機動戦士ガンダム Mirrors   作:ウルトラゼロNEO

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30000UA記念小説
ふたりのまほう


 彼と初めて出会った時の事は今でも覚えている。

 

 目が眩むほどに眩しくて私の視界全てを奪うほどの一線を越えた力。

 

 思えば私はこの時から、彼に心を奪われていたのかもしれない。

 

 

「……なんか用?」

 

 

 これが私、垣沼真実と雨宮一矢の始まり。

 

 これから話させるのは彼にとって0とも言えるお話し。

 

 

 ・・・

 

 私立聖皇学園は創立してから、まだ五年も経っていないほど日が浅い。校舎内の備品の数々も年季という言葉が程遠いほど傷も少ない。春の温かな陽気も相まって中々心地の良いスクールライフが送れる。

 

「はぁっ……どうしよっ……」

 

 ……のだが、私、垣沼真実の心はとても寒い。開かれた窓から風が差し込めば、体だけではなく心まで震えさせてしまうほどだ。思わず口からは溜息交じりの憂鬱な言葉が出てきてしまう。

 

「夕香ーっ、帰りにクレープ食べに行こうよ、駅前に来てるんだって」

 

 そんな私の心など知ってか知らずか周囲は会話を弾ませている。

 それもそうかな。だって二学年とはいえ、別に仲が良い訳でもないのだから。

 

「クレープねぇ……。カラオケに誘われてるし、その後なら良いよ。ってか、裕喜も来る?」

「行く行くっ!」

 

 クラスには中心人物となる人間が必ずいる。

 私のクラスでは、常に誰かしらが傍にいるであろう彼女、雨宮夕香だろう。

 ゆるふわな茶髪のセミロングに、真紅の瞳はとても目を引く。毎日、黒を基調にしたブレザーの制服は日によって着こなしが変わっており、同じ制服を着ているとは思えないほど、外見も合わさってとっても可愛らしい。

 

 まさに今時の女子高生と言う言葉が似合う彼女は常に飄々としており、クラスであそこまでの輪がある程、人気がある割には掴みどころがない。今も机に腰掛けて、短く履いたスカートから時折、覗かせる健康的な白い太ももは男子にとって刺激が強いのだろう。チラチラと視線が集まっているのを感じる。可愛らしい外見だけではなく、無意識に人を惑わす仕草など小悪魔という言葉が似合う。

 

「やー、まなみん。随分、難しい顔してるね」

 

 そんな小悪魔は私に声をかけてくる。

 彼女はこうやって気ままに話しかけてくるのだ。

 もっとも彼女は分け隔てなく誰に対しても接してくるため、とても話しやすい。私も例外ではなく、少なからず私は彼女を友達だと思っている。

 

「……うん。実はね、ガンプラ部が成果を出せてないから廃部もあり得るって」

「ありゃぁ……ソイツは大変だ」

 

 私の心を寒がらせる原因。

 それは私が一年の頃から所属しているガンプラ部についてだ。

 もはや地球規模で大流行しているガンプラブームはガンプラバトルが火付け役となっており、毎年多くの大会が開かれている。当然、大会ともなれば質の高いファイター達が集まっており、創立から存在するガンプラ部だが、万年負け続きでいよいよ廃部の危機に陥っていた。もっともガンプラに特に興味のなさそうな夕香の反応はまさに他人事でしかないわけだけど。

 

「……そう言えば、夕香ってさ。その……お兄さんもガンプラバトルやってるって聞いたんだけど……」

「やってるよ。もしかしてイッチを勧誘すんの?」

 

 夕香と話していると、彼女の双子である男の子が浮かんでくる。

 実際にガンプラバトルをやっているところを見た訳ではないけど、ふとそんな話を聞いた事があった。私はそのまま窓際を見やる。

 

「……」

 

 雨宮一矢。夕香の双子である彼は夕香とは対照的に一人でいる事が多い。

 今も窓際の自分の机で何をするわけでもなく頬杖をついて窓の外を見ている。しかし目の前の夕香の双子と言うだけあって、整った精悍な顔立ちは女子受けは高く、クラスの男子の外見の話ともなれば名前が必ず出てくるくらいだ。

 

 日差しに照らされ、吹く風が彼の髪を撫でるなか、ただ頬杖をついて窓の外を見ている。たったそれだけなのにまるで神聖なものを見ているかのような錯覚を味わう。まさに絵になっているのだ。

 

 お陰で彼に声をかける者は少なく、元々人とのコミニケーションを取ろうとしない彼は一人でいる印象しかない。小悪魔が夕香の評価なら、彼の評価はミステリアスと言ったところか。夕香はその評価を聞くたびに爆笑して否定するけど、そう思わせる魅力はあると思う。だって今もなにを考えているか分からないのだから

 

(……お腹空いた)

 

 本当になにを考えているのかな……?

