「夏祭り……?」
聖皇学園ガンプラ部の部室がやって来た真実が聞かれたのは、近々開催される夏祭りについてであった。
「おう、何か商店街の方で執り行われんだと。あそこの近くでタウンカップの会場もあったろ? だからガンプラバトルの催しもあるって話だ」
作業スペースとして用意された長机に腰掛けながら拓也が鞄から取り出したのは近々行われる彩渡商店街近くでの夏祭りのチラシであった。
拓也の説明を聞きながらチラシを受け取った真実が目を通すと、確かにチラシにはガンプラバトルの催しもあるとの記載がある。
「くじ引きで決めた三人組のチーム戦か……」
「やっぱ雨宮達が活躍してるからかな。あの商店街、少しずつ活気を取り戻しつつあるって話じゃねぇか」
チラシに記載されている内容を読み上げる真実に、わざわざガンプラバトルの催しを行う事を踏み切ったのは一矢達彩渡商店街チームの活躍によって集客が見込めると言う判断からくるものだろうと拓也は笑う。
「それで、出るんだろ?」
「……えっ?」
「なにとぼけた顔してんだよ。雨宮だって出るだろ。ここの部の連中も出るって言ってるぜ。最も勇の野郎は家族旅行でしばらくいねぇみたいだけどな」
表裏それぞれ捲りながらチラシの内容に目を通している真実に拓也が問いかける。出ると言うのは、勿論ガンプラバトルだろう。呆けた表情の真実に拓也が笑いながら周囲を見渡す。拓也の言葉通りなのだろう、思い思いにパーツを加工している部員の中にチーム内の勇の姿はない。
「今日の午後にくじ引きがあるらしいし、部のみんなで行こうぜ」
壁時計を見やりながら、提案する拓也。確かにチラシに記載されている日にちに他の予定もないし、折角の夏祭りなのだ。参加するのも悪くはないだろう。真実はコクリと頷く。
・・・
「わりといるんだね……」
チーム分けのくじ引きが行われる彩渡商店街のトイショップに向かう為、商店街の入り口となるアーチを潜りながら目的の場所に向かう。遠巻きでミサの実家でもあるトイショップが見えるわけだが、そのトイショップはくじ引きもあってか、混雑していた。
「あっ、真実ちゃんっ!」
店頭で用意した長机でくじ引きの受付を行っていたのはミサとロボ太であった。真実達に気づいたミサは此方にブンブンと手を振ってくる。
「混んでるんだね」
「まぁね。でも、なんだか昔の商店街に少しずつ戻ってるみたいで嬉しいよ」
ピークは越えているのだろう。順番待ちもそこそこにミサと話しながらトイショップ内に入店していき、中で見知った顔を見かける。
夏祭りと言う事もあって人が行き交う商店街の様子を見ながら、ミサは嬉しそうに表情を綻ばせいた。
「私達もくじ引き、いいかな?」
「もちろんっ!」
そんなミサの表情を見て、真実は微笑ましそうに目を細める。
ミサがこの商店街に活気を取り戻すためにチームを結成したのは知っている。その効果は如実に表れていると言ってもいいだろう。真実の申し出にミサは笑顔で手作りの抽選箱を向ける。
・・・
「……なんで一緒なの?」
「いやいや、俺が聞きたいわっ!!」
くじを引き終え、誰が自分のチームとなるのか、名簿などを見ている中、真実はくじの番号で同じになってしまった拓也に露骨に嫌そうにジトッとした目を向ける。
折角、たまには違う人間と組めるチャンスなのに、これではさほど変わらないではないか。しかしそれは拓也とて同じなのか、理不尽だとばかりに叫ぶ。
「ん……? ちょっと待って。その番号は……」
火花を散らしていがみ合っている真実と拓也であったが、ミサは真実達の番号を見て、不意に何かに気づいたように既にくじ引きを終えた参加者の名簿を見やる。そこにはくじの数字も記載され、備考欄には組むことになった相手の名前も記されている。
「うん、間違いない。その番号は一矢君と同じだよ」
「……っ!?」
何度か照らし合わせるように真実達のくじと名簿を見ていたミサだが、確かなことを確認したように頷き、真実と拓也が一矢と同チームとなった事を告げる。
運命のいたずらか、奇しくもかつての聖皇学園ガンプラチームが集まってしまい、真実は目を開く。
「あれ真実ちゃん、嬉しくないの?」
「えっ……?」
「そりゃお前……いつもなら……【キャーッ雨宮くぅーんっ! 私と人生のチームを組んでぇーっ】とか言ってそうじゃねぇか」
驚いて、言葉を失っている真実に意外そうにミサが声をかける。
