彼女にはもう何も言うまいと嘆息したウィルはそのままドロシーと共にこの場から去っていった。

 

「──いたいた。こんにちわ」

 

 一瞬、張り詰めそうになった空気が和らぎ、一息つけるかなと思っていたところ、矢継ぎ早に声をかけられる。

 其方の方向を見やれば、ジャパンカップ時同様、特徴的なコスチュームを身に纏ったハルが駆け寄って来ていた。

 

「あれ!? あなた確かMCの人!」

「そうよ。覚えててくれて嬉しいな」

 

 また、しかもこのような場所で再会するとは思ってはいなかった。

 ミサはハルを指さして吃驚していると、ハルもちゃんとミサ達を覚えているのか、クスリと笑う。

 

「なんでこんなところに?」

「あなたたちは日本一なのよ? そのチームが世界大会に出るって事でレポーターとして派遣されてきたの」

 

 しかし、何故わざわざジャパンカップのMCであったハルがここにいるのか、尋ねるミサにハルは久方ぶりの再会に喜んで微笑みながら、その理由を明かす。

 

「さっそくで悪いけど、ちょっとそのままそこにいて」

 

 とはいえ、声をかけたのはただ再会を喜ぶだけではない。

 ハルは素早くミサ達にその場に立っているよう指示を出すと、返答を待たずして手に持ったマイクのチェックやカメラスタートとなにやら段取りを始める。

 

「みなさん、こんにちは! わたしは今、太平洋に浮かぶメガフロートの上に立っています! そう、みなさんご存知、宇宙エレベーターに来ているんです!」

「い、いきなりなに……?」

「ここでこれから開催されるガンプラバトル世界大会! そこに出場する我らが日本代表チームの方にお話を伺ってみます!」

 

 ミサ達に背を向けたハルは突然、先程までミサ達に接していたキャラとは一変して、ジャパンカップの時のMCのような振る舞いを始めると、本当に突然の事に困惑したミサが答えを求めるように一矢を見るも、一矢も良く分からず顔を顰めている。しかしハルは困惑する一矢達を他所にレポーターのように前置きをおくと、そのまま此方に振り返ってくる。

 

「はい、カメラに向かって本大会への意気込みをどうぞっ!」

「え……え……? カメラなんてどこに……?」

「すぐ近くを飛んでるよ、カメラ搭載のマイクロドローンが。アナタ達の正面をずっとフォローしているから、前を向いて話せばOK」

 

 自分達にマイクを向けて、カメラに向かってと言われたところで周囲を見渡してもカメラマンどころか周囲にカメラらしき物体は見当たらない。

 そんなミサ達の疑問にハルはウィンクしながら答える。確かによく目を凝らしてみればハルの背後に小さなそれらしきものが飛んでいた。

 

「……」

「ちょっ!?」

 

 なるほど、そういう訳かと合点のいった一矢は面倒事を避けるように、そのまま流れる動作でミサの後ろに移動して、インタビューを全てミサに丸投げする。目立つのは好きじゃないし、喋るのも苦手だから仕方ないよね。

 

「え、えーっと……優勝目指して頑張ります」

 

 一矢が後ろに隠れてしまい、必然的にハルのマイクはミサに向けられる。

 これまでジャパンカップを優勝し、インタビューを受ける機会がなかったわけではないが、やはり慣れているものではない。ぎこちない笑みを浮かべながら、ミサは何とか当たり障りない意気込みを答える。

 

「ハーイ、OK! じゃあわたしは他の取材があるから。応援してるからねっ!」

 

 彩渡商店街チーム、いや、日本代表チームのインタビューを終えたハルは時間も押しているのだろう。軽く手を振ると、慌ただしくこの場を去っていく。

 

 ・・・

 

「うわぁー……色んな人がいる……」

「すっごいね、こりゃ……」

 

 地球規模での流行を見せるガンプラバトル。その世界大会ともなれば注目度は高く、決勝を間近で観戦する事は叶わないが、それまでの観戦だけでも世界各国から大勢の人々が集まってくるほどだ。その中には裕喜や夕香達もおり、賑わいを見せるメガフロートに唖然としている。

 

「あれ、シオンは?」

「そう言えば……」

 

 ふと裕喜はここに来るまでは一緒に行動を共にしていたシオンの姿がない事に気づく。

 言われてみれば、いればいるでうるさい存在がいない為にやけに静けさを感じるとは思っていた夕香は周囲を見渡すが、どこにもシオンの姿は見当たらない。

 

 ・・・

 

 そのシオンは代表プレイヤーが使う出入り口の周辺にいた。

 しかし、誰かを探しているのか。やたらと周囲をキョロキョロと見渡している。

 

「──シオン」

 

 ずっと探しているのだろう。いつもの彼女に反して、その表情はうっすらと不安さを滲みだしている。しかし、そんなシオンの耳に自身の呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お姉さまっ!!」

 

 その声を聞いたシオンの表情はたちまち花が咲いたように明るくなり、そちらの方向を見やる。そこには白い肩出しのトップスにロングカーディガンを羽織ったセレナが軽く手を振っている。セレナを瞳に捉えたシオンはたちまち人懐っこい子犬のようにセレナに飛びつくように抱き着いた。

 

「シオンは甘えん坊だねぇ」

 

 セレナに抱き着いたシオンはそのままセレナの胸に顔を埋めて、セレナの背中に手を回して確かにセレナを感じるように力を篭める。抱き着いた後、一言も喋らず、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