 

「まぁイッチが強いかどうかは分からないけど、暇な時はゲーセンにいるから気になるんなら行ってみれば?」

 

 夕香に横からまた声をかけられてピクリと震えてしまった。

 べ、別に雨宮君に見惚れていた訳じゃないし、少し見てただけだし……。まぁでも夕香の言う通りなのかもしれない。今は藁にも縋りたい想いなんだから、彼が強ければ強いに越したことはない。

 

 ・・・

 

 ……と思っていた訳なんだけど、いざゲーセンでモニターに映る彼のバトルを見たら私は圧倒されてしまった。正直な話。私なんかよりも断然強いと言ったって過言ではなかった。

 

「あのっ……」

 

 鮮やかなバトルは瞬く間に過ぎていき、シミュレーターから出てきた雨宮君と目が合い、私は思わず声をかけてしまった。一応、クラスメイトであるという認識はあるのか、私の顔を見て立ち止まってくれた。

 

「……なんか用?」

 

 会話も何もなくただゲームセンターの雑多音だけが耳に入るなか、人の顔だけ見て何も言ってこない事に雨宮君は顔を顰めながら、初めて私に口を開いてくれた。

 

「と、突然、ごめんね……。あのっ……凄い強いんだね……」

 

 いざ面と向かってしまうと、言うべきことは分かっていてもどうにもすぐに言葉は出てこなかった。けど雨宮君は褒められる事には慣れていないのか、そっぽを向いて照れ臭そうに頬をかいていた。

 

「その……良かったらガンプラ部に入部してみない……?ガンプラ部は今、廃部の危機なの……。雨宮君が良かったら……」

 

 そんな雨宮君が子供みたいで可愛らしくて、少し私の中の緊張が解れていった。

 落ち着いた私はそのまま雨宮君を勧誘する。あれだけ強いのなら申し分なんてないし、確か雨宮君は部活にも入ってなかった記憶がある。彼と一緒にバトルをすれば見た事ない場所に連れて行ってくれるってそう感じた。

 

「……良いよ。前々から気にはなってたし」

 

 雨宮君が一体、どんな性格なのか、正直分からない。

 その気だるげな瞳から得られる情報は正直に言えば、断られるかもしれないという不安さ。けど、そんな不安を彼自らの口で消し去ってくれた。

 

「い、良いの……!? 今まで入ってなかったからガンプラ部に興味はなかったのかなって……」

「……人付き合い上手くないし……」

 

 この二年間、雨宮君がガンプラ部に立ち寄った事はなかった。

 だからすんなりと受け入れてくれたのは予想外だった。思わず聞き返すタラ、雨宮君はまたそっぽを向きながら、ばつの悪そうに顔をしていた。

 

「それじゃあ……よろしくね」

「……ん」

 

 それが何だか可愛らしくてクラスでの評価なんて当てにならないのを感じながら私は知らず知らずに微笑みながら、雨宮君に手を伸ばす。

 今までそっぽを向いていた雨宮君だけど、静かにこちらの手を握り返してくれた。雨宮君の手がとっても暖かかったの今でも覚えてる。

 

 雨宮君がガンプラ部に入部してからと言うもの、ガンプラ部は劇的に変化していっていた。なんせ万年負け続きのガンプラ部が縁がなかった勝利勝利の連勝を続けて行ったのだから。まるで未来を導く光のようにとても眩しい存在であった。

 

「流石だよな、雨宮」

「ホントこの調子で頼むな」

 

 雨宮君をレギュラーメンバーに加えた聖皇学園ガンプラチームはいつもは予選落ちも珍しくないタウンカップも優勝した。やはり立役者ともいえる雨宮君はガンプラ部での地位もあっと言う間に築いていき、それに伴って周囲の期待は大きくなっていった。