唖然としている真実に横から己が思い描く一矢に対する真実の姿を真似しているのだろう。身をくねらせて話す拓也であったが、真実に無言でももの裏を蹴られて悶絶している。
「う、嬉しいよ……。勿論……」
言葉とは裏腹に真実の表情は複雑そうだ。
確かに嬉しいことに違いないが、やはり今朝見た夢の影響は強いのだろう。
あの夢を見なければ、もっと反応が違ったのかもしれない。結局、その日、真実の様子は変わらぬまま解散となってしまう。
・・・
「雨宮君……」
その夜、パジャマ姿の真実はベッドに身を預けながら、一矢の事を想う。
かつてリージョンカップでミサ達に敗れた際、自分には一矢とチームを組む資格はないと実感しつつも、いつかは一矢とチームを組みたい……。そんな想いを漠然と抱いていた。しかしそれが現実となり、気持ちの整理がつかなかった。
【疲れた】
「……っ!」
不意に脳裏にかつて一矢が口にした言葉が過り、真実は苦々しく顔を顰める。
あんな事を言わせてしまった自分が一矢とチームを組んでしまって良いのだろうか。一矢の件に関して、いまだに自分を責め続ける彼女の中で葛藤が生まれる。
「……?」
そんな中、ふと真実の携帯に着信が入る。
何気なく見やれば相手は一矢であった。慌てて身を起こして、携帯の画面を見やる。どうやらメールによる連絡のようだ。
【夏祭りのバトル、楽しみにしてる】
ミサから連絡を受けたのだろう。
一矢から送られたメールはたったそれだけの文面であった。しかし、たったそれだけの文面で真実の肩は震える。
「……雨宮君が楽しみに……してくれてる……?」
唇が震える。
自分がこんなに悩んでいると言うのに、一矢は自分と共にバトルが出来る事を楽しみにしてくれているのだ。社交辞令のようなものなのかもしれない。いや一矢がそんなに気が使えるかは疑問だが、それでもこういったメールを送ってきてくれたのだ。
「だったら……いつまでも迷ってられないよね」
一矢が折角、こう言ってくれているのだ。
本当に一矢と一緒にチームを組んでいいのか何て悩んでいる場合ではない。自分が出来るのは、メールの文面のように一矢に、楽しんでもらう事だろう。
「……それに……あの頃とは違うから」
いつまでも悩んでいたって正解なんて出てこない。
でも、一矢を想うこの気持ちだけは嘘じゃない。それにもうあの頃とは違う。あれからずっと迷路に入ったような己の心は迷い続け、躓いて、出口を見失う事があったが、それでも出口となる答えに続くヒントは得て来たのだ。
真実の視線の先には己の机の上に飾られているG‐リレーションが。しかしG‐リレーションの外見はかつてのリージョンカップの時とは大きく異なっていた。
・・・
「はぁー……やっぱり混んでるねー」
夕暮れの夏祭り、多くの人で賑わう中、黒を基調に華やかな模様があしらわれた浴衣を着た夕香が周囲を見渡している。やはり夏祭りだけあって普段、商店街の方には来ない人々も来ているようだ。
「……で、取れるの?」
そんな夕香の目の前には同じく青い模様が入った白の浴衣を着たシオンが露店の金魚すくいの前で屈んで、無数の金魚の姿をじっと目に捉えていた。
「金魚すくいなんてまずやった事ないでしょ。こーいうポイって破けやすいと思うけど」
「ふふんっ、わたくしの心明鏡止水 されどこの掌は烈火の如く、ですわっ!」
シオンの手には器とポイが握られており、どうやら金魚すくいをやろうとしているようだ。出来るとは思っていない夕香に、シオンは自信満々に答え、真っ赤に燃えて轟き叫びそうな勢いで金魚が入った水槽にポイを入れる……のだが、すぐに破けた。
「ぴゃあああぁぁぁぁぁっっ!? なんでですのぉぉっ!!?」
「……そりゃ考えなしに烈火の如くやればそうなるでしょ」
破けたポイを見ながら、信じられないとばかりに叫んでいるが、一方でやっぱり、こうなったかと夕香は嘆息するのだが、シオンは巾着から金を取り出そうとする。
「……まだやんの?」
「当たり前ですわ! 燃え上がれ闘志 忌まわしきポイを越えて、ですわっ!!」
新しいポイを手に入れたシオンは今度こそと鼻息を荒くするなか、呆れたように見ている夕香を他所にシオンは今度は光って唸って輝き叫びそうな勢いで息巻く。
・・・
「……だいじょぶ?」
「……ふふっ……財布を殺した少女の翼という奴ですわ」
数分後、夕香の隣を歩くシオンは虚ろな目であった。
どうやら結局、あの後、金魚を取ることは出来なかったようだ。あまりの様子に夕香が話しかける。