「お姉さま……ずっとお会いしたかったぁっ……」

「……うんうん、ボクも会いたかったよ」

 

 セレナは抱き着いてくるシオンの後頭部を撫でながら、気が済むまで好きにさせる。

 シオンは一人、日本にホームステイしている。いつもは出鱈目ながら気丈に振る舞っている彼女でも、やはり多少なりともホームシックにはなっていたのだろう。中々、セレナから離れようとしない。

 

「……ふぅ……もう大丈夫ですわ。しかし、みっともない醜態をお見せしてしまって……」

「シオンならいくらでも抱きしめてあげるよ」

 

 時間も経過し、ようやくセレナから離れる。

 しかし、再会して早々、抱き着いた事もあって気恥ずかしそうにしおらしく頬を染めているシオンにセレナはその頬に触れ、軽く撫でながら微笑む。その笑みはいつもセレナが浮かべている笑みとはどこか違った。

 

「……?」

 

 しかし、そんな姉妹の再会を他所にふとシオンの携帯に着信が入る。シオンが誰かと思って、携帯を取り出せば相手は夕香であった。

 

 ・・・

 

「お姉さんに会ってたんだ」

「……まったくお姉さまとの再会に水を差すとは、なんておたんこなすなんでしょう」

 

 夕香達と合流したシオンとセレナ、そしてアルトニクス姉妹が会う事を知っていたので、席を外していたアルマやモニカも合流し、一般用に開放されているテラスの一括でお茶をしていた。

 顛末を聞いた夕香にシオンは不機嫌さを隠さずに紅茶を飲んでいる。とはいえ、夕香はシオンが姉と再会している事も知らないし、シオンも言っていない。シオンもシオンで今から姉に会いに行くと言うのも気恥ずかしくて言えなかったのだろう。

 

「このビスケット、良い塩加減だね」

「お褒め頂き光栄です」

「ちなみにジャムは私が作ったんだよ、お嬢様」

 

 セレナは用意されたビスケットを食べ、飲み物に絶妙にマッチするビスケットに舌鼓をうっていると、用意したアルマは胸に手を置いて微笑むと、自作したジャムが入った近くの小瓶を指しながらモニカが私も褒めろとばかりに伝える。

 

(あの人がシオンのお姉さんなんだ……)

 

 飲み物を飲みながら、ふと夕香は真ん前に座るセレナを見やる。

 ずっと笑みを絶やさない点など雰囲気こそ違うものの、顔立ちや飲み物を飲むだけにせよ、一つ一つの動作に品があり、やはりシオンの姉であるのが分かる。

 

「そう言えば、君が雨宮夕香ちゃんなんだよね」

「えっ? まぁ……」

 

 何気なくセレナを見ていた夕香だが、不意にセレナと目が合う。

 思わずドキリとした夕香にセレナは話しかけると、何故、自分の名前を知っているのかと身構える。

 

「シオンからのメールで名前だけは知ってたんだよ。会えて嬉しいな」

「えっ……? なんか変なこと言ったりとかしてるんじゃ……」

 

 何故、夕香の名前を知っているのか、その理由を話す。

 シオンが日本に来ても定期的に連絡は取っていたのだろう。しかし、相手はシオンなのだ。自分の事を何て言っているか分からない。夕香はシオンをチラリと一瞥するがシオンは特に気にした様子もなく飲み物を飲んでいる。

 

「全っ然。日本で大切な友達が出来たってそれはもう嬉しさが滲み出るようなメールが毎回毎回──」

「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっっっっ!!!!!!?」

 

 優美に飲み物を飲んでいたシオンではあったが、セレナの言葉と共に彼女がよく口にする高貴だのエレガントだのとは程遠く、飲み物を噴き出してしまい、向かい側に座っていた裕喜にかかってしまう。

 

「シオンが友達の事を話すのは珍しいからね。君たちよっぽど仲が良いんだねぇ」

「な、あぁぁ……っ!!?」

 

 もろにかかってしまった裕喜がアルマやモニカに濡れた個所をハンカチで拭かれながら文句をぶうぶうと口にする中、セレナは噴出したシオンを知ってか知らずかお構いなしに話すと、その隣のシオンは耳まで真っ赤にして震えている。

 あくまで敬愛する姉だけに教えたのであって、それをしかもよりにもよって夕香にだけは話されたくなかったのだろう。明らかに動揺して狼狽えている。

 

「これからもシオンとは仲良くしてあげてね」

「……ふーん。お姉さんに言われたら仲良くするっきゃないねぇ。シ・オ・ン?」

 

 そんなシオンをよそにセレナはまだ日本に滞在する予定のあるシオンの事を夕香達に頼むと、話を全て聞き終えた夕香はたちまち心底楽しそうに悪戯っ子のような笑みをシオンに向ける。

 もう、シオンのHPは0に等しいのだろう。そのまま自棄になったようにテラスの窓から広がる海に飛び降りようとする。

 

「ちょっ!? なにやってんのさ!?」

「離しなさいっ!! これ以上生き恥を晒す気はありませんわっ!! わたくしはここで散って、バイオセンサーの力の一部になりますわああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 海に飛び降りようと窓を開けようとしているシオンの背中を羽交い絞めしながら必死に止める夕香だが、もはや自暴自棄になっているシオンは涙目になりながら暴れ続ける。

 その姿を遠巻きで見ながら、セレナは「本当に仲が良いねー」とどこ吹く風かビスケットにジャムを塗るのであった。


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