 

「……今回はきつかったな」

 

 リージョンカップもまさに破竹の勢いで優勝する事が出来た。

 リージョンカップなんて出場する事もなかったガンプラ部は勿論、大喜び。ささやかな祝勝会が行われる中、雨宮君はふと小さくポツリとこぼす。確かに一緒に出場していたけれども、やはり苦戦はして何とか掴み取った優勝だった。

 

「なに言ってんだよ。雨宮なら当然でしょ!」

「俺達雨宮には期待してんだぜ!」

 

 それでも周りはそんな雨宮の言葉もまさに言葉通り、何を言っているんだとばかりに笑い一蹴した。ここで雨宮君が苦しそうに顔を顰めたのを覚えてる。

 

「これからも頑張ろうねっ」

「……そう」

 

 でも、私は廃部の危機に瀕していたガンプラ部が日本一を決めるジャパンカップまでこぎ着けたっていうドラマみたいな現実に目を眩んで、雨宮君なら見た事がない景色に連れてってくれるってそんな雨宮君の小さな変化に気づかなかった。

 いくら眩しい光と言えど、影はあるんだって事に。この時、雨宮君の心中を察する事が出来ていたのなら、今が変わっていたのかもしれない。

 

 ・・・

 

「ねぇ、まなみん」

 

 ジャパンカップの期間に入ってからと言うもの、みんなが目指すのは優勝という栄光しかなく、それだけ雨宮君への期待が大きくなっていった。そんな日々が過ぎて行く中、ふと夕香が私に声をかけて来た。

 

「最近、イッチの様子がおかしいんだけど……なにかあった?」

 

 雨宮君は何を考えているか分からない時が結構あるけど、やっぱり双子の夕香には何か感じるものがあるみたいで、不意にそんな事を聞かれてしまった。様子がおかしいと言われ、すぐにはピンと来なかったけど、でもそれまで少なからず見せていた楽しそうにガンプラと接する雨宮君の顔は見なくなってきたのは感じて来た。

 

「やっぱりジャパンカップだからじゃない、かな……? でも、みんな、雨宮君に凄い期待してるんだよ?雨宮君がいればジャパンカップは優勝出来るって!雨宮君だったら、もっと前に連れてってくれるって!」

 

 でも私は雨宮君が抱えているものも分からなかった。

 きっとジャパンカップを前に緊張しているのかもしれない。ただ浅はかにそんな事を考えていた。

 

「……期待するのは良いけど、程度が過ぎるのはあんまり良くないと思うよ」

 

 私の言葉に夕香は何か察したようだった。でも、この時の私には察せなかった。

 

 ・・・

 

「雨宮君……?」

 

 ジャパンカップは瞬く間に過ぎていき、ついに決勝の前日となった。

 ガンプラ部はそれはもう優勝を目の前にして雨宮君に機体の言葉を投げかけた。けど雨宮君は余裕もないほどいつも苦しそうな顔をしていて、応援に来ていたガンプラ部の集まりには来ないで、一人で過ごすことが多くなっていった。

 

 流石にそこまで行けば、私だって雨宮君の異変に気付く。

 決勝前日はトーナメントも何もない会場を好きに散策できる日だ。私は一人で過ごしている雨宮君を探した。何て言えば良いかは分からなかったけど、それでも何かしたくて。だって雨宮君を勧誘したのは私だから。

 

「……ごめんね、イッチ。アタシ……イッチが苦しんでるのに気づけなかった」

 

 この広い会場で雨宮君を探すのは難しく、探し始めてから数時間後、ようやく見つける事が出来た。なにせ連絡が取れないのだからあちこちを駆けまわっていた。

 雨宮君がいたのは休憩所となっている公共のスペースだった。その隣では夕香が座っていて、その言葉に私はその輪に入れず、遠巻きで話を聞くだけになってしまった。

 

「……別に良いよ。こんな事、誰に言えば良いかどうすれば良いかも分からなかったし……。それにこれが終われば、少しは周りの期待からも楽にはなれるでしょ」

「イッチ……」

「おかしな話だよな。好きで楽しいと思ってる事やってる筈なのに、楽になりたいなんて……」

 