金魚すくいで使う額など高が知れてるが、それでもシオンは使う予定もなかった予想以上の出費をしたにも関わらず手に入らなかった事にそのまま自爆しそうな様子で心折れているようだ。
「夏祭りだからってはしゃぎ過ぎだっての……」
「おーい、夕香ちゃーん、シオンちゃーん!!」
虚ろな目でふらふらとした足取りのシオンに夕香は思わず再び嘆息していると、先の方から呼び声が聞こえる。見やれば、此方に手を振ってくるミサの姿があった。
「もうすぐガンプラバトルが始まるよっ!」
「そういやそうだね。確かイッチはまなみん達とチームを組んでるんだよね。ってきりミサ姉さんは結構、複雑な感じなのかなって思ってたんだけど」
どうやらミサは夕香達を呼びに来てくれたようだ。
ガンプラバトルの会場まで並んで歩きながら、ふと夕香は一矢達の話題を出し、からかうようにミサを見る。
真実が一矢に好意を寄せているのは一目瞭然。少なからず一矢を想っているであろうミサはさぞや複雑な心中だと考えていた夕香だが、どうにも今のミサにそのような様子は感じさせない。
「えっ? いやだって一矢君とはいつでも一緒にバトル出来るしね。寧ろどんなバトルになるのか楽しみだよ」
「流石正妻。余裕だね」
「せ、正妻!? ち、違うよ、そーいうんじゃ……!!」
普段とは違う環境で一体、どんなバトルになるのか楽しみにしているミサであったが、夕香はくつくつと笑いながら悪戯っ子のような笑みを向けると、夕香の言葉に赤面したミサは否定しようとするが「まあまあ」と夕香のペースに飲まれてしまうのであった。
・・・
「こうして三人でバトルをすることになるたぁな」
数分後、会場では多くのファイターが集まっており、チームを組むこととなった一矢、真実、拓也の三人は一か所に集まり、拓也がその手に新たなガンプラであるBD the.BLADE ASSAULTを握りながら感慨深そうに話すと二人は同意するように頷く。
「雨宮君……最高のチームにはなれないけど……でも、一緒にバトルがして良かったって思えるチームになるよう戦うから」
一矢にとって最高のチームが何なのか分かっている。そしてそこにいる少女のことも……。自分は彼女には及ばない。だが、少なくとも過去とは違い、後悔させないチームとして全力を尽くすつもりだ。真実の言葉に一瞬、呆気に取られた一矢だが頷くと三人はシミュレーターに乗り込む。
「今なら……どこまでも行ける気がするから……」
シミュレーターに乗り込んだ真実は新たに改修を施した新たなG‐リレーションをセットする。かつて一矢について行けばと思っていた。だが今は違う。
「恋を知ったんだもん……。どんなに迷って間違ったとしても、この気持ちだけは嘘じゃないから……っ!!」
あの頃とは違い、未来導く光のように自分は迷ってばかりでもチームを支えられるくらいには成長したつもりだ。
もう間違えるのは怖い。それでもこの想いと、今の自分なら正解でなくとも間違いは絶対に起こさないと信じているから。
「G‐リレーション パーフェクトパック行きますっ!!」
マッチングが終了し、カタパルトが表示される。かつて何度も過ちを犯した。
だけど、だからこそその過ちから学んで強くなったつもりだ。重心を落とし、真実流に施したパーフェクトパック装備のG‐リレーションは飛び出していくのであった。
ガンプラ名 G-リレーション パーフェクトパック
元にしたガンプラ Gセルフ
WEAPON ビームライフル(Gセルフ)
WEAPON ビームサーベル(Gセルフ)
HEAD ガンダムAGE-2
BODY Gセルフ
ARMS ケルディムガンダムGNHW/R
LEGS V2アサルトバスターガンダム
BACKPACK ダブルオーライザー
SHIELD シールド(AGE‐1)
また例によって活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】にマイハンガーのリンクが貼ってあります
<いただいた俺ガンダム>
八神優鬼さんからいただきました。
機体名 BD the.BLADE ASSAULT
ヘッド BD2・3号機
胴体 Zガンダム
手 F91
足 アストレイレッドフレーム改(2本の刀を初期装備)
バックパック GP03
武器 試製9.1m対艦刀 アトミックバズーカー
オプション バックパックに双刀