 ここで私は初めて雨宮君の想いに触れた。

 鈍器で殴られたような鈍い衝撃と共に眩暈がして足がふらついた。同時に自分がどれだけ愚かであったかも嫌でも自覚してしまった。

 

「疲れた」

 

 私は馬鹿な女だ。

 劇的な快進撃と目先の栄光に目が眩んで、隣に立っていた雨宮君の苦しみに気づけなかった。

 この時、ようやく夕香の言葉の意味が理解できた。

 夕香の言葉通りなのに、期待が行き過ぎれば、重圧にしかならないということに気づけなかった。私は彼がいれば大丈夫なんて勝手に思って、寄り添う事を忘れてしまっていた。

 

 翌日、ジャパンカップで執り行わられた決勝に私達は負けた。

 雨宮君は最後まで戦ったけど、力及ばず負けてしまった。優勝を目前にしていただけあって、この敗亡はガンプラ部に大きな落胆を与えた。

 

「雨宮が負けた」

「雨宮なら勝てると思ってた」

「雨宮だったらって信じてた」

 

 そんな言葉が次々にあがった。

 彼らの口から出た言葉に深い意味はない。だからこそ軽い気持ちで放たれた言葉の数々が重くのしかかる事も知らない。

 

「あ、雨宮君は精一杯やってくれたよっ! 私達が弱かったから……」

「そうだな……」

 

 一人が抜き出た力を見せれば注目は集まり期待も寄せられる。

 彼が見せる光が強すぎたのだ。彼は何も悪くないし、十分すぎる活躍をしてくれた。これ以上、彼にとっての重圧の言葉は必要ない。だから私は声を大にして叫んだけど、ちゃんと同意してくれたのは一緒にチームを組んでいた舟木だけだった。

 

「……」

「ま、待って!」

 

 雨宮君は一人、席を立ってガンプラ部の部室から出て行った。

 私は胸騒ぎを感じながら、その後を追い、彼が向かったのは屋上であった。フェンスを前にする彼の表情は伺えない。

 

「……ごめんね、雨宮君……。私が……誘ったりなんかしたから……」

「……別に謝る事じゃないでしょ。それにもうお終いだし」

 

 ただ謝りたかった。勝手な期待を寄せた事も、そのせいで苦しませてしまった事も。

 けど、雨宮君は口から出てきたのは終わりの言葉。ずっと懐に隠していたのだろう。振り向いた彼は私に退部届を向けていた。

 

「ごめん、俺、期待に応えられるような人間じゃなかった。廃部は免れるみたいだし、もう良いよね?」

 

 どこか解放されたような、そんな悲しい微笑みを向けられてしまっては私はもう何も言う事は出来なかった。確かにジャパンカップの出場は学校側にも目が留まり当面の廃部は免れたようだ。震える手で退部届を受け取った私に「じゃあね」って私を置いて雨宮君は屋上から去っていった。

 

「ごめん……。ごめんね……。ごめんっ……なさい……っ……!!」

 

 退部届を胸に私はその場で蹲って嗚咽交じりにもう届かない雨宮君に謝罪の言葉を口にしていた。何で簡単な事に気づけなかったんだろう。彼に必要なのは期待なんかじゃなくて、心の支えだったと言うのに。後に残ったのは罪悪感。私が彼を誘わなければ、こうはならなかったのに。

 

「強くならなくちゃ……」

 

 私はまた勘違いをしてしまった。

 心の支えと言うものは雨宮君の肩を並べられるだけの強さを得る事が出来れば、誰の目にも頼もしい味方になれると。

 

「……いや……この前、雨宮が知らない女とチームを組んでる所に居合わせたんだ。あんまり雨宮のこと知らないから声かけなかったけど……。リージョンカップにも出てくるんじゃない?」

 

 雨宮君を抜きに自分達の実力だけでリージョンカップを出場できるようになり、そんな中で私は雨宮君が新しくチームを組んだことを知った。興味があった。重圧を感じて行った彼がどんなチームを組んだのかと。

 

「……何か弱味でも握られてるの? そうでしょ……? そうだよね? 雨宮君が強くもない人と組む理由なんてないでしょ……!?」

 

 でも、正直に言えば、当時のミサちゃんは弱かった。それこそ私が雨宮君とチームを組んでいたころよりもずっと。だからこそ理解が出来なかった。弱い存在が雨宮君の傍らにいられるのが。

 

「……俺は別に弱みなんて握られてないし、自分の意志でコイツと一緒にいる。それにコイツの事、なにも知らないのに弱い弱い言わないでくんない……?凄いムカつくんだけど……。コイツは強いよ……。俺なんかよりもずっと……。ガンプラバトルが強いだけだったら俺はコイツとは一緒にいない。リージョンカップに聖皇学園も出るってのは知ってる……。そこで見せてあげるよ」

 

 今にして思えば酷いものだ。強さだけで判断してなんでミサちゃんを選んだのか考えもしなかった。だからこそ初めて雨宮君の逆鱗に触れてしまった。それでも当時の私は強ささえあればって言う妄執に囚われ、その言葉を理解できなかった。

 

「一矢君がチームに欲しがってたのは依存じゃなくて支えだよッ! それに気づけないなら私は負けないっ!!」

 

 でも、いざリージョンカップの舞台でミサちゃんとバトルをしてようやく分かった。

 

「一矢君は一方的な期待を押し付けられるのが嫌でそんな期待に応えられる自信がない自分も嫌で……だからチームから離れた。信頼する事と依存する事は違うんだよ……。私は一矢君がもっと前に連れて行ってくれるとは思わない……。だって一矢君と……そして彩渡商店街ガンプラチームとして一緒に前に進むから!」

 

 私の中の強くなればいいなんて考えは脆く簡単に崩れてしまった。

 

 なんでミサちゃんのようにその心に寄り添えなかったんだろう。雨宮君なら見た事ない場所に連れて行ってくれるって彼に期待を寄せるだけ寄せてしまった。遅くたっていい。共に肩を並べ、支え合って進み苦楽を共にするという仲間の本質さえ見失ってしまっていた。

 

 私は自分から雨宮君の傍にいる資格を失ってしまったんだ。

 

 ・・・

 

「……っ……。夢……?」

 

 目を覚ました。時間にしては朝の7時を過ぎた頃であり、まだ少し頭がぼーっとしてる。だけど先程まで見ていた夢は鮮明に覚えている。私にとって自分の愚行を思い出させる先程の夢は悪夢のように私の体を汗で濡らしていた。

 

「最近、雨宮君達のニュースをよく見るせいかな……?」

 

 軽くシャワーを浴びて汗ばんだ体を綺麗にする。今日は部活の都合で聖皇学園に向かう都合がある。私はいつも通り、髪をワンサイドアップに纏めると時間はまだあるから、携帯でネットニュースを開き、先程の夢を見た原因を探る。

 

「ミサちゃん……か……」

 

 ガンプラバトルのネットニュースは彩渡商店街チームの名を目にする事が多く、雨宮君と共に写真を撮っているミサちゃん達の姿がある。私の瞳は写真のミサちゃんに注がれる。

 

 ミサちゃんには学ばせてもらった。

 それと同時に雨宮君の隣にいるべきなのは彼女である事も痛いほど分かっている。分かってる……頭では理解できている筈なのに……。

 

「バカだよね、私……」

 

 それでも私も、って思ってしまう。

 頭ではミサちゃんが相応しいと理解していても、私の気持ちは引き下がる事が出来なかった。そんな浅ましい自分に自己嫌悪してしまう。だって分かってるんだ。雨宮君もミサちゃんが気になっているんだってことも……。

 

「好きって苦しいなぁっ……」

 

 不意にネットニュースの画面が滲む。彼にここまで心を惹かれなければ、チームメイト以上の感情を抱かなければ、ただ素直に応援できたって言うのに。

 最近、雨宮君にやたら過激なスキンシップを取ろうとしているのも私のキャラじゃないって言うのも分かってる。でも、そうでもしないと雨宮君の中から私と言う存在が簡単に消えてしまいそうで、怖いんだ……。だからあんな事をしてしまう。

 

「……学校行かないと」

 

 陰鬱な気持ちのまま、制服に着替えた私は鞄を取る。

 少なくとも何か行動をすれば、こんな気持ちから目を逸らすことが出来ると思ったから……。


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